にげてゆく春 ( No.54 ) |
- 日時: 2008/07/11 21:13:22
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
おひさまの光が眩しすぎて、ぐっと目を細めたら見えなくなって、ぱっと見開いたら眩しすぎてぎゃっと叫んであわてて目を塞ぐ。 おたおたしているわたしを見て、くるるちゃんはくすくすと笑う。 「くるちゃん、ひどいっ」 「あははー、ごめんね?きらちゃんがあんまり可愛いんだもの」 そういってわらうくるるちゃんの方が、とってもきれい。 くるるちゃん―――皆の間では「くるちゃん」、って呼ばれているその女の子は、長い黒髪に真っ黒な瞳の、とってもきれいなこ。 漢字はたしか、きへんにとても難しい字を付けたかっこいい字。樞、かな? 「くるちゃんの方が、きれいだよっ」 「またまたそんなー。きらちゃんは可愛いよ?」 くるるちゃんはそういって、ふわりと笑った。 まるでお姉さんみたいだ。 わたし―――皆からは「きらちゃん」、って呼ばれてるわたしは、きららって名前。 雲母と書いて、きらら。これは本当。 理科の鉱物の授業ではとてもからかわれた。一時期あだなは「黒雲母ちゃん」。 もちろん読み方はくろきらら。 何をするにも遅くて要領のわるいわたしを、くるるちゃんはいつも助けてくれる。 どうして?ってきくけど、くるちゃんはいつもあいまいに笑うだけ。
季節は、春。
学校の不思議な規則でクラス替えはなくて、二年生のときと同じクラスメイトと三年もよろしくね、なんて挨拶をした。 「三年生だねぇ」 「そうだねぇ」 「受験生だねー…」 呟いたくるちゃんの顔が、なんというか寂しげだったので、わたしはあわてて言った。 「でもくるちゃん、頭いいよ!志望校、茅ヶ原でしょ?」 くるちゃんはとても頭がよくて、わたしと同じ塾に行っているのに成績順でクラスが決まるから、わたしはくるちゃんよりひとつ下のクラスだ。 志望校も茅ヶ原高校っていう、偏差値の高さに驚いてしまうようなところ。 「なに言ってんの、部活動生は引退した今から成績上がるんだから!あたしなんてすぐに追い越されるよ」 それより、とくるちゃんはきっ、と猫みたいなどんぐり眼でわたしをみる。 「きらちゃんだって頭いいじゃない!どうして勉強しないのよー」 「だ、だって、数式とか、見てたら頭痛くて…」 三年生になって、急に受験生だとかなんとか言われて、わたしたちの生活は急にあわただしくなった。 塾にも行って慣れない勉強もしだしたし、試験も塾のものはもっと偏差値を上げろ、って要求される。 今こうしてクラスメイトやくるちゃんと笑いあってても、受験直前は忙しくなるだろうし、高校だってきっと離れてしまう。 それは少しさみしいな、とぼんやりと思って、また気持ちがしょげた。 うう、と半泣きになったわたしを見ずに、くるちゃんはぼそりと呟いた。
「……きらちゃんと、同じ高校行きたいのに」 「…ほんとう?」 驚いて聞くと、くるちゃんは恥ずかしそうに頷いた。 えへへ、と笑みがこぼれて、どうしようもなく嬉しくなった。 「わたし、頑張るね!」 「…ん、頑張んなさい。偏差値あと5くらい上げなさい」 「さすがにそれは無理だよう…」 ううっ、とまた半泣きになったわたしを見て、くるちゃんはその素敵な笑みでくすくすと笑った。
はる、ハル、春。
暖かな春は逃げてゆき、一回りしたらやがて別れの春がやってくる。
嗚呼、春が!
素敵な春がにげてゆく!
戸惑うわたしたちをおきざりにして、春はどんどんにげてゆく。
「きらちゃん、帰りコンビニ寄ろ」 「あー、あたしアイス食べたいーっ」
でも、変わらないものも、ここにある。
だから、手をつないで、追いかける。
にげてゆく春を追いかけて、 やがて来る夏をつかまえて。
―――――――――――――――――――― お題タイトル「にげてゆく春」、でしたー。 学園もの、女子の友情、不思議っ子と秀才ツンデレという自分なりの趣味が詰め込まれてできましたかっこわらい! あああもう駄文ですみませ…! 思った以上に長くなったので削ったら逆に半端になったよ!(← 本当失礼しました、皆さんの素敵文章の下にすみませんでした…!
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