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短筆部文集 1冊目 (へたれ部長と神部員がお送りします。)
日時: 2007/06/22 15:26:28
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

短筆部文集記念すべき1冊目。100話になるまで書き続けるよ。
連載も突発もオッケーな自由度高い企画なんだけど、一応ルールは守ってもらわないと。
じゃあとりあえずここでのルール、ね!(箇条書きで)

・参加できるのは短筆部部員のみ。書きたいよ! って子は、まず入部届け(笑)を出してください。
・台本書き(情景を書いていない文章)禁止。
・文章は文字数がオーバーしない範囲……ですが、あとから編集して付け足すこともオッケー。
・リクを貰ったり募集したりするのも可。ばんばんしちゃってくださいな。
・ギャル文字などは厳禁。誰でも読める文を書いてね。
・一次創作・二次創作どちらでも。ただ、(ないと思うけど)年齢制限のかかるようなものは書かないこと。
・リレー小説のキャラ、自分のオリキャラを出すのは一向に構いません。でも、他の方のキャラを借りるときはちゃんと許可を貰ってからにしてね!


入部届け・雑談・リク受付 などはこちらへ。
http://ss.fan-search.com/bbs/honobono/patio.cgi?mode=view&no=9725

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Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.11 )
日時: 2007/01/15 23:23:24
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「お嬢さん、どうしたんだい。お家に帰らないのかい」
狐のような目をした男の人が、森のかたすみに座り込んでいる女の子に言いました。女の子は、小さな声で答えました。
「家を出てきたの。妹と喧嘩して、お母さんに怒られたから、かなしくて」
「それにしては落ち着いているじゃないか」
「そうかしら」
女の子は首を傾げながら続けます。
「わたし、知っているわ。あなたは子供をたべるばけものだって」
「なんでそんなことを?」
お面のような笑顔を顔に浮かべたまま、男の人はやさしい声で問います。
「村の子供たちが噂していたもの。森に迷い込んだ子供をつかまえて食べるって」
「それを知っているならなんできみは森の中に来たんだい」
「だって」
そう言ってから女の子は男の人のまっくろな瞳を見つめました。
「わたしは死にたいから。だったらせめてあなたに食べてもらおうと思ったから」
つたない言葉で、女の子は少し震えた声でつぶやきました。そうかと男の人はうなずき、それから、だけどね、と優しい声で言いました。女の子は顔を上げます。
「ぼくが食べるのは、死にたくない死にたくないといって苦しむこどもなんだ。
 だから、生きたくないと言っているきみを食べることはできないよ」
そう言うと女の子はかなしそうに笑いました。それから、ふっきれたようによいしょっと立ち上がります。
「帰るわ」
「あれ、家をでてきたんじゃなかったのかい?」
「もともと悪かったのはわたしなの。わたしが謝れば、またなかよくできるもの」
「死にたくなくなったらまたおいで」
男の人がわらいながら言うと、女の子は振り向いて笑いました。うしろの空は、お月さまがのぼりはじめたところでした。

「死にたくなくなったら、こんなところには来ないわ。
 だってあなた、死にたくない子供をたべるんですもの」

女の子はそのまま一度もふりかえらずに、スキップをしながら帰っていきました。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.12 )
日時: 2007/01/16 00:46:50
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 空は快晴。素晴らしいピクニック日和だ。
 ただ、目の前では何回目になるか解らない弁当大戦が勃発している。それも、同じ顔で。
「……兄さん、いい加減渡したらどうです?」
「こう言うときだけ兄と言うのは止めろと言ったはずだが。……譲る気はない」
「僕もですよ」
 やはり双子の嗜好は似るのだろうか。思考だけでなく。先程から一つのおかずを取り合っている。
 前にもこんなコトがあったなぁ、と溜息を吐きつつさなえは蒼く澄み渡った空を見上げる。確かあの時も空の見える場所にいた。
 架奈にとっては初めての「学校」。鈴音にしてみれば初めての「兄弟と過ごす学舎」。その屋上。
 学校に通う最終日にこうやって屋上に集まり、弁当を一緒に食べた。
 その際争われたのは一つのコロッケ。
 今回はどうやらハンバーグらしい。
「……二人とも、お弁当はちゃんと静かに食べないと駄目だぞ〜」
「所長の言うとおりです。さもないと……」
 その言葉と共に取り出されたのは――――ハリセン。
 途端に口を閉じる二人。ついでに言えば、亮はしっかりと自分の頭を庇うようにしている。
 いつも被害に遭っている所為で条件反射として身に付いてしまったらしい。
「それではほどほどの静かで食べてください。……中身はまだありますから」
 そう言って弁当――重箱なのは人数的に、だろう――を差し出す。
 長閑な雰囲気だ。これで周りが草原だったりしたら最高だろう。
 しかしこのピクニックは、あくまで仕事の一環だったりする。
 弁当箱の中身が空になった頃、亮は立ち上がって宣言する。

「そんじゃま、食後の運動と行きますか」

 鬼鈴亮怪奇事務所(きりんりょうかいきじむしょ)は、今日も何処かで働いています。
応接室の会話(、ふたりの微妙な距離) ( No.13 )
日時: 2007/01/16 22:51:40
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「ねえ、」
と、赤い髪の少女は黒い髪の少年を呼んだ。少年は目線を本の活字に向けたまま、「なに」と無愛想に返事をする。
「あんたは、私が死んだら泣いてくれる?」
唐突な質問に、少年の表情がぴくりと動く。それはほんの微かな機微だったため、窓の外を見つめている少女――夕玖が気づくことはない。
「なに、いきなり」
溜息交じりに少年が訊くと、少女は朗らかに笑いながら「べっつにい」と軽く答える。
「でも、きっとあんたは泣かないね。そのまま、戻るべき日常に戻っていくんだ」
「…………ドラマかなにかに影響されてる? 今日の君、すっごく気持ち悪いんだけど」
「被告人は質問にだけ答えるように」
図星だったのか、夕玖は少し慌てたように言葉を重ねた。
少年は大きく息を吐いて、本をぱたんと閉じた。夕玖はそれに気付いて少しだけ振り返る。
「――泣かないこともないかもしれない」
無感情に、腰に手を当てながら少年は質問に答えてみせた。夕玖は、「えっ!?」と驚いたように目を見開く。
それに、「なにその顔」と眉間に皺を寄せて答える。
「……意外だけど。でも、泣いてくれるって言ってくれただけで嬉しいや」

そういって、少女は全ての影を吹き飛ばすように笑ってみせた。
それを少年は眩しそうに目を細めて見つめてから、ソファに掛けてあった学ランを羽織る。

「――次の仕事。山中の連中が最近ここら辺で群れてなんかやってるらしい」
「……マジスか委員長。っつーか、あんたもう不良だから。」

少女はそこまで言って、武器を構えた少年の眼光によって口を噤むのだった。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.14 )
日時: 2007/01/17 00:24:53
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 白い清潔な空間。空気中には消毒液の匂いが漂っている。開いた窓から入ってきた風が、カーテンを揺らした。
 そこは保健室だった。
「…………んぅ」
 盛り上がり、人が居ると一目でわかるベッドからくぐもった声が漏れた。
 恐らく布団を被っている所為でくぐもった声になったのだろう。
 そんなベッドに近づく影一つ。この保健室の主とも言うべき保険医、シャマルである。
「おい、ウィッチーズ。一限は終わったぞ」
「……にゅぅ。昨日は貫徹だったんだよぉ」
 ベッドからもぞり、と出てきたのは、眼鏡を掛けた眠たそうな少女一人。
 いつも三つ編みに編まれている長い黒髪は、今は解かれて彼女の周りに散らばっている。
「保健室は仮眠所じゃねーぞ」
「ヤローじゃないからいいでしょ」
「お前等は別」
 シャマルの言葉に口を尖らせつつ、身体を起こしベッドの淵に腰掛けた。それに伴いずれる布団。
 ずれた布団の下には、少女と同じ顔をしたもう一人の少女がいた。
 少女はくあぁ、と欠伸をしてから眼を擦る。まるで猫が顔を洗っているような仕草だ。
「で、なんで夜更かししてたんだ?」
 首を傾げて問えば、思いっきり顔を顰められる。
「別に。ちょっとした頭脳ゲームを」
「ほぅ」
「……頭の中で、オセロをやってただけ」
 まだ寝ていたはずの少女が上半身を起こしつつ、眠気の混じった声で真相を告げてくれた。
 呆れてものも言えずただ黙るシャマル。
 ふあぁ、と欠伸をしてベッドの淵に腰掛け、先に起きていた少女の黒髪に手を伸ばし編み始める。
「そろそろ行く?」
「うん……行く」
 編まれながら聞けば、編みながら肯定を返される。
 とりあえず、両方の髪が編み上がるまで少女達はここにいるつもりらしい。
 溜息を吐きながら窓の桟に腕をかけ、シャマルは開いた窓から空を見上げた。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.15 )
日時: 2007/01/17 20:05:28
名前: そら
参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/

「持っていたものが消えるなんてありえると思う?」
彼がまともに私に話し掛けたのは、この言葉が初めてだった。なんとなく戸惑った。
私が何も言わないと、彼は気にせず続きを口にした。
「消えたりなんかしない、ただ置いた場所を忘れてしまっただけで……俺はそう思うから」
そして地面を見つめ、彼は言う。
「ごめん」
どうして謝るの。私は訊ねる。彼はもう、何も言わない。

今でもときどき、あの日のことを思い出す。
忘れてしまえば……それは消えるのと同じなのに、どうして彼はあんなことを言ったのだろう。
ただ苦しさを、紛らすためだったのかもしれない。
それでも私は小さく願う。

彼は私を置いた場所を忘れているだけで、いつか彼が迎えにきてくれることを。
私は消えていないのだと。


シトシトと雨が降らせ、曇った空が冷たく笑う。
誰もいない小道に、捨てられた人形を。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.16 )
日時: 2007/03/04 17:44:47
名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/

「・・・居たか?」
静かな、でも獣の声が響く夜の森の中、不釣合いな幼い、少女の声がする。
「いや、もうこのあたりにゃ居ねえな。」
さっきの質問へ応える者もいる。恐らく、今この森の中にいる人間は、この二人と彼等が追うものしかいないだろう。
「・・・。仕方ないな。」
ちょっとためらう様な間が空き、その後に少女の声がする。同時に、夜の空に人影が舞った。月明かりに照らされ、影の姿が顕になる。浴衣に袴――武士のような格好をしている。影は長い黄緑の髪をもっていた。そして、その顔は狐の面によって隠されていることも見える。もし近くに人がいたならば、同時に微かな鈴の音も聞こえただろう。
「!居たぞ。」
声は、さっきの少女のものだ。顔も見えないので判断は出来ないが、最初に聞こえた声の主だろう。
「おー、どこら辺だった?」
もう一人のその問いに答える前に、着地する。
「フン、一応考えてるみたいだ。森の端辺りに居る。もうそろそろ抜けるだろう。」
あざ笑うかのような言い方。
「よし、ここからは俺がやろう。」
「あ、ちょっとテメェ待て!オレの功績横取りする気か!」
焦りはあまり見られず、ただ怒っている声音だ。
「まあまあ、でも二人でやんのは格好悪いでしょ。」
「・・・もういい、好きにしろ。」
「そう怒るな。、次回の活躍も期待してますぜ、天狐サン♪」
「・・・。お前が言うと嫌味にしか聞こえないんだよ、天狗が。」
「お褒め頂き光栄です、ってか。」


毎晩のように、その闇に似合わない、それなのにどこか闇と交じり合うような明るすぎず、暗すぎない会話は繰り返されていた。
しかし、それはもう一年前までの事。そして、”天狗”の正体を知る人はいるが、誰も”天狐”の正体は知らなかった。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.17 )
日時: 2007/01/17 22:56:50
名前:
参照: http://yaplog.jp/yami-tuki/

 二月十四日、水曜日。今日の日記。
「んーと……」
 今日はとても風の強い日でした。
 朝から強風で、学校に行くのも一苦労です。
 一時間目の学活では、クラスの中心人物である望月くんと担任の
羽山先生が正面衝突してしまい、それだけで時間が過ぎてしましました。
 最終的には望月くんが勝ったけど。
 ……羽山先生、今0勝何敗だろう。
 いつもくだらないことで喧嘩してしまう二人だけど、次の時間には
もう仲直りしてて、そういう関係はいいなって思う。
「それからー……」
 昼休みはランチタイムです。
 普段なら給食が出るんだけど、今日はお弁当の日でした。
 そして、私は気付いたのです。お弁当がないことに。
 これは周りの優しいお友達が救いの手を差し伸べてくれて助かりました。
 好き嫌いの多い私の好みを皆ちゃんと把握しているようで、
好きなのばかり与えてくれます。……餌付けではないよ。
「帰りはー……」
 放課後は幼馴染のハルちゃんとユウくんと一緒に帰りました。
 三人で帰るのはいつものことです。
 ただ、今日はちょっとしたイベントが待ち構えていたのです。
 はい、とハルちゃんがわたしにピンク色の紙で綺麗にラッピングされた箱をくれました。
 わたしは暫く頭の上にクエスチョンマークを浮かべていましたが、
はっと思いついたように顔を光らせました。
 二月十四日と言えばバレンタインデー。
 女のわたしが貰うのも何だったけど……とりあえず貰える物は貰っておく主義です。
 でも貰ってばかりでは申し訳ないので当然わたしも明日あげると言いつつお別れしました。
 ずっと、こんな平凡で平和な日常が続くと思っていたのです。

 ハルちゃんが死んだと知らされたのは、この日記を書いた六年後のことでした。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.18 )
日時: 2007/01/18 21:13:10
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「骸さーん、もうとっくに授業始まってますぜ」
夕玖は軽い声で、壁によっかかり座っている黒髪の男に呟いた。
男は日向にいながらも、闇の象徴のように妖しい笑みを浮かべる。
「だったら君だけ教室に行けばいいんじゃないですか?」
「………それは私に死ねということですか。今の時間、数学ですよ」
屋上の貯水タンクに凭れ掛かって、下にいる男に告げる。
夕玖が取り返しのつかないくらい破壊的に勉強が出来ないことを知ってか知らずか、この男は授業に出ろという。
「どーせもういいんですよ、成績なんて」
「いざとなったら教師を脅して単位を取ればいいですからね」
「……そんな恐ろしい手段使ってるの貴方だけだと思います。っていうか無理だから」
はあ、と夕玖は溜息を吐く。夕玖は物心ついてから主人を転々と変えていたが、こんなに手のかかる主人は初めてだ。
まあ手がかかるのが面白くないといえば嘘になるのだけれども。
「仕方ないな、サボりますか」
「元々サボる気満々だったんじゃないんですか?」
にやっと嫌な笑みを浮かべながら、深海のように暗い瞳で男は上部分にいる夕玖を見上げた。
「………ま、そうですね」
それに夕玖は曖昧な笑みで答える。燦々と降り注ぐ光の雨が眩しい。
夕玖は、太陽に手を翳す。手が、真っ黒に染まった。指の合間から光が漏れる。
そのまま、夕玖は太陽を掴むかのような動作をした。


(屋上のひなたにいながら夕玖は、転校することをいつ伝えればいいか途方に暮れていた。)

Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.19 )
日時: 2007/01/18 22:26:08
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

「あなたは光」
 少女が口を開いた。
「あたしは闇」
 とても空虚な声だった。およそ感情というものが感じ取れない。まだ、棒読みの方がマシだった。
 少女は闇に閉じ込められていた。
 彼女の前には大きな鏡。
 光無き闇では何も映さないはずのその鏡は、明るい景色を映していた。
 そこには、感情に溢れた彼女の姿。
「あたしが闇にいるときはあなたが光に。あたしが光にいるときはあなたが闇に。……あたしとあなたは、鏡」
 つぅ、と少女の繊手の先が鏡の表面を撫でる。ひんやりとした感覚に、少女は口元を吊り上げてみた。
 鏡に映った彼女と同じ笑顔を作ろうと試みたのか、だがそれが与える印象は全く別のものだった。
 鏡の彼女の笑顔は明るい太陽のような暖かさを持つ笑顔。対して、少女の笑顔は怖気を催すような冷たさを秘めた笑顔。
 全く同じ笑顔で正反対の印象を与えるその少女は、ふい、と顔を鏡から逸らした。
「あと、もう少し」
 逸らした先には仄かな光。闇に溶けてしまいそうな微かな青白い光が存在していた。
 その光の元は、白い石。その石から光が溶け出るようにして発せられている。
「もう少しで、あたしはここから出られる」
 それは、鏡の彼女が闇に放り込まれることを意味する。
「もう少しで、あたしはあなたになれる」
 少女はもう一度視線を鏡に戻す。些細なことで一喜一憂する彼女を見て、鏡に触れる。
「あなたが鏡に気付いたとき、あなたがあたしに気付いたとき」
 口端が面白そうに吊り上がる。けれどそれは空虚な笑み。
「あなたはここに囚われる」
 愛おしそうな目で鏡の彼女を見つめる。鏡の彼女のいる景色を。
「あたしはここから解かれる」
 笑みに漸く嬉しいという感情が表れだした。
「もう少し、もう少し…………」
 少女は鏡に擦り寄りながら呟いていた。
Re: 短筆 1 (握った手、いつまでも離さないでいて) ( No.20 )
日時: 2007/01/18 22:35:19
名前: 葉羅◆IhgxfDc5iWI
参照: http://id37.fm-p.jp/38/myframe/

「・・・・。」
明かり一つ灯らない真っ暗闇な一室。声はしないが、生き物が居る事の証明・・息遣いが聞こえてくる。
「・・・な・・んで・・・」
生き物は呟く。それは、言葉になっていた。―――−生き物は、人間だ。男の。
「なんで・・・俺じゃぁないんだ・・。なんで、・・なんで・・・」
今にも消え入りそうな声で、再び呟く。
それの意味する事は、誰も知らない。そう、彼以外は。
「なんで俺じゃないんだ、なんでお前なんだ・・・!!」
その部屋に来てから、はじめて悲痛な叫びを上げる。いや、きっと彼が生まれてはじめて上げた種類の叫び声だろう。
「絶対に・・絶対に殺ってやる、絶対にアイツだけは許さねぇ!」
悲痛な叫び声が、決意と憎しみに満ちた叫び声に変わると共に、彼の姿はその部屋から消えた。

今度こそ、その部屋に闇と静寂が訪れる。誰も居ない、静寂が―――

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