Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.59 ) |
- 日時: 2012/11/07 16:29:23
- 名前: カイナ
- ????「お待ちしておりました」
弘政「……え?」
視界がブラックアウトした闇の中、突然聞こえてきたしわがれた声、それに弘政は反応し目を開ける。すると真っ青な例えるならどでかいエレベーターの内部のような場所が視界に広がった。
弘政「ここは……ベルベットルーム?」 イゴール「ようこそ、我がベルベットルームへ」
弘政の呟きにしわがれた声の主であるギョロ目に長鼻の老人――イゴールが声を出す。
弘政「こんにちは、イゴールさん……あの温泉の時の、夢じゃなかったんだね……」 イゴール「ここは本来、何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる場所……今から貴方は、このベルベットルームのお客人だ」
弘政の言葉にイゴールはそう返し、弘政をじろりとした目で眺め回す。
イゴール「貴方は再び『力』を磨くべき運命にあり、必ずや、私の手助けが必要となるでしょう。貴方が支払うべき代価はただ一つ……あの時と同じく、『契約』に従い、ご自身の選択に相応の責任を持っていただくことです」 弘政「……契約?」 エリザベス「簡単に申し上げれば、約束のことでございます」
イゴールの言葉に弘政が首を傾げ、頭の上に?マークでも出しているような表情で呟くと群青色の衣服を身に纏った銀髪の美女――エリザベスが説明。それに弘政は先ほどとは逆方向にまた首を傾げた。
弘政「約束?……」
そしてそう呟き、記憶を辿る。
――弘政「何かあったら協力するからね。巻き込みたくないような危険なことだったとしても一人でしようってのは無しだよ」―― ――なのは「……うん、分かった。“約束”だよ!」―― ――弘政「うん、“約束”」――
その時思い出した友達との約束、弘政はイゴールの方を向きなおすと椅子から腰を浮かせて前かがみになった。
弘政「まさか、なのはちゃんに協力するっていう、あれ?」 イゴール「左様」
弘政の確認にイゴールは言葉少なく頷き、弘政ははぁと息を吐くと椅子に座りなおす。
弘政「まあ、あの言葉が嘘なわけないんだけどね……分かりました」
その言葉にイゴールはまたニヤリ、と微笑んで手を前にかざす。
イゴール「これをお持ちなさい」
そう言うと共に弘政の手に落ちるのは青く光る鍵。弘政がそれをしげしげと眺めているとイゴールは手を自分の鼻の下で組んだ。
イゴール「それは契約者の鍵。あなたの新たな力、そして本来の力を引き出すものとなりましょう」 弘政「へぇ……」
イゴールの言葉に弘政は鍵を眺めながら呟く。
イゴール「では、またお会いしましょう」
その言葉に反応して弘政は顔を上げるが、その時には既にベルベットルームの風景は歪んでおり、彼の意識もまた闇に包まれていった。
弘政「う……」
弘政は目を覚ますと起き上がる。ここは自室の布団の上、来ている服は昨日家を抜け出した時着ていた学校の制服そのままだ。そして昨日との一番の違い……意識を失う一因である、祖父に拳骨をくらった頭がずきずきすること、それを思いながら彼はふとポケットに手を入れてその中から一つの物体を取り出した。青く光る鍵、しかしそれは昨日よりもなんというか、不思議な、神秘的な輝きを放っていた。
弘政「ベルベットルーム……あれが関係あるのかな?……僕の新たな力? それに本来の力って?……」
祖父「おーい不良孫! とっとと降りてこねえと朝食抜きにすっぞー!」
そんなことを考え始めたその瞬間階下から聞こえてきた祖父の闊達とした声、それを聞いた弘政は慌てて制服のまま階段を下りて台所へと走っていった。
祖母「ふふふ、おはよう。弘ちゃん」 弘政「おはよう、婆ちゃん」
お味噌汁を作りながら、弘政を見て微笑む祖母に弘政は挨拶して冷蔵庫を開けてその中から朝ご飯に食べようと思っていた納豆を一パック取り出して自分に席に座り、納豆をかき混ぜ始める。その間に祖父が家族三人分のご飯を盛り付けてテーブルに並べる。
祖父「ったく、いきなりなのはちゃんを見つけたからって夜中に家を抜け出すなっつーの」 弘政「ごめんなさい」 祖父「全く。お前に何かあったら俺ぁあいつらに顔向け出来ねえんだからな」 祖母「まあまあお爺さん。さ、弘ちゃん。早く食べないと学校に遅れますよ?」 弘政「うん」
祖父の言葉に弘政が謝り、祖父は普段飄々とし闊達な状態とは真逆な真剣な様子でそう続けると祖母は穏やかに微笑みながら弘政に言い、弘政はうんと頷くと納豆ご飯を食べ始めた。
そしてご飯を食べ終えた後弘政は鞄を持って家を出て行き、高町家の前を通りがかる。と丁度なのはも家を出てきたところで彼女は弘政を見つけると大急ぎで駆け寄った。
なのは「あ、ひ、弘政君! あの、昨日の夜の事なんだけど、ユーノ君が、私達が帰ってきたら説明するって」 弘政「分かったよ。今日の放課後は二人でまっすぐなのはちゃんの家に向かえばいいんだね?」 なのは「うん」
なのはの言葉に弘政がすぐに察したように続けるとなのははうんと頷き、弘政もオッケーと頷き返した。
弘政「オッケー。ま、ともかく今は昨夜の事は忘れてとっとと学校に向かうとしよう。遅刻しちゃったら大変だよ」 なのは「うん!」
弘政の言葉になのはも大きく頷き、二人は一緒に学校向けて走っていった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.60 ) |
- 日時: 2012/11/08 07:53:59
- 名前: 孝(たか)
- 第十三話〜災厄との邂逅〜
弘政「…あれ?そう言えば氷牙さんは?一緒じゃないの?」 なのは「氷牙君は、寄る所があるからって、先に行っちゃったの。」
足を止めずにバス停に急ぐ二人。因みに、今日はいつもより一本早いバスだ。
二人はいつもバスに乗る時はいつも通りか、一本早いか遅いかを適当に決めて乗っている。
そう、少しでも神裂一刀と出会う確率を減らす為に。 適当に決めているせいか、一刀と出会う確率は10回に1回の割合。 その為、なのはの堪忍袋はなんとか耐えている様だ。
バスがやってきたので乗ってみると…
アリサ「あ、なのは!弘政!おはよう!」 すずか「なのはちゃん。弘政君。おはよう!」 氷牙「弘政、おはよう。」
アリサ、すずか、氷牙が談笑しており、最初に二人に気付いたアリサが挨拶した。
どうやら氷牙の用事がある場所は、学校とは逆方向であり、用事を済ませると丁度バスが来たので乗ってみたらアリサ達が既に乗っていた様だ。
最初はオドオドしていたが、なのは達と合流する少し前には緊張がほぐれた様だった。
二日目の学校だが、なのはのクラスの子達は皆良い子の様で、氷牙も少しずつではあるが慣れてきたようである。
そして、滞りなく授業も進み、あっという間に放課後…
女子2もとい山田「氷牙君!今日は猫ちゃん呼んで!お願い!」
昨日、帰り際に頼んでいたように、山田と言う女子が氷牙に両手を合わせて頼み込んでいた。
氷牙「う、ん。じゃぁ、校庭に出よう。教室に、呼ぶ訳にもいかないし。」 山田「うん!いいよ。鞄取ってくるから待ってて。」 女子1もとい佐藤「あ、私も行きたい!いいかな?」
昨日話しかけてきた女子も一緒にくる旨を伝えると、氷牙も頷く事で答える。
そうして校庭の隅にくると、昨日は人差し指と中指の腹を口に当てて吹いていたのを、今日は人差し指を曲げて、そこに口をあてて吹いた。
氷牙「ピピュゥ、ピィィ、ピュゥゥゥゥ」
昨日とは違い、三節の音を鳴らす。
一分程経過すると、茂みのあちこちからガサガサとなると、10匹程の成猫と、7匹程の子猫がやってきた。
「「「ニャァァ」」」 「「フニャァァァン」」 「「「ミィィィ」」」 「「「ミニャァ」」」 「「「ミャォン」」」 「「「ニィィ」」」
山田「か、可愛い!」 佐藤「いっぱいいるぅ?!」
二人はまさかここまで沢山の猫が来るとは思ってもみなかったのか、愛くるしい猫達を眺めるのに夢中だ。
氷牙「子猫、まだ産まれて一月。あまり、強く触っちゃ駄目。」
そう言うと、氷牙は子猫を二匹持ちあげると、二人に一匹ずつ優しく渡す。
子猫は丁度手の平に乗るくらい小さい物で、ハムスターより少し大きい位だった。
山田「うわぁぁ……ちっちゃい////」 佐藤「うん。ちっちゃい////」
二人は頬を少し赤らめながら子猫をいろんな角度から見ている。 触る時も忠告通りに、指先で優しく撫でる。
「「ミィィ」」
クリクリとしたつぶらな目で見てくる猫は見ているだけでも癒される。 氷牙は二人が子猫に気を取られている間に、コンビニで買ってきた猫缶を3つ程紙皿に分けて乗せると、成猫を2、3匹に分かれさせて餌を仲良く食べさせる。 更に2つの皿にミルクを注ぐと、子猫たちにも仲良くミルクを飲ませていた。
そうこうしている間に、他の子供達も集まってくる。 まるで動物園の触れ合いコーナーの様だ。
40分程堪能すると、氷牙にお礼を言って二人は帰宅していった。
氷牙「みんな、気をつけて帰る。」
氷牙も猫達に微笑みながら帰る様に言うと、ニャァ〜と言いながら猫達も解散したのだった。
猫達を解散させると、氷牙は早歩きで八束神社へと向かった。 勿論、久遠と遊ぶ為である。
氷牙「久遠〜。遊びに来た。」 久遠「くぅん。ひょうが。まってた。」
パタパタと尻尾を振って久遠が氷牙に駆け寄ると、屈みながら手を伸ばしている手を伝って氷牙の頭の上に乗る。
どうやらそこが久遠の定位置である様だ。 それを確認した氷牙も、境内に座ろうと足を進めると、視界の端の方でキラリと何かが光った気がした。
氷牙「??何だろう?」 久遠「くぅん。なにか光った。久遠、見てくる。」
ピョンっ。と飛び降りると、軽快なステップでむかう久遠。 久遠はそれを見つけると、氷牙の所へ持って行こうと口に咥えた時である。
ソレは強烈な光を生み出し、久遠を包み込んだ。
氷牙「久遠!?」
氷牙は驚き、嫌な予感がして久遠の元へ駆け寄る。 徐々に光が収まり、いつも通りの久遠の姿を確認出来た。
それに安堵し、一度足を止めてホッと息を吐くと久遠が振り返る。 しかし、その額には見なれない物が付いていた。
久遠「・・・・・・・・・」 氷牙「…久遠??」
様子がおかしい事に気付いて声をかける氷牙。
そして・・・・・・それは起こった・・・・・・
久遠「ひょうが・・・逃、げ・・・グルガアアアアアアアアアアアアア!!!」
突然・・・久遠が猛獣のような咆哮を挙げると、黒い焔と雷に包まれ、その姿を大きく変貌させた。
6メートルはあろうかと言う体躯。
九つに分かれた大きな尾と、その先端に灯る黒き焔。
身体中をバチバチと走る雷。
そして、禍々しい邪気を放つ…目の様に変化した青き宝石…ジュエルシードが氷牙をその視界に捉えた。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.61 ) |
- 日時: 2012/11/10 08:06:52
- 名前: 孝(たか)
- 久遠がジュエルシードに取り込まれる少し前の事…
なのはの自宅
なのは「ただいま〜!」 弘政「お、お邪魔します。」
学校から真っ直ぐ駆け足で帰宅し、弘政を家の前で待つ事5分。 再び合流してからなのはの自宅へとお邪魔する弘政。
既に帰宅していた美由紀との挨拶もそこそこに、なのはの部屋へと入る。 と言っても、なのはが着替えるまで外に居たのだが…その間、ユーノが顔を赤くしながらなのはから視線を逸らしていたのはお約束だ。
ユーノ「では、ご説明します。まず、何から話したらいいでしょうか?」 弘政「とりあえず、昨日の怪物の事からお願いするよ。」
ユーノが何から説明した物かと考えると、弘政が怪物に対しての質問を投げかける。
ユーノ「あの化け物…ジュエルシードの思念体です。」 なのは「えっと…確か昨日、レイジングハートで封印した宝石…の事だよね?」
なのは昨晩、弘政より先に来ていて少しだけ説明を受けていた為、すぐにどんなものか思い出す。
ユーノ「はい。アレは…ジュエルシードは、とある世界で発掘された古代遺産です。本来は、手にした者の願いを叶える魔法の石なんだけど、力の発現が不安定で、昨夜みたいに単体で暴走して使用者を求めて、周囲に危害を加える場合もあるんだ。」
願いを叶える魔法の石…それを聞いて二人がまず思い浮かべたのは某格闘漫画の七つの龍の玉だったりする。
弘政「もし…もし人や動物が触れたらどうなるの?」 ユーノ「……その場合は、何も願わなければ危険は少ないけど、危ない物には変わりないよ。たまたま発動して、持ち主を摂りこんで暴走する事もある。」
弘政の危惧していた通り、ユーノは表情を暗くしながら結果の一つを答える。 使用者が居ようが居なかろうが、暴走する事には変わらないと…。
なのは「・・・そんな危ない物が、なんで家のご近所に?」 ユーノ「……僕の、せいなんだ。」
声のトーンを落とし、申し訳なさそうな表情で答える。
ユーノ「僕達スクライア一族は、遺跡発掘の仕事をしているんだ。様々な次元世界を旅しながら…。そして、ある日とても古い遺跡を見つけて、そこで調査していたら…あのジュエルシードを見つけたんだ。それで、調査団に依頼して保管して貰ったんだけど……」 弘政「何か問題でも?」
僅かに言い淀むユーノに、心配そうに問いかける弘政。
ユーノ「うん。ジュエルシードを運んでいた時空艦船が、事故か何らかの人為的災害に会ったらしくて…たまたま通りかかったこの世界に、21個のジュエルシードが散らばってしまったんだ…」
そこで話を区切り、沈黙が続く…。
なのは「その、ジュエルシードは、いくつ集まったの?」 ユーノ「僕が封印した1つと、昨夜、なのはが封印した1つだから…」 弘政「全部で2つ…つまり、後19個も同じ物がこの街に?」 ユーノ「・・・うん。」
この世界のいつ頃からジュエルシードが散らばったかは知らないが、集められたのはたったの1割。
たった1つの、暴走した思念体であの被害だ。 もし、残りの19個が一斉に発動したら?
誰かが間違って触れてしまったら? そんな重い沈黙が広がる中、弘政がある事に気付いた。
弘政「……あれ?」 なのは「どうしたの?弘政君。」
弘政の様子になのはが質問する。
弘政「あ、いや…今の話を振り返ってみたんだけど…ジュエルシードが散らばったのって、ユーノ君と関係が無い気がして…」 なのは「……あ、言われてみれば確かに…」
なのはも、話を振り返ってみると気付く。 結局のところ、ジュエルシードが散らばったのは偶然か人為的な災害であって、ユーノとは全く関係が無い。
ユーノ「だ、だけど…アレを見つけてしまったのは、僕だから…全部見つけて、ちゃんとあるべき場所に返さないと駄目だから!そう思って…」 なのは「…なんとなく……なんとなくだけど、ユーノ君の気持ち…判るかも知れない。真面目なんだね?ユーノ君は…」
この時、なのはは父・士郎が大怪我をして入院した時の事を思い出していた。 自分の不用意な呟きのせいで、あんな事が起きてしまったと…今でもそれは、なのはの心に深い傷を残していた。
ユーノ「あの、えと…昨夜は巻き込んでしまって、助けてもらって申し訳なかったけど…この後は、僕の魔力が戻るまでの間…ほんの少し、休ませて貰いたいだけなんだ。一週間。いや、5日もあれば力が戻るから、それまで…」
そこまで聞いていると、なのはのツインテールがピクリと動く。
弘政「………(前から思ってたけど…なんでなのはちゃんの髪の毛って動くの?実は本当に尻尾だったりするの?…謎だ…)」
弘政は話の大きさに現実逃避気味になのはのツインテールを見て少しばかり思考を捨てていたが、なんとか現実に舞い戻る。
弘政「戻ったら、どうするつもり?」 ユーノ「また一人で、ジュエルシードを探しに出るよ。」 なのは「それはダメ!!」
いきなりなのはが声を荒げる。 きっと、ユーノがまた怪我する事を心配しての事だろう。 今回は、偶々なのは達が通りかかり、命に別状がない怪我で、近くに治癒魔法が使える氷牙が居たからこそ助かった様なものだ。
もしユーノを一人で行かせて、取り返しのつかない事になったら? まだ出会って1日だが、それでも…友達が、1人で危ない事に首を突っ込む事を、黙って見過ごす程、なのはは薄情ではない。
なのは「私、学校とか、塾がある時は無理だけど、それ以外の時間なら手伝えるから!」 ユーノ「でも!昨日見たいに、危ない事だってあるんだよ!?」
ユーノも、これ以上危険な事に巻き込見たくないという思いをぶつける。
なのは「だって、もう知り合っちゃったし、話も聞いたもん!ほっとけないよ!それに、昨日みたいな事が、御近所で度々起こる様な事になったら、皆さんのご迷惑になっちゃうし…ね。ユーノ君。一人ぼっちで、助けてくれる人…居ないんでしょう?…一人ぼっちが寂しいのは、凄く判るから…だから、私にも、お手伝いさせて!」
なのはの独白に、ユーノの心が揺らぎ始める。 だが、ユーノもなのはに負けず劣らずの頑固なところがある様だ。
ユーノ「でも…」 なのは「困ってる人が居て、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけない。って…これ、高町家の家訓なんだよ!」
ムン。と両手を胸の前でガッツポーズをとるなのは。
なのは「ユーノ君は困ってて、私は助けてあげられるんだよね?魔法の力で…」 ユーノ「…うん。」 なのは「私、ちゃんと魔法使いになれるかどうか…あんまり自信ないんだけど…」 ユーノ「なのはは、もう魔法使いだよ。多分、僕なんかよりずっと才能がある。」
ユーノは自分なんかより高い適性がある。と、なのはを励ます。
なのは「そうなの?あんまり実感無いんだけど…とりあえず、色々教えて?私、頑張るから!」 弘政「僕も手伝うよ。戦えるかどうかは判らないけど、ジュエルシードを探す位の手伝いは、出来ると思うんだ。」 ユーノ「二人とも……ありがとう!」
ユーノは目の淵に涙を滲ませながらお礼を言うのだった。
そして、雰囲気が緩んだその時である。
ジュエルシードが発動し…氷牙の目の前で久遠が摂り込まれたのは。
「「「っ!?」」」 なのは「な、なに?この感じ…」 弘政「なんだか、ざわざわする…」 ユーノ「発動、したんだ…3つ目のジュエルシードだ!?」
そうして2人と1匹は、感覚の赴くままに、なのはの家から飛び出す。 駆けだす事10分程…あらゆる近道を使い、7分前後短縮した結果。
2人と1匹の目の前で……身体中に傷を負った氷牙が……大きな狐の化け物に……その大きな前足の爪で……引き裂かれ、血をまき散らす様を目撃したのは……
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.62 ) |
- 日時: 2012/11/11 10:07:35
- 名前: 孝(たか)
- なのは達がジュエルシードの発動に気付いた頃に時間を戻そう。
久遠?『グルルルルルルルルル・・・・・・』
九尾の妖狐となった久遠は威嚇するかのように唸る。 まるで、目の前に居る氷牙を外敵・・・獲物として捉えているかのように…
氷牙「・・・久・・・遠?」 『馬鹿な・・・アレは・・・ジュエルシードだと!?』
氷牙の方も、豹変した久遠に信じられない、信じたくないという思いが無意識の内に呟かれた。 ガングニールの方も、どうやらジュエルシードの事を知っている様だ。
久遠?『グルルルルルルル・・・ガァッ!!』
しかし、豹変した久遠を茫然と見上げる氷牙に対して、久遠はその右前脚を勢いよく振り下ろしす。
『氷牙様!!お逃げ下され!?』 氷牙「久遠!!」
ドゴッ!!!
ガングニールの叫びを聞こえていないかのように、氷牙は久遠に呼び掛ける。 しかし、その声は久遠には届かず、氷牙はトラックに轢かれる様な一撃を受けて吹き飛ばされ、右肩から鳥居に激突する。
氷牙「がっ!?・・・ぅ、あ・・・く、おん・・・目を、覚まして・・・?」
吹き飛ばされた氷牙は頭から血を流し、今の衝撃で折れた右腕を押さえながら立ち上がる。 更には、怯えや、逃げもせず痛みで表情を苦痛に歪めながらも久遠に近寄っていく。
『氷牙様!近づいてはなりません!?アレは久遠殿であって、久遠殿ではありません!ジュエルシードの暴走によって、摂り込まれてしまっています。いわば、久遠殿の姿を真似ただけの紛い物です!』
氷牙「久遠・・・駄目、だよ。久遠、は・・・そんな事、する子じゃ、ないよ?」
氷牙はガングニールを無視して…いや、もしかしたら聞こえていないのかもしれない。 ゆっくりと、一歩ずつ久遠に歩み寄り、宥めさせる為に手を伸ばす。
久遠?『・・・・・・ガァァッ!?』
しかし、氷牙の手が久遠に触れそうな位置まで来ると、久遠が吼える。 それは、咆哮と言える程に猛々しい物であった。
そして、その咆哮に呼応するように、久遠の身体中からバチバチと電気が迸り、氷牙が咆哮で竦み、動きが止まった瞬間、久遠は再び前脚を振り下ろす。
その一撃は、地面を砕き、生成した雷を一気に解き放つ。
氷牙「がっ!?ぎ!?あああああああああああああああああ!?!」
前脚には当たらなかったものの、解き放たれた雷は氷牙を感電させる。
喉が潰れるのでは?と言うほどの絶叫を挙げる氷牙。
数秒、雷に打たれた氷牙はプスプスと人肉を焦がす嫌な臭いが漂い、服は所々が焼け焦げる。 皮膚は焼け爛れ、ビクビクと痙攣を起こす。
氷牙「あ゛ぁ・・・う゛・・・」
しかし、それでも氷牙は気を失わなかった。 いっそ、気絶してしまえば楽であっただろう。
そして・・・・・・
氷牙「い゛たく・・・ない゛。」 久遠?『グルッ!?』
そんな重傷を負っても氷牙は立ち上がる。 だが、そんな状態でも、氷牙は潰れている喉で無理矢理吐き出す。
氷牙「ぐおん・・・悲、じん、でる・・・ぐる、じんで、る・・・僕、わかる。・・・・・・だから、痛く、ない!」 久遠?『グルルル・・・・・・グガアアアアアアアアッ!!』
そして、一瞬ではあるが久遠がたじろぐ。 だが、まるでそれを振り払うように鋭く尖った爪で、久遠は・・・氷牙を引き裂いた。
そして、その一撃が振り下ろされる寸前、ジュエルシードの反応を辿ってきたなのは達が到着してしまい、氷牙を引き裂き、血をまき散らすその瞬間を目撃したのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.63 ) |
- 日時: 2012/11/16 06:24:56
- 名前: 孝(たか)
- なのは「・・・・・・・・・え?」
弘政「・・・・・・氷牙、さん?」 ユーノ「そ、そんな…」
二人は目の前の出来事に茫然としている。
目の前に居るのは誰だ?
自分達は知っている。
嘘だ。違う。
だって、さっきまで、学校で笑っていたじゃないか。
人付き合いが苦手で、でも人を安心させる笑顔が出来る。
動物が好きな、優しい少年だった。
それが何故・・・どうして?
血 を な が し て い る の ?
な ん で キ ズ だ ら け な の ?
氷牙「あ・・・く、お、ん・・・」
両の膝を地に付け、左手を久遠に伸ばす氷牙。
そして、久遠の名を呟くと・・・・・・そのまま前のめりに倒れ伏す。
地面を己が血で染めながら・・・
『氷牙様!!氷牙様!?気をしっかり持って下され!?氷牙様!!』
ガングニールの悲痛な叫びが木霊する。
なのは達はショックで動けない。 ガングニールの声も、聞こえているかも疑わしい。
なのは「いや・・・いや・・・いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?氷牙君!氷牙君!目を、目を開けてよ!?嫌だよ!しんじゃヤだよ」 弘政「あ、あぁ・・・うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!?氷牙さん!しっかりしてください!氷牙さん!」
二人は涙を流して氷牙に走り寄って氷牙を抱きかかえる。 自分達が血に濡れる事もいとわずに・・・
ユーノ「くっ!!間に合って!!」
ユーノは傷口に近づくと手を翳す。
ユーノの手の先からミッド式の魔法陣が現れ、翡翠色の魔力光が発生する。
自分の魔力を全部使い切る勢いで治癒の魔法を全力でかける。
久遠?『グルルル・・・・グゥゥゥ・・・ギギャアアア!?』
久遠は氷牙を切り裂き、もう一度振り上げようとして止まる。
それは聞こえたから…傷つけられても自分の体よりも久遠を心配する声が・・・
だが、それはあり得ない。
今の久遠は久遠であって久遠ではない。
ジュエルシードが久遠を摂り込み、その身体をベースに巨大化した暴走体でしかない。
故に、氷牙の声に反応して攻撃の手を緩める理由など無い。
だが、ジュエルシードに摂り込まれた久遠は・・・ただの狐ではない。
その昔、大妖怪と名を馳せた妖狐・・・白面金毛九尾の狐なのだ。 如何に力の大半を封じられ、無垢なる動物へと窶した存在とはいえ…ただの動物などではない。
故に、摂り込まれた久遠は、ジュエルシードの中で意識を取り戻した。 しかし、その瞬間、久遠も見てしまった。
氷牙を、その爪で切り裂いた瞬間を…
ジュエルシードの中…
久遠『ひょう、が?くおん、なにした?くおん、ひょうが、キズツケタ?イ、ヤ・・・イヤ・・・ううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!?!!?!!!?』
久遠はジュエルシードの中で慟哭する。
自分のせいで・・・ 氷牙が・・・ 友達が・・・
その時、久遠の中の箍が・・・大きな音と共に崩れ去った。
久遠?『グギャアアアアアアアアアアッ!?!?』
久遠が苦しむ様にのた打ち回る。
巨体がジタバタと足掻く度に軽い地鳴りが響く。
立ち上がったかと思うと、木や石畳に頭をぶつける。
久遠?『グガアアアアアアアア!?ギギャアアアアアアアアアアアアア!?』
久遠は激しく頭を振っている。
まるで、何かを追い払うように。
ピシッ!
小さい・・・ほんとに小さい・・・何かに罅が入る様な音が響く。
ピシッ・・・ビキビキ・・・パキーーーーーーーンッ!!
そして、確かに砕ける音が響いた。
久遠?『グギャアアアアアアアアアアアアア!?!?』
それは、禍々しい瞳の形をした久遠の額についていた宝石だった。
砕けた宝石から、人の・・・女性の細い腕が出てきた。
ほんの少し時間を戻す。
ユーノ「くっ・・・・・・ハァッハァッ・・・これで、大丈夫、です。応急処置は出来ました。」
玉の様な汗を流しながらユーノは答える。
既に彼の魔力は枯渇しかけている。
当分は彼も魔法が使えない事だろう。
なのは「良かった・・・よかったよぉ・・・」 弘政「ありがとう、ユーノ君。」
二人は泣きながらユーノにお礼を言う。
ユーノ「でも、急いで病院に、連れて行かないと・・・」
ユーノは息も絶え絶えに急いだ方がいいと進言する。
それと同時に、何かが砕ける音が響き、久遠の額から女性の腕が出てくるところを目撃したのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.64 ) |
- 日時: 2012/12/01 05:48:42
- 名前: 孝(たか)
- なのは「な、なに?アレ・・・」
弘政「女の人の・・・手?」 ユーノ「まさか、ジュエルシードが成長してるの!?」
三者三様の反応が出る。
なのははいきなり頭から腕が生えた事に、弘政は率直な感想を、ユーノは一番考えたくない予想を、それぞれ無意識の内に口に出すのだった。
久遠?『ギガアアアアッ!!ギギイイイイイ!?』
久遠が更に苦しんでいると、もう一本腕が生えてくる。
その腕は少し引っ込めると、久遠の頭を・・・入口を広げる様に押し広げ始めた。
それに更に激痛を訴える様に久遠が暴れる。
そして、ソレは投げ出されるように飛び出してきた。
女性「・・・・・・」
ソレは女性の姿をしていた。 ソレは狐の耳と尾を持った女性だった。
ソレは誰もが見惚れる美しい女性だった。 ソレは・・・とても冷たい瞳を持った女性だった。
久遠?『グルルルルル・・・グオオオオオオオオッ!!?』
久遠は痛みが引くと、怒り狂って出てきた女性をその牙で噛み砕かんと襲いかかる。
女性「・・・・・・」
しかし、女性は久遠を見つめるだけで身じろぎ一つしない。
なのは「あ、危ない!!」 弘政「逃げてください!?」
二人はソレが久遠から出てきた事も忘れて逃げるように訴える。
だが、女性はその忠告を聞かない。
後一歩、それで久遠の牙が女性を噛み砕こうと言う距離まで近づくと、女性はゆっくりと片手を伸ばす。
そして、女性の手が久遠の調度鼻の部分に触れた。それだけ。 たったそれだけで久遠の巨体が動かなくなった。
6メートルもの巨体がだ。
久遠?『グルォッ!?』 女性「ユルサナイ・・・オマエダケハ・・・ユルサナイ!!」
ブオン!! ズガアアアアアンッ!!
手に力を込めたかと思うと、女性は久遠を腕の力だけで地面に叩き付ける。 その一撃はクレーターが出来る程の威力を持っていた。
女性「ユルサナイ・・・ユルサナイ・・・ユルサナイ・・・」
許さない。その一言を呟く度に、久遠を何度も叩き付ける。
無慈悲に 無感情に 無表情に ただその力を振るうだけ。 ズドンッという一際大きな衝撃を与えたかと思うと、女性は久遠から手を離す。
女性「・・・ユルサナイ・・・ムニ・・・カエレ・・・ハイトナレ・・・モエツキロ・・・」
女性が天へと腕を伸ばす。
その手のから雷が迸る。
バチバチと唸り、次第に激しさを増す雷。
女性「・・・クダケ!」
そして、女性は、その雷を、振り下ろす。
久遠?『グガア!?グギャアアアアアアアアアアア!?!?!』
雷の直撃を受けた久遠がもがき苦しむ。 強烈な雷の威力に、それ以外の行動が出来ない。
そして、額の宝石に刻印が現れる。 ]Y・・・16番。
ユーノ「イケナイ!!それ以上は危険です!?ジュエルシードが壊れてしまう!!」 女性「カンケイ、ナイ・・・アレハ・・・コワス!!・・・ゼッタイ!」
女性は憎しみの籠った瞳でその刻印を睨みつける。 誰がなんと言おうと、それだけは譲れないと・・・。
ユーノ「なのは!早くジュエルシードを封印して!アレが壊れたら、何が起こるか分からない!」 なのは「で、でも、どうすれば!?」
いきなり言われても分からないよとユーノに訴えるなのは。
ユーノ「レイジングハートを起動して!昨日の起動パスワード”我は使命を”から始まるアレ!」 なのは「ふぇぇぇ!?あ、あんな長いの覚えてないよぉ!?」 ユーノ「もう一度言うから!」
そんな悠長な事をしていると、レイジングハートが突然起動する。
不屈「standby ready set up」 なのは「レイジングハート?」 ユーノ「そんな!?起動パスワード無しに!?」
起動パスワード無しでレイジングハートが起動する事に驚くユーノ。 どうやら、なのはは無意識の内にレイジングハートを起動出来たらしい。 しかも、感覚で。
弘政「そんな事より、早く封印した方がいいんじゃ?」 ユーノ「そうだった!なのは!お願い!」 なのは「う、うん!レイジングハート!お願いね。」
不屈「allright ceilingmode set up」
レイジングハートが展開し、光の翼を広げる。
なのはがレイジングハートを振り上げ、久遠に向ける。
光の帯が久遠を包み込む。
不屈「standby ready」 なのは「リリカルマジカル!ジュエルシードシリアル]Y!封印!!」 不屈「ceiling」
その呪文と共に、久遠は光の粒子となって消え去り、後に残ったのは煤けたジュエルシードだけとなる。
なのはがレイジングハートをジュエルシードに向け、回収しようとする。 しかし、それより早く女性がジュエルシードを奪い取る。
ユーノ「何をするんです!?それは危険なものなんです!こちらに渡してください!」 女性「カンケイナイ・・・コレハ、コワス。コレハ、ヒョウガ、キズツケタ。ダカラ、コワス!」
女性はジュエルシードを握り潰そうとその手に力を込める。
『お止めなさい。久遠殿・・・』 しかし、そこでガングニールから待ったが掛った。 しかも、ガングニールはこの女性を久遠と呼んだ。
久遠「・・・ガングニール。ナンデ、トメル?」
女性・・・久遠の方もガングニールに聞き返す。
『それは・・・ジュエルシードは、”氷牙様の世界で作られた物”だからです。』
驚愕の事実が、ガングニールから告げられた。
ユーノ「ちょ、ちょっと待ってください!それはどう言う事ですか!?氷牙さんは、なのはのお兄さんなんでしょう?」
ユーノは一番に疑問を挙げる。 当然だ。ジュエルシードはユーノが別の世界の遺跡から発掘した物だからだ。 氷牙がなのはの兄なら、ジュエルシードは地球で作られた事になり、あの世界に安置されている事が不自然となる。
なのは「え?氷牙君は家族だけど、私のお兄ちゃんじゃないよ?」 弘政「兄とも言えるし弟とも言える様な立ち位置だけどね・・・」
なのはは氷牙と兄妹では無いと答え、弘政は微妙と答える。 ユーノはてっきり一緒に住んでいるのだから兄弟だと思っていたのだ。
『氷牙様は、とある事故でこの世界に転移してきたのです。正確に言えば、事故のおかげで生き長らえたと言っていいでしょう。』 ユーノ「じゃ、じゃぁ、氷牙さんは、次元世界の人なんですか!?だったら、時空管理局に連絡を取れば帰れるんじゃ?」
ユーノは当然の様に聞き返す。しかし、地球にはそこまでの技術発展は無い。
『・・・ユーノ殿。我々は・・・いえ、少なくとも私は時空管理局を信用していません。』 ユーノ「な!?ど、どうしてですか!?」
ユーノの疑問は、次元世界人からしてみれば当然の事だ。 時空管理局とは、第一管理世界・ミッドチルダが中心となって設立した数多に存在する次元世界を管理・維持するための機関。通称「管理局」。 所属する者からは単純に「局」ともよばれる。いわく「警察と裁判所が一緒になった様なところ」で、ほかにも文化管理や災害の防止・救助を主な任務としている。 実行部隊として次元航行艦船や武装隊などの強力な戦力を有しており、階級は軍隊式(自衛隊式)。軍隊・警察・裁判所の3つを統合した、強大な組織として認識されている。
『・・・なのは殿。何故、氷牙様が大怪我をしていたか。説明していませんでしたな。』 なのは「え?・・・そう言えば・・・聞いた事無かったかも。氷牙君は、記憶喪失だから、怪我の理由は聞けなかったし・・・そっか。ガングニールさんは、覚えてるんだから、聞けばよかったんだ。」
なのはは今更ながらに思い付いた様だ。 まぁしっかりしては居てもやはりまだ子供であるのだから当然と言えば当然か。
ユーノ「なのは、どう言う事?」 なのは「あ、うん。氷牙君はね。4年くらい前にお空にできた変な穴から私の家の庭に落っこちてきたの。私、てっきり落ちてきた時の怪我かと思ってたんだけど・・・打ち身や骨折だけじゃなくて、切り傷とか火傷とかもあったの。」
なのははカタカタと身体を震わせる。 きっと、氷牙が来たときの事を思い出してしまったのだろう。 アレは普通の子供ならトラウマ物だ。
『氷牙様の怪我の原因。それは・・・その時空管理局が関わっているのですよ。』
久遠以外の全員が、驚愕の表情で固まるのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.65 ) |
- 日時: 2012/12/17 05:39:57
- 名前: 孝(たか)
- 第十四話〜私達は、真実を知った。なの〜
ユーノ「ど、どう言う事、ですか?管理局が、一般人を襲ったと言うんですか!?」
すぐに我に返ると、ユーノは捲し立てる様にガングニールに言及する。
『管理局の人間すべてを悪いとは言っていません。私が信用しないのは、あくまで上層部の者だけです。そもそも、奴らは氷牙様に恩を仇で返したのですから。』
ガングニールは、あの日、なのは以外の高町家に話した事情を話す。
・時空管理局の上層部は遥か未来の世界で滅びかけた人間の生き残りである事。
・彼らが助かったのは、偶々氷牙の異能の力が覚醒した事で起きた偶然が重なっての事。
・しかし、当時の・・・時空管理局と呼ばれる前の管理局は、助けられた恩があると言うのに、氷牙達をバケモノと評し、自分達が管理してやるから従えと告げてきた事。
・それを断ると、管理局は子供達を人質に無理矢理要求を突き付け、あまつさえ、氷牙達一族を魔力製造の贄とするという一方的な事ばかり・・・これではただの暴徒でしかない。
・そして、4年前のあの日、魔導砲アルカンシェルによる二度の砲撃と余波でこの世界へとやってきた。
・最後に、自分達がアルハザードの住人である事を伝える。
ユーノ「そ、そんな・・・管理局が、そんな・・・」 『あくまでも一部の上層部がやっている事です。下の者達はそんな悪逆非道をしている事など露にも思っていないでしょう。』
ガングニールは、あくまで上層部が信じられないとだけ告げるが、無知も罪だと思っているので同列に見ているが、それは言わないでいた。
ユーノ「で、でも、管理局のおかげで救われた世界があるのも事実だ!」 『信じたいのであればそれで構いませんよ。先程のは、あくまで我々にされた事実と、我々の考えでしかない。他人の言を鵜呑みにしている者よりずっと好感を持てますよ。ユーノ殿。』
しかし、ユーノの切り返しをあっさりと肯定し、あくまで自分達の意見でしかないと返すのだった。
弘政「ところで、アルハザードってどんな世界なの?」 ユーノ「僕達の世界では、伝説の都市と言われていたよ。死者蘇生や、不老不死の神秘があり、常に最先端の技術が駆使されて進化し続ける超科学都市なんて呼ばれてたけど、何百年も前に滅んだとか・・・アレ?」
そこで、ユーノは違和感を覚えた。 アルハザードは遥か昔に滅んでいる。 しかし、目の前にアルハザードの住人だったと答える者が居る。
『何を言っているのです?アルハザードが滅んだのはほんの400年程前ですが?』
またも爆弾発言。 何百年も前・・・何世紀も前に滅んでいると伝えられていたが、ほんの四世紀程しか経過していないと言うのだから・・・
なのは「アレ?でも、氷牙君が、最後の生き残りなんですよね?」 弘政「え?でも、400年前に滅んだのなら、氷牙さんは・・・」
二人も違和感を覚える。 400年前に滅んだ世界の最後の生き残りが、目の前に居る。 それが何を意味するのか・・・
『氷牙様は、今年で704歳となられました。』 なのは「七!?」 正弘「百!?」 ユーノ「歳!?」 久遠「お〜」
あまりにあまりな年齢に度肝抜かれる子供達。 久遠はあまりよくわかっていない様だが・・・
ユーノ「ちょ!?あり得ないですよ!?700!?どんだけ長生きなんですか!?」 『アルハザードの住民の寿命は大凡8000前後です。』
ユーノ「8000!?!?」 『アルハザードに死者蘇生の神秘や不老不死の神秘など最初からありません。答えは単純。ただの長寿なだけです。そもそも、人間と言う種ではありませんし。』
先程までの暗い話から別のベクトルで驚愕の話に変わる。
ユーノ「ちょっと!?今さらりととんでもない事言いませんでした!?」
世間話の様な感覚でさらりと大事な発言をするガングニールを信じられないと言う目で見るユーノであった。
『それはさておき、早く氷牙様をお運びしなければ・・・』
ユーノ「うぐ・・・確かに、ここでグダグダしている場合じゃないですけど・・・ココから病院まではどのくらいかかりますか?」
ユーノはなのはに病院の場所を聞くが、その前にガングニールが口を挟む。
『いえ。ユーノ殿のおかげで、傷も大分塞がっています。氷牙様の回復力なら、一晩寝ていれば大丈夫でしょう。』
それを聞いてユーノは言葉を失う。余程氷牙の異常性が予想外だったのだろう。 しかし、流石にこのまま移動しようにも、なのはと弘政は氷牙の血がべっとりと染み込んでしまっている。 氷牙を運ぶ途中で見つかっては、大事になるのは目に見えている。
なのは達が軽い気持ちでこの事件に首を突っ込んだ訳ではないが・・・やはり、子供ゆえの見通しの甘さがあったのは言うまでも無い。
故に、観念して士郎を呼んで氷牙を運んでもらう事にした。 士郎ならば、屋根伝いに移動する事も出来るので、人目に触れる機会がぐんと減るのである。
本日、ユーノは何度驚愕の思いに立たされたのであろうか? 魔導師でもないのにひょいひょいと屋根伝いに走る士郎。 更には伝説と化していたアルハザードの生き残りや、管理局の闇の一部を知り、果てはジュエルシードの製造元まで知ってしまい、いくら聡明な彼でも思考が追いつけないのであった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.66 ) |
- 日時: 2013/01/29 07:52:28
- 名前: 孝(たか)
- アレから少々時間が経過した。
氷牙の血でべったりと紅く染まったまま街中を走る訳にはいかないので、なのははバリアジャケットを身に纏う事で血に濡れた服を隠した。
弘政にはそんな便利な物はないのでどうしようか迷っていたが、久遠が弘政を抱きかかえ、士郎の後に続いて屋根伝いにひょいひょいと移動する事で事無きを得た。
高町家に到着すると、桃子と美由紀の二人掛かりで氷牙の血を優しく濡れタオルで落とす。 なのはと弘政の服はもうどうしようもないので捨てる事に・・・が、氷牙の事が心配で、服の事などどうでもよくなっていた。
氷牙の身体を綺麗にすると、後は安静にさせるだけだ。 多少心配ではあるが、傷も治りかけているので大丈夫とガングニールは答える。
そして、何があったかを説明する事にした。
高町家のリビング・・・そこには、弘政の祖父母も呼ばれていた。
士郎「それじゃあ、なのは。弘政君。何があったか、話してくれるね?そこの君も。」
問われ、なのは・弘政・久遠の三人は頷く事で了承を見せる。
ユーノ「その話は、僕からさせてもらいます。」
しかし、そこに割って入る声が一つ。
士郎「!?・・・驚いた。フェレットが喋るなんて・・・」 ユーノ「この姿は、仮の姿です。怪我の治療と、魔力の消費を最低限にする為にこの姿を取っているんです。ちょっと待ってください。」
そうすると、ユーノの身体を翡翠色の光が包み込む。
テーブルから飛び降りると、光は徐々に大きさを増し、なのは達くらいの子供の姿に変わる。
ユーノ「ふぅ・・・これが、僕の本当の姿です。」
そこに居たのは、淡い金髪に翡翠の瞳、民族衣装の様な服装の少年だった。
そして、ユーノは語る。
ジュエルシードの事。
それを発掘したのは自分である事、輸送中に事故に会い地球にばら撒かれてしまった事。
なんとか回収しようとして一つ目は封印に成功し、二つ目には逃亡され怪我で気を失った事。
翌朝なのは達に助けられた事。
その日の夜。取り逃がした二つ目のジュエルシードの思念体に襲われた所を、なのは達にまたも助けられた事。
なのはの眠っていた魔法の才能で、それを封印した事。
そして、今日。三つ目のジュエルシードによって起きた惨劇。
原生生物を取り込んだジュエルシードは通常の思念体より手ごわい事。
そして、最も不運だったのは、取り込まれたのが普通の動物ではなく、久遠という九尾の狐・・・妖怪だった事が今回の災厄を呼び込んだのだろうと言う事。
なけなしの魔力を使って応急処置程度の回復魔法でなんとか氷牙の命をつなげた事。
ここにいる女性が氷牙の話していた久遠である事。
全てを話し終えたユーノは、即座に土下座した。
ユーノ「ごめんない!!僕が、僕がなのはさん達を巻き込んだせいで、氷牙さんが!!本当にごめんなさい!!」
今の自分には謝る事しかできない。 自分の不甲斐無さに、巻き込んでしまった事に、大怪我をさせてしまった事に。 その全てに対して、謝る事しか出来ない自分が悔しくて、涙を流しながら真剣に謝る。
そこに、ユーノの肩にそっと触れる者が居た。
桃子「もう良いのよ。大丈夫。ユーノ君は、責任を取ろうとしただけだもの。自分のやるべき事に、必死だっただけ・・・そうよね?本当は、なのは達にもこんな危険な事をさせるつもりも無かったんでしょう?」 ユーノ「・・・はい。でも、結局巻き込んで・・・あ・・・」
桃子はユーノにそれ以上の事は言わせないかのように、自身の胸に抱き寄せる。
桃子「よく頑張ったわね。もう、我慢しなくていいから・・・ね?」 ユーノ「う・・・うう・・・うわあああああああああっ!?ごめんなさい!ほん・・・どに・・・ごめ、なさい」
ユーノは全てを吐き出すように泣き続ける。 最初から隠さずに話して居ればよかったと・・・後悔の念を抱きながら、泣き続けた。
祖父「さて・・・とりあえず状況を理解した事だ。まず最初にやらなきゃならん事がある。」
そう言うと弘政の祖父は弘政となのはの前までやってくると・・・
祖父「この・・・馬鹿共があああああああああああああ!!!!!」
ゴヅンッ!!!!!
二人の頭に同時に重い拳骨を落とした。
「「!?!?!?!!!?」」
あまりの重さに声も出なかった。 意識が遠退く様な感覚に襲われるが、そのすぐ後に激しい痛みを覚える。
多少慣れていた弘政でも相当の痛みだ。 痛みに慣れていないなのはには死にそうなほどの痛みに相違ないだろう。
祖父「自分達が何をしたか、どうして怒られているか判っておるのか!!」 弘政「あが、がが・・・そ、それ、は・・・危ない事に、首を、突っ込んだ・・・から?」 なのは「はうううう・・・(目が、チカチカする)えと、心配、掛けた・・・から?」
二人は痛いのを堪え、涙目ながらもなんとか思い当たる物で答える。
祖父「違う!!!」 「「ビクッ」」
怒鳴り声に身体をビクつかせ、条件反射の様に目を瞑ってしまう子供達。
祖父「誰かの助けになりたい。友達の力になりたい。大いに結構!じゃがな・・・魔法?大きな魔力?力がある?魔法が無ければ解決できない?たったそれだけで、首を突っ込んだじゃと?笑わせるな!!いくら力があったとて、お前達はまだ子供なんじゃぞ!!」
「「・・・・・・ごめんなさい」」
二人はシュンとして小さくなる。
祖父「どうして儂らに、”大人”に相談しなかったんじゃ!?もし今回の事で、怪我をしたのがあの子だけでなく、お主ら二人も怪我をしていたらどうなっていたと思う!この小僧は、あの子一人を治すのが限界だったと言う。ならば、同じ重傷を負った者が3人居たら、救えたのは1人だけ、それも、運び手も居て初めて命を取り留めた様なものじゃ!一つ間違えば、お主たち全員が死んでいたかもしれないんじゃぞ!?」
弘政の祖父は二人の認識の甘さをこれでもかという程判らせるように怒鳴る。 しかし、それは二人を心配しているからこそである。
「「・・・あ・・・あう・・・」」 祖父「判ったら、二度と隠し事などせずに、”大人に頼る”事を胸に刻む事じゃ・・・良いな?」 「「う・・・うう〜〜〜・・・うわああああああん!!ごめんなさい!ごめんなさい!!ううう!!うあああああ!ああああああ!!」」
二人は弘政の祖父に抱きついて思いっきり泣きじゃくる。
祖父「よしよし。痛かったじゃろ。怖かったじゃろ。すまんな。儂は、こういう性分じゃからな。・・・今は、思いっきり泣くと良い。」
弘政の祖父は二人を抱きしめて自分の胸で落ち着くまで泣かせるのだった。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.67 ) |
- 日時: 2013/02/11 20:51:19
- 名前: カイナ
- 久遠の事件から数日が経ち、なのは達も落ち着きと普段の生活を取り戻した頃。なのははアリサ、すずかと共に士郎がオーナー兼コーチをしているサッカーチームの試合を見に来ていた。ちなみに弘政はなのは達と共におらず、むしろ邪魔くさい一刀がなのはに付きまとっていた。
すずか「でも、弘政君が来ないというのは残念だね」 なのは「うん。弘政君、弘政君のおばあちゃんが師範やってる薙刀道場に薙刀習いに行ってるから」 アリサ「薙刀って……あいつのおばあちゃん何してんの?」
付きまとってくる一刀をシカトして三人は話しており、すずかの残念そうな言葉になのはが返すとアリサが頬をひくひくさせながら呟く。
なのは「えっと、おばあちゃんは薙刀と茶道の師範で、おじいちゃんは空手の師範だって言ってた。それで最近放課後塾がない日は毎日どっちかに通ってるよ……今はまだ筋トレとかの基礎しか出来ないけど、力をつけなきゃって」 アリサ・すずか「「ふ〜ん?……」」
なのはの説明にアリサとすずかはそう呟いて首を傾げる。
一刀「ねえねえなのはちゃん、あのモブがいなくなったことだし、一緒に遊ばないかい?」
アリサ「あ、始まったわ」 すずか「皆ー、頑張れー」 なのは「頑張れー!」
そして一刀は安定のウザさを保っていたが三人とも慣れたように完全シカト。サッカークラブの人達の応援に集中していた。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.68 ) |
- 日時: 2013/02/17 01:03:34
- 名前: 孝(たか)
- 第十五話〜決意の時、なの〜
氷牙「えっと・・・ここで良いのかな?」
なのは達がサッカー部を応援していると、聞き覚えのある声がしたので振り返る三人娘。
なのは「氷牙くん!来てくれたんだ?」 アリサ「怪我の方はもう良いのかしら?」 すずか「心配したんだよ?」
すぐさま氷牙に駆け寄り、詰め寄るすずかとアリサ。
氷牙「う、ん。もう、大丈夫。明日からは学校も行ける。」
大抵の怪我はすぐに治ってしまう氷牙だが、今回の怪我はユーノのおかげもあり更に早く治癒する事が出来た。
本来なら例え氷牙でもあと数日は要したであろうが、元々の回復力の高い身体に、ユーノの回復補助も手伝って予定よりも早く完治できたのが幸いした。
一刀「おい。」
ピピーーー!!
一刀がなのはの事で氷牙に詰め寄ろうとした時、ホイッスルが鳴る。
一刀以外の全員がそちらに振り向くと、どうやらスライディングのタイミングがずれ、翠屋JFCの方に怪我人が出たようだ。
今日はたまたま補欠が全員来れなかったので、このままでは棄権という事になる。
どうしたものかとコーチである士郎がふと周りを見渡すと、氷牙が眼に映った。
士郎「氷牙君!ちょっと来てもらえるかい!」
呼ばれ、氷牙は首を傾けながらも斜面を綺麗に滑り降り、士郎のもとへ駆け寄る。
一刀「ちっ・・・」
逃げられたと思い舌打ちする一刀だが、これでなのはは自分と一緒に居るのだから良いかと思いなおすと、なのはに振り向く一刀。
一刀「それでさ、なのは・・・ちゃん?」
しかし、振り向いた先にはなのはどころか三人とも居なかったキョロキョロと辺りを見回すと、三人とも氷牙と共に士郎の所へ向かっていたのだった。
士郎「氷牙君。すまないが、試合に出てくれないかな?」 氷牙「試合?・・・サッカーの?」 士郎「あぁ。最悪、メンバー合わせだから立っているだけでもいいんだが・・・どうかな?」
遠慮がちに聞いてくる士郎に対し、氷牙はポケ〜っとしながら答える。
氷牙「大丈夫。ルールも、授業で覚えてるから、出来る。」 士郎「本当かい?それじゃぁ、お願いしても良いかな?」 氷牙「ん。」
流石にユニフォームは無いので、ゼッケンだけ身につけ参加する氷牙。
なのは「だ、大丈夫かな?」 アリサ「氷牙って、運動神経は良いけど・・・怪我、治ったばかりなんでしょう?」 すずか「無理してなきゃいいけど・・・」
三人はハラハラと氷牙を見ている。
そんな三人を見て、一刀は氷牙を気に食わない奴ランキングのブラックリストに弘政ともども乗せるのだった。
一刀「あの野郎・・・奴と同じモブの癖に・・・ふん。なら、なのはちゃん達に無様な姿を見せて嫌われるがいいさ。」
一刀は風を操り、不可視の魔法を放つ準備に入る。 認識阻害の魔法を使い、なのはにばれない様に魔力を感知出来ない様にしている。
審判「試合再開!」ピ〜〜〜!
氷牙は一応ディフェンスの方へ回された。
しかし、相手のチームは氷牙のポケポケした雰囲気を見て、素人と判断。 多少遠周りになろうとも氷牙の方へ向かい、楽に抜いてやろうと考えていた。
少年1「うおおおおおおお!!どけどけ〜〜」 氷牙「あ、きた。」
少年1「オラオラ〜〜!!」 氷牙「・・・・・・・・・ん。」
しかし、氷牙は意図もあっさりボールを奪い返す。
少年1「・・・へ?」 氷牙「じゃ。」
スタタタタタ・・・
ボールを奪ってからの氷牙の快進撃が始まる。 スライディングしてきた少年2をボールを踏んで届く前に止め、両脚で挟んで側転で避けて見せた。
少年2「・・・はぁ!?」
そんな避け方する様な奴は普通居ない。というかしようとも思わない。 そんな少年2の動揺を無視して更に進む氷牙。
それをみて脅威と判断し始めた相手チームは、今度は二人掛かりで氷牙に向かってきた。 両サイドから氷牙に並走して接近し、ボールを奪う魂胆だったのだろう。 しかし、氷牙は先程と同じようにボールを踏んで止めると、迫ってきていた二人は反応が遅れて氷牙を追い越してしまう。
その隙に、氷牙はゴール近くのしかも相手チームが一番少ない味方にロングパスして見せた。
氷牙に与えられた役割はディフェンス・・・守りだ。 ならば、自分がすべきことは攻める事ではなく、如何にボールと味方のゴールを守るか。
ならやる事は単純。 ボールを取ったらゴールから離れ、相手のゴール近い味方に渡すだけだ。 無理に攻める必要はない。 点取りは味方に任せ、自身はボールを死守して渡せばいい。
ロングパスされた味方も多少戸惑っては居たが、ボールが来ると、一瞬早く相手キーパーよりも正気に戻り、シュートを決めた。
キーパー「あ・・・!?」
キーパーが気付いた時には遅く、ボールはゴールポストに収まった。 ピピーーとホイッスルが鳴り、皆がゴールした事を認識した。
次のターンが始まり、1度で氷牙の厄介さを理解した相手チームは氷牙を三人でマークし始める。
氷牙1人に3人もメンバーを割けば、他の場所に隙が出来る。 ならば、と。氷牙はその三人を引き寄せる事にだけ集中し、ボールへは位置確認程度に留め、マークしてきた3人の体力を奪っていった。
そうしている内に、また得点が入った。
相手のチームはまたも作戦を変更し、氷牙へのマークを2人に減らして最小限の動作で氷牙をボールに近づけさせないようにした。
しかし、まるでそれすら読んでいたかのように、今度は氷牙自らボールを追いかけた。
そうすると、今度はボールを取らせまいと相手チームが氷牙を再び3人で囲む様に抑え込む。
だが、それが氷牙の狙い。 相手を自分に引き付ける事で、味方に攻めやすくするのだ。
翠屋JFCの凄いところは、見知らぬ少年が味方に入ってきても連携を取れるように心がけている所だ。
無理に1人で攻めるのではなく、全員で協力するチーム。 当たり前の事だが、それが出来ていないチームとは存外に多い。
なにせ、皆小学生だ。目立ちたい、可愛い子に良い所を見せたいと思うものだ。
だが、翠屋JFCは士郎がコーチしているチームだ。 士郎の娘のなのはが時たま練習を見に来たり、練習後に翠屋でおやつを御馳走して貰う時に美由紀や母の桃子に会えたりするのだ。
目立つ必要はない。 全員が等しく徳をするチャンスがある。
ならば、全員で勝てばいい。 なら協力して望めばいい。
士郎の教えは1人はみんなの為に、みんなは一人の為に、だ。
故に、皆等しく頑張れる。協力出来る。
そうして試合は進んでいき・・・
ピピーーーー!
審判「試合終了!7対1で、翠屋JFCの勝利!」
『『『ありがとうございました!!!』』』
両チーム礼をして終わる。
その後、氷牙がもみくちゃにされるのは必然と言えた。
因みに、一刀はと言えば・・・
一刀「待てやこの野良共があああああああああ!?!」
野良犬にオシッコ掛けられ、鴉や鳩から糞を落とされ怒り狂っていた。
いざ氷牙に魔法を当てようとすると、周りに居た野良犬や野良ネコ、鴉や鳩がそれを邪魔していた。
この街の動物達は皆氷牙の友達と言える。
動物達は氷牙に危険が及ぶと判ると、それを知らせてくれる。 故に、動物達は野性的勘で一刀を妨害した。 それが功を成し、一刀の魔法が放たれる事は無かった。
はのは「あ、動物を追いかけまわしてる・・・」 アリサ「まったく、野蛮な奴ね。」 すずか「あ、噛まれた。」
一刀「いってえええええええええええええええええええ!?!」
そんな場面を見たなのは達は、一刀への評価を更に下げさせる事になった。
と言っても、一刀の評価が+数値になった事などただの一度も無いのだが・・。
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