Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.109 ) |
- 日時: 2014/07/11 01:22:06
- 名前: 孝(たか)
- 「私を無視して、勝手に盛り上がるんじゃない!!!」
バチンッ!!!
すずか「あうっ!?」
けたたましい音がなると同時に、すずかがソファーから倒れ落ちる。
すずか「い、たい・・・」
両手両足が拘束されたまま倒れたのだ。受け身などとる事も出来ない。 身じろぎ、男に視線を向けると、すずかの右頬が赤く腫れていた。
「「すずか!?」」 「はぁ・・・はぁ・・・この私を無視するとはいい度胸だ・・・な!」
ドガッ!
すずか「あぐっ・・・ゲホッ!エホッ!」
イラツキのままにすずかの腹を蹴る男。眼は血走り、酷く興奮している。
「もういい。貴様を餌にあの小娘をおびき出そうと思ったが・・・生かしておく必要もない!」
そう言って、男はすずかに拳銃を向ける。
ドックンッ!!
ゾクッ!!!!
「!?・・・な、なんだ・・・この、心臓を握りつぶされそうな感覚は・・・」
男は悪寒を感じ、胸を抑えながら視線をすずかから逸らす。
氷牙「すずかに・・・何をしたの・・・?」ドックン!!
眼を見開き、感情の無い表情と瞳で男を見る氷牙。 そして、身体の奥底から何かが飛び出してきそうな感覚に襲われる。
「な、なんだ・・・?」 氷牙「すずかの頬が・・・腫れてるよ?・・・すずかが、苦しんでるよ?・・・今、すずかに、何を向けてるの?」
一言、一言、区切って尋ねる氷牙。
ドクン・・・ドクン・・・!!
男は思う。何か分からないが、この子供が危険な物だと!
「こ、殺せ!あのガキどもを今すぐ!?」
そう言って、自動人形に抹殺命令を出す男。
「「リョウカイシマシタ・・・ターゲット・・・抹サツ、シマス」」
命令を遂行するために、2体の自動人形が氷牙に飛びかかる。
すずかに・・・ ドクン!
何をしたのって・・・ ドクン!!
聞いてるんだぁぁぁぁあ!! ブチッ!!
ドンッ!!!という何かが膨れ上がる様な気配と共に、氷牙の身体から魔力が溢れ出る。
その余波だけで、跳びかかってきた自動人形は壁際まで吹き飛び、両腕が砕け散る。
更には別の扉の前に居た誘拐犯の1人も突然巻き起こった風に驚いて後頭部を強かに扉にぶつけ、意図も容易く意識を失った。
「なっ!?な、何をした!?何をしたんだクソガキ!?」 氷牙「すずかを、解放して。」
だが、氷牙は男の言葉など聞く耳持たず、すずかを解放するように要求するだけだった。
「く、来るな!それ以上近づけば、コイツの命はないぞ!!」
言って、再びすずかに銃口を向ける男に、氷牙は仕方なく足をとめた。
「よ、よぉし・・・そのまま動くなよ・・・ヤレ!!」 「「任ム・・・リョウカイ」」
残った3体の内、2体が駆けだして氷牙に迫る。
そして・・・ドシュゥッ!!!!!
自動人形が両手に展開したブレードを・・・氷牙の両胸と両足を貫通させた。
「「氷牙(くん)!!!!???」」
立ったままドクドクと血を流す氷牙を目の辺りにしたアリサとすずかは、泣きながら氷牙の名を叫ぶ。
ズブリ・・・ブシュウウウウウウウウッ!!!
ゆっくりと自動人形達はブレードを引き抜くと、氷牙から大量の血が噴き出し、前のめりに倒れる。 そのまま、自動人形たちはブレードに付いた血を振り払う。
ビッ・・・ピチャリ・・・
振り払われた血が、アリサとすずかの頬に掛る。
アリサ「・・・・・・ぁ」
カタカタと震えながら頬についたものを指の先で拭うアリサ。 そこにあったものは・・・間違いなく、たった今氷牙から失われていくものと同じ・・・赤い血だった。
アリサ「い、いや・・・イヤアアアアアアアアアアア!!!!」 すずか「氷牙くん!?やだ・・・死んじゃだめ!イヤアアアアアアアアア!!!!」
それを認識すると、2人は現実に引き戻され、血を流す氷牙に目を奪われるのだった。
「ひ、ひひひ・・・わ、私の邪魔をする者は全て殺す!お前達!その小娘も邪魔だ!始末しろ!」 「「・・・ターゲット、確ニン、始末シマス」」
2体の自動人形は先程とは違い、ゆっくりと恐怖を煽る様に近づき、ブレードをアリサの首筋に添える。
アリサ「・・・助けて・・・誰か、氷牙を・・・たすけてよぉ・・・!」
これから自分の命が散らされるかもしれないと言うのに、氷牙を助けてくれと泣きじゃくるアリサ。
「「始末シマス」」
ブレードを振り上げ、今まさにアリサの首を狩ろうとブレードを振り降ろす瞬間、自動人形はピタリと動作を止める。
グイグイと腕を引こうとするが、振りかぶったまま動かない腕に視線を向ける。 そこで自動人形が見た物は・・・
血を流しながらも2本の足でしっかり立ち、ガッチリとブレードを掴む氷牙の姿だった。
グググ・・・バギンッ!!!
そのまま力を込めると、ブレードを握り潰す。 自動人形たちは使い物にならなくなったブレードを捨てると、残ったブレードを氷牙に振り下ろす。だが・・・
グシャッ!!!!
「「ブレード、破ソン。腹部、カカカ、貫通。メインモーター、損傷。ドドド、動作、フフフ、不可ノウ・・・テ、停止、シマ・・・ピーーーー」」
氷牙の両手が自動人形の腹部を完全に貫通していたのである。 その時、動力であるメインモーターが損傷し、行動不能段階にまで陥り、動作を停止させた。
氷牙「アリサ・・・ナカセタ。オマエタチ・・・ユルサ、ナイ!!!」
ボンッ!!!
氷牙が両腕に力を込めると、貫かれた腹部を中心に自動人形がバラバラに粉砕された。
アリサ「氷、牙?アンタ・・・」
未だ涙が止まらずにポロポロと流れるが、氷牙の様子がおかしい事に気付く。
氷牙「ユル、サ、ナイ・・・トモダチ、ナカセタ・・・ユル、サナイ・・・」 「な、何故あの傷で動ける!?い、いけ!トドメをさせ!!」
男は残った最後の1体に氷牙にトドメを指すように指示する。
「リョウカイシマ・・・」
ガシッ!!!
しかし、自動人形が動作を開始する前に、いつの間にか接近していた氷牙が顔面を鷲掴みにする。
グシャリ!!!!
そのまま何事も無かったかのように頭部を握り潰すと、両手を肩に添える。
氷牙「グルルルルルルル・・・グガアアアアアアアアアア!!!!!」
ブチ・・・ギチギチ・・・メキメキ・・・バガアアアアアッ!!
まるで野獣の様な雄叫びを挙げながら自動人形を左右に引き千切るのだった。
氷牙「グルアァァァァ・・・」 「ヒ、ヒィィィィッ!?ば、化け物・・・」
氷牙を化け物と言いながら腰を抜かし、鼻水と涙を流しながら後ずさる男。
氷牙「グルゥゥゥゥゥ・・・ユル、サ、ナイ。友、ダチ・・・イジメ、タ・・・ユル、サナイ。」
ほんの少しだけ理性が残っているのだろうか?うわ言のように許さないと呟きながら、うめき声と共にその男へ一歩ずつ恐怖を煽る様に近づく氷牙。
弘政「いったい、なにが・・・!?バニングスさん!?」 アリサ「弘、政・・・氷牙を、止めて・・・アイツ、剣で刺されて、大怪我してるの・・・このままじゃ・・・アイツが死んじゃう?!」
今もなお、傷口から血を流しながらも男を威嚇している氷牙に目を向けながら、叫ぶアリサ。
なのは「すずかちゃん!?どうしたの?!こんなにほっぺが腫れて・・・」
男とすずかの距離が離れていて、倒れているすずかに近寄って救出するなのはとユーノ。 痛々しそうに腫れた頬を見て、表情が歪む。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.110 ) |
- 日時: 2014/07/13 03:45:57
- 名前: 孝(たか)
- 氷牙「ガハアァァァ〜・・・」
まるで息吹きの様な呼吸をする氷牙。 その姿は、普段の氷牙とは全く違っていた。
瞳は蒼一色へと変化し・・・
歯は人のものとは思えない様な鋭い牙となり・・・
両腕も獣の様な鋭い爪へと変貌し・・・
人形を破壊した時の爆発によって解けた髪が、まるで別の生き物のようにざわざわと靡いている。
『ぐ・・・ぬぅ・・・み、皆さま・・・』 士郎「ガングニール君!いったい、氷牙君の身になにがあったんだい!?これじゃぁ、まるで野獣の様だ!」
士郎は暴走した氷牙を一目見て野獣と評してしまう程、変わり果ててしまった事に動揺を隠せない。
『あ、あの下衆が・・・すずか殿に、暴行を・・・ご友人を傷付けられた氷牙様は・・・か、感情を抑えられず・・・最後のひと押しは、そこに転がって、いる戦闘、人形に襲われ・・・意識を保てず・・・暴走を・・・』
普段のガングニールからは考えられない、苦しむ声に一同は困惑を顕わにする。
『い、今は・・・私が氷牙様の内側から、お、抑えて、居るの、ですが・・・ご友人を傷付け、た者に対して・・・憎しみの感情を・・・このまま、では・・・氷牙、様は・・・二度と、元の状態には・・・』
恭也「それはつまり・・・暴徒と化したまま暴れ続けると言う事か!?」
ガングニールの説明に、とんでもない事態になっている事を理解させられる。
博吉「何か方法はないのか!?」 『氷、牙様の・・・意識を、完全に断たせれば・・・なんとか、してみせ、ます!』
それはつまり・・・自分達に氷牙を殴り飛ばせと言うのだろうか。
ユーノ「それってつまり・・・全力全開、手加減なしで、氷牙さんを、気絶させる・・・って事ですか?」
ユーノは戸惑いながらも今の状況を吟味して聞き返す。
『そ、そうで、す・・・今の、氷牙様、は・・・並、大抵の、事では・・・動じ、ません。ぜ・・・全力で・・・最速、最短、で、仕留める、勢い、で・・・お、お早く!!!』
ブツリ・・・と、ガングニールからの伝言が途切れる。既に、会話する余裕すら無い様だ。
氷牙「ガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
身体を仰け反らせ、雄叫びを挙げると同時に、獣のように男に跳びかかる氷牙。
氷牙「ガウ!!!!!」
熊手状にした左腕を引き裂くように振り下ろす。
「ぐべッ!?」
この男も月村・・・夜の一族である為それなりに頑丈な肉体を持っている。
故に、普通の人間ならば今の氷牙の一撃を受ければ一瞬でミンチになっていただろう。
だが、それならば痛みは一瞬で死にいたる事ができただろうが・・・夜の一族としての頑丈な肉体が、気絶する事がない程度の一撃となり、男は激痛に呻く。
「ご、が・・・げほっ・・・」
今の一撃ですずかが殴られたのと同じ場所・・・右の顎が砕け、口の中も切ったのか血を吐き出す。
「ばげものべ・・・!?ぐじゃばにぇ!!?」
氷牙に向かって化け物と称し、偶々目の前に用意してあったマシンガンを氷牙に放つ。
ババババババババババババババババババ!!!!!!!
なのは「氷牙君!?」 氷牙「グラアアアアアアッ!!!!!」
なのはの声に反応したのか分からないが・・・突然床を殴りつける。 すると、コンクリートの床が畳み返しの様にめくれあがり、銃弾を全て受け止めてしまった。
「ひゃひぃ!?」
まさかコンクリートを砕いて壁にするとは思いもしなかったのか、男は弾の無くなった事にも気付かずにマシンガンのトリガーを引き続ける。
氷牙「ギガアアアアア!!!!」
ダンッ!!と床を砕く程の勢いを付けて一直線に男に突進する氷牙。
そして・・・ズゴォッ!!!
そのままの勢いで男の腹部に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。 その場所は、先程男がすずかに蹴りを入れた場所とほぼ同じである。
因果応報・・・氷牙は暴走していても友達であるすずかへの仕打ちに対する怒りで男を襲っているのだ。
「ゴガッ!?!?!!ガ・・・オ・・・オ」
ドゴンッ!!という蹴られた勢いのまま壁に衝突。 氷牙の膝と壁に挟まれる形で一度に3回分の衝撃が腹部と背中に直撃したのも同然だった。
「お、オエエエエエエ・・・?!」
あまりの衝撃に、胃の中のものが逆流する。 胃液に混じって血も吐き出す程に・・・。
氷牙「スズカ・・・イジ、メタ・・・!!」
男の首を掴んで持ちあげる・・・そのままミシミシと男の首をへし折ろうと力を込める氷牙。
「が・・・がぁ・・・ぁ・・・?!!??!」
ミシミシと男の首から危険な音が一同の耳に入ってくる。
雅花「いけない!このままだとあの子は人を殺してしまいます!?」 博吉「イカン!?」
氷牙のあまりの暴挙に立ち尽くしていた一同はすぐさま行動に移る。
士郎は右腕を、恭也は左腕を、博吉は背後から裸締めにして止めに入る。
士郎「氷牙君!目を覚ますんだ?!」 恭也「氷牙!こんな奴の為に、お前が手を汚す事なんかないんだ!?」 博吉「ヒー坊!落ち付け!?落ち着くんじゃ!?」
小さな見た目とは思えない力に、3人はなんとか氷牙を押し留めていた。
ドサリ・・・と控えめな音を立てて氷牙に首を絞められていた男は床に落ちる。
なんとか氷牙に人殺しをさせない事に成功するが・・・少しでも力を抜けばまた襲いかからないとも限らない。
その証拠に・・・
氷牙「ガアアアアアアッ!!!アアアアアアアアッ!!!!フウゥゥッ!グガアアアアッ!!!!」
士郎達の拘束から逃れようと暴れ始める氷牙。
士郎「ぐっ・・・なんて力だ・・・!?」 恭也「魔族・・・と言うのはこれ程の力があるのか!?」 博吉「ぐぬぅ・・・流石に老いたか・・・老体には答えるわい!?」
決して逃がしはしないと全力で抑え込む三人。 そこへ、桃色の輪と翡翠色の鎖が氷牙の腕と脚と胴体を拘束する!
なのは「レストリクトロック!」 ユーノ「チェーンバインド!」
なのはの拘束魔法である桃色の光の輪が氷牙の四肢を固定し、ユーノが氷牙の足元に発生させた魔法陣から翡翠色の光の鎖が四肢と胴体に絡みついて抑える事に成功するのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.111 ) |
- 日時: 2014/07/13 04:46:44
- 名前: 孝(たか)
- 氷牙「ガアアアアアアアアッ!!!グルルルルル・・・グガアアアアアアッ!?!」
まるで、離せ!!と叫んでいる様になのは達のバインドを引きちぎろうとするが、2人は更にバインドに魔力を込めて逃れられない様にする。
その度に、大量の魔力を常時消費し続けている状態に陥るため、集中を途切れさせる事が出来ない。
なのは「す、すごい力なの・・・!?」 ユーノ「これじゃぁ・・・後何分・・・いや、何秒持つかもわからない!?」
次第に汗が浮かび、息苦しくなる。しかもユーノはつい先ほど下の階に居る誘拐犯にも設置型のバインドも掛け、少しとはいえすずかの治療にも魔力を使った為、余計に魔力が足りないでいた。
氷牙「グルルルルルルル・・・!!!!!!」
ギチギチ、ミシミシと、なのは達のバインドに罅が入り始める。 暴走して垂れ流しの魔力がまるで内側から押し上げるようにバインドに負荷を掛けて居るのかもしれない。
氷牙「グウゥゥッ!!・・・・ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!ユルサ、ナイ・・・スズカ、イジメル・・・テキ・・・ユル、サ、ナイ!!!!」
既に気絶して倒れている男に対して未だに襲いかかろうと暴れ狂う氷牙。 見ているだけで居た堪れなくなり、子供達は氷牙の叫び声に含まれる悲しみの感情に感化され、涙を流す。
決して氷牙が怖いからではない。
大怪我をして血を流しながらも、自分の為ではなく、他の人の為に理性の殆どを失い、嘆きの感情を撒き散らしながら行動する氷牙に、悲しんでいるのだ。
弘政「・・・!つ、月村さん!?」 アリサ「ちょっすずか!?駄目よ!今の氷牙に近づいたらアンタまで!?」
しかし、其処に怪我を治して貰ったすずかがゆっくりと氷牙に近寄って行く。
それに気付いた弘政とアリサが止めようとするが、決心した様なすずかの表情に思いとどまってしまう。
士郎「いけない!今の氷牙君は判別が出来ていない!?戻るんだ!?」 すずか「大、丈夫です・・・私が、私が行かないと・・・!」
士郎の静止も聞かずに、遂にすずかは氷牙の正面に立つ。
氷牙「グウウウ・・・ガアアアアア!?ユル、サ、ナイ・・・スズカ・・・イジメタ!!!」 すずか「・・・ありがとう。私の為に、怒って、悲しんでくれるんだね。こんなに傷ついてるのに・・・でも、もういいんだよ。大丈夫だから・・・ね?」
そう言って、すずかは氷牙の肩に顎を乗せ、背中に手をまわし、優しく抱きしめる。
氷牙「グル・・・ル?ス、ズ、カ・・・?」
不意に抱きしめられた感触と、トモダチであるすずかの匂いを感じ取り、力が緩む。
すずか「大丈夫。もう大丈夫だから・・・ね?」
ポン、ポンと優しく背中を叩き、まるで泣いている赤ん坊をあやす母親の様に包み込むすずか。
氷牙「スズ、カ・・・アイツ・・・スズカ・・・イジ、メタ」 すずか「もういいの。私は大丈夫だから。ほら、よく見て?」
そう言って、すずかは鋭くなった爪を持つ氷牙の手を取り、自分の頬に当てる。
すずか「ほら、もう怪我はなくなってるから・・・落ち着いて・・・アナタのトモダチのすずかは、大丈夫だから・・・。」
ニコッと優しい笑みを氷牙に向けて、安心してほしいと・・・心配はいらないと分からせるように、すずかは微笑み続ける。
氷牙「す、ず、か・・・よ、か・・・」
ゆっくり、小さくメキメキと言う音が聞こえる。 氷牙の身体が、人としての姿を取り戻していく。
すずかに抱きしめられたまま、遂に元通りの姿に戻った氷牙は・・・力が抜けたのか、ガクリと膝を折って倒れ込み・・・意識を手放すのだった。
なのは「すずかちゃん・・・凄い」 ユーノ「うん。確かに・・・凄い」
アレだけ大暴れし、野獣とも言える状態の氷牙を、母親の如き優しさで抱きしめ、静止して見せたのだ。
とうの本人であるすずかも、流石に脚に力が入らないのか氷牙を抱きしめたまま座り込んでいた。
氷牙「すぅ・・・すぅ・・・」 すずか「ありがとう・・・お疲れ様、氷牙くん。」
心身ともに疲労して眠ってしまった氷牙を労うすずかを見て、一同は漸く一息つく事が出来るのだった。
博吉「うむうむ。結局、子供たちだけに任せる事になっちまったなぁ?」 雅花「良いじゃないですかお爺さん。皆が無事なら、それで・・・ね?」
雅花の言葉に、「違げぇねぇ」と答えがら頭を掻く博吉であった。
恭也「何はともあれ・・・これで一件落着かな?」 士郎「そうだな・・・だが・・・」
士郎の一言でギロリ・・・と、大人たちは視線をある一点に移す。
士郎「何処に行くつもりだい?」
一瞬のうちに先程まで気絶していた筈の男が這っている進行方向にある扉の前に「神速」で先回りして陣取る士郎。
「ひぃ!?」ガッ!
士郎に驚いて、跳び起きて後ずさるが背後には木刀を構えた恭也が立っていた。
恭也「逃がしはしない」チャキ・・・ 「ひああ!?」ドンッ!
恭也に驚き、またも別の方向に駆けだすが、何かにぶつかる男。
博吉「随分とまぁ、舐めた真似してくれたなぁ?」ドドン!
トントンとゲートボールのスティックで肩を叩く博吉が仁王立ちしており・・・
チャキリ・・・
「ひぎっ!?」
また別の方へ逃げだす前に雅花が薙刀を首筋に添えて、いつでも迎撃できるように構える。
東方に雅花、西方には士郎、南方に恭也、北方には博吉。
四方を四人の猛者に囲まれ、如何な夜の一族であろうとも、氷牙によって既にボロボロの下衆男に、抵抗など出来る筈もなかったのだった。
こうして、月村&バニングスの令嬢誘拐事件は、誘拐犯5名と主犯1名を逮捕する事が出来、事件は幕を閉じた・・・かに見えた。
いや、事件そのものは終わっているのだが・・・やはりというかなんというか・・・氷牙はまた、寝込む事になるのだった。
一方その頃・・・丁度士郎達が犯人を懲らしめて居る時・・・。
ヴィータ「・・・ほっ。どうやら、取り越し苦労って奴だったか?ちぇっ。折角来たのによ!」 シグナム「・・・・・・」
廃ビルにある木々に気配を殺しながら身を隠し、サーチャーを飛ばして様子を見ている2人。
ぶつくさ言いながらも博吉達が無事だった事に安堵するヴィータ。
しかし、そんなヴィータを横目にシグナムは思考に耽っている。
ヴィータ「シグナム??」 シグナム「お前も気付いているだろ?あの少年が・・・」 ヴィータ「ああ。ありゃぁ・・・アイツと同じ、魔族だな。」
シグナム達は少年・・・氷牙を見てその正体を看破する。
シグナム「それもあるが・・・あの少年を見ていると・・・こう、胸がざわつくのだ。それに・・・」 ヴィータ「それに、何か忘れてる気がするってか?」
そう、遠目にではあるが、シグナム達は氷牙を見てからもやもやとした何かを感じていたのだ。
それは・・・そう、罪悪感の様なものだった・・・と。
――――?????――――
??「クラスCの次元震が?」 ??「ええ。先日観測されたわ。原因は・・・ジュエルシードと言うロストロギアの暴走・・・。」
??「発生源は・・・ここです。」 ??「第97管理外世界・・・か」
まだ幼さの残る年頃の黒尽くめの少年は、モニターに写る青く美しい星を見て呟く。
そこは、なのは達が暮らす太陽系第三惑星・・・地球。
??「次元震が起こったとなれば、僕達、時空管理局の出番ですね。」 ??「ええ。期待してるわよ?クロノ・ハラオウン執務官」
クロノ「任せてください。艦長。」
クロノ。と呼ばれた執務官なる少年。 時空管理局・・・それは、氷牙と因縁浅からぬ組織である。
邂逅の時は・・・近い。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.112 ) |
- 日時: 2014/07/23 04:05:47
- 名前: 孝(たか)
- ・・・月村邸・・・
氷牙「すぅ・・・すぅ・・・」
暴走して大暴れした氷牙は、怪我の治療も終えて眠り続けていた。 ただ、右手をすずかに握られている状態でだが。
まるで以前のフェイトが氷牙を看病している様をすずかに置き換えて焼き回しをしているかのようだ・・・。
忍「・・・と、言うのが夜の一族よ。」
氷牙がずっとすずかの手を離さないので氷牙の寝ている部屋で、一同に夜の一族の事を聞かせる月村家当主の月村忍。
曰く、夜の一族は人の血を力の源に、いろんな事が出来る。 西ヨーロッパで発祥して、古くから細々と続いている一族。 普通の人より、筋力や敏捷性が優れている事。 ノエルとファリンは、その夜の一族が作り出した、自動人形で、2人はその中でも人間性を求めたエーディリヒ型であること。
自動人形である証に、ロケットパンチも実演して見せた。
そうして今に至る。
『なるほど・・・吸血鬼を先祖としているのかと思いましたが・・・突然変異の類でしょうな。本来ならば、日の下を歩けるのは力ある吸血鬼、真祖などの上位に居る者のみですから、違うと思ったのですが』
正真正銘、魔界で作られ、魔界で過ごしたガングニールも、氷牙と共に様々な魔族や悪魔と直接関わった事がある為、本物の吸血鬼という物がどう言う物か知っている。 そう思い、推測を立てていたのだが、話を聞いているとどうやら吸血鬼の能力を持った突然変異ではないかと。
忍「夜の一族が吸血鬼の大元とか思ってたけど、実際に吸血鬼って存在してたのね・・・」
夜の一族が吸血鬼と信じて疑わなかった?と思っていたが、どうやら本物の吸血鬼も存在している様だ。 恐らく、最初は別々に区別されていたのが、時が経つにつれて統合されてしまったのだろう。
『ええ。かつては暴君と呼ばれていた吸血鬼も居ましたな。今ではある人間との約束で200年程吸血を断っていた為に大分力を失っているようですが・・・』 すずか「え?吸血鬼は血を吸わないと生きていけないんじゃないんですか!?」
まさか本物の吸血鬼が血を吸う必要が無いとは思いもよらなかったのだろう。 すずかは思わず身を乗り出す様に聞き返す。
『どちらかというと、魔界の吸血鬼は生きる為よりも、力を付ける事、力を維持する事、後は趣味趣向という目的であり、必ずしも必要という訳ではないようです。 暴君と呼ばれた彼も、力が衰えたとはいえ、今でも強力な吸血鬼である事に変わりはありません。 特に、彼は”約束”という物を契約と同義としており、たとえどれだけの時間が経過しようと、必ず守る律儀な方でしたな。例え相手が人間であってもそれは変わりません。』
まさかその様な吸血鬼が居たと聞かされて、今まで持っていた吸血鬼のイメージを良い意味で壊されていた。
忍「・・・さて、さっきの話の続きなんだけど。一応聞かせてほしいの。『誓い』を立てるか選んで欲しいの。」
アリサ「誓い・・・ですか?」
いきなり掟とかなんとか言われてもピンとこないアリサが、皆を代表して聞き返す。
忍「さっき言った一族の秘密を『忘れて』過ごすか、知ったまま一族と共に秘密を共有して生きていくか。二つに一つよ。」
忍はそう言うが、なのは達の答えなど、既に決まっている。 答えは1つ「忘れたくない」それだけだ。
なのは「だって、すずかちゃんは私達の大事な友達だもん!忘れるなんて嫌です!」 アリサ「ええ!約束したもの!私達はなにがあっても、ずっと親友でいるって!」
弘政「正直、吸血鬼って言われても、ピンとこないし。どう見ても人間にしか見えないし、友達付き合いを止めるなんてあり得ないですよ」 ユーノ「僕も同じです。なんか地球に来てから色んな事が起き過ぎて、正直そのくらいで驚いてたらこの先やっていけない気がしますし。というかもう、驚けない気がしてきました。」
なのはは絶対に忘れたくないと、アリサは意気込む様に、弘政は気にした風もなく、ユーノはどこか達観したように秘密の共有を選んだのだった。
すずか「皆・・・ありがとう!」
涙ぐみながら、すずかはなのは達に素直な気持ちを伝えるのだった。
それから更に時間が経ち、草木も眠る丑三つ時。
ファリン「すずかちゃん、新しい水と・・・あら?」
寝ている氷牙の汗を拭く為の水とタオルを持ってきたファリンは、すずかが上半身をベッドに預けて眠りこんでいる事に気付いた。
ファリン「・・・あらあら、これは毛布が必要ですね」
起こさない様に小さく呟き、いそいそとすずかに掛ける羽毛のタオルケットを用意するのだった。
――――????――――
すずか「あ、れ?ここ・・・どこだろう?私、さっきまで氷牙くんの看病をして・・・?もしかして・・・夢?」
先程までしていた事を思い出して、これが夢だろうと思いいたるすずか。 自分の周りは何も見えない真っ暗な世界に、夢と断定する。
『ごめんなさい』 すずか「・・・え?」
突然聞こえてきた謝罪の声に、キョロキョロと周りを見渡すすずか。 しかし、やはり何も見えない。
『ごめんなさい』 すずか「また・・・」
もう一度聞こえた為に、気のせいではないと注意深くゆっくりと周りを見回す。 そして、キラリと光る一点を見つけた。
すずか「・・・行ってみよう」
そうして、一歩一歩光の方へと歩を進めるすずか。その瞬間・・・辺りが光に包まれ、あまりの眩しさに目を覆ってしまう。
再び目を開けたすずかが見た物は・・・視界に入る全ての物が氷で覆われた・・・白銀の世界だった。
すずか「きれい・・・」
その一言を呟くので精いっぱいだった。 それほどまでに美しいと言える光景だったのだ。 例え、其処に凍っている物が、建物や、動物、人であろうとも・・・
すずか「どうして、こんな事に?」
『ごめんなさい』
三度、謝罪が聞こえ、声のする方へ視線を向け、足早に行動するすずか。 数分後、遂に声の大元を見つけるに至った。
『ごめんなさい・・・皆。リ・・ガ。父上、母上・・・』
何人かの名前と思える物を呟き、顔を挙げる少年は、涙しながら目の前の氷の塊に手を伸ばす。
そして、すずかは見た。
氷の塊の中に、鎧を着込んだ男性と、天使の様に美しい、しかし黒い翼を持つ女性を・・・
『僕が・・・僕が力を抑えられなかったから・・・僕が、あんな奴らを助けてしまったから』
すずかは少年の背中を見ながら少年の慟哭に聞き入ってしまう。
『許さない・・・奴らを、人間を・・・僕自身を』
バキバキと嫌な音を響かせながら少年は変化する。
頭部から二本の角を生やし・・・腕の爪は鋭くなり・・・腰下辺りからズルリと生える龍の様に太い尾・・・
そして何より目に付くのは・・・漆黒の天使の様な1対の翼と、龍の様なゴツゴツとした1対の翼・・・
2対4枚のあり得ない組み合わせの翼が背中から生えて来たのだ。
『許さない・・・根絶やしにしてやる・・・時空・・局共おおおおおおおおおお!!!!!!!!』
仰け反る様な体勢となって怨みの籠った雄叫びを挙げる少年を見て・・・すずかは、恐怖よりも先に・・・悲しみの感情が沸き出てしまった。
すずか「・・・氷牙、くん」
その少年が、自分を助けてくれた、氷牙という少年であると気付いて・・・
氷牙『うあああああああああああああ!?!!!!』
少年、氷牙の涙を流しながら慟哭の叫びを挙げながら、ある特定の組織に属する人間への怨みを増していく様を見つめながら・・・すずかは、我慢できずに抱きついてしまったのだ。
すずか「駄目だよ・・・氷牙くん。そんな悲しい事、言わないでよ!君は1人じゃないから・・・なのはちゃんも、アリサちゃんも、弘政くんやユーノくんも!フェイトちゃんもアルフさんも、久遠ちゃんも居るから!・・・私が、居るから!だから、もう、泣かないで?皆が!私が支えるから・・・だから・・・!」
すずかが顔を挙げた時、氷牙もまた、すずかを見ていた。
色を失った、絶望した様な瞳をしながら・・・
すずか「氷牙くんを・・・1人に何かしないから」
そう言って、すずかは氷牙の両頬に手を添えると、顔を近づけていった。
その瞬間、すずかの意識は遠のいた。
すずか「う、ん・・・あれ?私・・・」
ぼ〜っとして、漸くいつの間にか寝ていたと気付き、氷牙の方へ視線を向ける。
そこには、未だ目を覚ます様子が無い氷牙が寝息を立てていた。
すずか「あ、あれ・・・?!」
ポッと、氷牙の顔を見つめていると訳も分からず急に顔が熱くなる。 その瞬間、頭の中に何かがフラッシュバックする。
所々に影が入っているが、最後に見た2対4枚の翼と、氷に包まれた白銀の都市だけは、鮮明に見えた。
すずか「夢、でも見てたのかな・・・?」
ふと、氷牙の唇辺りに視線を落とした途端・・・ボンッ!?
すずか「はわわわ・・・私、なんで・・・」
先程見ていた夢の一部を思い出したが、何故氷牙の唇を見て顔を赤くしてしまうのかが全く分からないすずかだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.113 ) |
- 日時: 2014/07/27 04:01:58
- 名前: 孝(たか)
- 結局、何故顔が赤くなったのか分からずじまいだが、なんとか落ち着く事が出来たすずか。
それでも氷牙の手は離れていないのだが、このままでは学校に遅刻してしまう。 仕方なく学校を休もうか?そう思った矢先・・・
氷牙「う・・ん・・・?ここは・・・?」 すずか「氷牙くん!?目が覚めたの?」
目を覚ました氷牙にズズイと顔を寄せるすずか。 先程の赤面状態はどこへやらである。
氷牙「・・・すずか?と、言う事は・・・ここはすずかの家、なのかな?」 すずか「そうだよ。あの時、氷牙くんは大怪我してたから、一番近い私の家に運んだの。痛いところとか無い?」
すずかは簡潔に状況を説明する。 両胸と両脚にブレードが貫通したのだ。普通ならこうやって起きあがる事も、一日で意識が戻る事もほぼあり得ない。
氷牙「痛み・・・?あぁ、まぁこれくらいなら・・・”我は望む、癒しの恵みを。命育む天の光、浄化の力を与えん”メガヒール。」
氷牙が呟くと当時に、身体全体を氷牙の魔力光・・・薄蒼色の魔力が包み込む。
すずか「・・・きれいな、光?」 氷牙「・・・うん。これで良し。」
言って、氷牙はシュルシュルと包帯を解いていく。
すずか「!?傷が・・・無くなってる?」
そう、今唱えたのはヒールの1段階上の回復魔法。昨日までは使えなかった筈の魔法である。
と言っても、古い傷は残ったままだが、昨日負った傷は綺麗サッパリなくなっているのだ。
氷牙「すずか。ガングニールはどこかな?」 すずか「えっと、昨日、氷牙くんを止めるのに無理したみたいで、その・・・苦肉の策でお姉ちゃんに・・・」
暴走する氷牙を無理矢理に止めていた無茶が祟り、マッドサイエンティストな忍に調整を頼むしかなかった。 本当は自己修復でなんとかしたかったのだが、抵抗虚しく、仕方なく、忍を頼る事に。 分解されないか最後まで抵抗していたと言う。
氷牙「そっか・・・案内、してくれる?」 すずか「う、うん。」
とりあえず、昨日来ていた制服は血みどろで洗濯やクリーニングも不可能なので捨てた為、恭也が家まで取りに行って用意されていた私服に着替える。
すずか「(氷牙くんの身体・・・凄かった////)」
着替えてる間、ついつい氷牙の裸を見ていたすずか。 小学生にしては少々筋肉質であるのか、少しだけお腹が割れていたのを思い出してまたもや赤面するすずかだった。
・・・数分後・・・
すずか「この部屋だよ?お姉ちゃん!入るね?」 忍「どうぞ〜」
コンコンと軽くノックしてから許可を取って中に入るすずかと氷牙。
忍「ここをこうして・・・こう、でいいのかしら?」 『はい。これならば、昼ごろまでには修復されるでしょう。感謝しますぞ。忍殿』 忍「いいわよ。私の方も貴重な体験をさせてもらったわ。まさか伝説のオリハルコンを直に触れるなんて思いもよらなかったもの!」
どうやら、ガングニールは彼の伝説の鉱石:オリハルコンによってつくられた特別製のようであった。 どうりで不可思議な事が出来る金属板だと思えば、その謎の1つが特殊金属製であったのだ。
氷牙「ガングニール。」 『氷牙様!?もうお目覚めになられたのですね!』
まだ本調子ではなかったせいか、漸く氷牙の存在に気がついたガングニール。
氷牙「・・・僕のせいで、相当無茶をさせたみたいだね?今は、ゆっくり休むといいよ。」 『氷牙様・・・もしやとは思いますが・・・』
ガングニールは氷牙の雰囲気に昨日までと違う物が混じっていたのに気付き、聞き返す。
氷牙「うん。少しだけど、記憶が戻ったよ。多分、全部じゃないけど・・・武器の使い方も、攻撃魔法も・・・ある程度思い出せたよ。」 『そう、ですか・・・もう、其処まで思い出してしまったのですね。』
ガングニールは氷牙の記憶が戻った事に、嬉しさと悔しさが半々で埋め尽くされる。
氷牙「ガングニール。今日まで、数年間。色々と苦労させたね。僕も、怪我を直したとはいえ、疲労は残ってるからまずは休息を取ろうか?」 『はい。申し訳ありません。このガングニール。氷牙様をお止する事が出来ませんでした。』
昨日の暴走。もしもガングニールが止めていなければ、今頃あの場に居た物は氷牙から漏れだす魔力で氷漬けにされていた可能性がある。
それを抑える為に、魔力を全て無害なものに変換し、更に氷牙の身体に負担がかかる様に調整して無理矢理に氷牙を静止させようとしていたのだ。
よって、今氷牙に残っている疲労は怪我ではなく、その余波と言っていいだろう。
氷牙「気にしないで。僕がもっとしっかりしていれば起きなかった事だからね。今は休息と、ジュエルシードをどうするかについてだよ。」 『は。お心遣い、感謝いたします!』
氷牙「忍。ガングニールを助けてくれて、ありがとう。」 忍「気にしなくていいわよ?さっきもガングニールに言ったけど、私も貴重な体験が出来たからね?」 氷牙「そう?なら、僕に出来る事なら何でも言ってね?今の僕なら、ジュエルシードを使って、簡単な事なら叶えてあげられるから。」
記憶を取り戻した氷牙は、ジュエルシードの制御方法も思い出していた。 難しい願いは無理だが、単純な願い・・・何かが欲しい、どこそこへ行きたい、怪我の治療や物の修理程度なら出来るくらいには。
忍「・・・ええ。そうさせてもらうわ。でも、無茶はしちゃ駄目よ?」 氷牙「・・・うん。気を付けるよ。」
忍は大人として氷牙に無茶はダメだと注意する。 それを聞いて氷牙も素直に聞き分ける。
氷牙「それじゃぁ・・・すずか。もう少し、休ませてもらっても良いかな?」 すずか「うん。勿論だよ!昨日は大変だったからね。ゆっくり休んで?」 氷牙「・・・ありがとう。とても助かるよ。」
そう言って、2人は最初の部屋に戻る。 丁度そこには一緒に泊まっていたなのは達が氷牙の様子を伺いに来て扉の前に立っているのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.114 ) |
- 日時: 2014/09/04 21:15:37
- 名前: 孝(たか)
- 第二十話〜その名は、時空管理局・・・なの。〜
なのは「すずかちゃん!氷牙君!?もう起きて大丈夫なの!?」
アレほどの大怪我で、一晩で起きあがって出歩いている事など、今までなかった事だ。 どんなに早くてもいつもは2日は眠っていた筈なのに。
氷牙「うん。もう大丈夫だよ?アリサの方は、なんともない?」
自分はもう大丈夫といい、すずかと同じく危ない目に会っていたアリサの心配をする氷牙。
アリサ「ええ。私の方は全然大丈夫よ。寧ろ、アンタよ。私は精々拘束されてただけだしね。」
アリサの方も無事の様だ。尤も、性的に迫られた時の恐怖は少し引きづっている様だが、心配を掛けまいと気丈に振る舞っていた。
氷牙「なら、良いけど・・・皆、何か話があるんじゃないかな?」 ユーノ「話って・・・?」 弘政「僕達は氷牙さんが気になってお見舞いに」 氷牙「僕の・・・正体とか。」
弘政の理由を途中で区切る様に、氷牙は苦笑いしながら恐らくこれだと思う物を挙げる。 それに対して、本当に小さくだが反応してしまう子供達。
氷牙「・・・いいよ。話してあげる。僕が、何者なのか。」 なのは「そ、それって・・・氷牙君、記憶・・・戻ったの?」
その一言だけで理解出来た。氷牙が記憶を取り戻した事が、理解できてしまった。
氷牙「・・・うん。全部じゃないけど、色々思い出したよ・・・だけど・・・」 弘政「だけど?」
全てではないが記憶が戻った。そのこと自体は嬉しい事だが、戻ったがゆえの苦悩が出てくる事は今まで考えていなかった氷牙にとって、今回の記憶復活は・・・辛いものであった。
――――来客用寝室――――
氷牙に宛がわれた部屋にて、氷牙はベッドに下半身を入れて腰掛ける状態だ。 一応疲労は残っているのでいつでも眠れるようにするための措置。
氷牙「僕の本当の名前は・・・アンヴィレント。氷牙・アンヴィレント。」 ユーノ「アンヴィレント・・・部族名・・・でいいのかな?」
自分のスクライアと同じ、苗字に当たるものだと思い聞き返すユーノ。
氷牙「そう、だね。一応、皇族だったから、間違いではないと思うよ?」 アリサ「・・・は?アンタ、皇族なの!?」 すずか「王子様なんだ・・・凄いなぁ」
アリサは氷牙が王族という事に純粋に驚き、すずかは少々茫然と呟いている。
氷牙「もう、滅んじゃってるけど・・・ね?そこの、”最後の生き残り”。」
なのは、弘政、ユーノはガングニールから聞いていたので驚いてはいないが、やはり本人の口から最後の・・・と聞くと、胸が痛くなる。
アリサ「最後って・・・じゃぁアンタ・・・」
一人ぼっちじゃない。という言葉は呑み込まれた。それは、言ってはいけない事だと聡明なアリサ達は理解しているから・・・。
氷牙「僕は、”氷竜王”一族の皇族で、一応第一皇子。思い出した限りだと、弟が1人、居たみたいだね。」 すずか「氷牙くん?」
居たみたい。まだ記憶が中途半端にしか思い出せていない為に実感が沸かないがゆえに、そう言ういい方になってしまったのだろうが、何か引っかかりを覚える。
氷牙「父親が居た、母親が居た、弟が居た・・・そこまでは思い出せたけど・・・顔も、名前も、どんな人だったかは、思い出せてないんだ。」
きゅっと、両手でシーツを掴み、悔しそうに答える氷牙。
氷牙「こんな、中途半端に思い出したせいかな?本当の家族なのに・・・他人事にしか思えないんだ・・・!」
他人事・・・自分の本当の家族である筈なのに、顔も名前も思い出せないせいで他人事と思ってしまった事に、悲しみも自分に対する怒りもあるのに、それに対する感情が・・・”薄いのだ”。
すっ・・・と、握りしめていたシーツを離す。ほんの数秒、掴んでいただけのシーツ。 それが、自分の家族を思い出せない事に対する怒りと悲しみの薄さを如実に語っているようだった。
氷牙「そして・・・家族の事よりも、多く思い出した事があるんだ。」 弘政「多く思い出した事?」
大事な、思い出したいはずの記憶よりも、多く蘇った記憶。 それに対する氷牙の表情は、昨日の暴走した氷牙の様な恐ろしい形相だった。
氷牙「・・・”時空管理局”」
ガタンッ!!
それを聞いた時、ユーノは思わず席を立ってしまった。
事情を知らないすずかとアリサはその音に驚いてユーノの方へ視線を向ける。
アリサ「どうしたのよユーノ?」 すずか「時空管理局が何か知ってるの?」 ユーノ「う、うん。よく・・・知ってるよ。でも今は、氷牙さんの話を聞こう。」
時空管理局がどう言う組織か表向きだけしか知らないユーノ。 以前、ガングニールから裏の話を聞いてはいたが、やはりまだそれを信じる事が出来ないでいたのだ。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.115 ) |
- 日時: 2014/11/20 21:11:03
- 名前: 孝(たか)
- 氷牙「・・・ハッキリとした年月は覚えてないけど・・・本来なら、時空管理局はこの時代に存在すらしていない筈だった。」
すずか「本来・・・なら?」
アリサ「どう言う事?」 氷牙「・・・時空管理局は・・・本当ならもっとずっと・・・数百年は先の未来に設立される筈の組織だったんだ。」
数百年。それを聞いて、子供達は何故そんな事が判るのだろうと疑問に思い、頭の上に?を浮かべる。
氷牙「ガングニールの調べでは、当時から数えて凡そ1000年後の未来で消滅する筈だったんだ。」 弘政「消滅・・・!?」
その組織に出会った事は無いが、消滅なんて聞けば驚かない方がおかしい。
氷牙「当時、僕には殆ど・・・今の弘政の様に出涸らしの様な小さな魔力しか扱う事が出来なかった」 弘政「出涸らし」
グサリと言葉の刃が胸を抉った様な感覚に襲われ、項垂れる弘政。しかし、氷牙にもそんな時代があったと言う事にも少なからず驚くなのは達。
氷牙「・・・だけど、ひょんなことから、僕は突然、不思議な力に目覚めた。」 すずか「不思議な力?」 氷牙「どんな力かはまだ思い出せて無いけど・・・多分、何かに・・・恐らく空間に干渉するタイプの力に、ね?」
空間に干渉すると言われても、漠然とし過ぎて想像しにくいのでとりあえず横に置いておく。
氷牙「突然、空に亀裂ができたと思ったら、戦艦の様なものがそこから墜落してきた。それが・・・」 ユーノ「時空管理局の、次元航行艦。ですね?」
そこで、今まで黙って聞いていたユーノが口を開く。ここまで言われれば管理世界の住人であるユーノが真っ先に思い浮かべられるのだろう。
氷牙「そう。それも、所々が破損して修理に大分かかるくらいに大破している状態でね・・・そこから、記憶が飛んでて詳しい経緯は思い出せないけど・・・思い出した部分で続いている記憶には・・・」
そこで、氷牙は一度口を閉じる。そして、怒りにの表情を顕わにする。
氷牙「僕達を、化け物と蔑み、罵倒する姿だったよ。」 アリサ「化け物って・・・なんでよ!?氷牙以外の人は見た事無いからよくわからないけど、みんな氷牙とそう変わらない姿なんでしょう?私達と変わらない人間なんでしょ?」
誘拐事件で暴走しかけた氷牙を見ているが、精々が爪や牙が鋭くなったり、瞳の形が変わったりしている程度で、確かに怖かったが、化け物という程尾でも無かったと記憶している。
氷牙「・・・・・・これを見ても・・・そうだと言える?」
言って、氷牙はベッドから降りてなのは達に背を向ける。
すると・・・メキメキ・・・ゴキ、グチュ・・・ズルリと嫌な音が響く。
次の瞬間には・・・氷牙の額からまるで枝の様な形の角が二本も生え、爪は鋭く、見えている肌には鱗も見える。
更には、尾てい骨からは腕よりも太い尻尾が生え、背中からは・・・上はゴツゴツとした龍の様な翼が一対。その下には漆黒の天使の様な翼が一対。
二対四枚のあり得ない組み合わせの翼が生えて来たのだ・・・。 そこで変化は終わるが、氷牙はなのは達に背を向けたまま、振り向こうとしない。
氷牙「これを見ても・・・化け物じゃないなんて・・・言える?」
拒絶されるかもしれない。それでも、いつか知られてしまった時に比べればマシだろうという判断から、氷牙はそれを曝した。
すずか「・・・大丈夫だよ」 氷牙「!?」
背を向けたまま目を見開く氷牙。罵倒されると思った。拒絶されると思った。
・・・・・・思ってしまった。トモダチだと言った自分が、そう、思ってしまった事に、氷牙は自分が憎いと思った。すずかの発した、”大丈夫”という一言に、トモダチを疑っていた事に気付いた自分がいた事を・・・。
すずか「氷牙くんは、化け物なんかじゃない。だって、私達を助けてくれたじゃない。」 アリサ「そうよ!アンタは、殺されそうになった私達を、救ってくれたじゃない!氷牙には、人としての心がある!だから、アンタは化け物なんかじゃない!それは、私達が保障するわ!」
すずかは椅子から立ち上がると、氷牙を気遣って背後から氷牙の左手を両手で包み込む。 それに続く様に、アリサも立ち上がると、すずかと同じように氷牙の右手を両手で包み込む。
弘政「化け物だとか人じゃないとか・・・正直、どうでもいいです。だって、僕にとっては、氷牙さんは氷牙さんだから。だから・・・僕達はアナタの正体は気にしません!」 ユーノ「まぁ、僕もフェレットに変身しますから、それと同じ感覚で・・・それに、使い魔と似てると思えば気にする程の事でもないと思います。」
弘政もユーノも、氷牙が人ではない事を全く気にしていなかった。人であろうが、そうで無かろうが・・・氷牙を一個人として認める。そう言ってくれる事に、氷牙は心の中で深く感謝した。
なのは「みんなの言うとおりだよ!例え姿形が他の人と違ってても、氷牙君は氷牙君だもん!化け物だなんて思わないよ!それに、この翼だって、すっごく綺麗だよ!」
そう言って、なのはは堕天使の翼にソッと触れる。
ビクンッ!!
氷牙「ふひゃう!?!」
なのはが翼に触れると同時に吃驚して奇妙な声を挙げる氷牙だった。
なのは「ごご、ごめんなの!痛かった!?」 氷牙「あ、いや、違うんだ。多分、ずっと隠してたままだったから、少し、感覚が敏感になってて・・・」
それでも決して顔を見せない氷牙に、アリサは悪戯心が刺激された。
アリサ「へぇ〜・・・」
さわさわ・・・
氷牙「あひゃう!?」ビックン!! アリサ「わぁっ!?何これ、ふわっふわっじゃない!?」
さわ、さわさわ、なでなで、もふもふ。
氷牙「あ、ひっ!?ダ、ダメ!?やめ!?」
ビクンビクンと痙攣を起こす様な仕草をする氷牙。段々と力が抜けてきて、とうとう座り込んでしまう。
氷牙「は、はひ、あ・・・」ビクンっビクン!! すずか「あああ、アリサちゃん!それ以上はダメだよ!?氷牙くんが別の事に目覚めちゃうよ!?」 アリサ「あ・・・ごめん。あんまりにも触り心地が良かったからつい夢中に・・・ホント、ごめん」
本当に申し訳なさそうにするアリサに、氷牙は顔を赤くしつつもなんとかいつもの姿に戻ると、心を落ち着け、漸くなのは達に顔を見せた。
氷牙「う、うん。き、気にしてないから・・・お願い。忘れさせて」
恥ずかしそうに頬を染める氷牙は、どことなく可愛らしかったと、女子たちは後に語るのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.116 ) |
- 日時: 2015/01/07 05:26:17
- 名前: 孝(たか)
- その日の夜。
結局、あの後氷牙は疲れが抜けていないのかそのまま眠りに落ち、他の子供達もモヤモヤが消えなかったのか、揃って学校を休んで氷牙の看病をする事にした。
すずか「ん・・・あ、寝ちゃった・・・」
ボ〜っとした表情で肩にかかっていた毛布を畳むと、ベッドに寝ていた筈の氷牙の姿が無い事に気付いた。
すずか「っ!?」
一瞬、声をあげそうになるも、まだ夜中である事と回りのみんなも寝静まっている事に気づいてすぐに両手で口をふさぐ。 そして、静かに部屋を出ると氷牙を探して屋敷を歩き回るすずか。
『〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪』 すずか「これって・・・歌?」
すると、バルコニーの近くまで来ると、歌声が聞こえてきた。 まだ少し遠いのか、聞き取りづらいが・・・一定のリズムを奏でている事だけは分かった。
『あ〜かい月〜 赤い月〜』
『罪〜を、犯した、者共の〜』
すずか「聞こえる・・・この声って・・・」
聞こえてくる歌声に、すずかは静かに、しかし急ぎ足程の速度でその音源へと向かっていく。
『け〜がれ〜を、き〜よめ〜る、赤〜い〜月〜』
『・・・今宵はだ〜れが、う〜まれ変わる?』
『今宵はだ〜れ〜が〜 う〜ま〜れか〜わ〜る〜?』
??「・・・・・・人間界でも、赤い月が見れるんだね?すずか」 すずか「やっぱり、氷牙くんが歌ってたんだ?今の曲は?」
聞き取りづらかったとはいえ、歌声から大体の予想が出来ていたすずかは、氷牙が歌っていた事には驚きは少ないが、近づいていた事に気付かれた事には驚いたようだ。
氷牙「僕達の世界では、そのままの意味で、赤い月。別のところでは”転生語り”とか言われてたね。」 すずか「転生語り?」
すずかが氷牙の隣に並ぶように立ち、聞き返すと頷きで返す氷牙。
氷牙「罪を償い終えた魂達が、浄化されて次の生を与えられる。彼らを送り出す為の歌・・・かな?」 すずか「へぇ〜・・・ね、もう一度聞かせてくれるかな?」
寂しさの中にも、次の生を送る為の思いの込められた歌詞が気にいったのか、氷牙にもう一度歌ってもらえるか聞くすずか。
氷牙「・・・うん。じゃぁ・・・いくよ?」
『〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪』
そうして、氷牙は再び歌い出す。
夜空に浮かぶ、美しい赤い月を眺めながら・・・
罪の償いを終えた魂を送りだす歌を・・・
未だ思い出せない、亡くなったであろう仲間達への懺悔も込めて・・・
そして・・・夜明けを迎え、いつも通りに学校へ通い・・・放課後になると同時に・・・まるで待っていたかのように・・・”ジュエルシードの反応”を捉えるのだった。
その頃・・・
フェイト「見つけた!10個目のジュエルシード!」 アルフ「フェイト・・・」
なのは達の集めた物と合わせて、10個目のジュエルシードを睨みつけるフェイトに、アルフは心配そうな表情で声をかける。
フェイト「大丈夫。早く、全部集めなきゃ・・・母さんの為に」 アルフ「でも・・・!」
しかし、フェイトはアルフが止めるのも聞かずに暴走したジュエルシードに襲いかかるのだった。
『『シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』
以前なのは達が相手にした成長し続ける樹木系とは違い、今回のは樹木の怪物であり、所謂人面樹と呼ばれる怪物で、妖怪に分類させる。
フェイト「ハアァァッ!!」
サイズフォームにしたバルディッシュを振りかぶり、フェイトに向けて伸びてくる木の蔓を素早く切り裂いて本体に向けて大振りの一撃を放つフェイト。
ガキキイイイイイイインッ!!
しかし、その一撃は暴走体が発生させたバリアが意図も容易く防ぐ。
フェイト「っ!?」 アルフ「うわ!?生意気にバリアまで張るのかこのデカ物!?」
今までのジュエルシードの暴走体には、バリアを張るものは居なかったため、アルフは悪たれを吐く。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.117 ) |
- 日時: 2015/04/22 04:29:00
- 名前: 孝(たか)
- 一方、フェイト達が暴走体と対峙している頃、氷牙達も反応があった場所へと向かっている。
氷牙「はっ、はっ、はっ!」 弘政「はぁっはぁっはぁっ!」 なのは「はひっはひっはひっ!」
魔力の巡りが良くなったおかげで、一日でほぼ完治した氷牙は軽快なステップで走り、弘政は一定のペースでリズムよく走り、運動音痴のなのははぜぇぜぇ言いながら走る。(因みにユーノはフェレットモードで弘政の肩の上にしがみ付いている。)
弘政「氷牙さん!どうして、今回は、ガングニールを、使わな、いんです、か!?」
走りながらなので呼吸を乱さない様に喋る弘政。勿論なのはにはそんな余裕はない。
氷牙「ガングニールは、忍に頼んで、オーバーホール、してる!この間、無理させすぎた!だから、今ガングニールは手元に居ない!」
まさかのガングニール不在である。
もし、もしもまた氷牙が暴走をした場合、止められる者がいないのと同義と言える。
ユーノ「だ、大丈夫なんですか!?」 氷牙「大丈夫!連絡したら、オーバーホール自体は終わってる!後は、ファリンが、届に来てる最中!このまま行けば、途中で合流、出来る!」
以前よりも滑舌が良くなった氷牙は簡潔に説明を返す。しかも、徐々にペースを上げているようにも見える。
弘政「はぁっはぁっ!合流って!いったいどこで・・・っ」
ブロロロロロロロロロロロォォォォォォッ!!!
そんな時、後方からけたたましいエンジンの音が聴覚を刺激する。つい気になったのか後方を確認すると・・・フルフェイスヘルメットを被ったメイド服を着た女性が特撮で見かける様なゴツイ大型二輪で爆走してきたのだ。
氷牙「来た!ガングニール!ファリン!」 ファリン「!氷牙君!弘政君!なのはちゃん!ユーノ君!お待たせしました!ファリン、ガングニールさんに乗ってただいま到着です!」 弘政「それガングニール!?」
スライダーボードに続いて更なる移動形態。ガングニール:バイクフォーム。 最大時速が現存する大型自動二輪の200km前後を軽く超える600km。普通に考えて人間が乗れる代物ではない。
人間と比べるのもおこがましい程の肉体的ポテンシャルを持つ魔族だからこそ乗りこなせる化け物マシンなのだ。
『皆さま!お待たせいたしました!』
キキィィィィィッ!!
ファリンは数メートル先でブレーキを掛けてガングニールを止めると、ヘルメットを脱ぐ。
ファリン「それでは、ここからは私もお手伝いしますね!なのはちゃんは・・・限界みたいですね」汗
遅れてやってきたなのはは既に息切れしているのか、少々ヨタヨタしている。
なのは「す、すみません、なの・・・」ぜぇっはぁっ 氷牙「ごめん、なのは、ユーノ・・・僕は先に行ってる!弘政、付いて来て!ファリン、2人をお願い!」
氷牙は少々心苦しいが、もたもたしている場合ではないので、なのはとユーノをファリンに任せて、弘政と先に向かう事にした。
ファリン「分かりました!なのはちゃん達は私が責任を持って連れて行きます!」 氷牙「ありがとう!ガングニール!スライダーフォーム!弘政乗って!」 弘政「すみません!先に行きます!」
本来なら、なのはと先行するべきなのだが、体力的に考えてなのは達が後から来る方が良いだろうと弘政と先行する事に。
氷牙「待ってて・・・フェイト、アルフ!」 弘政「2人とも、無事でいて・・・!」
時折発生している魔力の反応から考えて、既にフェイトとアルフが交戦している事は明らかで、2人の安否を心配しながらガングニールに乗って現場へと直行する。
フェイト「サンダー・・・レイジ!!」
巨大な魔法陣から放たれるフェイトの持つ砲撃系の中でも強力な部類に入る魔法だが、暴走体のバリアを貫くには威力が足りない様だった。
アルフ「フェイトのサンダーレイジが効かないなんて、どんだけ硬いんだい!?」 フェイト「後少し、後少し威力が上がれば貫ける筈なのに・・・」
ここに来てからフェイトはますます焦っている。それだけ、ジュエルシードをはやく集めなければならない理由があるのだろう。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
だが、そんなフェイト達を気遣う様な相手ではない暴走体は、十以上の枝の先を鋭く尖らせた腕でフェイト達を襲う。
フェイト「くっ!?」
だが、速さにおいてはフェイトはトップレベルの物を持っている為、十数程度では掠りもしない程の回避能力で避ける。
氷牙「アルフ!フェイトッ!!・・・避けて!!」
すると、漸くたどり着いた氷牙と弘政。フェイト達に避けるように叫ぶと、ガングニールに乗ったまま暴走体に特攻を仕掛ける。
氷牙「アルフ!パス!!」 弘政「ゑ?ちょ!?氷牙さん!?うあわあああああああああああっ!?」
すれ違いざまに後ろに乗っていた弘政をアルフに投げ渡す。
アルフ「わっわっわ!?っと。無茶するねぇ・・・」 弘政「きゅ〜〜〜」
突然高高度から空中とは言え下にいるアルフに投げ渡されて弘政も目を回していた。
氷牙「ガングニール!僕に槍を!」 『っ!?承知!』
一瞬戸惑うガングニールだが、すぐさま承知してサブの槍を顕現させる。
それは、ランスと呼ばれる騎乗兵が用いる槍のひとつであり、中世の騎士が馬に騎乗しながら用いる物であり、馬などに乗っていない場合殆どの場合には役に立たないと言われる。
だが、今の氷牙はガングニールという乗り物に乗った状態だ。用途的には間違っていない。
氷牙「このまま突撃するよ!フェイト!バリアは僕が破る!その後はお願い!」
いつものオドオドしている氷牙とは別人の様な対応にフェイトは戸惑いながらも返事をして、再びサンダーレイジの発射態勢になる。
氷牙「この身に宿れ、不屈の魂。力の根源、今ここに!”ブレイブハート”!」
一瞬、赤い光が氷牙を包みこむ。ブレイブハートは物理攻撃力を上げる補助魔法であり、突撃に合わせて威力を上げようと言う事だろう。
氷牙「いっけえええええええっ!」
ガッキイイイイイイイィィィィィンッ!!!
暴走体のバリアに正面から突撃し、槍の穂先とバリアがぶつかりあう。
ギチギチと鍔迫り合いの様な音が響くが・・・すぐにその拮抗は崩れ去る。
何故なら・・・暴走体のバリアに亀裂が生まれたからである。
氷牙「うああああああああああああああっ!!!貫いて!!!ガングニイイイイイル!!!」 『御意!!!!』
ガングニールは更にブースターを全開にすると、バリアの罅が広がり、遂には・・・
バキャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
氷牙「フェイト!!」 フェイト「サンダー・・・レイジ!!!」
限界まで魔力を込めた一撃は・・・バリアを失った暴走体を軽々と撃ち貫いたのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.118 ) |
- 日時: 2015/07/02 23:33:03
- 名前: 孝(たか)
- フェイトの砲撃魔法によって撃ち貫かれた暴走体は、断末魔の叫び声を挙げながらボロボロと崩れていき、ジュエルシードが顔を出す。
フェイト「ジュエルシード・・・封印!」
フェイトはシーリングフォームにしたバルディッシュを突き付け、封印魔法にてジュエルシードを難なく封印する。
氷牙「・・・ふぅ。フェイト、お疲れ様。」
氷牙はガングニールから降りて、ランスを持ったままフェイトに近寄る。
フェイト「うん。氷牙が手伝ってくれたおかげで、封印出来た。私達だけじゃ、あのバリアを抜く事が出来なかったから。」
フェイトは小さく笑いながら氷牙に礼を言う。そして、ジュエルシードを指差して、どうする?と聞いてくる。
氷牙「それを封印したのはフェイトだから、フェイトが持ってるといいよ。」 フェイト「・・・いいの?」
戸惑い気味に返事を返すフェイトに、氷牙はいつものニコニコとした表情で頷く。 そうしている間に弘政も目を回している状態から回復してアルフと共に合流する。
そこへ・・・
??「ストップだ。」
バッと、声のする方・・・上空へと視線を向ける。そこには、なのは達とあまり変わらない年頃の黒服の少年が杖を向けていた。
クロノ「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。その”ロストロギア”は次元断層を引き起こす危険なものだ。こちらで回収させてもらう」 氷牙「管理、局・・・時空管理局・・・!」
クロノ・ハラオウンと名乗った少年は、自身が時空管理局の者だと言い、ロストロギア認定されているジュエルシードを渡す様に要求してくる。 それに対し、ある程度の記憶を取り戻した氷牙は時空管理局の仲間であるクロノを睨みつける。
氷牙「それはできない。これは僕の世界の大切な物だ。どこの誰とも知れない・・・特に、時空管理局になんか渡せない。」 クロノ「なんだと?」
氷牙の物言いに、クロノは表情を顰める。恐らくだが、クロノは氷牙達が、ジュエルシードが願いを叶える便利なもので、それを軽い気持ちで利用しようとしているのだと思い込んでいるのだろう。
クロノ「さっきも言ったが、それは危険な物なんだ。安全な場所で管理する必要が」 氷牙「時空管理局に預けるなんて、それこそ危険だよ。また何かの実験に使われて要らない犠牲を出すだけ。」
クロノの説得を遮り、時空管理局に預ける事こそが間違いだと返す。
クロノ「なっ!?管理局を侮辱するのか!?管理局は・・・」 氷牙「法によって次元世界を管理する正義の集まり・・・とでも言うつもり?」 フェイト「ひ、氷牙?」
自分の知っている氷牙より随分と饒舌な氷牙に戸惑うフェイト。 氷牙が記憶を少し取り戻した事を、フェイトとアルフはまだ知らないので、仕方が無い事ではある。
クロノ「そうだ!管理局は次元世界を守るため、危険物を回収して管理・保管する必要がある!そして犯罪者を取り締まるのも僕達管理局の役目だ!」 氷牙「だから・・・自分達は正義だって言うの?」
氷牙から少しずつ表情が消えていく。少しずつ、その心に怒りを溜めこんで・・・
クロノ「そうだ!」 氷牙「そう・・・じゃぁ、ただ平穏に暮らしていて、ただ技術が他の世界より高くて・・・魔力が大きくて・・・人と同じ姿をした、人在らざる者を・・・魔力製造の贄として扱う事も、君達は正義だって言うの?」 クロノ「何を・・・?」
いきなり意味のわからない事を言いだす氷牙に、首を傾げるクロノ。
氷牙「僕達”アルハザードの住人”は・・・君達時空管理局の人間が原因で滅ぼされた・・・たかだか魔力が大きくて人の形をした人じゃないってだけで・・・それが正義だって言うなら・・・そんな、正義・・・」
心の内にある記憶と共に失くした筈の怒り・悲しみ・憎しみ・痛み・歪み(いがみ)・嘆き・苦しみ・怨み。それらが少しずつ沸々と湧き出す。
不意に、脳裏に映し出されるのは目の前で苦痛に呻く人外の者達。 一気に氷牙の脳に流し込まれる嘆きと悲しみと怒り・・・氷牙の表情が怒りと苦痛で歪んでいき、片手で頭を抑え、膝を着く。
氷牙「あ・・・が・・・」
痛みに耐えかねたのか、持っていたガングニールの一部である槍を手放し、両手で強く頭を押さえる。
他の者達から表情は見えないが、冷や汗が浮かび、眼は血走る。 そして、氷牙の全身からオーラの様にどす黒い闇がユラユラと溢れだしてくる。
氷牙「ぎ、が・・・ガ、ガ、ギ・・・グギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!」
身体に異変が起きると同時に、両手で自身を掻き抱くと蹲る氷牙。 次の瞬間には、この世の者とは思えない恐ろしい雄叫びをあげると、ブチブチ、バキ!ゴキ!と背中が盛り上がっていく・・・そして・・・
グバアアアアアッ!!!!!
勢い良く氷牙の背から、自身の血に濡れた、堕天使としての漆黒の翼と、龍族としての紫色の光沢を放つ黒い翼が飛び出す。 それは、月村邸でなのは達に見せた時よりも数倍は大きく、大人4、5人を簡単に多い隠せるほどに巨大だった。
氷牙「ギィィィイイイィイイィィィイイィィィアアアァァァアアアァアァァアアッ!?!?!!」
激しい苦痛と激痛の入り混じった叫びをあげながら、その翼は氷牙を包み込む・・・それはまるで・・・タマゴの様だった。
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