Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.84 ) |
- 日時: 2008/03/03 21:37:37
- 名前: 飛亜
- ―――「Knight」結成の切欠は?
と訊かれると俺らは必ず「功刀響香という少女が結成の切欠です」
というだろう。
――功刀響香は俺らの幼馴染で、かけっことかそーゆー系は苦手だけど、歌が凄く上手かった。
『いつかわたし達でさ、バンドみたいなの組もうよ!』 『いいね!じゃオレドラムー』 『ギター?』 『訊くなよ』 『じゃあわたし ボーカルだね!わたしね、綺世のユイみたいな人になりたいの!そうだなぁ…よし、決めた!目標は綺世!綺世みたいになろうね!』 『あぁ そうだな!』
そんな風に夢を語ってた。今となっては埋もれた思い出。
そんなある日のことだった
――響香の夢が壊れたのは。
――響香の全てが崩れたのは。
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幼い自分が決めた道を今も ( No.85 ) |
- 日時: 2008/03/04 19:36:07
- 名前: 一夜◆KFb2oRyLnqg
- あれから2年の月日が流れた。
廃墟となった建物の中に彼女はいた。 腰まで垂らした金髪が朝日によってきらきらと輝く。 綺麗な顔のあちこちには傷やら泥やらがついていた。 建物の中は静寂に包まれていて、それに守られるかのように彼女は眠りこけていた。 崩れた天井の隙間から空が見えた。 その隙間から雫が一粒落ちてきて、それは彼女の頬にぽつりと当たった。
「ん・・・・・・。」
ゆっくりと彼女は目を開けた。 紫色の瞳が雫が落ちてきた方を見上げる。
「今日は、雨か・・・。」
その言葉が放たれた瞬間、彼女が放った言葉が呪文かのように雨は音をたてて降ってきた。 すると、建物の入口からかたっという音がした。 彼女はゆっくりと目線を音がしたほうに動かす。 入口から一人の少女がびしょ濡れの状態で入ってきて彼女に言う。
「雨、急に降ってきやがった!ったくこのアタシがびしょびしょになっちまったじゃねーか!」
胸元まで垂らした漆黒の髪と赤紫色の目をもつ少女はお世辞でも綺麗とは言えない言葉を放った。 そして続けて言った。
「・・・よくこんな所に住んでられるな、一愛。」
彼女―――一愛はぼそりと「別に。」と呟いた。 そんな一愛にわざとらしいため息を少女はついた。
「なんでお前はそういう言い方しかできないかねぇ?」
少女は自分の着ていたロングコートで体中を拭きながら言った。 一愛は何も言わずにただ一点を見つめていた。 肩でため息をして目を伏せて一愛は
「あっ、そ。それよりさ・・・まだ夜じゃないのに何で来たの、夏夜。」
少女―――夏夜と一愛はいつも夜じゃないと会うことはない。 そのため、朝に会うということは珍しいことだった。
「そうそう!一愛にとって良い速報が入ったんだよ!」
夏夜は体中を拭く手を止め、にやっと笑いながら一愛のことを見て声のトーンを上げて言った。
「・・・今夜は狩りだ!ヤツら、性懲りもなく喧嘩売ってきてさー。」
一愛の体がぴくっと動いた。
「なっ?良い速報だろ?・・・ってかさ、そろそろ殺っちゃおうぜ?」
まっすぐと夏夜の目を見て一愛は妖しく微笑みながら
「アイツらの命だって神から得たものなんだし。・・・綺麗に散らせてやろうよ。」
一愛は立ち上がり、触れたら崩れそうな階段にかけて置いたロングコートを手に取り羽織った。 階段は音を立てながら崩れた。しかし、一愛の妖しい微笑みは崩れることはなかった。
この狩りから一愛は『金色の天使』と呼ばれるようになる。 だがその姿は、天使というよりもまるで 悪魔のように・・・恐ろしかった。
『さぁ、楽しい舞踏会の始まりだよ。・・・お姫さまは一体誰・・・――――――?』
(>>81の続き)
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紅薔薇 ( No.86 ) |
- 日時: 2008/03/05 20:31:48
- 名前: 神凪由華
- 参照: http://mbbs.tv/u/read.php?id=illustsuki&tid=63
- 「もう・・・いってしまうのですか・・・?姫・・・。」
「レイフェラ・・・これは・・・運命なのよ。」 紅い血のようなドレスを着た少女は、悲しそうにいった。 「ですが・・・。」 「人間と、私たちアークは分かり合えない。・・・人間は、貪欲ね。」 リボンを解きながら、隣にある小ビンを持つ。 「ふふ・・・いいのよ。貴方達さえ生きることができれば。・・・ね?」 きゅぽ。 ビンの中、透明な液体を見る。 「・・・次に。次に・・・生まれ変われるのなら。私は・・・人間がいいな。」 「・・・姫。」 「・・・おやすみ。」 少女は液体を飲み干すと、がたん!と倒れた。
「おやすみなさい。我等の姫・・・。」
++++++ http://mbbs.tv/u/viewMedia.php?id=illustsuki&mid=1704
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ただひたすら後ろを振り向かずに歩んでる ( No.87 ) |
- 日時: 2008/03/06 17:52:54
- 名前: 一夜◆KFb2oRyLnqg
- 時間って儚いもの。
一愛は空を見上げた。綺麗な夜色を隠すかのように黒く分厚い雲が重なっていた。 これから起きることを表すかのように。
「・・・夏夜、本当にここでいいの?」 「あぁ。だってヤツら、ここで待ってろよっつってたし。」
空を見上げていた紫色の瞳を少しだけ下げた。 次に一愛の視界に入ったのは、大きな一本の桜の樹だった。 鮮やかな桃色の花びらが咲き誇っていた。 ・・・何故、あんなに雨が降ったのにこの桜は咲き続けるのだろう。
「それより、遅くね?まさかアタシらにびびって逃げた?」
ニィっと笑いながら夏夜は余裕に言った。 その瞬間、ぶわっと勢い良く風が吹いた。 その風とともに胸を包帯でサラシのように巻きつけ、その上には白のロングコートを着た何十人ものヤツがいっせいに現れた。
「誰がお前らにびびるんだよ?」 「・・・・・・・桜東軍、やっと来たか。」 「へぇ、随分余裕なんだね一愛ちゃん。」
薄茶色のショートヘアに桃色の目をもつ少女。 いや、桜東軍の頭領―――華憐は一愛のことを睨みながら呟いた。
「別に・・・。それよりさ、面倒だからさっさと終わらせようよ。・・・どうせ私と夏夜の勝ちなんだし。」 「ふざけんなよ、そう簡単にはいかねーよ。」
華憐は手を上に掲げてぱちんっと鳴らした。 それが合図だったかのように、さらに何十人もの桜東軍が現れた。
「んなっ!?前はこんなに数いなかっただろ!?」 「お前ら二人に殺るために別の軍のヤツらを入れたんだよっ!」
同時に華憐は夏夜を木刀で殴りつけようとする。
「!?」 「まず、一匹目・・・。」
覚悟を決めたかのように夏夜が目を伏せた。 だが、もう殴られててもおかしくないのに殴られていない。 夏夜はゆっくりと目を開く。 そこには、木刀で華憐の木刀を止める一愛の姿があった。
「ひ、一愛・・・!?」 「夏夜は、傷つけさせない。」 「くっ、そ・・・。てめぇら、いっせいにかかれ!!二人を殺すんだっ!!」
何十人もの桜東軍が二人にかかっていった。 そんな中、夏夜は申し訳なさそうな表情で一愛の背中を見た。
「一愛・・・。」 「夏夜、油断したら死ぬよ。それとも・・・死にたい?」
一愛は夏夜を見ずに言った。それに答えるかのように夏夜は木刀を構え
「んなワケねーだろ?」 「そう。それこそが夏夜だ。」
一愛と夏夜。 二人はお互いの背中を合わせ
「「いくよ。」」
そう呟いた。
時が経たなければいいのに。 経てば経つほど彼女は変わっていく。 ・・・大事な仲間を傷つけてしまう。
『これだけじゃ足りない。私の憎しみを失くすにはもっと、もっと・・・――――――。』
(>>85の続き)
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Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.88 ) |
- 日時: 2008/03/06 20:59:08
- 名前: 三谷羅菜
- 何故だ。どうしてそんな事になった。
問いかけても答えは見つからない。それ以前に、自問自答している場合でもない。喉元めがけて迫ってくる手刀をどうにか避けて、叫ぶ。 「…………ッ! マリオロスト!」 名前を呼びかけても変化はない。黒い瞳は虚ろなまま、ただ彼女の命を狙って手刀が繰り出される。手刀と言っても彼のそれは刃物と同然だった。避け損ねて肩を僅かに掠っただけ、それだけにも関わらず服に赤いものが滲む。 舌打ちをして、大きく跳躍して距離を取る。ほんの数メートル離れた先で、マリオロストが腰のベルトに挿した短刀を引き抜くのを見た。思わず手が背負った長槍の柄へと伸びる。 (……何やってんだ、あたしは) 胸中で毒づいて、長槍を掴んだ。鞘は払わずに長槍を地面に放る。この状態では、相棒同然の武器も足手まといでしかなかった。 こちらへと距離を詰めてくるマリオロストを見据えて、彼女は口の中で呪文を唱えた。前にも一度、彼が『戻って』しまったことがある。その時にそれは洗脳によるものである事も知った。その洗脳が魔術的なものならば……【解除】することも可能かも知れない。 左手の手刀、それを掴んで自分の方へと引き寄せる。次の瞬間に短刀で刺されることは覚悟していた。それでもわき腹に走った痛みに顔をしかめる。それでも手は離さない。 「いい加減、目を覚ませ……!」 叫んでから、彼女は右の掌を彼の胸に叩き付けた。
★★★ 懐かしい連中投下♪
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選ばれた者、選んだ者(やりっぱなしファンタジー) ( No.89 ) |
- 日時: 2008/03/06 21:26:49
- 名前: そら
- 参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/
- 気が付けばただぼんやりと、白い光の中にいた。
いや、正確にいうならばここは闇の中で、少年のいる場所に光があった。 「お目覚めかな、選ばれし者。――さてはて、何年ぶりだろう。いや、昨日も1人いたかな。ああ懐かしい」 男とも女ともつかない癖のない声が響いた。 しかし、そこに現れたのは紛れもなく男の姿をした――「何か」。 それは人と呼ぶにはあまりにも異質な気を放っていた。
「初めまして少年。ここから先は君の物語、進むも進まないも君次第」
有無も言わさず男はそう言い、不敵な微笑みを浮かべる。 すると突如、少年の前に虹色の光が浮かび上がり、暗闇には一瞬のうちに長い長い道ができた。 「しかし生憎戻る道はないのだがね、選択したまえ少年よ。救世主となろうとも、はたまた破壊神となろうとも君の自由だ」
――世界は君のために彩られる。
その言葉だけが何故だかくり返し頭に響く。 有無を言わさず、まさにその通りで、喉が拒絶するように声を発することを拒んでいる。 「さあ、どうするかね。少年――」 ニタリと笑った男に少年は睨むような視線を向けた。 黙れ、インチキ宇宙人。 少年はスッと立ち上がると、男の隣をすり抜けて光の道へと踏みだした。 もはや選択肢などないに等しく。 少年の姿は闇と光の混沌へ消えた。
「……そしてまた、墜ちてゆく」 闇ばかりが残ったそこで、男の嘲笑のような声だけが確かに響いた。
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Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.90 ) |
- 日時: 2008/03/07 18:02:37
- 名前: 三谷羅菜
- 「…………っ」
息を呑む様な声が聞こえた。視線を彼に向けると、虚ろだった目に光が戻っている。 「リ……ゼ……っ!」 わき腹に刺さった短刀が抜かれるのがわかる。引き攣れるような痛みに悲鳴を上げそうになったが、同時に身体から異物が抜かれたことに安堵する。 ……いや。 安堵したのは、そのせいではなかった。 「……なんて顔してんだよ、馬鹿」 数歩後ずさり、呆然とこちらを見ているマリオロストに向かって苦笑する。それから一瞬で距離を詰め、彼の鳩尾に膝を叩き込んだ。何の反応も出来ずに身体を「く」の字に折ったマリオロストの首筋に、手刀で駄目押しの一撃を加える。完全に意識を失った彼を肩に担いで、空を見上げた。 ぽつりぽつりと、雨が降ってくる。 「ただの悪夢って事になれば良いんだけどな」 こんな事を、覚えておく必要はない。 マリオロストが意識を取り戻したときに、この事を覚えていないことを祈りながら、リゼルは雨の中を歩き出した。
★★★ >>88の続き。 性懲りもなくまだ続くかも知れません(汗)。
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だけどそれは道ではなく・・・ ( No.91 ) |
- 日時: 2008/03/08 17:24:46
- 名前: 一夜◆KFb2oRyLnqg
- “お前はもういらない。早くここから消えなさい。”
ひたすら、ひたすら、殴り続けた。 殴れば殴るほど、私を支配する感情が薄くなっていった。 でも、殴る手を止めた瞬間にまた感情が私を支配する。
「うぐぁっ!!・・・――――――。」 「弱いクセに・・・馬鹿が。」
地面に倒れた女にぼそりと呟く。 そしてつま先で女の頬をぺちぺちと蹴る。 その横では夏夜が笑顔で相手の胸倉を掴みながら
「ねねっ?アタシと一愛を殺したいんだよね・・・?」 「あ、ぅ・・・ち、・・・ちがっ・・・。」 「へぇ?何がどう違うのかな?・・・アタシには分かんないねぇ。」
どすっという鈍い音がした。 夏夜の膝が勢い良く女の腹に入り込んだのだ。 一瞬だけ目を見開いて女は血を吐きながら倒れた。
“お前は弱すぎる。弱い者は織宮には・・・いや、この血筋には必要ない。”
頭の中にはふと昔の憎むべき相手の言葉が過ぎっていく。 さっきからそうだ。 あいつの言葉が走馬灯のように思い出される。
“私の言うことが聞けないというのか!?”
“狭い鳥かごから出れるんだ、嬉しいだろう?”
“本当は・・・”
駄目だ。この言葉を、
“本当は、お前なんか”
思い出してはいけない。
思い出さないようにすることに必死で私は気づかなかった。 華憐が私を目掛けて走ってくるのを。 夏夜が華憐に気づいて私の名を叫んでいることも。
「織宮一愛・・・これで終わりだっ!!」
ぶぉんっと木刀を振る音が聞こえた。 夏夜を庇ったときと同じように木刀を木刀で止めた。 だけど、これだけでは終わらなかった。 華憐の木刀を弾いて地面に落とし、何度も何度も殴りつけた。 殴るたびに小さな呻き声と少量の紅が舞い踊る。
「ひ、め・・・・・・っ?」
夏夜が驚愕しながら声を裏返させて私の名を呟いた。 そんなの、もちろん聞こえない。
「ぐはぁっ・・・ぅがぁっ!!・・・・・・ぁぐっ!!」
華憐はもう気を失いかけていた。 見ればすぐ分かった。目に力がなく虚ろだったから。 でも・・・私はまだ殴り続けた。 そんな私を見て夏夜は私の両腕を後ろから掴みおさえた。
「一愛!!もう止めろよ!!コイツ・・・華憐が死んじゃうじゃないか!!アタシたち、殺すために喧嘩してるんじゃないんだよ!?」
言い終わると夏夜は、はぁはぁと荒く息をした。 ふと華憐を見た。 気を失っていて、顔はぼこぼこに腫れ上がっていて血がこびり付いていた。
「一愛・・・一体、どうしたんだよ!?」 「・・・別に。」 「何が別にだよ!お前、人をこんなにするまでのヤツじゃないだろ!?」
夏夜の言葉が妙に突き刺さってきた。 私はもう、自分を抑えることが出来なかった。制御、出来なかった。 言ってはいけないことを、言ってしまった。
「・・・・・・うるさい。私に口答えするな、鬱陶しい。」 「ん、なっ・・・!?」
してはいけないことを、してしまった。二人の空間に何とも言えない鈍い音が広がった。
「ッッッッッッ!?・・・・・・ひ、め・・・――――――?」
どさっと華憐の隣に夏夜が倒れこんだ。 私はそれを見て我に戻った。 周りには・・・自分が傷つけた人たちが、何も関係ない人たちが倒れている。 そして遂には・・・大切な友が。
「あっ・・・あ、あぁぁっ・・・!!」
私は走り出した。 事実から逃げるように走り出す。 そう、全てを置いて・・・走り出す。何かを求めて。
“本当は、お前なんか生まれてこなければ・・・。”
(>>87の続き)
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Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.92 ) |
- 日時: 2008/03/10 21:01:31
- 名前: 三谷羅菜
- ぱたぱたと、雨が屋根を叩く音がする。それに気がついて、彼は顔をしかめて天井を見上げた。打ち棄てられたこの家に勝手に住み着いてから数ヶ月。雨風さえ凌ぐことさえ出来れば良いと思っていたのだが、実際には雨漏りはするわ隙間風は入ってくるわで、現実はそんなに甘くないと思い知らされてしまった。それに懲りて、適当に屋根やら壁やらに板を打ち付けてみたものの……大工でもない彼に、ちゃんとした修理が出来るはずもない。
「雨漏りだけは勘弁してくれよ……」 今のところ染み一つ見えない天井に向かって、祈るように呟く。祈ったところでどうなるというわけではなかったが、いつまでも気にしているわけにも行かないので、天井から視線を外す。 と。小さくノックをする音が聞こえた。今度は扉の方に視線を向ける。彼が返事をする前に、扉が勝手に開いた。 「……突然悪いな」 入ってきた者は二人。二人とも知り合いだった。ずぶ濡れでおまけに血塗れの、真紅の髪と瞳を持った少女と、彼女に担がれた、気絶しているらしい黒髪の少年。 絶句している彼には全く構わず、少女は家の中に入ると少年を床に降ろした。扉の閉まる音で、我に返る。 「ちょ、リゼル、お前……どうしたんだよ?」 「……マリオロストが、また『戻った』」 その意味を知って、息を呑む。ため息をついて、リゼルが続けた。 「何がきっかけでそうなったのかはあたしにもわからない。……人の居ない場所で、そこにあたししか居なかったから、良かったけど」 何を言えば良いのかわからずに、ただ見つめる。炎の色をした瞳が、微かに揺れているのが見えた。 「ソルム、悪いがこいつ預かってくれないか。お前が拾ったことにして」 「え、ちょっと待てよ。お前怪我!」 「大したことない。全部かすり傷だよ。……それに、この状態のあたしをマリオロストに見せたくない」 「いやだからって」 ソルムの言うことなど全く聞かずに、リゼルはさっさと扉を開けてしまった。何と言って止めるべきか、ソルムが必死に言葉を探しているうちに、 「…………夢だと、思ってくれれば良いんだけどな」 独り言のような呟きを残して、リゼルは去っていってしまった。
★★★ >>90の続き。 まだ続きます(汗)。
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Re: 短筆部文集 // 3冊目 (マイペースに製作中!) ( No.93 ) |
- 日時: 2008/03/10 21:30:27
- 名前: 三谷羅菜
- 「――――っっっ!?」
悲鳴と共に飛び起きる。見たこともない家のベッドに自分が寝ていたことに気がついて、混乱する。 (どうゆうことだ? 俺、さっきまで――――?) 記憶が蘇る。人気のない道。突然視界が暗くなったこと。突き刺した感触。血に濡れた短刀。血塗れのリゼル―――― (お、れ……は――――!) 「よう、やっと目が覚めたか」 聞き覚えのある声が聞こえた。そちらの方を見ると、ソルムが椅子に座ってこちらを見つめている。 「ソルム……」 「全く焦ったぜ。裏通り歩いてたら突然ぶっ倒れてるお前見つけてさー」 事情説明、なのだろう。ほとんど聞いていなかった。返事の変わりに、彼の襟首を掴む。 「リゼルは!? リゼルは何処に居る!? 俺、俺は……」 「おいちょっと落ち着けよ」 「暗くなって……気がついたら、俺が……俺がリゼを……!」 「良いから落ち着けって」 ソルムがため息をついたのがわかった。それまで掴んでいた襟首を離して、彼から距離を取る。うつむいてその場に座り込むと、マリオロストが取った距離の分だけソルムが距離を詰めてきた。 「……安心しな、リゼルは無事だよ。かすり傷はたくさん作ってたみたいだけどな」 「でも……俺……!」 「お前がそうなるのが嫌だから、あいつ俺のところにお前押し付けていったんだよ。全く、嫌な役押し付けてくれるよな」 ぽん、と頭に手が置かれる。視線を上げると、ソルムが苦笑していた。 「大丈夫だよ。リゼルはお前のこと、嫌いにならないから」 それに、根拠が無いことはわかっていたが、そうとでも思っていなければ狂いそうだった。
礼を言ってからソルムの家を出る。目の前に広がったのは、人気のない道と、見知らぬ風景、そして―――― 「よう」 軽く手を上げて、いつもと変わらない表情で立っているリゼル。どうすれば良いのかわからずに呆然としていると、リゼルは続けて、 「大丈夫か? 行き倒れてたってソルムから聞いたときは焦ったぞ」 「……それ、嘘だろ。覚えてるから……ちゃんと」 リゼルもソルムも、自分を気遣ってそんな嘘をつく。だがマリオロストは覚えている、自分のした事を。 「ごめん……俺、本当に……ごめん……」 謝ったところでどうにもならない。わかっていてもそれしか出来ない。目を合わせることすら出来なくなり、うつむく。すると、肩に手を置かれた。 「お前が、何度『戻った』としても、あたしが何度でも『マリオロスト』にしてやるから」 顔は上げなかった。それでもリゼルが微笑しているだろうと思った。 「だから……大丈夫」
★★★ >>92の続き。 ようやっと終わりました(汗)。
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