Re: 『女の子』小説企画*Glace!//参加者募集中 ( No.55 )
日時: 2008/07/21 00:06:29
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 流れ星には願いを叶える力があるという。たとえそれが、悠久の刻を越えた願いであっても――。




   −星空が落ちてくる−




【……ナ、……カイナ】

「……」
 自分の名前を呼ばれたわけでもないのに、私はその声に反応してしまった。隣に佇み望遠鏡を覗いている友人に顔を向け、問う。
「呼んだ?」
 私の問いに対して彼女は否と答え、満点の星空に視線を戻した。
 今日は年に数度とない流星群の日。私が所属する天文部ではその日を夜の学校で天体観測をする野外活動の日と決めていた。今、校舎の屋上には私を含め部員である生徒がちらほらと姿を見せている。
――……カイナって
誰だろう。決してありふれた名前じゃなく、生まれてこのかた聞いたことのない名であるにも拘らず懐かしいと思った。それが何故なのか、自問しても答は出ない。
その時、頭上に眩しいほどの星が舞った。同時に周囲で歓声が上がり、続いて自分も空を見上げる。
「……」
 なんだろう。天文部恒例行事で来ているだけなのに、胸の奥が妙にざわめく。
言い表しがたい感情が込み上げてきて、身体が熱を帯びているようだ。
暗いはずの夜そのものを照らす星たちに目を奪われる中、私の意識は別の光景を見ていた。


「フラディール様っ」
 肩にかかるかかからないかほどの黒髪をなびかせて小走りに駆ける少女がいた。まだ幼さの残る顔を笑みで満たしていて、彼女が駆け寄った先には見目麗しい銀髪の女性。黒髪の子より大人びているがまだ少女と呼んでもおかしくない年頃だろう。二人とも白地の布を身にあてているが身分の差は歴然だった。純白で豪奢なドレスに身を包むフラディールと呼ばれた銀髪の少女は、黒髪の少女とは裏腹に美しい顔に真剣さを灯し、眉間には深く皺を刻んでいた。
「いいか、よく聞くんだカイナ」
 これまでにない深刻な表情の彼女を見て、少女は息を呑む。
「国の各地で大地が崩壊している。原因は判らない。……じきに、ここも危うくなるだろう。カイナ、お前だけでも逃げ……」
 彼女は相当焦っているようで、口早に述べると途中で口を閉ざした。
「フラディール様……?」
「……逃げる場所など、何処にもないか」
 彼女の口元には失笑ともとれる笑みが浮かんでいる。
 フラディールは今まで強張っていた表情を緩めると、ふっと微笑んで窓から窺える空に視線を移した。
「そういえば、明日は星空の落ちる夜だったな」
「え……?」
 フラディールの言う言葉の意味が解らず、黒髪の少女は聞き返した。彼女の声にフラディールは顔の向きを戻し、優しく口の端を吊り上げる。
「神官が発見したんだ。一年のほぼ同時期に訪れる奇跡のような夜を。星が群を成して流れてくることから流星群を名付けたらしい。お前と……お前と共に、見たかったな」
 目を伏せ顔を歪ませるフラディールの手を取り、黒髪の少女――カイナが口を開いた。
「見ましょう」
「だがこの国はもう……」
「フラディール様、星はなくなったりしません。私たちが見たいと願い続ければ、きっとご覧になることができましょう」
偏りも曇りもないはっきりした声にフラディールは一瞬目を見張り、瞼を閉じて口元を緩ませた。
「……そうか。ならば願おう。この果てなく広がる空の下で、お前と流星群を見られることを」
 フラディールが瞼をあげカイナと視線を合わせた直後、一筋の光が空を流れる。
「流れ星……」
 二人は目を瞑り手を組んだ。
 いつかまた、出逢えると信じて。

 彼女らの祈りを最期に静寂だった夜を地響きが包み込み、音と共に大地を引き裂いた。
 これは、一夜にして滅んだ国の話――。


 心が訴えてくる。あれは“私”だ。
 長い年月を経て私は私になった。あれは、私である以前の私。
「雨海?」
 隣で友人が怪訝そうな表情で私の名を呼んだ。身体と意識が入り交ざっている感覚だった私はその声で我に返った。
「大丈夫? なんか上の空だったよ」
 彼女に大丈夫と答え、眩い星空に視線を戻そうとした際、照らし出された大地にぽつんと佇む人影を確認できた。

 トクン

 鼓動がなった。
 星の光で輝く人影の髪は、美しい銀色の――。
 そう思った瞬間、自然と私は走り出していた。
友人の声も聞かず屋上を非常階段から一気に駆け下りる。
銀髪の人影の前に来た時、真っ直ぐにこっちを見る彼女と目が合った。
その顔は、紛れもなく――

「フラ、ディー……ル、さま……」

 口にした途端緩んだ涙腺から泪が溢れ出した。表すならぶわっと、とめどなく流れる泪も気に留めず、私は彼女に向かって駆け出した。


「願いを叶えに来たよ……カイナ」






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…も、もうなんか信じられないくらい長くてすみませ…!
私に話を纏めるなんて高度な技術は無理でしたよ!
最後まで読んで下さった心優しい方ありがとうございました!
少しでも皆さんのようなきゅんとくるような話になっていれば幸いです。
また、このような神企画を立ち上げて下さったゆうこさまありがとうございます。
女の子だけの物語って書いたことがなくて、凄く新鮮でしたv
色んなことに挑戦することは大事だと思うの!
今回は本当にありがとうございましたー!