Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.61 ) |
- 日時: 2007/08/19 00:20:31
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
- ( alice in the labyrinth / 或る男の独白・5)
男が失踪してから、一週間が経った。 日を追うごとにメルカシアは目に見えてやつれていき、アイカシアもかける言葉が見つからず、他の家族も遠巻きに心配するだけだった。 そして、ある日の夜。 眠れないメルカシアは、アイカシアの隣のベッドをこっそりと抜け出して、月明かりが窓から差し込む廊下へ出た。 そっと窓に近寄り、星を眺めている。 「お父さん・・・・・お父さん、ごめんなさい、お父さん、」 繰り返すように呟くと、後ろから人の歩いてくる足音がする。 輝きに満ちた期待の目で振り向くと、そこにいたのは期待していた人物ではなかった。 「エティカ・・・・・・・」 少し残念そうな顔をしてから、月明かりに照らされて青白いエティカの顔を見て、メルカシアの顔が絶望に歪む。 「エティカ・・・・・・・っ!エティカ、契約印が・・・・・・・・・・!」 月明かりの下で、悲しげにエティカは笑う。 その笑顔の中の、見慣れた契約印である頬にある赤い蝶と焔の印が、忽然と消え失せていた。 「どうやら・・・・・切れたようですね、契約が」 「それって・・・・・・・、それって、エティカっ」 縋る様に泣き付いたメルカシアの頭を優しく撫で、エティカは静かに告げた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・主様は、お亡くなりになられました」
静かな屋敷に、メルカシアの叫び声が空しく響いた。
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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.62 ) |
- 日時: 2007/08/19 00:33:03
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.okitsune.com/
- 小鳥遊神流、という少女は本来ならばそこに存在してはいなかった。
いつの間にか隣に存在していた家とその一家に、沢田綱吉は絶句するより先に呆れた表情をして見せた。 綱吉と同じような髪色、そして瞳の色を持った少女が、確かに昨日までは存在していなかった隣家の前にいる。
「えへへ、ツナ。来ちゃった」 「来ちゃった、じゃないよ、神流」
少女、小鳥遊神流はこの世界には存在しない人間だ。 けれど、綱吉は少女のことを知っており、また、少女も綱吉のことを知っていた。 ――――――――夢でよく会う、別の世界の自分。 それがお互いだった。
「どうやってこっちに?」 「うーん、話せば長い、かな。とりあえず簡単に言えば秘術で」 「うわ、胡散臭」
同感だよ、と肩を竦めながら言う神流に綱吉は呆れながらも笑みを浮かべる。
「でも、一度でいいからこうやって夢以外で会ってみたかったんだ、オレ」
だって夢の中では、見えない壁が触らせてくれないから。 そう呟いて神流の手を取り、弄る。指を絡め、解き、掌をあわせ、また絡ませる。 別の世界の同一人物なのに、性別が違うせいか自分のものとは違う感触がした。
「私、ツナに会うのは二回目だけどね」 「え」 「十年後のツナの世界に行っちゃったんだよ」
あの時は驚いたなぁ、なんて楽しそうに笑いながら言う神流に綱吉は口を閉ざす。 まさかそんな不思議な体験を彼女がしているとは思っても見なかったのだ。 けれど、すぐに我に返ると神流に微笑みかける。
「こっちの並盛は知らないだろ? 違うところがあったらフォローするよ」 「ありがと」
お互いに微笑みあうと、どちらが先だったか本格的に笑い出す。 一頻り笑った後、綱吉は気になっていたことを告げる。
「ところでこの家、何?」 「ああ、こっちの世界での私の家。私を知らないこの世界の人にはさ、私、ツナの幼馴染みって刷り込まれてるから」 「……ほんっと、神流って規格外だよね」 「ツナと私、まるっきり同じだったらつまらないでしょ?」
にっこりと、けれど何処か少し淋しそうに笑う神流。 その表情に気付いていながらも、綱吉はそれについては何も言わなかった。 何も言わず、とりあえず神流の家へ入るよう促した。 大人しく中に入る間際、
「……私、今のツナと繋がってる神流の三年ぐらい後から来てるから」 「………………………………え?」
爆弾発言を投下することを神流は忘れなかった。
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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.63 ) |
- 日時: 2007/08/19 12:32:22
- 名前: 壱ノ由華
- 「あ・・・・れ・・・・・??」
すると世界が歪む感覚・・・・。
これは・・・・・
白昼夢・・・・?
そう・・・夢の続き・・・・。
+++++ 「私、あいつ等に復讐したい・・・。」 血のように赤い髪に銀色の瞳をした少女が言う。 「シュナ!!!そんなの・・・・。」 「ルリ、あんたはあいつ等が憎くないの??」 ルリは水色の、きれいな瞳を潤ませた。 「でも・・・・・。」 「私は・・・・シュナに賛成よ。」 「レーフェル!?」 レーフェルと呼ばれる金髪の少女は少し悲しそうに言う。 「・・・・・リャーンあんたは??うち等孤児堕天使の中で一番魔力が強い、あなたが決めて。」 「私は・・・・復讐は・・・・いけない事だと思う。」 ルリの表情がやわらぐ。 「でも。・・・・私もあいつ等が憎い・・・。」 「リャーン・・・・。」 「決まりね。」 ルリは絶望的な目をした。 「でも、私たちでは天使らの白魔法には勝てない!」 「・・・・大丈夫よ。」 リャーンは一枚の紙を取り出す。 「灰魔法・・・・白魔法と黒魔法を掛け合わせて作ってみたの・・・。」
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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.64 ) |
- 日時: 2007/08/19 21:18:35
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
- ( alice in the labyrinth / 或る男の独白・6)
「・・・・・・・・あれ、メルは・・・・・・?」 次の日の朝食の席。 空席となったメルカシアの席を見てマーチは呟き、アイカシアが静かに首を横に振った。 「・・・・・・・あれから、布団かぶったままベッドから出てこない、の」 昨日の晩、屋敷に響いた叫び声で起き出した3人は、悲しげに笑うエティカと泣き叫ぶメルカシアを見て、全てを察した。 メルカシアを落ち着かせて眠りにつかせ、それでも今朝は頑なに布団から出ようとしなかった。 「・・・・・・・・・チェック、食べないの・・・・?」 手の付けられていないチェックの食事を見て、アイカシアが尋ねる。 「・・・・・・あ、ああ・・・・・・・・」 曖昧に返事をして、チェックは昨晩、ごめんなさいごめんなさいと繰り返し泣き叫んでいた少女の事を想っていた。
無理矢理に閉じていた目をゆっくりと開くと、布団に包まった自分の、震える手が見える。 覚悟を決めてばさりと布団から飛び起き、辺りを見回す。 アイカシアは当然の如く部屋にはおらず、時計の針は正午を指しているところだった。 「エティカに、ごめんなさいって言おう・・・・・・・」 自分が言って、何になるか解らないけれど。 それでも幼い少女は、誰かに謝っていたかったのだろう。 静かに部屋を出て、廊下を歩く。 絨毯張りの廊下で、その上裸足なので足音は全くしない。 暫く行くと、微かに扉の開いた部屋から、話し声が聞こえた。 「・・・・・・・・・・?」 そっと扉に近寄る。 「・・・・・・・そうなんでしょう、違うの?」 「・・・・・・・・・・・・ああ、そうだよ」 近付くと、幼い少女と、少年の声。 「アイちゃん、と、チェック・・・・・・・・・・・?」 そうだ、この2人にも、と扉に手をかけようとした瞬間。 その手が止まる。
「大丈夫よ、マーチも直ぐに了承してくれる。エティカも許可してくれるでしょ。」 明るいアイカシアの声が、聞こえる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから、ね?――――――――――契約、してよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、解ってる」
数秒かかって、やっとその言葉の意味を、理解した。
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1 ( No.65 ) |
- 日時: 2007/08/27 01:05:02
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- 少年が落ちていた。
此処は、世界に亀裂が生じ破裂、及び消失してしまったあとの異空間だ。 何処にも繋がらず、何処にも開かれない。 閉ざされ、ただ残されていくだけの「夢の跡地」。 世界が消失するということは、その世界が「忘れられてしまった」ことを表す。 「俺たち」が「監視」する世界は、数多に存在する。 ただ一つ、絶対に消失することのない「現実世界」の人間共が産み出した、幾億の世界たち。 俗に「想像世界」と呼ばれる。 突発的に創造され、構築され、持続され、やがて消失していく。 「現実世界」の住人たちはそれを夢と云うが、そんな夢の世界は毎日毎秒、今だって、どんどん生まれて死んでいくのだ。 ―――俺は、「現実世界」がきらいだった。
「………おい、君」 屈んで、少年に顔を近づけた。 少し長めの黒髪に、一線、紫が引かれている。 エクステの類か、それとも地毛かはわからなかったが、それがやけに目についた。 ただの布を巻きつけただけのような粗末な白服を身に纏い、少年は倒れていた。(少年といっても十九ほどの身体だったが。) どうしてこんなところに人がいる? 消失した想像世界にいるということは、もしかしたら元々存在したこの世界の住人かもしれない。 消失してしまったのだから、それがどんな世界かは知れないけれど。 (ああ、でも、帰ってデータを探れば何かしら残っているかもしれない) と思ったそのとき、少年の白い指がかすかに動いた。 「――――ん、………」 それに続くように瞼も開かれ、少年の紫の瞳が俺に向けられた。 起きたばかりでぼんやりとしているのか、それとも驚いているのか、少年は俺を見つめつづけた。 俺は微笑んで少年に手を差し出す。 (何故だか、惹かれるものがあった。) 「―――俺と一緒に、来ないか?」 「……………たのしいところ?」 勧誘に返ってきたその声は、内容も声音も幼いもので。 そして、張りがあった。 少し安心する。もっと衰弱した声だと思っていたから。 「ああ、楽しい処だよ」 俺はその言葉に、明確に頷いてみせる。 そうしたら、少年は無邪気に笑って俺の手を取った。
「それじゃあ、行く!」
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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.66 ) |
- 日時: 2007/08/20 10:24:36
- 名前: 壱ノ由華
- ・・・・今まで、私はリャーンの顔が見えなかった。
だけど 今日は違う・・・。
あれは・・・・
『私』
「優李・・・・ごめん。」 絶望・・・ 恐怖・・・ すべてを思い出した・・・ 「里奈・・・??」 「私・・・・。さようなら・・・・。」 そういうと、家の窓から身を投げ出した。 「!!!!」 「さよなら・・・私の人生・・・。」
真っ赤な血・・・。
+++++++ ごめん。めんどくなった。 あと、前回ので里奈が蓮華になってる。 ごめんなさい。
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(MIRROR) ( No.67 ) |
- 日時: 2007/08/20 16:33:38
- 名前: 竜崎総久◆OMBM0w5yVFM
- ……許されないことをした。
あの日、汚い自分を見られて。狂ったような表情の尚を見て、夏音は、ひどく痛感した。 自分はしてはならない事をしたのだと。どんな理由があれ、許される事ではないと。この人は、騙してはいけない人だったのだと。 そう思った瞬間、夏音は、何かが壊れるような音を聞いた。「日向夏音(ひゅうが・なつの)」という人間を支えていた膜が、壁が、柱が壊れていく音だ。そして、夏音自身そのものを壊す音。 何をしていても、その音は耳の奥で止まなかった。数日経っても、瞼の裏の残像は消えることなく、むしろ鮮やかすぎるほどに焼き付いた。 ……これは、報いだ。 この痛みは、尚の痛みだ。 壊れていく自分の中で、最後に夏音が聞いた声は。 「夏音さん、おはよ。」 いつもと変わらず、あまりに純粋で優しすぎる、尚の声だった。
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>>45とほぼ同じ時期の、夏音さん目線という感じです。
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2 ( No.68 ) |
- 日時: 2007/08/27 01:05:17
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- 東門から入ってがらがらと引き戸を開けると、そこには数人の部下が立っていた。
もう帰るという連絡を見てから、俺が帰るのを待ち受けていたのだろう。 長い廊下を、部下の視線を受けながら通り抜ける。
「おかえりなさいませ」 「若、おかえりなさいませ」
そう告げる女中たちの目が訝しげに俺の後ろを見ている。 「ただいま」 俺の背後には、そう、先に拾った少年がにこにこ笑って立っていた。 俺は屋敷を発つ際に、きちんと「消失空間」へ行くと言っておいたから。 何故こんなものを連れているのか気になるのだろう。 と、廊下を通りかかった一人の男が楽しそうに近寄ってきた。 帯刀乃藍(たてわき・のらん)、という男だ。 「おんや、若。可愛い男の子(おのこ)を連れてるでないかい? どうしたんだい、拾い物かね?」 妙に老成した口調で問いかけてくる乃藍は、言いながらも親しげに少年の頭を撫でた。 少年といっても、身体は成長している。乃藍ともそんなに背は変わらない。 「消失空間に、落ちてたんだ」 そう答えると流石の乃藍も眼を丸くする。 「消失空間だあ? …その世界の住人かい」 「わからない。でもきっとそうだろうね。 ……エリアEE82EEのデータは残ってるかな、情報班班長?」 「どうかねえ。消失履歴を見てみるかい」 「そうしてくれ」 あいよ、と呟いて乃藍は踵を返して廊下の向こうへ消えていった。
「……はあ!? おい透吾、正気かよ!」 ――思い通りの反応だな。 と胸中で思ってくすりと笑う。 帯刀洸瑶(こうよう)という名の戦闘班第一班班長は、ばんと机を叩いて俺のほうに身を乗り出してきた。 その後ろで紫色の蝶と戯れる少年の姿が見える。 「至って正気だよ、俺は」 「だとしたらもっとふざけんなだ! 消失空間で拾った、身元も知れねえガキを帯刀に、まして戦闘班に入れるなんて」 「身元は乃藍がいま調べてくれてるよ。 それに戦闘能力は俺が保証する。この子は強いぜ、コウ」 「わかんのかよ」 「わかるよ」 「……………」 「コウ」 「…………………」 「コーウーちゃーん」 「だあああっ!! うっせーよ判ったよ入れてやるよ! ただし実戦でルシファーの餌になっても俺ァ一切関与しねぇからな!!」 ばあん、と今度は両手で机を叩いて洸瑶は咆哮する。 すると少年が蝶から洸瑶に目線を戻して「ほんと!?」と眼を輝かせた。 そんな少年に笑いかけて、俺はありがとうと往年の戦友に礼を言った。
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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.69 ) |
- 日時: 2007/08/20 23:13:07
- 名前: 栞
- 参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet
- ( alice in the labyrinth / 或る男の独白・7)
「アイカシア様、メルカシア様を呼んできてくださいませんか」 「あ、うん・・・・・・・」 夕食の前。 エティカがアイカシアにメルカシアの様子を見てくるよう頼み、アイカシアは自室へ走った。 「・・・・・・・・あ、れ・・・・?」 扉を開けても、そこには誰もいない。 ベッドは空で、布団は無造作に捲くってあった。 「・・・・・・・・・・もしかしたら、」 思い当たる場所を見つけ、アイカシアは扉を出て走り出した。
太陽も沈み、夜は更け始めた。 月明かりが窓辺から差し込んできて、走るアイカシアの影を廊下に映し出す。 そういえば満月だったかと、窓の外を見て思う。 そして、「思い当たる場所」へ辿り着いた。
「・・・・・・・・・・メル、カシア?」
そこは、巨大な聖堂。 屋根は一面ガラス張りになっており、床一面に差し込む月明かりが、祭壇に立つ人影を映し出す。 そこに立っていたのは、紛れもないメルカシアだった。 しかしその姿はやつれ、綺麗な金髪も乱れている。 けれど月光を一面に浴び、ただ立っている少女は、静謐な空気の中まるで聖女のようだった。 「メル、メルカシアどうしたの?皆心配してる、だから・・・・」 あわててアイカシアは祭壇へ走り、メルカシアの左手を掴む。
「・・・・・・・・・・・アイ、ちゃん」
少女はにっこりと微笑み、背中に回していた右手を、勢いよく前に突き出す。 瞬間、焼け付くような痛みが、メルカシアの右手に走る。 「・・・・・・・っ、あ・・・・・っ!」 痛みの走った二の腕を掴み、そのままくずおれる。 どろりとした感触を感じ、手を見ると、赤いものが溢れ出していた。 呻き声をあげるアイカシアに、メルカシアの声が頭上からおちる。
「アイちゃん、ごめんね。
ごめんね、アイちゃん、ごめんね。
いらない子は、死なないといけないのよね。 アイちゃんにも必要とされなくなって、わたし生きてる価値ないね」
手には小型のナイフを握っている。 父親――――男の書斎にあったものだ。 握られた右手は、自らの手首を斬り血に濡れていた。
「だから――――――――――、
死ぬね、わたし」
少女のナイフを握る手が、ゆっくりと首筋に伸ばされた。
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(無自覚の救済) ( No.70 ) |
- 日時: 2007/08/20 23:59:10
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 小さな子供が、暗闇の中で泣いていた。
小さな身体を縮こまらせて、蹲り膝を抱え、静かに声も上げずに泣いていた。 何故か暗闇の中でその子供が見える私は、唐突に理解した。 これは、きっと夢だ。 夢だと自分が自覚する夢というのは存在している。今まで何度か見たこともあった。 だから今回もそうなのだ。 そう悟れば、夢の中なのだから子供を泣きやませてあげないと、と思う。 歩くという行為を(恐らく脳内で)行い、子供の側に寄ってからしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
声を掛ければ、驚いた子供が涙に濡れた顔を上げた。
「ぼくの声がきこえるの?」
蒼い澄んだ瞳が私を映してまぁるく見開かれた。
「聞こえるよ?」 「……おねえさん、誰?」 「私はトレフォイル」 「…………フォイル」
呼びにくいと感じたのか、短く切る子供に柔らかく微笑みかけてみた。 よく友人達にはそう呼ばれるから、この子供も私の友達の一人になるのかな、なんて思ってみる。 それもいいかもしれない、と感じた。 子供は私の名前を何度か繰り返した後、涙で濡れた顔をぐしぐしと擦って立ち上がった。 しゃがみ込んだまま私はその子供を少し見上げる。
「フォイル、どおしてぼくの声がきこえるの?」 「解らない。ケド、聞こえたんだ」
夢の中だというのに聞こえたとか聞こえないとかあるのだろうか。 そう思うけれど、私の口はするりと言葉を紡いでいる。言葉が頭を通る暇もない。 子供は暫くじっとその蒼い瞳で私を見つめ、淡く微笑んだ。
「ぼく、さびしかった。ずっとずっといっしょにいるのに、誰もぼくにきづいてくれなくて。とてもかなしかった」
だからこの子供は泣いていたのか。 一緒にいるのに気付いて貰えないのはどれだけ淋しいことだろう。どれだけ哀しいことだろう。 私は何も言えず、子供を見つめ続けた。
「でも、フォイルがきづいてくれた! ぼくの声をきいてくれた!…………うれしかった」
子供が、今度は満面の笑みを浮かべた。 つられて私も笑顔を浮かべる。
「ねぇ、フォイル。こんどぼく、おれいがしたい。こんど声がきこえたらそらをみあげて」
おれい、わたすから。 そう言って子供の姿は暗闇の中に融けていった。 薄れ、消えゆく子供に向かって、私は肯定の声を掛けた。 きっと、今度は現実で子供の声を聴くのだろう。 何故かそんな予感がした。
――――――――――――――――――――――――― お題提供サイト「群青三メートル手前」淆々五題・参) この世界は確かに絶望するはずだった http://uzu.egoism.jp/azurite/
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