「恋する女の記憶力」 ( No.52 )
日時: 2008/07/07 18:34:49
名前: 深月鈴花

「やっばい、ホントカッコいいまじやっばい。」
この色気も可愛げも主語もない台詞を吐いたのは残念ながら私の親友である。黒い瞳に長い黒髪を持つこの女は、黙っていれば可愛いものの、口を開けばこれだ。
さて、少々遅くなったが読者の皆様に説明しよう。何が「ホントカッコいいまじやばい」のか、というと。
「そんなの咲森先輩に決まってんじゃーん!!あ、ぎゃーっ!ちょっ、今シュート決めた見た!?」
……あんたは黙ってろっ!
…ごほんっ、咲森聖也(さきもりせいや)という名の、顔よし性格よし運動神経よしの超スーパーボーイである。
まぁ、ここまではいい。確かにかっこいいし性格も爽やかで、嫌味がない。好きになるのは全然しょうがない。だけど。
毎日放課後にサッカー部の見学に無理やり付き合わされている私の身にもなれってのよ、この品無し女!


- 恋する女の記憶力 -


「はぁ、ホンット、なんであたし1年早く生まれてなかったわけ!?そしたら咲森先輩と同い年!!同い年だったのに!」
叫ぶな、ただでさえ女子の(主に咲森先輩への)黄色い声援で耳がもげそうなんだから!
私はその意思をこめて隣にいる女の足を軽く踏んだ。
「あんたね、そんなだと咲森先輩に嫌われるわよ?咲森先輩清楚で可愛い人が好みらしいから。」
「え、それまじ!?」
いや、嘘だけど。こう言えば少しはおとなしくなるだろうかと思ったのだが。
「じゃああたし今日から清楚になる!」
片腹痛いわこの品無し女。嘘とは言え、こんな堂々と宣言すんな。挙手すんな。
「ま、せいぜい頑張りなさいよ。」
「うん、さんくすー。」
……嫌味に気づかないあたりは天然というか鈍感というか。
「ねー、そーいえばさぁー。」
視線はしっかりと咲森先輩を捉え、口調は私に語りかけるように口を開いた。
「なっちゃんは?恋してないの?」
なっちゃん、とは私のこと。まぁ、こんな風に呼ぶのはこの女だけだけど。
「私?」
…いない、なぁ。好きな人なんて、最後にいたのは2年ほど前だったか。その男の子も高校になってから見てないし。
「じゃー、あんたでいいわよ恋してる人。」
そう悪戯っぽく言うと、私の思い人(笑)はケラケラと愉快そうに笑った。
「あっはー、いーねーそれ!でもあたしは咲森先輩一筋だから!」
なんかもういろいろ反応するのも面倒なので、はいはい、と適当に流しておいた。

それから、3日後。
事態は急展開(と言っても進展なんてものは皆無ではあったが)を迎えた。
咲森先輩に、彼女ができた。咲森先輩がいつものように黄色い声援をあげている女子達(私は例外)に、咲森先輩が直接伝えに来たのだ。「彼女ができたから、もうこういうのはやめてほしい」、と。
相手は先輩と同い年の、かなり可愛らしい女子だった。華道部に所属しているのを私は知っている。
ホントに清楚な子が好みだったんだーなどと思いながら、横目でちらりと親友を見ると、大してショックを受けている様子もなく、私と目が合うとへらりと笑って見せた。

夕焼けとは反対方向に歩き、目の前の親友の背中を見つめながら、小さく語りかけた。
「あんた、いいの?」
「なにが?」
「咲森先輩に彼女できた、って…」
「はー?誰それ?そんなの知らないし?」
咲森先輩応援団(私的視点)が解散して、二人で帰り道を歩いているとき、突然そんなこと言いだした。
「あんなの、記憶内から削除削除!」
明るい声で、笑いながら。
「…あんたの記憶ってずいぶんと都合がいいのね。」
「あははっ!私もそー思うー。」
少しの沈黙が私達を襲う。それを破ったのは私の方だった。
「……夕焼け、綺麗ね。」
見えもしないのに。こんなセリフしか出てこないのか、私は。
「うん、そーだね。」
見えてもないくせに。
「あ、信号赤になっちゃう。走るわよ!」
もう帰りながら見ることは最後になるだろう夕焼けを背景に。
私は親友の背中をとん、と押した。
さて、ここからは全く関係ない話になる。
この女に恋する私の記憶(ここ笑っていいわよ)では、この女は自分の泣き顔を見られるのをひどく嫌う。
意味はないけれど、この帰り道のうちは、この背中を追い越すのはやめておこう。
ああ、そういえば。
私の記憶によると、明日は確か雨だ。
「明日、雨降るんですって。」
私は、親友が歩くたびにアスファルトに少し染みる水滴を見つつ、そう呟いた。
それに対する返答は、なかったように思う。


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ぎゃあぁぁ……っ!!
ご、ごごごめごめごめんなさいませ!(←自重)
私自分お題うまく使えない人間だということに気づけた。
んむー、お題使うのって難しいんだと再確認させていただきました!
かなり長くなりそうだったので、途中途中カットしていったらこんな文になってしまいまして…!
主人公の名前も、親友の名前もきちんとあるんですがそこもカット!今思えばなんでだろう!(待)
あと私やっぱり女の子好きです。書いててすごくすごく楽しかった。書かせていただき、そして何より目を通していただきありがとうございました!
そしてお目汚し申し訳ないです…!