【 孤独な燕のゆくところ 】 1 ( No.4 )
日時: 2008/04/19 22:33:22
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参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

崇高なる血脈に縛られる者と

己が身を巡る血脈に怯える者と

抗う術は、皆無に等しく

迷いの先に、進める歩の先は

思いの先の、彷徨い行く場所は

さあ、どっち?


【 孤独な燕のゆくところ 】


それは、とても昔。

何百年も昔の、話だ。

ある男女が、恋をした。
見目麗しい女と、長身痩躯の男。
2人は逢瀬を重ね、やがて結ばれる。
しかし、2人の間には、許されない壁があった。

男は、人間で。

――――――――――女は、魑魅魍魎のひとつ、「妖」だったのだ。

男は女の正体を受け入れた。…それでも。
両種族の間には、あまりにもかけ離れすぎた壁が、あった。
人間の血肉は彼らにとって、この上なく美味だ。
中毒性を持つそれは、力を欲す妖にはこの上ない「食料」だった。
霊気に満ちた身体となれば格別で、多くの人間が食われていった。
仲間を、家族を喪った人間は、妖を憎んだ。
霊気のある者が術を開発し、各々の力で妖を退治していった。
仲間を、家族を喪った妖は、人間を憎んだ。
ふたつの種族の溝は、最早埋め合わせなど出来ないほどだった。
それでも二人は結ばれた。例え、誰からも賛同されなかったとしても。
しかし、病弱だった男は、程なくしてこの世を去った。
残された女は、妖怪の頂点、「鬼」を目指した。
男の遺言を、約束を、守る為に。
やがて妖の首領、次代の「鬼」に認められ、女は妖の頂点まで上り詰めた。
そして、女は男との約束を果たすため、ある「掟」を作る。

「人間を食らってはいけない」

その、たったひとつの、掟を。

「………………今は駄目でも、いつか。…人間と妖が、共生できればいい。多少歪んでいたとしても…君や、僕らの子供が、平穏に暮らせるように」

それが、男の遺言、だった。
女の作った掟は、直ぐに破られるだろうと解っていた。
首領である「鬼」の命令は絶対だ。しかし、人間というあまりにも美味なものを一度食らった妖には、食べることを止めるなど出来はしないだろう。
女は男との子供に、妖の監視者、「鬼」の役目を託す。
そして、女は――――――――――

男との約束が守られるように、自らを捧げた。

「鬼」である女の血肉は、絶大な力を持つ。
女は、捧げたのだ。

――――――――――自らの、体躯を。

人間よりも強い力を持つものでないと、代用は出来ない―――――
考えた末の、女の出した結論だった。

――――――私の身で、代わりになるのなら。

そして、ようやく事態は沈静化した。
「鬼」の役目を託された子供、二人の双子は、それぞれ「妖の監視者」の名で、一族を創り上げた。

片方の名を、「紅燕寺」。

片方の名を、「蒼燕寺」といった。

紅と蒼の瞳を持った、燕の妖である母親を、称えて。
自らの身を捧げた女は、消息が解っていない。…遺体すら、見つからなかった。



――――――――――女の名は、「紫紅」といった。



*  *  *  *

(紅燕寺/こうえんじ)
(蒼燕寺/そうえんじ)
(紫紅/しこう)