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短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。)
日時: 2007/06/22 15:26:28
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

短筆部文集記念すべき1冊目。100話になるまで書き続けるよ。
連載も突発もオッケーな自由度高い企画なんだけど、一応ルールは守ってもらわないと。
じゃあとりあえずここでのルール、ね!(箇条書きで)

・参加できるのは短筆部部員のみ。書きたいよ! って子は、まず入部届け(笑)を出してください。
・台本書き(情景を書いていない文章)禁止。
・文章は文字数がオーバーしない範囲……ですが、あとから編集して付け足すこともオッケー。
・リクを貰ったり募集したりするのも可。ばんばんしちゃってくださいな。
・ギャル文字などは厳禁。誰でも読める文を書いてね。
・一次創作・二次創作どちらでも。ただ、(ないと思うけど)年齢制限のかかるようなものは書かないこと。
・リレー小説のキャラ、自分のオリキャラを出すのは一向に構いません。でも、他の方のキャラを借りるときはちゃんと許可を貰ってからにしてね!


入部届け・雑談・リク受付 などはこちらへ。
http://ss.fan-search.com/bbs/honobono/patio.cgi?mode=view&no=9725

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Re: 短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。) ( No.71 )
日時: 2007/06/17 17:18:51
名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/

――あと、何個だっけなぁ・・・――

最近、物忘れが酷い気がする。
体の動きも、鈍い。
何故かなんて、大体予想がついているけど。

――そろそろ、寿命なのかもな――

造られた体の寿命の、何と短い事だろうか。

――ま、それも一つの運命って事で――

それは、割り切れるけど、まだ、遣るべき事は終わってない。

――終わらせないと、死ぬに死ねない――

その為に、どんな犠牲を払おうと、之だけは遣り遂げなければ・・・。

――絶対、死なせはしないよ。 僕の大切な”アリス”――
Re: 短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。) ( No.72 )
日時: 2007/06/17 18:10:43
名前: 春歌

大人たちの見え透いた嘘にはウンザリする
そんな時―――
「何してるの??」
たとえば、ピアノの高い「ド」を鳴らしたような・・ソプラノが響いた
「別に・・・君は?」
いつものように、仮面の笑顔をみせ聞いた
「・・・・・・桜粒」
小さく自分の名を名乗り一言おいてこういった
「可哀想な人・・・・・」


それからどのくらいたったのだろう
自分はだいぶ変わったと思う
自分の思いを主張し、本当の笑顔を見せるようになった
それは君のおかげだなと思いながら・・・・
「何をしているの?」
「いや?・・・・君は」
「貴方を探しにきたのですよ」
「そうか・・・では行こうか<桜粒>」
「えぇ・・一仁さま」
君とであった奇跡がこんなにも自分を変えてくれるとは・・・思っても見なかった
あのときまでしていた仮面の笑顔も満月の夜に海に捨て
真実の笑顔で、今を過ごす――――
Re: 短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。) ( No.73 )
日時: 2007/06/17 18:27:00
名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/

何かが違う。
何かが足りない。

最近の僕は、そんな事ばかり考えている。

人と、自分の違いは?
人にあって、自分に無いものは?

何回、そう自分に聞いてきただろう。
いい加減、厭きたし、疲れた。
でも、怖いんだろうな。
皆から外れるのが、凄く怖い。
何て臆病者なんだと自分でも思う。

「ほ〜〜ら、まーた暗い顔しちゃって!
 何で君はそう、ずっと悩んでるのかな?」

彼女の、その明るささえ憎く思う。


・・・大好きな彼女を?大好きなのに、何故憎い・・・?




「・・・もうやだ・・・。」
そっと、呟いてみる。

「え?・・・今、何て言ったの?」

その呟きは、彼女に聞こえなかったらしい。

「・・・。何でもないよ。」
皆と同じ笑顔で、彼女に向かって言う。

そう、彼女は、僕の醜い部分を知らなくて良い。知らないで欲しい。

そう思うのは、やっぱり僕が、彼女のことを好きだからなんだろうか。
(銀魂 沖田結核ねた3。) ( No.74 )
日時: 2007/06/22 15:39:28
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

からり障子を開けて「よう」と声をかけてやると、総悟は顔を明るく染めてぱっとこちらを向いた。
近藤さん、と俺の名前を呼ぶ。にかっと歯を見せてわらってやると、総悟のほうも頬を上気させて微笑んだ。


「明日から甲州だ、総悟」
「遂に、ですかィ」
縁側で庭を見詰めながら会話。踏む土が軟らかくていかにも雨上がりといった感じだ。庭に植えられた樹は競うようにきれいな花を咲かせている。
「これからだよ、総悟」
「えェ」
にこり、笑って総悟は返事。けれどその瞳はゆらゆらと、水面のように心細げに揺れていた。
それはきっと自分の寿命を見据えた上での、弱弱しい、「また置いていかれる」という、疎外感。
総悟は、自分のことを想って置いていかれることはわかっているだろう。
けれど、やはり。あいつは孤独をなによりも恐れたから。
心細くて、寂しくて、たまらないのだろう。
その瞳の奥に隠されている気持ちに俺は身を竦める。目を逸らして、唇をかみ締めた。
「これからなんだ、総悟。真選組も、俺も……お前も」
それまで絶対に死なせやしねェ。そんな意味を含めて言ってやる。
俺とトシと、総悟、は一蓮托生だ。同じ運命を歩み続けると決めた。
だから、それまで死ぬなんて許されねえんだから。死ぬな、と。
しかし今度は、総悟からの返事はなかった。総悟?と呼んでもう一度彼の顔を見やると、少年の瞳は遠くを見ていた。
「………俺ァねェ、近藤さん」
不意に、ぽつり、語りだした。
「……もう、後悔なんてしてねーんでさァ。
 ま、副長の座は少し心残りだけど。
 他にやりたい事なんざねえし、やんなきゃなんねーこともない。
 ……だけど、だけど」
段々と縋るような声音で、総悟は続ける。視線を下に落として、前髪が顔にかかるのも気にせずに。
「俺ァね。ただ、もっと。
 あんたや、土方さんや、皆と、
 もっと一緒に、いたかった。戦っていたかった。
 どうせなら、どうせなら、この身体が裂けたって、血に塗れたって、
 剣だけは離さずに。あんたたちと、戦場で、死にたかった、ンでさァ」
気が付くと、総悟はないていた。ぽたぽたと、泪が総悟の着物に染みを作る。
俺もないていた。総悟の言葉を聴く度に目から泪があふれ出て、止まらなくなっていた。
俺は、総悟の細い身体を抱きしめる。すると、総悟の口から嗚咽が漏れ始めた。震えた手が、俺の背に回される。
それから二人で、身を寄せ合って泣いた。周りすら気にせずに、大声で。

(嗚呼、神様とやら。
あんたに命をあやつる力があるってんなら、どうか、どうか。
この小さな少年を、助けてやって欲しい。その為なら、俺の命なんて喜んで差し出してやる。)

と、この日切実にそう思った。





>>66のつづき)
そう言う風に笑われたら何も言えないって知っててやってるの? ( No.75 )
日時: 2007/06/18 21:46:59
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 約束を、すっぽかされました。
 その日は私の誕生日前日で、誕生日は私の都合が付かないから、と前日デートをしようということになっていました。
 なのに、なのに。

「すっぽかすってどういうコトよーっ!!」

 自分の部屋で枕を壁に向かって叩き付ける。ぼすん、と間抜けな音がした。
 約束の時間から三時間以上、待ち合わせ場所でナンパヤローに耐えながら待っていたんです。
 いい加減耐えきれなくなって電話を掛けたら、「……約束、してたっけ?」と電話口で言われました。
 むかついたんで電話を切って電源切って今部屋の隅に放置してあります。
 携帯に八つ当たっても意味ないコトなんて十分承知の上なんです。それでもしないと気が済まないんです。
 ああ、なんであんな奴好きになったんだっけ。
 その議題で頭ぐるぐるしてきました。もう何も考えられません。
 恨み言すら出てきません。
 明日は私、朝からバイトがあるんです。一日中バイトをとっかえひっかえするんです。
 バイト仲間に押しつけられたんです(ああもうデートなのよとか言うんじゃないわよ私誕生日なのに!)
 だから今日会って、おめでとうって言って貰って、明日の元気にしようと思ってたのに。

「ばかやろー…………」

 こんな状態で私、バイトをちゃんと出来るんでしょうか。





 なんて、杞憂。
 しっかりとバイトを終えて帰ってきたのは午後九時。辺りはしっかりと真っ暗でした。
 バイト仲間にすら誕生日の祝福を貰えず(言ってもふーんで済ませたよあいつ等!)私の気分は最悪です。
 もう寝てしまいましょう。そうしましょう。
 と、家の前に人影がありました。

「……よぉ、遅かったな」

 ニカッと笑ったのは昨日すっぽかしてくれた彼でした。
 唖然と怒りと虚しさが混ざって何も言えなくなりました。

「悪ぃな、昨日は誕生日プレゼント買いに行ってさ。デートのこと、忘れてた」

 笑顔を絶やさずそう言う彼に、呆れながらも何も言えなくなりました。

「……ばかやろー」
「ははっ、そう言うなって。…………誕生日、おめでとう」

 ああそうだ、私は彼のこの笑顔に惚れたんだ。

―――――――――――――――――――――――――
お題提供サイト「capriccio」 長文五題
http://yucca.b7m.net/capriccio/index.htm
Re: 短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。) ( No.76 )
日時: 2007/06/19 17:15:49
名前: 春歌

嫌いなんて言葉は嘘でなんかいわないよ

好きなんて言葉は嘘じゃないと言えないよ

なんて素直じゃないんだろう嘘じゃなく好きと言いたいのに
ぼふっと枕に顔を埋めた
「やば・・泣きそうになってきた」
彼氏と別れた、理由は簡単好きな人ができたからだった
一方的な別れに、私は何も言えなかった
彼が好きになったのは学校で一番の美人
考えれば彼が悪い、そう思うのに私はなぜか自分に悪点があったと思う

「嫌い」と言って喧嘩ばかりしていた

「しょうがないわね」素直にいえなかった

「ありがとうと」嘘じゃないといえなかった

「好き」と一回もいえなかった

こんな自分、彼に捨てられて当たり前なんだ
やば、マジでなく
そのとき
ピーンポーン
「・・・・お客きゃくさん?」
潤んだ目をこすって、玄関に行った
「はい、どちらさま?!?」
ドアを開ければ別れた彼氏
「久しぶり、元気にしてたか〜」
よっと片手を挙げて挨拶する彼
「な・・んで?」
状況がまだ飲み込めてない
「あ〜〜その、さ振られたから」
「・・・・あきれた」
「いーじゃんかよ」
ぷいっとソッポを向く
「くす・・で、何しにきたの?」
「や〜その、、あの、、、、」
「なによ・・・・・」
「っ〜〜〜!!だぁー俺が悪かったてだから、また付き合ってくれ」
真剣な表情に弱い自分がいて
すぐに許してしまう、自分がいる
「うん、、いいよ」
「ほんとか!!」
「えぇ・・・・・大好きょ」
たぶん自分は泣いてるんだなぁと思いながら
初めての好きを・・・・
「俺も大好き」
「ありがとう」
心からの好きを貴方に――――――――
Re: 短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。) ( No.77 )
日時: 2007/06/19 22:20:21
名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/

「な〜んだかなぁ」

隣に居る奴に聞こえるように、永倉新八は大きな声で呟いた。

「・・・なんだよ八っつぁん・・・。」

「なんだよもなにもないっしょ。」

縁側の淵に寝転んでた新八は、言うと同時に、跳ね起きる。

「何で召集かかったのが十番隊だけなんだよー。」

「いや、ソレを俺に言われても困るぜ?」

ここのところ、新八の率いる二番隊に全く物獲りの仕事がこないのだ。

「だってさー、左之だけズルイじゃんよ。」
「へっへーん、俺の普段の行いが良いからだろうよ。」
「うん、どの面下げてその言葉が出るのか教えてくれる?」

早い話、新八は警備だけの仕事に飽きているのだった。

「うーー、鬼副長めー!!
 二番隊に仕事くれぇぇ!!!」

何処にも当てる事の出来ないむしゃくしゃした気持ちを、空に叫ぶ事で晴らす新八であった。



§§§
『新撰組』を使った創作です。
何の作品も関係ありませんので。

(君がため、惜しからざりし命さへ) ( No.78 )
日時: 2007/06/19 23:38:31
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

わが余命幾ばくか
   死神のみぞ知りたもう
     (ALI PROJECT)





「布団のなか、からで、ごめんなさい」

 久しぶりに見たその人は、とても弱々しく笑みを浮かべた。
 ふわりと蕾が綻ぶような笑顔は形を潜め、前から白かった肌はもう青白い。
 一ヶ月。
 たった一ヶ月この人と会わなかっただけで、ここまでこの人は変わってしまった(たった一人、で)。

「朽木くん、どうか、しましたか?」
「……なんでも、」

 ない、までは言葉が紡げなかった。
 声も口調も全てが一ヶ月前と同じなのに、一ヶ月前とは明らかに違う。肌の色も、寝たきりという状況も。
 この人の中で、唯一右眼に宿った緑だけが生き生きとして、見えた。

「……どうして、寝たきり?」
「もう、起きあがれない、です。一ヶ月前は、平気だったですけど」

 苦笑を浮かべた顔を直視できず、目を逸らす。

「朽木くん、あの人は、元気ですか?」
「元気だよ。笑ってしまうぐらいに」
「ですか。朽木くんも元気そうで、よかったです」

 あなたは、元気そうには見えないけどね。
 そう心の中で呟いて視線を戻す。
 確か、この人は十五にも満たないのではなかっただろうか。白髪を通り越した銀髪を見ながら思う。

「病気、進行してたんだ」
「病気じゃないですよ」
「どっちも同じ。……あの人に言わなくていいの?」
「言わないでください。あの人、これから大変だと思うです」

 そう言って笑う。以前より弱々しい笑顔。

「朽木くん、あの人を支えてあげてくださいね。よろしくお願いします」
「嫌だ。自分でやれ」
「無茶、言わないで欲しいです」

 もう起きれないんです。
 そう言って、やはり笑う。
 唇を噛んだ。この人を救えない自分がもどかしくて。

「ねえ、朽木くん。輪廻転生ってしってます、か?」

 もしも、生まれ変わることが出来たら。

「私、また朽木くんにあいたいです。あの人にもあいたいです。……普通の子で、いたい、です」

 重い運命を背負って生まれてきたあなたに、今度こそ倖せを。
(銀魂 沖田結核ねた4。) ( No.79 )
日時: 2007/06/22 15:41:09
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「ソーゴ、お散歩行こうヨ。新八も一緒ネ」

神楽ちゃんがそう言って、もうずっと寝たきりの沖田さんを揺り起こした。
沖田さんの大きな瞳はぱっちりと開いていたけれど、どこか生気が抜けてて、おきながら夢を見てるかのようにも見える。
それでも神楽ちゃんが身体を揺さぶりつづけるとやっと反応して、
どこか寝惚けたような声で「なんだ、チャイナかィ」とうわごとのように呟いた。
神楽ちゃんはやっぱり気分を害したみたいで、
「なんだって何アルカ!?折角私が誘ってやったのにその言い方!相手に対して失礼ヨ!!」
なんて捲し立てる。けれど半分ほどは聞き流されていて、仕舞いには「うるせーなァ」なんてうざったそうに手で払われる始末。
その態度にどんどん神楽ちゃんは怒りに顔を紅潮させていって、「もういいアル!」と、ばたばた部屋を出て行ってしまった。
沖田さんは出て行った神楽ちゃんのほうを見ようともせずに、ずうっと外に目を向けたまま。

「……沖田さん」

声をかける。僕の声には気付いたようだったけれども、もう声を出すことも面倒くさそうだった。
沖田さんは、結核っていう不治の病にかかっていて、銀さんが土方さんに頼まれて預かることになったのだ。
風の噂で聴いたけれど。土方さんは今北のほうで戦っていて、近藤さんは、
――――斬首されたと云う。
姉上は素知らぬ顔で、清清したわ、なんていってたけど、その夜静かに涙を流していたことを僕は知っている。
もしかしたら姉上も、近藤さんを少しだけ愛していたかもしれない。
 とにかく沖田さんは、万事屋じゃ狭すぎるため僕の家で療養していた。
ここなら真選組の一番隊長沖田総悟がいるなんてばれることもないだろうし、部屋なんて有り余っているから。

それで今日、神楽ちゃんが、「ソーゴを外に出してやろうヨ」なんて言い出した。
僕は最初反対したけど、「誰にも見つからないとっておきの場所がアルネ」なんて言う神楽ちゃんに色々丸め込まれて、今。
予想通りすぎる反応で、苦笑する。
でも僕もほんとは沖田さんに少しでも元気になってもらいたいし、ちょっと協力してやろう。

「沖田さん、本当に行きません?
 神楽ちゃんが、いい所見つけたらしいんですよ。
 辛くなったら僕が担いでいきますし、行きましょうって」
「………お前が俺をおぶるなんて無理あるぜィ」

は、と小さく笑う声が聴こえた。言葉だけは普段と同じ調子だ。

「……神楽ちゃん、楽しみにしてたんです。沖田さんと出かけるの。元気になってもらうんだ、って昨日からずーっと、満面の笑顔で……
 だるいのはわかってるんですけど……」

なかなか相槌が来ないことに段々自信がなくなってきて、最後の辺りはもごもごと声が小さくなってしまう。
ああ、これが僕のだめなところ。なんて溜息を吐こうとしたところに、

「ったく」

と、声が聴こえた。
(え?)と思って、伏せていた目を開けると、いつの間にか沖田さんは起き上がって、
こっちを向いて笑っていた。

「仕方ねーガキ共だぜィ。
 ――今日は天気もいいし、付き合ってやりまさァ」

溜息交じりに、でもどこか楽しそうに、
彼は応えたのだった。




>>74のつづき)
この瞬間の記憶だけで、あと何年でも生きていける気がした ( No.81 )
日時: 2007/06/23 23:10:45
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 どうしたの、と。
 そう声を掛けられたのはとてもとても大切だった親友に、実は裏切られていたと知った後で。
 もうどうすればいいか解らなくて、生徒が滅多に来ない屋上のペントハウスの裏側で、一人膝を抱えていた時だった。
 涙でぐちゃぐちゃな顔を上げる気にもならず、膝に押しつけたまま、なんでもないです、と言葉を返した。
 自分のくぐもった声が、耳に届いた。

「なんでもなくない」
「なんでも、ないんです。私が馬鹿、だっただけ」

 そう、私が馬鹿だったんだ。疑いもせず、信じ切っていた。あの娘を。
 私に向けられた明るい笑顔を。心配そうな顔を。怒ってくれる顔、を。

『アイツ騙すのって簡単だよー。心配したりとか、そう言うので充分。馬鹿だよね、悪い噂流してるの、あたしだって知らないで』

 先程聞いてしまった彼女の言葉が蘇る。リフレインする。
 友達だと、親友だと思っていたのは私だけだったんだと知って。でも最初に湧き上がった感情は自分への失望感。
 友達すらも満足に作れないのか、と。そう思ったら泣けてきて。
 思わずここに来てしまった。

「とりあえず、顔はあげなよ」

 言われるが、私は顔を上げない。泣き顔は見られたくない。
 けれど、そんな私の抵抗は意味をなさなかった。
 肩に手が添えられて、ぐい、と後ろに押される。背中がペントハウスの壁にくっついて、顔が正面に。
 黒曜石のように黒い綺麗な瞳へ、一番最初に目が行った。
 綺麗な男の人、だった。

「……小鳥遊、神流?」

 ああ、この人も私の噂を聞いて居るんだ。
 私が不良で、遊び人で、運動も勉強も駄目な、どうしようもない落ち零れだって。
 本当は、髪も瞳もちょっとした遺伝で茶色いだけで、遊んでないし不良してもいないのに。

「本当に茶色い瞳なんだ」

 けれど黒い瞳が綺麗なその人は、そう言って微笑んで。
 くしゃり、とくせっ毛の私の髪を撫でた。

「綺麗だな。自前?」
「……遺伝、です」
「そう。じゃあ先祖に外国人が居たんだ」

 にこり、と笑って。その笑顔の綺麗さに思わず見とれてしまって。
 うん泣きやんだな、じゃあ行くよ、と。
 そう言って去っていく彼の後ろ姿を呆然と見送ってしまった。

『綺麗だな』

 今度は彼の言葉がリフレインする。頭を占める。
 ああ。





(この瞬間の記憶だけで、あと何年でも生きていける気がした)

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お題提供サイト「capriccio」 長文五題
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