月に祈る ( No.15 )
日時: 2007/07/10 19:51:21
名前: 竜崎総久◆OMBM0w5yVFM
参照: http://id40.fm-p.jp/29/html202/

「私ね、強く生きるって決めたんだ。」
 ……電話口でそう言う、親友の乙香(いつか)の声。
 そこに強い決意の色を感じ取った尚は、「そっか」と答えるしかなかった。
「……乙香ちゃん、頑張るんだ。」
「うん。だから尚も頑張れよ。私は近くに居てやれないけど、気持ちは変わらないからな。」
 言葉こそぶっきらぼうだが、尚はその裏の優しさを知っている。涙が出そうになって、慌てて上を向いた。泣くのを少しでも感付かれたら、受話器の向こうの乙香が不安がるだろう。
 だから、あえて強がった。
「大丈夫だよ。乙香ちゃんがいなくたって、私は何とかしていけるもん。」
 相手は少し考えたようだった。たっぷり5秒の間を置いて、
「そうか。」
と、安心したような声が返ってくる。
 それから2つ3つ問答をして、尚は受話器を置いた。すぐにヘッドフォンをつけ、さっきの続きから再生ボタンを押す。
 もう、音量キーは最大だ。これ以上上がらない。なのに聞こえにくくなっている自分が居る。耳がその機能を失うのも、時間の問題だろう。
 ……私はいつまでここに立ち止まってるんだろう。あの子はもう、自分の道を歩き出したのに。
 そっと窓を開け、月に祈る。
 神様が居るなら、どうか。
 どうかあの子の願いを、かなえてあげて下さい。
 ……でも私の願いなんて、神様はかなえてくれないか……。

>>9の続きっぽい感じ)