Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.92 )
日時: 2008/03/10 21:01:31
名前: 三谷羅菜

 ぱたぱたと、雨が屋根を叩く音がする。それに気がついて、彼は顔をしかめて天井を見上げた。打ち棄てられたこの家に勝手に住み着いてから数ヶ月。雨風さえ凌ぐことさえ出来れば良いと思っていたのだが、実際には雨漏りはするわ隙間風は入ってくるわで、現実はそんなに甘くないと思い知らされてしまった。それに懲りて、適当に屋根やら壁やらに板を打ち付けてみたものの……大工でもない彼に、ちゃんとした修理が出来るはずもない。
「雨漏りだけは勘弁してくれよ……」
 今のところ染み一つ見えない天井に向かって、祈るように呟く。祈ったところでどうなるというわけではなかったが、いつまでも気にしているわけにも行かないので、天井から視線を外す。
 と。小さくノックをする音が聞こえた。今度は扉の方に視線を向ける。彼が返事をする前に、扉が勝手に開いた。
「……突然悪いな」
 入ってきた者は二人。二人とも知り合いだった。ずぶ濡れでおまけに血塗れの、真紅の髪と瞳を持った少女と、彼女に担がれた、気絶しているらしい黒髪の少年。
 絶句している彼には全く構わず、少女は家の中に入ると少年を床に降ろした。扉の閉まる音で、我に返る。
「ちょ、リゼル、お前……どうしたんだよ?」
「……マリオロストが、また『戻った』」
 その意味を知って、息を呑む。ため息をついて、リゼルが続けた。
「何がきっかけでそうなったのかはあたしにもわからない。……人の居ない場所で、そこにあたししか居なかったから、良かったけど」
 何を言えば良いのかわからずに、ただ見つめる。炎の色をした瞳が、微かに揺れているのが見えた。
「ソルム、悪いがこいつ預かってくれないか。お前が拾ったことにして」
「え、ちょっと待てよ。お前怪我!」
「大したことない。全部かすり傷だよ。……それに、この状態のあたしをマリオロストに見せたくない」
「いやだからって」
 ソルムの言うことなど全く聞かずに、リゼルはさっさと扉を開けてしまった。何と言って止めるべきか、ソルムが必死に言葉を探しているうちに、
「…………夢だと、思ってくれれば良いんだけどな」
 独り言のような呟きを残して、リゼルは去っていってしまった。

★★★
>>90の続き。
まだ続きます(汗)。