Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.1 ) |
- 日時: 2007/01/13 21:01:37
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- 飲んでいた牛乳パックが、ず、と音を立てた。中身が無くなったことを意味する音だ。
ストローを口から放してパックを強く握る。かんたんに、パックは潰れた。 そのまま近くにあったゴミ箱に投げ入れて、廊下を歩き出す。 窓の外、空を飛行機雲が一直線に横切っていた。 なんだか見とれてしまって、思わず立ち止まる。
(冬の匂いが、辺りには満ちていた) (北風に身を震わせる季節が、もうすぐやってくるのだ)
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Re: 短筆 1 (握った手、いつ ( No.2 ) |
- 日時: 2007/01/13 23:04:14
- 名前: 鈴花
- 空が青く、蝉の声がする夏の日だった。
携帯も繋がるか繋がらないかの小さな田舎町。 いつものように大好きなレモン味のアイスキャンディと、大好きな恋愛小説を持って大きなメタセコイヤの木の下でゆっくり読書する。私の大好きな時間。 物語の中盤にさしかかったとき、ふいに私の後ろに人が立つ気配と、懐かしい、レモンの香りがして。 振り向いたら「アイツ」が立ってた。 少し慌てたように、 「なんの本を読んでるか」 そんなことを話しかけられたのを覚えてる。 メタセコイヤにとまっていたのか、頭上で蝉がウルサいほど鳴いていた。
澄んだ青空の下。 そのときの恋愛小説は離れてしまった幼なじみが再び再会して、恋に落ちる。そんな内容だった気がする。 レモンの後味が残る口の中が何故か懐かしさと愛おしさを感じさせていた。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.3 ) |
- 日時: 2007/01/14 11:36:06
- 名前: そら
- 参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/
- 赤い点灯が消え、カラカラと音をさせながら担送車が遠ざかっていく。
静まり返った手術室の前で、私はただ呆然と立ちつくしていた。 「どうして……」 冷たい廊下に、私の声が何度も木霊する。 目の前のもの何もかもがかすんで見えて、生暖かいものが頬を伝った。 そっ、と。いつの間にか側に来ていた彼が、私の震える拳に手をそえた。 「兄さんの代わりに……今度は……今度は俺が、守るから」 気のせいだろうか、彼の手も小さく震えていて。 その手が私の手をぎゅっと握ったから、私もきゅっと握り返した。
その日の空は灰色に染まっていて。 外は凍えるように寒かったから、私達はずっと手を握りつづけていた。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.4 ) |
- 日時: 2007/01/14 18:10:00
- 名前: 玲
- 参照: http://yaplog.jp/yami-tuki/
- 「……痛い」 そう、唐突に言葉を発したのは私の口。
私的に斜め前に座って本を読んでいる彼に向かって言ったのだけれど。 彼は気にする素振りも見せず本に釘付けである。 「いたい」 私は再び同じ言葉を口にした。 先程より大きな声で言ったのだから、流石に彼もこれには気づくだろうと思った。 のだけれど、 「煩い」 気付いたと言えば気付いてくれた。 でも彼の口から発せられたのは私の予想とは程遠く、 ……というかこの言動から推測するに最初のも聞こえていたのではないかと思う。 「何その言い方! 誰の所為で私が傷口にガムテープ貼ってると思ってんの!?」 いつも彼のペースに呑まれてしまうので今回はちょっと強気に出てみた。 いや、言動は心の底からの本心です。 「絆創膏がなかったのだから仕方ないだろう」 「だからって……」 そこで私は口を閉じた。 彼にはこれ以上何を言っても無駄なのだと、この旅で嫌というほど解ったからである。 解っているのに何故声に出して「痛い」と言ったのか……。 自覚している訳じゃないけれど、多分私は彼と話したかったんだ。 この旅が終わってしまう前に彼のことを少しでも知りたくて。 勇気を出して口を開いたのに肝心の彼はこんな様子。 まあ…… 「寒いから掛けておけ」 私の顔面に毛布がヒットした。 こういう優しい彼を知っているから、よしとしよう。 私は手元にあった薪を焚き火にくべ、ほんのちょっと彼に寄って座り直した。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.5 ) |
- 日時: 2007/01/14 18:14:14
- 名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
- 参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/
- よく、私は空を見上げる。
(・・・。首痛くなった・・・。) それども、空を見上げるのは、私が空に何か、夢みたいなものを抱いているからだろうか。なんだか不思議に思える。自分の好きなもの、何で好きなのかわからなくなる。 「なーにやってんだ?また空見てたのか・・・?お前も飽きないな。」 後ろから後頭部を軽く、本で殴られる。 「飽きるわけないでしょう?こんな綺麗で、いつも違うんだから。」 当然のように私は答えていた。その言葉は、考える前に出ていた。 その後、遅れて脳が自分の言葉を理解する。そして、はっと気づく。 (何だ、最初から答えは出てるんじゃない・・・。) 思わず、笑いがこぼれる。本当に不思議だ。当然のことが、こんなすぐ出てくることが、どうして今まで悩んでもわからなかったんだろう。 「うわ、何お前一人で笑ってんの、気持ち悪いなぁ」 「うるさいなぁ。別にいいでしょ、私が笑ったて!」 ちょっとしたことだけど、今隣に居る幼馴染にお礼を言いたくなった。だから、小声で呟く。 「・・・ありがと・・・。」 「え、何突然!お前にお礼言われるほど不気味な事はない!あー、きっと俺は帰りに交通事故にあうー。」 冗談でも、身体を震わせて言うコイツがとても憎らしい。 「何よそれ!」 (でも、コイツのお陰って事もよくあるんだよなぁ) ・・・悲しい現実だ。でも、ソレのお陰で私は毎日空を見れる気がする。 いつか、コイツと一緒に空を見たい。一緒に、手を繋いで・・・。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.6 ) |
- 日時: 2007/01/14 19:48:02
- 名前: 咲
- 参照: http://yaplog.jp/nekogokoro-111/
- 失恋した日一人空を見ると、浮雲が1つ。
「君は寂しくないの?」 ぽつりと出た、一言。 「私は寂しいよ。とっても、とーっても寂しいよねぇ、私の声は聞こえますか?」 無論、答えは、こない。それでも続ける、私。 「失う恋と書いてね、失恋っていうの。 私の恋は、誰かに取られちゃったの。 私は今、恋を持ってないの。」 答えが来ないことは分かってる。それでも話しかけてしまう、私。 (分かっていても、寂しさの涙が、頬を伝う。) 風が吹いて、雲が流れていくのを、ただ見つめる私がいる。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.7 ) |
- 日時: 2007/01/14 20:24:11
- 名前: 色田ゆうこ
- ドアを開けると、彼女が自分の世界にトリップ中だった。
いつも以上の大音量に、眩暈を感じて少しよろける。 「先輩、だめでしょ、またこんな、大音量で……」 いくら防音対策万全って言ったって……。 もう自分の声も聞こえない。 僕はふらふらと、部屋の中央の洗濯物の塊に近づいた。 いつもと同じ様に、洗濯物の山に埋もれて彼女は眠っていた。 「げ!」 (……今朝アイロンかけたやつじゃないか) 見覚えのある空色のポロシャツに、僕はため息をつく。 僕に気付いた彼女が、部屋を包む轟音のリズムに合わせて寝返りをうった。 「おかえりー」 その声はまるで歌っているようで、 自分の声も聞こえない世界で、僕は彼女の声をはっきり聞いた。 「先輩、いい加減洗濯物にまみれて眠るの、止めてくださいよ」 「えー、だっていい匂いするし、キモチイイし。いいじゃない、細かいなあスネ夫は」 「常雄です」 「だからそう言ったじゃん、」 実に愉快そうに笑いながら、彼女は今度はしっかりと僕の名前を発音した。 彼女がまた寝返りをうつ。空色のポロシャツがぐるりと捩れた。 最愛の人への狂うような愛情を歌っていた、部屋の隅の双子のスピーカーが、 あるフレーズを何度も繰り返した末に、しんと押し黙る。 彼女が歌うように、それでもしっかりと僕へと向けて、そのフレーズをもう一度繰り返した。 「あいしてるよ」 もちろんです、と微笑んで、僕はいつものように異空間から彼女を取り戻した。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.8 ) |
- 日時: 2007/01/14 21:51:01
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- 握った手はつめたかった。触れた肌はしろかった。
ぼくの声は震えていた。「ごめんなさい」、って君は言った。 君は白い手でぼくに触れた。ぼくの視界はぼやけていた。 なんで命に終わりがあるのか。どうして君の命がいま、終わってしまうのか。 人間はなんて脆いんだろう。死んでいく君も、何もできないぼくも、脆い。 「――な、……なんで、死ぬの……っ」 嗚咽の混じった涙声で、どうしようもないことをぼくは問う。 君はいつものように困ったように笑った。しろく、うつくしい笑顔だった。
――ぼくのその問いに、彼女は永遠に答えることはなかった。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.9 ) |
- 日時: 2007/01/14 21:59:08
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 彼女が瞳を閉じたのは、あの蒼く澄んだ空の下、紅い紅い彼女の色が飛び散った日からちょうど一週間後だった。
――――穏やかと言える顔、だった。 彼女が目覚めると信じ続けるように、彼はずっと彼女のてを握って離さない。 握り続けてもう一時間以上経つ。もちろんそれで彼女が目覚めるわけがない。 旅立ってしまったのだ、彼女は。彼の手も私の手も振り切って。 私は何も言わずに、彼の背を見つめていることしかできない。
二人の物語の哀しい結末に、涙が落ちた。
やがて彼女の身体は燃やされて、残った骨を一つ私は頼んで受け取った。 彼女の骨は灰にされ、圧縮され、黄色味掛かった人工ダイヤへと変わった。 私はそれを指輪にすると、彼に送る。
二人が手をずっと手を離さないでいられるように願って。
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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.10 ) |
- 日時: 2007/01/15 22:09:55
- 名前: 玲
- 参照: http://yaplog.jp/yami-tuki/
- 紅、赤、朱とした部屋に彼女の身体は横たわっていた。
扉を開けた瞬間、眼に入ったのはそんな彼女と床に散らばる何か――。 丸い、四角い、小さい、大きい、赤い、黒いそれは、姿を隠す風でもなく、無数にそこに存在していた。 それが何なのか、知る由もなかったし知りたいとも思わなかった。 理解していない今でさえ、こんなにも吐き気が込み上げてくるのだから。 僕は顔を歪め、何度も息を吸い吐きながら彼女に近付いた。 彼女の身体に触れるまで、とりとめのない不安が何度も僕の頭を過ぎった。 ……最悪さえ思考した。 けれどそんな僕の不安は、彼女に触れた瞬間安堵へと変わる。 気を失ってはいたが、確かに呼吸をしていた。 僕は頬を伝う水分を拭い彼女を抱いた。 早く、――一刻も早くこの場から逃げ出したかった。 気が狂いそうな臭いと状景。 どす黒いアカしか表していないその空間に、僕は別れを告げ足早に去った。 早く、速く――。
視界がぼやけ、何度も転びそうになりながら僕は必死に走った。 同年代の彼女の身体はあまりにも軽く、僕はそれをも不吉に感じた。 けれど生きている。生きているから、早くあのあかとは無縁の何処かへ連れて行きたかった。 彼女の笑った顔が好きだった。 日の当たる場所で微笑む彼女が。 果たして目を覚ました彼女は、以前のように僕に向かって微笑んでくれるだろうか……。 彼女の小さい身体を抱き直し、僕は光を求めて足を速めた。
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