Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.24 )
日時: 2007/07/22 09:51:03
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参照: http://monokuro00labyrinth.web.fc2.com/

平日の午後。
梅雨が近付きつつあり、灰をそのまま固めたような色の雲が空に浮かんでいる。
こりゃあもうすぐ雨でも降るなあと思いながら、おれは正面で視線を下に落としている少年を見た。
そいつは足を組み、鋭い眼孔を眼鏡で隠して手元の本に見入っている。
文庫本のようで、面積自体は小さかったがそれ以前に、字が米粒のように細かくておれなら頼まれたって絶対読まないような代物だった。
分厚い本を器用に片手の指だけで挟んでいる。
そんなおれの視線に気付いたのだろうか、仏頂面でおれを見て一言。

「何」
「なあ沖人。お前女と付き合う気ねぇの?」
「別に」

そいつ――沖人はまた一言で答える。
おれが沖人にこんな質問を投げかけたのには理由がある。
こいつは黒髪眼鏡というおたくも吃驚なダサい外見にも関わらず陰で女子に人気がある。
その由はいまいち不明だが、気が付けば女子と二人で中庭にいるという事もしばしば。
まあ、いつも女の方が顔を紅くさせて戻っていく。
そんな訳で、おれは沖人が女と付き合った事例を見たことが無い。

「女に興味ねぇの?」
「別に」
「好きな女いねぇの?」
「……別に」
「あっ、今間があったぞ! いるんだないるんだろ!」

沖人が形的に多分五月蝿いと口を開きかけた時、教室の扉付近に立っている男子が沖人の名を呼んだ。

「沖宮ー、客だぜー」

客……?
おれがそう思ったのと正面でがたがたっと音がしたのがほぼ同時で、おれが<客>に顔を向けようとしたのと沖人の手が顔面に飛んできたのが一緒だった。
咄嗟のことに目を瞑り、次に闇の中から抜け出したらそこに沖人の姿はなく。
視線を扉方向に向けるとそこには女子生徒と対談している沖人がいた。
見たことない顔だな。二年生か?
そんなことを思いながら観察する。
見ているうちにある重大なことに気が付いてしまった。
ああ沖人。そんな顔してたらばればれだよ。
傍から見ればいつもと変わらない殆ど無表情の沖人。
多分、自分すら自覚していないだろう。
だが俺には判る。
そうかぁ、あいつにもとうとう……と、その瞬間、沖人の顔が柔らかいものから一変した。
すげぇ殺気立ってるように見えるんだが、どうしたんだ。
よく見ると、女子生徒の他にもう一人、制服を着た男子が突っ立っている。
こっちは見たことがある顔。
同じ部活の後輩で、人見知りっつーもんをしらないでやらた懐っこい奴。
なんであいつが此処に……? 沖人と知り合いだったなんて聞いてないぞ。
その時、タイミングよく雨が降り始めてきた。
こいつは……

「嵐の予感、だな」