きみと、ぼくを、つなぐ物語 ( No.29 ) |
- 日時: 2011/01/05 17:41:03
- 名前: ルーク
- 1:「図書館のおにいさん」
「今日はずいぶんたくさん借りて行くんだね」 毎日のように通う市立の図書館でカウンターを務めるおにいさんがどこか嬉しそうに笑った。あたしが大好きな笑顔。 「今日から冬休みなんです。いっぱい読みたくなっちゃって」 「じゃー年越しは本と一緒なわけだ」 セーラー服の上に羽織ったコートの肩に雪がついたまま、私は笑い返した。 「そうなりますね」
あたし、小林天音。ド田舎の公立中学に通う2年生。つい最近まで、興味なんかなくって、本を読んだり友達と話してることのほうが楽しかった。でも、あたし、
恋してます。
相手は図書館で働くおにいさん。名前も知らない、本を借りたり返したりする本の1分程度の付き合いなんだけど、とっても気さくで、優しくて、色素の薄いサラサラの茶髪に触れてみたいなんてこともちょっと思ったりする。まぁつまりは、かっこいいんだ。 親友にそのことを話したら、「まぁ恋なんてそんなもんでしょ」ってあっさり言われちゃったんだけど。好きな人はどうもかっこよく見えちゃう。それが恋なんだって。
「はい、どーぞ。…あ、これ、面白いよね。俺のおススメ!」 バーコードリーダーにかざしながら、おにいさんは一冊の本を指差して笑顔を見せた。
―『車輪の下』
ずっと前から気になってたんだけど、なかなか借りる勇気がなくて。 「ほんとですか?ありがとう」 うん、とおにいさんはうなずいた。
ほんと、だいすき。
[つづく]
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残酷な童話に描かれない物語 ( No.30 ) |
- 日時: 2011/01/05 23:28:53
- 名前: Gard
- 闇が東の端から押し寄せ、熱気を孕む空気を冷えた物へと変貌させる。そんな昼から夜へと変わる時間帯。何処かの校舎の屋上で、宵闇色の髪を靡かせた青年が明かりが点り始める街並みを見下ろしていた。
その瞳は冷えた色を宿した紅。白いその肌と相まって、まるで死人のように見える。 彼の背後には一人の少女。年の頃は中学生ぐらいだろうか。何処にでもいそうな相貌をしている。 ただ一つその年頃と違うのは、瞳に暗い色を宿していることだろうか。夜の闇よりなお深い闇。その瞳を青年は待っていた。 「あなたが、復讐屋?」 少女の言葉に彼は頷く。 振り向かぬと言うのに、少女はそのことを失礼とも何も思わなかった。そんなことよりも大切なことがあった。 「あいつ等に…………あいつ等に、復讐を。他と少し違うからって、のけ者にして、笑い物にして、そうして彼女を傷つけて、最後には……ッ!」
階 段 か ら 突 き 落 と し て 殺 し た 。
「あいつ等に、復讐を!」 少女の叫びに呼応するかのように青年は振り向く。紅い瞳は相変わらず感情の色を宿していない。 それでも少女には解った。青年が了承していることが。 「ありがとう」 呟き、涙する。 青年は少女に近づき、少女は青年に近づいた。 そして――――――――。
「ねぇ、知ってる?」 「何が?」 「ほら、ニュースで……」 「ああ、○○学校?」 「そう、その学校。階段から落ちて死んだこの親友が屋上から転落死してから、立て続けに不審死が起こってるんだって」 「怖いよねぇ。呪われてるんじゃない?」 「まっさかぁ」 「…………もしかしたらさ、誰かイドを呼んじゃったんじゃない?」 「イド?」 「復讐屋よ。依頼者の生命と引き替えに復讐してくれるんだって」 「こっわー」
♪ 嗚呼 復讐は罪が故に 粛々と受け入れ給え 嘆いたところでもう手遅れさ …… ♪ (Sound Horizon「宵闇の唄」より)
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ツイートの森のミルフィーユ戦争 ( No.31 ) |
- 日時: 2011/01/09 17:34:59
- 名前: 色田ゆうこ
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淡い色合いのアイコンを伴った彼女のツイートは、きらきらとタイムラインを飾り立てます。優しげなアスタリスク、 色っぽくカーブする音符、くるくるまわるような二重丸、零れ落ちた半濁点、プラス、フラット、星、セクション……。 そして句点の頬、オメガの口をもつ、かわいらしい顔文字。末尾には異国語、きすはぐ・きすはぐ。そう、退屈な 生活の中、持て余すそのももいろの愛を、いつも彼女はツイートに乗せていくのです。
電車に乗って県庁所在地に向かう彼女の耳に聞こえているのは、ゆるいリズムに乗せて、おんなのこが囁くよ うに歌っている……そんな糖度の高い音楽ファイルでした。彼女には前の座席にいる、デニムのショートパンツや、 ハイウエストのスカートを履いた、髪も睫毛も足も長い女の子たちが言い合っている彼氏の愚痴も、もはや聞こえて いないのです。 彼女のツイートの上には既に幾重にも、幾層にも誰かの言葉が生地をのばしていました。まるで、ミルフィーユ のよう。
生成色のワンピースは随分と丈が長く、彼女のしろく小さな膝まですっぽりと包みこみます。ちょうど、かたくなに 閉ざしていた花のつぼみがゆっくりとリボンをほどく、その時の形です。 今朝、気合をいれてわたあめのようにふわふわにした前髪には、毛糸でつくられた白い花がもう咲いていて、カ チューシャの上にレースのつる草をのばしています。ファーティペットの蝶々結びの真ん中からのびるチェーンの先 では、優美な姿で立つ鹿が、正面をじっと見つめていました。
目的地に近づくにつれて、車内はおしゃれな人特有のあまい香りが少しずつしてきます。かたたん、かたたん、 揺れるリズムが耳元の旋律と重なり、彼女はやがてうとうととしてきました。まぶたが重くなります。頭のなか、こちら に手を伸ばす睡魔が、ぼんやりと浮かびます。
熱くなった指先をがんばって動かし、彼女はあたらしく、「ねむい……乗りすごしたら大変……ぐう」とツイートし、 座席に座りなおしました。首がすこし疲れていました。 そして……うさぎのような形をした睡魔にエスコートされ、彼女は夢の世界へと宙を泳いでいきます。生成色のスカ ートは風でよくふくらみ、上へ上へと彼女をさらおうとしましたが、睡魔がしっかりと、手を繋いでいてくれました。
さあ、夢の世界まで、もうすこしですよ。
彼女は、自分がいちごになる夢を見ました。 そう、タイムラインは、彼女のツイートで――終結するのです。彼女の前にも、いちごになりたがった女の子はたくさん いたのですが、彼女はそれをまっぷたつにして、生地の合間にはさんであげました。 ひらがなの使いかたが上手な、とてもかわいらしい少女たちですから、いつまでもかわいらしくいられるようにして あげたのです。
そして、アットマークの冠をかぶった王子様の、秘密を、彼女は知ってしまいました。シュールなアイコン、クールな 言葉使い、タイミング。彼女のことを「きみ」と呼ぶところ。すべてがすきでした。だからこそ、ゆるせませんでした。 おしゃれな彼のつやつやしたスマートフォンのディスプレイにひびが入り、そう、いちごは真っ二つにされました。ごめ んね。……彼女は呟きました。 彼女の生成色のワンピースの裾には、いちごの果汁がとびちって、真っ赤になっていました。それは、まるで、血の ようにも見えました。
おめでとう、おめでとう。フォロワーのアイコンたちが、口々にそう言って彼女を祝福していました。「ごめんね」。30秒 前、Keitai webから。3分経っても、5分経っても、タイムラインは表情を変えません。彼女のそのツイートは、 ついにいちごになり、いつまでもいつまでもその位置にありました。
目を覚ますと、降りる駅の1つ前の駅に電車は停まっていました。どきんと音を立てた心臓が、すこし痛くて、彼女は ふうっと息を吐き出します。ワンピースは生成色、一色で、どこにも赤い染みなんてついていませんでした。 携帯電話を取り出します。ミルフィーユのように重なっていくつぶやき。アットマークの冠をかぶった、彼ら。
「はわわ、今起きました。乗りすごしていないよ! いちごの夢を見たの。なんだかおなかがすいたから、駅のケーキ屋 さんでミルフィーユを買いたいと思います」
淡い色合いのアイコンを伴った彼女のツイートは、きらきらとタイムラインを飾り立てます。優しげなアスタリスク、色っぽく カーブする音符、くるくるまわるような二重丸、零れ落ちた半濁点、プラス、フラット、星、セクション……。そして句点の頬、 オメガの口をもつ、かわいらしい顔文字。末尾には異国語、きすはぐ・きすはぐ。
彼女は、今日中にアイコンをいちごの絵にしようと思いました。
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* Love or Like * ( No.32 ) |
- 日時: 2011/01/09 17:54:52
- 名前: 一夜
- 叶わない恋だったけど、
君を好きになれて本当に良かった。
さよなら、俺の初恋。
「じゃあなー。」 「おう。」
いつもの、何も変わらない、帰り道。 俺、相馬瞬(ソウマシュン)は右に曲がって、親友の高嶋敬哉(タカシマケイヤ)は左に曲がっていった。 ふうとひとつ小さなため息をはいて、制服のポケットから携帯を取り出したその時だった。 目の前がいきなり真っ暗になった。 もちろん気絶したとかそんなんじゃない。誰かが両手で俺の視界を遮っているのだ。
「だぁれだっ♪」
聞き覚えのある女の声。 俺はその質問に答えることなく、視界を遮る両手を振り払い後ろを振り向いた。 そこには行き場所のなくした両手をひらひらとさせながら、にこりと笑う女がいた。
「有香……。」 「瞬ちゃんったら、シカトしなくてもいーじゃん?」 「あなた、一応年上でしょ?それに瞬ちゃんはやめて。」
「ちぇっ。」とつまんなさそうに言った後「でもぉ瞬ちゃんは瞬ちゃんだもん。」と呟いた。 この女…杉浦有香(スギウラユカ)は同じ高校に通う、ひとつ年上の家が隣同士の幼なじみ。
「そーだ!そういえばね、聞いたよ。瞬ちゃんまた告られたんだって?」
いつの間にか後ろにいた有香は俺の前を歩いていた。
「え、あー…うん。」
その後を付いて行きながら、適当に返事をする。
「瞬ちゃんモテるねー。うちの学年でもかっこいー言ってる子いるよ。」 「別にどーでもいー。」 「あはっ♪モテる男はゆーことが違うねぇ。」
そんなこと言うけど、本当に俺にはどーでもいーことなんだ。 モテるっつったって、好きな子に好かれなきゃ意味ないし。 それから俺たちは無言で家路を歩いた。
「あ、家着いちゃったね。」
いつもはひとりになると長く感じる道も有香と帰るとあっという間だった。
「じゃーまた。」 「うん。じゃあね。」
有香が家に入るのを見届けてから、俺は玄関のドアノブに手を掛けた。 いつからだったかな。いつも一緒に帰るとこうしてる。
もしかしたら君を、好きになってからかもしれない。 あんなぶっきらぼうな態度とってるけどさ。 ブルーな日、帰り道に君に出会っただけでハッピーな日に変わるんだ。 それくらい、君が好きなんだ。 小さい頃からの、初恋なんだ。
「さっさとさ、告ればいーじゃん?」
ある日の昼休み。 俺は敬哉の言葉に飲んでいたコーヒーを噴出しそうになった。
「…他人事だからって、そんな簡単に言わないでくんない?」 「だって本当のことじゃん。てかさ、まず有香さんモテるし。いつ男出来てもおかしくねーよ。」
ぐさり、と何かが心に刺さった。 俺のこと「モテる男」とか言うけど、俺からしたら有香は「モテる女」だ。 それも男女問わず。あ、プラスすると自覚なし。 …ぶっちゃけ、かなり厄介な相手だ。
「…っはあ〜……もう、なんで有香なんだろ。」
ため息とともに頭をぐしゃぐしゃっとかき回した。 告って、今までどおりでいられるのだろうか? なんて考える俺は弱虫な男で。そんなことに怯えて「好き」という二文字を言えない。 「……意気地なし。」
消えそうなほど小さな声で自分自身に向かって呟いた。
そんなことを話して一週間が経った。 「じゃあな。」
オレンジ色に染まる道で敬哉とわかれた後、俺は少し下を向いた…瞬間だった。
「瞬ちゃんっ。」
後ろから聞こえた声に振り向くと、少し遠くから有香が笑いながら手を振っていた。 その姿が可愛くて、なのに俺はいつものようにぶっきらぼうに、
「何やってんの?俺が気付かなかったらただの痛い人だよ?」
「ひっどいなぁ。」と笑いつつも少し頬を膨らませながら、俺に駆け寄ってきた。 そしていつもと変わらず肩を並べて歩き出した。 相変わらず何も言葉を交わさない俺たちだったけど、この時間が何よりも好きだ。 横目で背の小さい有香を見下ろすと、特に暑いというわけでもないのにいつもより頬がピンクがかっている。
俺はこれが「サイン」だということに気付けなかった。
「あのねぇー。」
珍しく無言の空間を少し上ずった有香の声が破った。
「ん?何?」 「んー……んっとね?」
下を向いてもじもじとするばかりで次の言葉を発さない。
「言いづらいことなら無理に、」 「あたしね!彼氏出来たんだっ!」
俺の言葉に被せられた一番聞きたくなかった言葉。 もちろん俺の思考回路と歩んでいた足はそこでぴたりと止まった。
「っ…え?」 「今日告白されて、ね?1年の時から好きだった、って。」
なんで?どうして? 頭の中で疑問を膨らませていく俺を無視して有香も立ち止まり話し続けた。
「あたしもずっと好きで、でも告れなくてさぁ。」
鈍い音を立てて、何かが崩れ去った気がした。 ずっと…好きだったやつ。 有香がずっと好きだったやつ。 俺が有香を想っていた時、有香が想っていたやつ。 全然、勝ち目ねぇじゃん。
「で、も…両想いなわけでしょ?良かったじゃん…?」
苦笑いしながらやっと出てきた言葉に有香が俺のほうを見た。 さっきよりも頬をピンクにして嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとっ。瞬ちゃんならそう言ってくれると思ってた!」
微笑みを崩さぬまま有香は歩き出した。 地面に張り付いた足を無理やり剥がすかのように俺も歩き出した。 その時の俺は一週間前の敬哉の言葉を思い出していた。
【さっさとさ、告ればいーじゃん?】
【いつ男出来てもおかしくねーよ。】
「じゃあね、瞬ちゃん!」 「う、ん。」
有香が家の中に入った後、俺はその場にしゃがみ込んだ。 抑えていたものがぐっと込み上げてきた。 それは俺の頬を濡らし、アスファルトも濡らした。 「っ………!」
オレンジ色が闇の色に包まれ始めた。 俺の心と…同じように。
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Bin wieder da! ( No.33 ) |
- 日時: 2011/01/09 22:46:28
- 名前: Gard
- 只管前へと進めていた足を止め、立ち止まる。
様々な場所を廻り、いろんなものを聞き、見て、体験してきたのに、ぽっかりと穴が開いたような空虚さをいつからか感じていた。 日々の忙しさにかまけて、無理矢理忘れた振りをして。そうして目を背けてきたのに、何故か今は無視出来なかった。 何故、こんな空虚な気持ちになるのだろうか。 何が足りないのだろうか。 ふと振り返れば、いつの間にか離れていた場所。 忙しいからと立ち寄ることを忘れ、何時しか疎遠になってしまっていた場所。 じわり、胸に懐かしさが迫り上がり、足をそちらへ向けていた。 あの場所は、今も懐かしい匂いを残しているだろうか。 和気藹々と過ごしているだろうか。 どれだけの顔見知りが残っているのだろうか。 私を、覚えてくれているだろうか。 知らず、私は走り出していた! 遠くなく、けれど近くなく。そんな距離が今はとてももどかしい。 走って走って、けれど、目の前に見えた時にふと足を止めてしまう。 怖かった。 誰も知らないかもしれない。 誰もいないのかもしれない。 それを目の当たりにするのが、どうしようもなく怖かった。 目を閉じて考えようとする。 嗚呼、瞼の裏に蘇るあの懐かしくも輝かしき日々よ! もう私は迷わなかった。 門を開き、一歩を踏み入れる。 その先に、たとえ知る者がいなくても構わない。 私は声高らかに宣言しよう!
「ただいま!」
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きみと、ぼくを、つなぐ物語 ( No.34 ) |
- 日時: 2011/01/26 10:36:18
- 名前: ルーク
- 2:「俺はロリコンじゃない」
あの女の子…天音ちゃん(カードを見たから名前は知ってる)が笑顔でたくさんの本を抱えて帰って行ったあと、ふと隣でカウンターをやっていた同僚が笑った。 「ずいぶん好かれてるみたいだな、壹(いち)」 「なんすか、からかうんならやめてくださいよ」 そう言ったのに、彼はさもおかしそうに続けた。
「やー、おまえ、あれだろ、ロリコン!」
ロリコン?
……ってあれか?俺が?
「違いますよっ!俺のは仕事ですから。それに天音ちゃんは」 「ほら、名前知ってるあたりそうだろ」 うぐ、と言葉に困り、俺は口をつぐんだ。
「……ほっといてください。じゃ、俺もうあがるんで」 「おー、また明日なー」
あれだけからかっておいて、彼は手を振ってきた。
俺は高橋壹。この図書館で働いている。というのも、大学をわけあって中退してから、近所のおじさんが勧めてくれたのだ。 コートを羽織りながら、そういえば今日は引っ越しだったと思いだした。昨日の夜と今日の午前中は仕事を休んで引越しの準備をしていた。あぁ、今日から新しい部屋で寝泊りをするんだと思いだしていつもとは違う道を歩き始めた。
がちゃ、がちゃ。
鍵を開けて、扉を開けるとそこはまだ何となく段ボールがちょっと残っている、引っ越し直後の独特の風景が待っていた。それでも、一人暮らしにしては広すぎたかな。 「今日、飯どうしよう…」 宅配でも頼むか、とコートを脱ぎ、鞄から携帯電話を取り出そうとした時。
ピンポーン…
俺の部屋の玄関チャイムが鳴り響いた。なんだ、引っ越し直後に来るって。俺誰か誘ったっけ?
「はぁい」 返事をしてドアを開けると、そこには思いもしない人物がタッパーをもって立っていた。
「あ…」 「え…?」
一瞬流れる沈黙。
「お、おにいさんっ!」 「天音ちゃん!?」
「「ここで何してるの?」」
思わず言葉がかぶって、お互いぷっと吹き出した。 「私、隣に住んでいる…」 「小林天音ちゃん、でしょ?」 「何で知ってるんですか?」 天音ちゃんはきょとんと首をかしげた。 「いや、図書カード見れば名前書いてあるから」 あ、そっかと天音ちゃんは笑った。 「隣に越してきた、高橋壹です」 よろしく、と頭を下げる。天音ちゃんがあっと声を上げた。
「きっと引っ越しした日の夜ってご飯困るかなぁと思って、おすそわけです」
そういって差し出してきた例のタッパー。 「わ、ありがとう!ちょうど宅配でも頼もうかなって思ってたんだ。お母さん?」 「ううん。私が作ったんです。いま、家誰もいないから。ね、高橋さん!よかったら、一緒に食べてもいいですか?」 え、そりゃあいいけど。
「高橋さんはやめてよ。壹でいいよ」 そう言うと、天音ちゃんはちょっと恥ずかしそうにはにかむと、 「……壹、くん」 あ、やっぱり君付けはありなのね。まぁ、いっか。 「うん、いいよ、まだあんまりかたづいてないけど、入って」 俺はドアをしっかり開けて天音ちゃんを中へ入れた。
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Re: 短筆部文集 // 4冊目 (ゆるゆると製作中!) ( No.35 ) |
- 日時: 2011/03/04 14:46:45
- 名前: 葉羅
- 1.
「さようなら、だよ。」
いつもとかわらぬ日々、いつもと変わらぬ君、いつもと変わらぬ空。
あ、ちがった、きょうは入道雲の広がるキレイな空だけど昨日は雨だったし。
とにかく習慣となったように僕らは学校の屋上にいた。もちろんマジメな生徒な僕らだから、昼休み。
梅雨から夏に向けた湿気の帯びた風が空の雲を少しずつ動かす。 鼻腔に入る雨上がりの地面から立つ匂いが、僕は好きだ。 難点をあげるのなら、何も考えずに座ったズボンがすっかり濡れてしまったことだけで、あとはとても気持ちがいい。
「…ちょっと、ムシ?」
「ムシじゃないよ、ただちょっと現実逃避してただけだから」
「それって結局ムシしてたんじゃない!」
唇を突き出したむくれっ面でペシンと僕の頭を叩いてきた。 うん、いつもと変わらない君だ。
恨めしそうに見てくるのをごめんごめんと流しながら、ほっと内心息をつく。
「むー、もういいよ」
ぷい、と横を向いた君。 しまった機嫌損ねすぎちゃった。
「ね、そんな怒んないでよ、僕が悪かったから」 「……ほんとにそう思ってる?」
じいと上目使いで見られてドキドキしちゃったよ。つい言葉を出せずにコクコクと頷く。
「ようし、許すっ!」
花が咲くように、にぱっとお得意の満面の笑みを見せる君。 ああもう可愛いなあ。
そして僕らは授業の予鈴を聞いて慌ただしく屋上からでていった。 雨に濡れた地面に座っていた尻のあたりは下着まですっかり濡れていて、すごく不快だった。
・ ・ ・
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Re: 短筆部文集 // 4冊目 (ゆるゆると製作中!) ( No.36 ) |
- 日時: 2011/03/10 22:52:01
- 名前: 葉羅
- 2.
今日も僕らは昼を屋上で過ごす。 その為に今日も昼食を片手に屋上に繋がる階段を上ってる。 昨日も今日も晴れだったのだから、コンクリートの地面が雨に濡れていることもないだろう。
屋上のドアを開けた瞬間、むわりと湿り気と熱気を孕んだ空気が体を包む。 雲にも屋根にも阻まれることなく届く日差しが目をさし、瞬間頭まで刺激されくらりと来た。 ボクにくらりと化させる事ができるのは君だけだと思っていたのに、浮気な僕を許しておくれ、なんて戯言を脳内で呟きながら頭を突き刺した衝撃が去るのを少しの間待っていた。
「あれ、屋上出ないの?」 「…いやあ、その前にちょっと不実な自分を呪ってたところだよ。」 「なあにそれ。いつもより変なのー。」 「それはいつも変って裏の意味もあったりする?」 「もちろんっ」
ちょうど回復した頃合いを見計らったようにかけられた君の声に、僕なりのジョークで返せば思ったより辛辣な答えが返ってきた。
気落ちしたのをごまかすように二人で屋上に出る。 暑いねえ、なんて日差しを腕で遮りながら呟く君のきらきらと光る後ろ姿についつい目を細める。 そうして野外を堪能した後、二人でご飯を堪能した。 今日とて買い弁の僕の昼食は、安定したクオリティです。
「ねぇ、そろそろだよ。」
君が唐突に言い出した。
「何が?」 「そろそろ、さよならしなくちゃ。」 「ああ、あと一週間もしたらテストだもんね、そのあとは夏休みだ。」 「…ううん、そうじゃないの。」 「そういえば今年のセミナーには参加する?」 「……。ねえ、いつまでそうやってはぐらかすの…?」
きゅ、と僕の制服の裾をつかんで、悲しそうに眉を下げた君が僕を上目に見上げる。 ああ、そんな顔をさせたかったんじないんだけど。 不謹慎にも上目使いにぐっときながらも、僕は返した。
「いつまでも。」
いつまでも。 はぐらかして、ごまかしてみせるよ。
「…そっか。あ、そろそろ教室もどろ?昨日はギリギリになったじゃない!」
眉を下げたまま微笑んでそういうと、突然立ち上がり明るい声で君が言うもんだから、僕もああと従った。 立ち上がった時、制服のスカートの中が見えて思わぬ眼福に反応が遅れたのは内緒だ。
・ ・ ・
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(Genuine or Untrue) in Dream ( No.37 ) |
- 日時: 2011/03/16 18:03:12
- 名前: 一夜
- 目の前に写るもの全てがぼんやりとしていて。
きっと思い起こしてみても曖昧なままで終わるんだろう。
それはきっと神聖な場所。 派手ではないけど、綺麗な装飾が施されていた。 それを眺めているのは私と見知らぬ同い年であろう女の子だった。 私はきっと彼女に連れられここに来たのだろう。 彼女は微笑みながら私に何かを言ってくる。 私はそれに相槌をうったけど、何故自分がそうしているのか分からないままだった。 それから彼女は私の手を引いて何かを指差し、いくつもの小さな引き出しの中から一枚の紙を取り出した。 私も彼女と同じように自分の手元に近い引き出しから一枚の紙を取り出す。 筆で字の書かれたそれは「神のお告げ」なんだろうと私は直感で思った。 彼女は私の左手を右手で握り締め、そのまま引っ張り歩き出した。 その後私はどこに連れられ行ったのか覚えていない。 気付けば寝床にその身を委ねていた。瞳を閉じ真っ暗な世界へと誘った。 私の近くにはあの女の子とは違い、そして明らかに自分より年上の女性がいた。 女性が瞳を閉じた私に何か問いかけてきた。 私はうっすらと瞳を開けて、それにこう答えた。
「私は、違うから。」 「私は本物じゃないから…偽者だから。」 「本物はあの子なの…だから…。」
途切れそうな意識の中、ぽつりぽつりと口にした言葉はこれだった。 そんな意識の中見たのは、あの女の子だった。 そして私は、眠りについた。
いつも聞く、いつものあの曲が部屋中に鳴り響いた。 曲を流している原因といえる物を手探りで掴み、いつものようにストップさせた。 いつもよりはっきりとした意識の中で思ったことは一つ。
(あぁ…夢だったんだ……。)
ねぇ、私は本物ですか? それとも、偽者ですか?
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(You love...?) in Dream ( No.38 ) |
- 日時: 2011/03/21 17:38:56
- 名前: 一夜
- そういえばこんな話を聞いた?いや、本で読んだのかな。
『誰かが夢の中に 出てくるのって
相手の「逢いたい」ってキモチが体をぬけて
夢の中までとんでくるから。』
懐かしいキミとあたしが肩を並べて歩いてる。 あたしが何か言うと、キミは昔とまったく変わらない表情や口調で返してくる。 久しぶりの感覚。素直に楽しかった。 でもなんでキミなんだろう。あの桜咲く前の季節。それぞれの道を歩み始めたあたし達。 歩み始めた100人くらいの仲間の中でなんでキミなんだろう。 そんなことを思っていたら、ゆっくりと目の前が薄暗い靄によって遮られた。
そこであたしは、夢から、覚めた。
休日だけど自主練をして友達と遊んで電車で帰ってきて。 その帰りの電車からもう動き始めていたのかもしれない。
まだ乗っていなきゃいけないという友達と別れて、あたしはひとり電車を降りた。 外は今にも雨が降りそうな曇り空で、あたしは脱いでいたジャージを着るために邪魔にならない所に荷物を置いた。 そのジャージに手を通した時。少し俯き加減のあたしの視界に入った、黒い学ランと、
「よぉ。」
という少し気まずそうな声。 あ、と思った。 夢の中で、出会ったキミがそこにいた。 そして思い出した。
『誰かが夢の中に 出てくるのって
相手の「逢いたい」ってキモチが体をぬけて
夢の中までとんでくるから。』
キミは、あたしに、逢いたかったの? まさかね。そんなわけじゃないって信じてる。
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