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魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜
日時: 2012/06/17 02:47:22
名前: 孝(たか)

アルハザード……遥か昔に大次元震動により滅び、人々から忘れ去られた超科学都市と謳われた世界…


シナプス……天上人(てんじょうびと)が住まい、天使の舞うヴァルハラと謳われし世界…


ペルソナ……ラテン語で「人」・「仮面」を意味するが、遥か太古では「本能」とも言われ、現代では「もう一人の自分」、別人格が具現化した特殊能力を指す。


魔族……人間達には悪魔として認識される存在ではあるが、本来は誇り高く、気高い種族であり、人間とは比べるのもおこがましい程の強大な力を持っている。


魔王……魔族や悪魔を統べる絶対的存在。その魔王にも、「善・悪」が存在する。


天使…天上人、あるいは「神の御使い」と言われる尊き存在。清き心のまま亡くなった者達を極楽浄土へと導く存在と謳われている。


これらは遥か太古の時代に存在し、現代では大昔の空想・偶像・伝承となっている。


だが…それは間違いである。


魔族も…天使も…悪魔も…神も…


人間達に感知出来ていないだけで…


別の次元…

別の世界…

隣り合う世界でありながら、決して近づく事のない。

そんな世界に……存在しているのだから…。


そして…これは…そんな伝承に語られた者達が出会う…

そんな物語…

なのは「魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜……始まります。」

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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.89 )
日時: 2013/09/02 09:45:33
名前: 孝(たか)

氷牙G「ふぅ・・・任務完了。憑依・・・解除します。」

氷牙の身体に負担を掛けない為に早々に決着を付けたガングニールは、ユーノにフェイトをバインドで腕だけを拘束するように頼むと、憑依を解除する。

氷牙「・・・・・・お疲れ様、ガングニール。」
『勿体無きお言葉・・・氷牙様。お体の具合はどうですか?』

身体を貸しただけとはいえ、5年振りの戦闘である。多少の疲労は出るだろうと予想したガングニールは氷牙に問う。

氷牙「・・・?何もない、大丈夫。」

しかし氷牙は笑顔で何ともないという。

氷牙「それじゃぁ・・・自己紹介。僕、氷牙。高町、氷牙。」

氷牙は笑顔でフェイトに自己紹介する。

フェイト「・・・フェイト、テスタロッサです。」
アルフ「・・・アルフ。」

フェイトは氷牙の笑顔の自己紹介に戸惑いつつも自身も名乗り、アルフも少々ぶすくれているが名乗る。

なのは「私、高町なのは。なのはだよ!」
弘政「僕は、黒鷹弘政。宜しく。」
ユーノ「僕はユーノ・スクライア。君と同じ、ミッドチルダ出身の魔導師だ。」
フェイト「使い魔じゃ・・・ない?」

ずっとフェレットの姿なので、使い魔だと勘違いしていたフェイト一行。まぁそれも仕方ない事だろう。

ユーノ「ジュエルシードの護送中に事故でこの世界にジュエルシードがばら撒かれちゃってね。僕が先行して被害を減らそうとしたけど、思念体にやられて・・・しかも、この世界の魔力が不適合でね。魔力の回復に時間がかかるせいで、この姿で過ごしてるんだ。それで仕方なく苦肉の策として現地人のなのは達に協力を願ったんだ。」

ユーノは簡単にだが今までの事を話す。警戒はしているがお互いに腹を割って話すべきという事で一応は落ち着いている。

弘政「僕の場合は、たまたま見ちゃっただけだけどね。」
なのは「氷牙君は・・・その、巻き込まれちゃって・・・でも、ジュエルシードは、氷牙君が居た世界で作られたモノらしくて、最初は偶然だったけど、今は自分の意志で集めてる。だって、この世界が滅茶苦茶になるの、嫌だから。だから、私はユーノ君に協力してる。これが、私の理由。フェイトちゃんは・・・?」

自分達の状況をまず話す事で、相手にも話しやすい状況に持っていくなのは達。しかし、打算ではなく素でやっているので末恐ろしい。

フェイト「私は・・・」
アルフ「フェイト。答えなくていいよ。」
フェイト「アルフ?」

フェイトが答えようとすると、アルフが止める。

アルフ「優しくしてくれた人達のとこで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてるガキンチョになんか、何も教えなくていい。私達の最優先事項は、ジュエルシードの捕獲。それだけだ。」

それだけ言うと、アルフは口を閉じてそっぽを向く。

『ふん。何を言うかと思えば・・・なのは殿達は甘ったれではない。貴様と違ってな。』
アルフ「なんだって?アタシが甘ったれだと!?だったら、あんた達にフェイトの何がわかるって言うんだい!!」

ガングニールの物言いに腹が立ち、喰ってかかるアルフ。

『なのは殿達は、それなりの困難をくぐり抜けた。初めての魔法行使でのジュエルシードの思念体との戦闘。眼の前で、思念体によって傷付けられた氷牙様を目撃するという恐怖。ご自身の父君が生死の境を彷徨い、誰にも迷惑をかけない様に孤独を受ける困難すらも耐え抜き、果ては・・・7年もの執拗なストーカーにも耐えきるという困難を乗り越えた!だというのに貴様と言えば・・・』

溜め息を吐きながら言葉を切るガングニール。

『言うに事欠いて、何が判るだと?それこそ甘ったれたクソガキであろう!!』
アルフ「なんだと!?」

クソガキという発言にブチ切れるアルフ。だが、ブチ切れているのはガングニールも同じであった。

『何も言わず、何も話さず、何も知って貰おうともせずに自身を理解しろという事こそ、甘ったれのクソガキである証拠であろう!』
アルフ「く・・・ぬ・・・」

アルフは顔を歪め、睨みつける。言い返したいが、正論でもある為二の句が継げないのである。

『何の為に氷牙様がわざわざ話し合いの場を用意したと思っている!極力傷つけあう事を避ける事と、お主らの事を理解したいと願ったからである!そもそも、ジュエルシードの所有権は現在では氷牙様のみが持つ事を許される!それを貴様らは勝手に使おうという始末。発掘したユーノ殿はまだ譲歩できる。しかし、貴様らは掠奪者といっても言い逃れのできぬ状況を理解しているのか!』

事実、なのは達を襲撃して、子猫のジュエルシードを持ち去った経緯もあるので、言い逃れもできない。

『氷牙様は、事情さえ話せば譲る事も吝かではないとお思いだ。』
ユーノ「えええ!?ちょっと!僕そんな話聞いてませんよ!?」
『当然です。関係者全員が揃ってから話そうという事になっていましたからな。』
ユーノ「そんな勝手な・・・いやでも持ち主は氷牙さんかも知れませんけど、相談くらいは・・・」
『ジュエルシードを、管理局に渡す訳にはいきませんからな!だからこそ、ユーノ殿には黙っていました。』

所有権は氷牙にあるのだから、譲渡も勝手だと主張するガングニール。
だが、発掘されたという事は、所有権を放棄したという事ではないのかと思うユーノ。
実際は見つからない様に封印したのをユーノが発掘してしまっただけなので、所有権を放棄したわけではない事を、以前話していた事を思い出して押し黙ってしまうユーノだった。

なのは「ご、ごめんねユーノ君。私達は一応聞いてたんだけど・・・」
弘政「一応、管理世界だっけ?の、出身であるユーノには自分で話すから黙っててほしいって言われてたから・・・ごめん!」

どうやら2人は話を聞いていたようで、秘密にしていた事を両手を合わせて謝るのだった。

氷牙「えと・・・話して、くれる?なんで、ジュエルシード。必要なの?」

キリの良い所で、氷牙がフェイト達に問う。このままガングニールに任せていたらまた説教で終わるのだろうと思っての配慮であった。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.90 )
日時: 2013/10/13 00:56:10
名前: 孝(たか)

フェイト「・・・・・・さんに、・・・・・・て」
氷牙「・・・??」

よく聞き取れなかったのか、首を傾げる氷牙。それに気付いたフェイトはもう一度話す。

フェイト「母さんに、頼まれて。どうしても、ジュエルシードが必要だって・・・。」
『理由は?まさか、理由も無くこの様な物を求めるとは思えんが・・・』

母に頼まれたと聞き、集める理由を問うガングニール。しかし、それと同時にフェイトは俯いてしまう。

アルフ「・・・わからないさ。あんな物を集める理由なんて。あたしらは理由を聞かされてない。ただ必要だから集めてくるようにってね」

フェイトの代わりにアルフが答える。だが、その表情は憎しみで歪んでいた。まるで吐き捨てる様に、だ。

『(ふむ・・・何故にジュエルシードを集めるのか不明。理由も無く集めるにしては”アレ”は人間には過ぎた物。今現在でアレを真に使いこなせる者など、記憶を失う前の氷牙様くらいのもの・・・一度直接会ってみるか?いや、しかしそれでは氷牙様にもしもの事があっては・・・う〜む)』

フェイト達の話をさわりだけしか聞いていないが、何か複雑な事情があると察したガングニールは思考に耽ってしまった。

氷牙「・・・お母さんの、為?」
フェイト「・・・そう、だよ(そうだ。私は、母さんの為に・・・)」
アルフ「(フェイト。隙を突いて、ジュエルシードを奪って逃げよう。フェイトの速さならきっと逃げ切れ・・・)」

『簡単に逃げ切れるとは思わぬ事だ。』
「「!?!」」

アルフはフェイトに念話を飛ばして逃げる算段を付けていたが、あっさりとガングニールに見破られてしまった。

『全く。小娘共め。そう簡単に逃げられると思うてくれるな。余り私を嘗めるようなら・・・今度はその足を切る。』

躊躇なく言われた事にたじろいでしまう2人。よもや鉄板の放つ殺気で動けなくなるとは思いもしなかった。

氷牙「ガングニール。喧嘩、ダメ。」
『・・・承知しました。小娘共、次は・・・ない。』

氷牙に中止され、仕方なく殺気を納めるガングニール。だが、それが功を成したのかフェイト達は逃げるのを諦めてくれたようだ。

氷牙「・・・なのは。朝、近い。旅館、戻る。2人も、一緒。良い?」
なのは「え・・・えっと、私は良いけど・・・」
ユーノ「勝手に連れ込んでいいのかな?」

3人がうんうん悩んでいると・・・スッと弘政が手を上げる。

弘政「大丈夫だとは思うけど・・・もし理由を聞かれたら、恭也さん達が起きなかった事をネタにして見るとかどう?」

弘政、年齢の割に意外とずる賢い子でした。いや、祖父の博吉があのような人だ。弘政にもその強かさがいくらか遺伝していてもおかしくは無いだろう・・・多分。

氷牙「じゃぁ、行こう?」
フェイト「え?、え?あの・・・!」

いきなり事が進み、氷牙に手を握られてあたふたするフェイト。男の子に手を握られた事など初めてなのだろう。どことなく初々しい。

氷牙「早く戻る。心配される。」
フェイト「で、でも・・・いきなりいって迷惑じゃ」
氷牙「ん〜〜〜」

後ろでフェイトが色々言っているが既に疲れて半分寝ている状態で歩く氷牙には聞こえていない。

因みに・・・部屋に着いたと同時に氷牙はフェイトを抱き枕の様にして寝てしまった。
勿論、突然抱き締められたフェイトは顔を真っ赤にして硬直してしまっている。

アルフも何か言いたそうにしていたが流石に大騒ぎになると分かってモヤモヤしながらも狼形態で氷牙とフェイトの近くで丸くなる。というか、狼形態でいる事の方が大騒ぎになりそうだという事に気付くべきだ。

頭と背中を抱えられて、氷牙の胸元に押しつけられる様な体勢のフェイトは、最初は真っ赤になって硬直していたが、氷牙の寝息を聞きながらトクントクンと氷牙の心音を聞いていると少しずつ緊張が解れて来た。

フェイト「(なんだろう・・・すごく・・・落ち着く)・・・・・・・・・すぅ、すぅ・・・」

そして、今までジュエルシード捜索での疲れが出てきたのか、氷牙の心音を子守唄にして眠ってしまった。

因みの因みに、氷牙の大胆な行動になのはも弘政もユーノも顔を赤くしていたが、ドギマギしながらもなんとか落ち付けて床に就いたのだった。

朝、子供達を起こしに来た美由紀が狼形態のアルフが氷牙の近くで寝ていて、更には氷牙が女の子(フェイト)を抱きかかえて寝ているというダブルショッキング映像でフリーズしたのは、仕方のない事である。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.91 )
日時: 2013/10/14 11:37:20
名前: カイナ

朝食を終え(フェイト達の分も追加注文した)、なのは達子供メンバーは士郎達大人メンバーの前に座る。それは以前ユーノが士郎達に魔法の存在を明かした時と同じ光景だ。ちなみにそのユーノも今は少年の姿を取っており、アルフも大人の女性の姿になって暇潰しに弘政に抱きつき遊んでいる。弘政は(元は狼とはいえ)外見は美人なお姉さんに抱きしめられているため顔を赤くして照れ隠しのようにじたばたもがいており、アリサはそれを炎が燃えているようなオーラを発しながら目を鋭く研ぎ澄ませて睨み、すずかも氷のように冷たいオーラを発しながら黒い笑みを浮かべて眺めている。
昨日出会った謎のお姉さんが何故かここにいて弘政に抱き付いているというインパクトがあるせいかユーノが少年モードになっているのにさほど興味を向けていなかった。まあアリサとすずかが起きた頃には彼は既に少年モードになっていたため彼女らからすればユーノがいない代わりに知らない子がいる程度の認識なのだが。

士郎「ごほん……それで、お嬢さんはどなたなのかな?」

氷牙「この子はフェイト……僕達と同じ、ジュエルシードを集めてる……」

士郎がごほんと咳払いをしてフェイトに問いかけ、それに氷牙がフェイトを紹介する。

すずか「じゅえるしーど?」
アリサ「なに言ってんの、氷牙?」

ユーノ「あはは。まあ理解できなくてもしょうがないかな?」

すずかが首を傾げ、アリサが呆けた声を出すとユーノは頬をかいて苦笑する。と、アリサがユーノを睨んだ。

アリサ「つーか、そもそもあんたも誰よ?」

ユーノ「……あ、そっか。二人が寝てる間に変身解いちゃったんだっけ。ちょっと待ってね……」

アリサの言葉にユーノは気づいたようにそう呟き、そう思うと彼の身体が翡翠色の魔力光に包まれる。そしてその光が徐々に縮んでいき、光が弾けた時そこにはフェレットモードユーノが立っていた。

ユーノ「ほら、僕だよ僕」

アリサ・すずか「「……」」

右手――今の状態で正確に言うならば右前足――をぴょこぴょこ動かしながらそう言うユーノにアリサとすずかは目を点にして固まってしまった。まあ目の前で少年がフェレットに変身しては無理もない。ぶっちゃけ平然と受け入れていたなのはや弘政、そしてその親族の方が異常と言っていいだろう。

アリサ「ユ、ユ、ユ、ユ、ユ、ユ……ユーノ……なの?」

ようやくフリーズから解けたアリサがぶるぶると震わせている指をユーノに向けて呟き、それにユーノは気まずい様子で目を逸らす。

ユーノ「う、うん……この姿は仮の姿で、訳あって魔力の消費を最低限にするためになってて……それから、その……アリサさんとすずかさんが高町家ペットのフェレットとして扱うから、言い出すタイミングがなかったというか……そもそも秘密にしてたというか……」
アリサ「な、な、な、な、な……なのは……知ってたの?」
なのは「え、えっと……うん……私だけじゃなくって、弘政君も……」
アリサ「弘政ーっ!!!」

混乱の極致にあるアリサの言葉になのはが曖昧に頷き、弘政もユーノの正体を知っていたと呟くとアリサは真っ赤な顔で弘政目掛けて突進、アルフを突き飛ばすと彼にヘッドロックをかけた。

アリサ「なんで!! あんた!! 教えないのよ!!??」
弘政「痛い痛い痛い!!! だ、だって秘密にする約束だったしそもそも言ったってこんな事普通信じる!!??」
アリサ「うるさいうるさいうるさーい!!! あ、あたし、ユーノにあんな事やこんな事しちゃったのよどうしてくれんのよー!!! つーか昨日も危なく女湯連れ込むとこだったじゃないのー!!!」

要するにただの八つ当たりだ。ついでにアリサより少し遅くフリーズから解けたすずかも顔を赤くして弘政をぽこぽこと叩き八つ当たりしている。まあ事情を知っているらしい中で彼女らが一番八つ当たりしやすいのは確かに弘政であろう。

恭也「……まあ、あっちは弘政君に任せておくとしよう。それで、フェイトさん。君は何故ジュエルシードを集めているんだい?」

話をスムーズに進行させるためにしばらく弘政にはアリサとすずかの八つ当たりサンドバッグになってもらうことにして恭也はフェイトにジュエルシードを集める目的を尋ねる。

フェイト「……母さんに、頼まれて。どうしても、ジュエルシードが必要だって……」
士郎「ジュエルシードが必要? ユーノ君、たしかジュエルシードは……」
ユーノ「はい。ジュエルシードは普通の人間にまともに扱えるようなものではありません……」
ガングニール[私も同意見です。あれをまともな人間が完全に制御・使用できるとは到底思えません]

フェイトの言葉を聞いた士郎がユーノに尋ね、ユーノが意見を述べるとガングニールも同意する。

アルフ「でもアタシらはそれ以上知らないよ。ジュエルシードを集めろ、そうとしか聞かされてないからね」

そこにアルフが胡坐を組みながら返す。弘政で遊んでいたがアリサに突き飛ばされてやる事がなくなっていた。

美由紀「あなたは?」
アルフ「アタシはアルフ。フェイトの使い魔さ」
桃子「使い魔?」
ユーノ「魔導師が使役する人造生物の総称です。魔導師、この場合フェイトさんの魔力を分け与えられることによって生き、その代わりに魔導師を守る……パートナーみたいなものですね」

美由紀と桃子がアルフの存在に首を傾げ、ユーノが説明する。それに対しアルフはふんっと鼻を鳴らした。

なのは「ねえ、フェイトちゃん」

と、なのはがフェイトに声をかけ、フェイトも「何?」と言いたげに無言でなのはの方に顔を向ける。

なのは「一緒にジュエルシードを集めない?」

ユーノ・弘政・アルフ「「「はぁ!?」」」

なのはの提案にユーノと弘政、さらにアルフまでもが驚愕の声を上げる。ちなみに弘政は羞恥か怒りかでまだ顔が赤いアリサに逆エビ固めをくらわされ、真っ赤な顔で頬を膨らませているすずかに押入れから引き出してきた枕で頭をボフボフ叩かれるという未だ八つ当たりを受けている中、なのはの話の流れ上重要そうな言葉に反応するのは流石と言えよう。

ユーノ「な、なのは! なんでそんな事を!?」
なのは「だって、フェイトちゃんはお母さんのためにジュエルシードを集めてるんでしょ? だから、私達と一緒にジュエルシードを集めて、それからフェイトちゃんのお母さんに、なんでジュエルシードを集めてるんですかって聞けばいいんだよ」
ガングニール[なるほど。それは私にも興味があります……]

ユーノが焦ったように叫ぶとなのはがそう言い、それにガングニールはフェイトの母親に話を聞く、という事には興味があると返す。

アルフ「口車に乗っちゃダメだよフェイト! 絶対どこかで裏切るに決まって――」
ガングニール[……]

アルフは慌てたように叫ぶがガングニールが彼女にピンポイントで殺気を放つとその言葉が止まる。

なのは「騙そうなんて思ってないよ! ただ、ジュエルシードを集めるっていう目的が同じなら協力した方がいいと思って……」

なのははおどおどとしながらフェイトにそう言う。ちなみにその後ろでは弘政がいい加減逆エビ固めがきつくなってきたのかバンバンと床をタップし、アリサが逆エビ固めを解きそれに弘政がほっとしたのもつかの間、アリサは素早く回転して弘政の背中に身体全体でのしかかると今度はチョークスリーパーへと移行。それに弘政は苦しげな表情ながら、浴衣という薄い衣服のみでアリサと密着していることに顔を赤くしており、それを見たすずかは面白くなさそうな目を向けると弘政に右手でアイアンクローを仕掛けた。ちなみに左手で弘政の口を塞いで両足で彼の両腕の上にのしかかり、彼が悲鳴を上げたり暴れたりして話し合いが中断しないよう気を遣っている。違う方向での気の遣い方というか彼女の方は若干冷静さを取り戻しているようだ。

フェイト「……」

フェイトはなのはの提案に少し黙り、チョークスリーパー&アイアンクローを無抵抗で受けていた弘政が“落ちる”と、それを合図にしたように口を開いた。

フェイト「分かった」
アルフ「フェイト!?」
フェイト「同じジュエルシードを狙ってる時は協力する……けど、それ以外では干渉しない……」

つまり同じジュエルシードを狙う時は共同戦線を組むがその時だけの仲間、という扱いらしい。

なのは「うん。とりあえずはそれでいいよ! そこからお友達になろうね!」

しかしなのはは嬉しそうに頷いてフェイトの手を取り、彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めてうつむいた。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.92 )
日時: 2013/10/24 19:29:52
名前: カイナ

アリサ「そんでなのは、魔法って一体いつそんなのに巻き込まれたのよ?」
なのは「あ、うん。ほらユーノ君、塾に行く途中にフェレットを見つけたでしょ? その夜に変な声が聞こえて、あとでユーノ君が念話で呼んだんだって分かったんだけど……」

弘政を落とした後にアリサはなのはに尋ね、それになのはは話し出す。フェレット――ユーノと出会った夜にジュエルシードの力を受けた何かと戦いを繰り広げたこと、今日の旅行にも同行している狐――久遠がジュエルシードの力によって暴走、氷牙が死にかけるほどの重傷を受けたこと、ついでについ先日街を襲った謎の大樹事件もジュエルシードによるものだったことも話していき、アリサやすずかは黙り込んだ。

久遠「くぅん……」
氷牙「久遠は、悪くないよ」

久遠は自分のせいで氷牙が死にかけたことに心痛めたような声を漏らし、氷牙はそんな久遠を慰めるように彼女の頭を撫でる。ちなみに現在久遠は五歳くらいの幼女の姿になり氷牙の膝の上にちょこんと座っていた。

アリサ「なによそれ……氷牙が死にかけたって……そんな危ない事してるの!?」
ユーノ「ア、アリサ! なのはを怒らないで! 悪いのは僕なんだ!!」
アリサ「違うわよ!!」

アリサの怒鳴り声に必死でユーノが叫び、それにアリサは首を横に振って叫ぶ。

アリサ「あたしはね、なんでそんな危ない事してるのをあたし達に内緒にしたかっていうのを怒ってるの!!」

なのは・ユーノ「「!」」

アリサの言葉になのはとユーノは絶句する。ちなみに弘政はまだ気絶しており、氷牙と久遠が「起きてー」、「くぅん」と言いながら揺り起こそうと頑張っている。

アリサ「なのはや弘政が元気なかったの、それが原因なんでしょ!? なんで教えないのよ!?」
なのは「だ、だって危ないし……」
ユーノ「うん。魔法の力がないアリサやすずかじゃ、正直なところ力にはなれないよ……」
アリサ「だからって、なのはを放っとくなんて……」

なのはとユーノの言葉にアリサは悔しそうに言葉をかすらせる。

恭也「魔法の力がなくても、力にはなれる」

と、恭也が口を挟んだ。

恭也「俺には魔力はない。だが、剣でなのは達の力になる事はできる。そしてアリサちゃん、すずかちゃん。二人もなのはの力になる事は出来る」

アリサ「あたし達が……」
すずか「なのはちゃん達の力に?」

恭也「ああ……なのはもきっとこの先、弱音を吐きたくなることもあるだろう。ユーノや弘政は当事者の一人だし男性だ……だが、同じ女子の二人なら気兼ねなく相談できることだってあるはずだ。二人にはその時、なのはを支えてほしい。これも立派な、なのはの力になれる事だ」

なのは「お兄ちゃん……」

恭也の言葉になのははそう漏らし、アリサとすずかはうんと頷き、アリサはなのはを見てにやっと微笑んだ。

アリサ「分かった。じゃ、こっから先は何があったかしっかり聞かせてもらうからね?」
なのは「にゃ、にゃはは……」

その言葉になのはは一筋深い汗をたらしながら乾いた笑みを見せた。

すずか「ところで、魔法って言ってましたけどどういうものが使えるんですか?」
アリサ「あ、それはあたしも気になったわ。やっぱサイコキネシスとかそういうの?」

ユーノ「んーっと。まあ色々なんだけどね、僕のフェレットモードだって変身魔法の一種だし。なのはは飛行魔法とシールド、あと砲撃魔法が一番の得意だね」
すずか「へ〜……空飛べるんだ」
アリサ「んじゃ弘政は?」

ユーノの説明にすずかはふんふんと興味ありげに頷き、アリサはようやく目を覚ました弘政を見て尋ね、話についていけてない弘政が首を傾げるとユーノとなのはは頬を引きつかせた。

なのは「え、えーっと、弘政君は……」
アリサ・すずか「「?」」

なのはの言葉に二人が首を傾げ、ユーノも「あはは」と苦笑した。

ユーノ「え、えっと、その……弘政の魔力は、そもそもこの地球には魔力を持つ者自体稀なんだ。なのははその中でも正直天才って言っていい魔力量を持つ」
なのは「そ、そんな照れるな〜……」
ユーノ「でも、弘政はなんていうか……一言で言うと、出涸らし?」
アリサ・すずか「「出涸らし……」」

ユーノの身も蓋もない言葉にアリサとすずかは気のせいか気の毒そうな目で弘政を見る。となのはは慌てたように両手をばたばたと上下させた。

なのは「あ、でもでも弘政君役に立ってるよ! 弘政君のアドバイスがないと私フェイトちゃんのスピードについてけないんだもん!」
ユーノ「それに、出涸らし魔力だって言っても念話くらいは出来るし!」
弘政「やっと話についていけるようになったけど、二人ともそれはフォローのつもりなの?」

なのはとユーノの慌てたフォローに弘政は静かに呟き、はぁとため息をつく。

弘政「まあ、別にいいけど」
アリサ「念話……っていうとあれ? テレパシーみたいなの?」
ユーノ「そんなものだね」

弘政の言葉の次にアリサが首を傾げて尋ねるとユーノはうんと頷く。と、弘政が思いついたように口を開いた。

弘政「なら、ちょっと僕となのはちゃんで念話を試してみようよ。魔法を使える証拠にさ」
なのは「あ、それいいね!」
アリサ・すずか「「え?」」

弘政となのははうんうんと頷きあい、アリサとすずかが声を漏らすと弘政はアリサに近寄った。

弘政「じゃあ僕がバニングスさんに耳打ちして、それと同じのをなのはちゃんに念話で送るから」
なのは「うん。私はそれを言えばいいんだね?」

弘政の説明になのはは頷き、弘政はアリサの耳に口を近づけアリサはいきなりの接近に頬を赤くするが、彼が何か囁くと途端に顔を真っ赤にした。

アリサ「何言ってんのアンタはぁっ!!!」
弘政「ぺるそなっ!?」

高速で彼の顎を打ち抜くアリサ。その拳の速さと正確さは士郎と恭也をして呆然とするほどのものを持っていた。なお弘政はそれでも念話を送ったらしく、それを受信したなのはのツインテールがぴくんと揺れる。しかし一緒に念話を受信したらしいユーノが目をパチクリさせ、なのはの頬がぴくぴくと引きつった。

なのは「へぇ〜……弘政君、アリサちゃんに“愛してるぜ”な〜んて言ったんだ……」
弘政「あ、正解。裏をかいて、普段なら絶対に言わない事を言えば、それをなのはちゃんが言い当てた時に信用されると思ったんだ〜」

なのはの言葉に弘政は顎をさすりながらにこにこと微笑んで正解という。それにアリサとすずかもぴくっと反応した。

すずか「へぇ〜。そんな事言ったんだ〜」
アリサ「へぇ〜。普段なら絶対言わないんだ〜」

そして地の底から響くような低い言葉と共になのは、アリサ、すずかはにこにこと微笑みながら弘政に向かって歩いていく。

弘政「え、あ、あれ? な、なのはちゃん? バニングスさん? 月村さん? な、なんか目が怖いんだけど……」

なのは達三人は他の人達からは背を向けた格好になっており、唯一彼女らの前に立つ弘政は怯えたように腰を抜かした格好で後ろに下がっていく。しかしやがて彼は壁に追い詰められ、三人に包囲される。

弘政「みぎゃーっ!!!!!」

そして弘政の悲鳴が響き、恭也や忍、ノエルにユーノがため息をつき、ファリンはおどおどとしてその光景を見つめ、士郎と桃子は困った様子で顔を見合わせる。

フェイト・アルフ「「……」」

フェイトとアルフはその光景をぽかんとした様子で眺め、その横で氷牙があははと笑う。

氷牙「みんな、今日も仲良し」
フェイト「仲良し?……だって、あんなに……」

氷牙の言葉にフェイトがきょとんとしながらそう呟く。それに氷牙はにぱーっと笑った。

氷牙「三人とも、本気で怒ってない。ちょっとしたじゃれあい」

弘政「痛い痛い痛い!!! たーすーけーてー!!!」

氷牙がそう言うところで弘政の悲鳴――アリサの逆エビ固め、すずかのハンマーロック、なのはのぐりぐり攻撃を一緒にくらっている――が響き渡る。が、三人とも力を緩める様子を全く見せていなかった。

フェイト「ほ、ほんとに本気で怒ってないの?」
氷牙「うん」
アルフ「そ、それはそれで怖いんだけどさ……」

フェイトの念を押すような言葉に氷牙は迷いなく頷き、アルフが頬をピクピクさせながら返すと氷牙はかくんと首を傾げた。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.93 )
日時: 2013/10/29 04:36:31
名前: 孝(たか)

アリサ「・・・・・・で?」

三人娘が弘政に制裁をくわえ終わり、ジト目でなのは達・・・特に氷牙に狙いを定めて見るアリサ。

氷牙「んゆ?」

氷牙の方は何?という様にコテンと首を傾げる。

アリサ「んゆ?・・・じゃないわよ!死にかける怪我って、一体何されたのよ?て言うか、なのは達が落ち込んで3日もしない内にサッカーしてなかった?」
すずか「もしかして、それも魔法のおかげなの?」

2人は何も知らないのは嫌だと言う様に見つめ続ける。

氷牙「ん〜と・・・久遠、ジュエルシードに吸収された。尻尾、九つある大きな狐になった。前足で叩かれて、鳥居にぶつかった。右肩、折れた。雷、落とされて、感電した。なんとか立ちあがって、久遠、触れようとした・・・大きな爪で身体、削られた。」
久遠「くぅ〜ん」

幼女久遠は申し訳なさそうな顔で、氷牙にそっと抱きつく。抱きつかれた氷牙は、久遠が小さく震えているのに気付いてそっと頭を撫でる。

氷牙「大丈夫。久遠のせい、違う。悪いのは、ジュエルシード。心配、無い。」
久遠「くぅん・・・ん!」

氷牙のほっこりとした笑顔を見て、久遠も一度頷くと頭を預ける様に氷牙にしがみ付いた。

それを見たフェイトは、何故だか胸の辺りがモヤモヤしたがほんの一瞬の事だったので気にしない事にした。

アリサ「・・・あんた、よくそんなんで3日で治ったわね・・・」汗

アリサは何か恐ろしい物でも見るような・・・いや、どちらかというと呆れに近いかもしれない目で氷牙を見ていた。

ユーノ「そう、だね。うん。ギリギリで応急処置程度だけど僕の回復魔法で辛うじて・・・ね。(流石に、氷牙さんが人じゃないなんて、言えないよ・・・)」
なのは「(・・・うん。やっぱり、そう言うのは本人が言わないと・・・ね?)」

弘政「う、う〜〜ん・・・あれ?僕は、一体・・・」
氷牙「あ、起きた。弘政、大丈夫?」
弘政「・・・え?何が?えっと、僕、なんで寝てたんだっけ?」

どうやら3人娘に意識を落とされる経緯はすっかり頭から抜けていた様だ。
余程先程のOHANASIが堪えた様だ。・・・大丈夫なのだろうか?

アリサ「それはそうと・・・アレはいいの?」

アリサの言うアレとは・・・

『あの、すみません。忍殿。どうかご容赦を・・・私は機械仕掛けではないので、分解されると元に戻れませんので・・・!』
忍「ハァ・・・ハァ・・・大丈夫大丈夫。痛くないから、ちょっとだけ、ちょっと分解して弄るだけだから。ちゃんと元に戻すから・・・ね?」

ハァハァ言いながらガングニールに手を伸ばそうとして、恭也に押し留められる月村忍(マッド・サイエンティスト)が居た。

氷牙「大丈夫・・・・・・多分。昔の記憶、無いから、判らないけど。」
アリサ「いや、それなら止めてあげなさいよ」

ダメだコイツ。早くなんとかしないとと思いながら呆れたような視線を氷牙に向けるのだった。

すずか「・・・それで、えっと・・・ガン、グニール・・・さん?でいいのかな?なんで喋ってるの?」
氷牙「ガングニール。意思がある。確か、僕の為に作られた、武装だって、言ってた。」
アリサ「武装??どう見てもただの鉄板じゃない。あんなのでどうやって戦うって言うのよ・・・?」

どこからどう見てもただの六角形の形をした鉄板にしか見えないのだからアリサの言い分は仕方ない。

なのは「うんとね、なんか幾つかの形態があるみたいなの。私が知ってるのは、今の基本形態と、氷牙君の身長くらいある剣・・・みたいな槍と、ボードみたいな形態・・・あ、後はフェイトちゃんと戦ってた時に出した棒の4つかな?」

なのはは指折り数えて思いだしながら答える。

ユーノ「僕は槍を除いた三つだね。」
弘政「右に同じく。」

ユーノと弘政も話に加わり、ガングニールが今か今かと分解されそうな様子を横目に進めて行く。

そこからなのはのデバイスであるレイジングハートの説明に移り、流石にガングニールの声に切実さが増してきたので氷牙によって救出された。

その際、忍が相当残念がっていたのは、敢えてスルーしたのだった。

そうこう話しこんでいる内に、いつの間にかお昼となったので昼食を摂った後は温泉へと赴いた。

氷牙「あ〜う〜」
久遠「く〜ぅ〜」
ユーノ「あ〜〜」
弘政「はぁ〜〜」

氷牙は頭に畳んだタオルを乗せて、中央の大きな岩に背中を預けながら肩まで浸かり、久遠はなんとか獣耳と尻尾を消して幼女形態で氷牙と並んで真似をしながら温泉に浸かる。

同様に、ユーノもある程度魔力が回復したのか今度は人間に戻って久遠を極力視界に入れない様にしながら温泉に浸かる。
弘政もユーノと同じように久遠を視界に入れない様に気を付けながらもゆったりと温泉に浸かる。

氷牙「気持ち、いいね。」
久遠「くぅん!気持ち、いい。」
ユーノ「そうだねぇ。こう、身体の芯から温まるって言うか」
弘政「うん。身体から疲れが抜けだすって言うか・・・」

何ともオヤジ臭い寛ぎ方をする子供たちである。特に、弘政は覚えてないとはいえ先程OHANASIを受けていたので尚更そう感じるのだろう。

一方女湯は・・・

なのは「わぁ〜フェイトちゃんの髪、サラサラだね!」
フェイト「そう、かな?」
すずか「うん!確かにサラサラで、艶もある。いいなぁ」
アリサ「肌もスベスベだし、それに・・・」

じ〜っとアリサはフェイトの一部分を見る。

4人で洗いっこしていると、やれ髪がどうの肌がどうのと女の子らしい会話が出てくる。

フェイト「??・・・!/////」

アリサがどこを見ているか気付いたフェイトは頬を朱に染めてその部分を隠す。

アリサ「私達より一回り大きいわね。」
フェイト「そ、そんな事は・・・」

裸の付き合いとは得てして距離感を縮めてくれるようだ。
壁・・・というか仕切り一枚を越えた先には男湯があるのも忘れてガールズトークは続いていた。

わしゃわしゃわしゃ・・・

氷牙「久遠、大丈夫?」
久遠「んぅ〜〜」

両手で目を隠しながら心なしか震えた声で返事をする久遠は今、氷牙に頭を洗われている。
理由としては、1つ:手が届かない。2つ:慣れていない。3つ:髪が長いので手間がかかるからである。

氷牙「はい。ざば〜〜。」

頭から湯をかぶせて泡を洗い流す。

久遠「くぅん!」ブルブルブル!

動物故か、ブルブルと全身を振るわせて水気を飛ばす久遠。どうやらすっきりしたようだ。
勿論、その間ユーノと弘政は氷牙と久遠を背にする位置の洗い場で身体と頭を洗って居たのだが・・・氷牙達が居る位置よりも女湯に近いので、ガールズトークがハッキリ聞こえており、耳まで真っ赤にしながら色々と耐えていたのだった。

そうして昨日と同じように遊戯場で遊び、夕食を済ませ、就寝となる。

途中、夜中にフェイトがトイレに行き、寝ぼけて氷牙の布団に入ってしまい、朝方再び子供たちを起こしに来た美由紀がまたもフェイトを抱き枕にしていた氷牙を見てフリーズしてしまったのは言うまでも無いのだった。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.94 )
日時: 2013/10/29 21:49:05
名前: カイナ

第一八話〜解放、仮面の力なの。〜

温泉旅行先でジュエルシード争奪戦を争っていた少女――フェイト・テスタロッサとジュエルシードを集める同盟を組んでから、数日の時が経った。

一刀「ウェヒヒヒヒヒヒ」

ある場所。純日本人でありながら銀髪にオッドアイという不思議な、一応イケメンな外見をしている男子――神崎一刀は自分が現在手に持つ青色の宝石――ジュエルシードを眺めながら気持ち悪い笑みを浮かべていた。

一刀「まさかなのはちゃんを追いかけてたら見つけちゃうなんてなー」

どうやらいつものストーカー行為をしている中偶然発見したらしい。

一刀「そうだ……」

と、一刀は何か思いついたようににやぁ、と笑った。

それから時間が過ぎて真夜中。満月が辺りを照らし出す中、ジュエルシードの発動を感知したなのは達はなのはの肩に乗るユーノ先導の元なのはは飛行魔法で、士郎と恭也、氷牙、弘政はガングニールの飛行形態というかダッシュボードの形の状態の上に乗り併走していた。

ユーノ[あそこだ!]

ユーノが叫び、なのはがジュエルシードの方に特攻。ガングニールも地上に降りると普段の手のひらサイズの六角形のものに変化、氷牙の手に戻る。

なのは「フェイトちゃん!」

フェイト「! なのは!」

と、先にやってきていたらしいフェイトになのはが声をかけ、フェイトが驚いたように反応する。

ユーノ「はぁっ!!!」

その間にユーノはこれ以上この場に被害を広げないために結界を張る。今ならまだ暴走を行う前に封印が出来る。と思ったその瞬間ジュエルシードの輝きが強くなった。

ユーノ「暴走だ!」

ユーノが叫び、士郎と恭也はこんな時のために持ってきておいた日本刀を構え、氷牙もガングニールを握るといつでも魔術を発動できるよう詠唱の準備を整える。戦う力を持たない弘政は邪魔にならないよう数歩後ろに下がった。その時ジュエルシードからまるで黒い液体のようなものが溢れ出る。

なのは「な、何!? 何!?」
ユーノ「分からない! 一体なんの暴走が……」

不気味な黒い液体になのはが嫌悪感を抱いたのかレイジングハートを抱きしめながら叫ぶとユーノも首を横に振る。その間に黒い液体はどんどん溢れていきついにジュエルシードを包み込む。と思うとそれは一気に膨張し、まるで巨大な黒いスライムのようになる。さらにそのスライム中から無数の手が伸び、その手に白銀の剣が握られていく。しかしただ一つだけ、額にローマ数字の[T]が描かれている青色の人間の仮面を持っていた。そしてスライムはまるで無数の腕が絡み合っているような姿に変貌すると仮面を持つ手を動かし、まるで顔を回して辺りを伺っているような動作を見せるとその仮面がなのは達の方を向いてぴたりと止まる。

なのは「ひ」
フェイト「……」

何か分からないが嫌悪感を感じ、なのははひっとか細い悲鳴をあげ、フェイトもバルディッシュを構えるがその腰は若干引けているようにも見える。

恭也「来るぞ!」

しかしスライムは構うことなく全ての剣を握る手を振り上げ、それを見た恭也が声を上げた。

一刀「ヒヒヒヒヒヒ」

結界の中。上手く潜り込んだ一刀はビルの上で、謎のスライムと戦っているなのは達を見ながら気味悪く笑う。さっきのジュエルシードは自分の持つ膨大な魔力で暴走している。現在のなのはやフェイトで敵う相手ではないが自分で倒すには問題ない。彼女らのピンチを救いだし、彼女らを自分の虜にさせようという。まあ一言でいえば自作自演だ。

氷牙「堅牢なる守りを、シールド!」
なのは「ディバインシューター……シュート!!」

フェイト・アルフ「「フォトンランサー! ファイア!!」」

士郎「ふんっ!」
恭也「はぁっ!」

氷牙がシールドを張り、なのはがその後ろでシールドをかわすように誘導弾で攻撃、フェイトとアルフは機動力に任せた回避をしながら電撃弾で攻撃。士郎と恭也もヒットアンドアウェイでスライムに攻撃を仕掛ける。

スライム――ギョオオオォォォォッ!!!――

全員『!?』

と、突然スライムが奇声を発し――声を出す器官があるのか分からないため比喩表現であるが――剣を叩き落された手で地面を掴むとなんとシールドを張っている氷牙めがけ突進してきた。

氷牙「ぐっ!?」
ガングニール[氷牙様!?]

スライム――ギョオオォォォッ!!!――

氷牙「わぁっ!?」

大質量の激突に氷牙が僅かに怯み、さらに剣の追撃がついにシールドを破壊。さらに衝撃がガングニールを氷牙の手から弾き飛ばしてしまった。

なのは「きゃああぁぁぁっ!?」

ユーノ・士郎・恭也「「「なのは!!!」」」

そこに間髪いれずに一本の手が伸び、なのはを捕らえると逆さ吊りに吊り上げる。思わずスカートを押さえるがそのせいでレイジングハートを落としてしまい、なのはが捕らえられたことにユーノ、士郎、恭也が声をあげ、直後恭也の目が釣りあがる。

恭也「貴様ぁっ!!!」

ダン、と地面を蹴って飛び上がり、なのはを捕らえている腕を斬り落とす。正に一刀両断。その攻撃が鋭すぎたのか、スライムが悲鳴のような奇声を上げるのは切断された腕の先の手の力が緩み、なのはが脱出して再び宙に浮かんでからだった。

なのは「お兄ちゃん!」

その直後なのはの悲鳴が聞こえ、恭也は直後横から来る嫌な感覚に気づき空中で無理やり身体を捻って刀を嫌な感覚の方に持っていく。

恭也「ぐうぅっ!」

直後、ギャリリリリッという金属の擦れあう耳障りな音が恭也の耳元で響く。スライムはなのはとは違い恭也を躊躇いなく殺そうとしたかのように剣を振るい、恭也はそれをぎりぎり刀を擦らせて受け流していた。しかしただの人間が踏ん張りの利かない空中で完璧な防御というのは不可能、恭也は勢いよく地面に叩きつけられた。

なのは「お兄ちゃん!」
士郎「恭也!」

妹と父が咄嗟に駆けつけ、氷牙も後に続く。恭也はさっきの剣を防ぎきれなかったのか頬にかすり傷程度だが一文字の傷を作り、さらに地面に叩きつけられた背中にも傷が出来ている。

氷牙「癒しの力を、ヒール!」

氷牙が咄嗟に回復魔法を唱え、その間はなのはがスライムの攻撃を防御。さらにフェイトとアルフがスライムの背後から攻撃を仕掛けて気を引く。

アルフ「あーもう! 気持ち悪い!」

アルフは振り回してくる無数の剣をかわしながら叫ぶ。と、スライムは六本ほどの剣をアルフ達に向け、何かくると直感し二人は警戒を強める。その時スライムが剣を振るった。

アルフ「がはっ!?」
フェイト「アルフ!?」

直後、アルフの身体が虚空から発生した爆発に巻き込まれ、自分が反応できないほどの速さの攻撃にフェイトも驚いてアルフの方を見る。その瞬間フェイトの動きは完全に硬直、さらに注意もスライムから離れている。スライムはその隙を見逃さずフェイトを無数の手で攻撃し、バルディッシュを叩き落とす。

フェイト「くっ!?」
アルフ「フェイ、ト……ぐっ……」

一瞬の隙でフェイトは捕まってしまい、爆発をもろに受け地面に墜落したアルフは助け出そうとするがダメージが大きいのかそのまま倒れこんでしまう。

なのは「フェイトちゃん!?」

一方なのは達もフェイトが捕まったことになのはが気づいて悲鳴を上げる。が、その瞬間バリアに張っていた集中が僅かに途切れその一瞬でスライムはバリアを剣で斬り砕いて見せた。

なのは「しまっ――」
士郎「くっ!」

なのは目掛けて再び伸びる手。士郎はそれを瞬時に前に出て斬り裂いて見せる。

スライム――ギョオオォォォッ!!!――

なのは「きゃああぁぁぁっ!?」
ユーノ「わああぁぁぁっ!?」
氷牙「うううぅぅぅっ!!」
士郎・恭也「「ぐああぁぁぁっ!?」」

だがスライムは剣を振り回し咆哮、スライムの握る無数の剣の先から炎が撒き散らされなのは達を襲う。一発一発はアルフを襲った爆発より小さいとはいえ雨のように降り注ぐ爆炎。バリアジャケットに守られていたなのはや咄嗟に防御魔法で身を守ったユーノや氷牙はともかく魔力のない士郎と恭也はその炎の雨から身を守る手段がなかった。

弘政「あ、あ……」

後ろで見ていた弘政は呆然とした様子で声を漏らす。

士郎「弘政君……逃げるんだ……」

士郎が倒れながら弘政に呼びかける。爆発を受け気を失ったなのははフェイトと同じく一本の手に捕まって宙吊りにされている。

弘政(逃げる……確かに、僕がここにいてもなんにもならない……逃げて、お爺ちゃんに相談……でも)

弘政はさっきまでの戦いを見て分析する。相手は何故か分からないがなのはとフェイトを殺す気はないらしい。しかしその代わり恭也を躊躇いなく刺し殺そうとしたりアルフを大爆発で襲ったり、なのはとフェイト以外に対しては殺すことを躊躇する様子がなかった。つまり、このままでは皆が殺されてしまうかもしれない。

弘政「そんなの……やだ!」

友達、そして友達の家族が殺されてしまう。そんな事許せるはずがない。しかし自分には何も出来ない。その無力感から彼は祈るように目を瞑った。

弘政(僕の中に力があるっていうのなら、お願い! なのはちゃん達を助けて!!)

必死で祈り、奇跡を願う。それが今彼に出来る精一杯の事だった。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.95 )
日時: 2013/10/29 21:49:59
名前: カイナ

一刀「さてと、そろそろいくか」

圧倒的不利な状況から助け出す。そうすればなのはちゃんとフェイトちゃんは自分の虜、そう妄想して一刀はふひひと笑い、腰を上げる。

一刀「!?」

その時、彼は何か異変に気付いて足を止める。なんとなく、今出て行ったらいけないような。そんな感覚だった。

ユーノ「う……これ、って?……」

その後傷だらけのユーノも気づく、弘政から何か不思議な力が溢れ始めている事に。彼は無意識にやっているかのように静かな動きでポケットに手を入れると青い不思議な輝きを放つ鍵を取り出す、とそれは片手用の拳銃へと形を変えた。

ユーノ「デ、デバイスなのか!?」

弘政がデバイスを持っていたなんて気づかなかった。ユーノはそういうように叫んでいた。





弘政「……」

いつの間にか拳銃が僕の手に握られてる。テレビでしか見たことがない、人の命を奪う道具。でもなんだか懐かしい、そう思い、つい僕は拳銃を優しく撫でてしまう。分かってしまう、何故か分からない。けど、理解できる。この拳銃をどういう風に使えばいいのか。僕は拳銃をゆっくりと、自分の頭の横へと持っていき、その銃口をスライムではなく自分のこめかみに向け、先端を押し付ける。ドラマとかで拳銃で自殺する人がやるようなポーズにユーノ君が何か叫び声を上げている。だけどドクン、ドクンとやけに鳴り響く心臓の音のせいで全然聞こえない。

弘政「ペ……ル……ソ……」

口をついて出る、昔から謎に思っていた。けどここつい最近すっかり忘れていた言葉。それは何故か、ずっと口ずさんでいたかのように流麗に、口からついて出てくる。

弘政「ナ」

最後の言葉と同時、トリガーが引かれる。頭に衝撃が走り、僅かに頭を揺らす。その時僕は間違いなく……微笑んでいた。





ユーノ「こ、これは……魔力、いや、微妙に違う?……」

ユーノは弘政から感じられる力を分析、しかしそれは彼にとって感じ覚えのない力だった。弘政の背後、その上空、虚空に弘政から溢れ出る力が凝縮し始める。

ユーノ「あれ、は?……」

虚空に現れた存在、それは白色の髪が弘政と同じ髪型を取っており、どこか人形じみた作り物然とした身体に巨大な竪琴を背負っている。

オルフェウス――我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし、幽玄の奏者……オルフェウスなり――

存在――オルフェウスは尊厳な声で名乗りを上げる。その声を聞いた弘政は相変わらず薄く微笑んでいる、がその表情が突如痛みに歪んだ。

弘政「あ、ああぁぁぁっ!!」

ユーノ「弘政君!?」

心臓を押さえ、かきむしる。そう思ったらびくんっと身体を弓なりにのけぞらせる。

弘政「か、はっ……」

オルフェウスもそれにシンクロした動きをする。と、その時オルフェウスの首に亀裂が走った。

弘政「ウ、オ、ガ、オ、ガアアアアアァァァァァァッ!!!」

まるで獣の咆哮。弘政のそんな叫び声と共にオルフェウスの中から何かが出てくる。もはや頭とは皮一枚で繋がっているのだろう裂けている首から伸びてくるのは長い腕。それはオルフェウスの身体を外側から掴むとその身体を力ずくで引きちぎる。

――GOOOOOoooooo!!!――

オルフェウスの内部から現れた存在、それを一言で例えるならば死神、というのが一番しっくりくるだろう。背には無数の棺桶を背負い、手には長大な剣を握り、漆黒の衣でその身を包み、まるで獣を思わせる鉄の仮面を開いてそれは咆哮。

弘政「オオ、アアアアァァァァァッ!!!」

弘政の絶叫と同時、それは勢いよく跳躍すると満月を背にしてスライムへと飛びかかる。そして持っていた剣を振り回す、それだけでスライムの腕が引きちぎれ、なのはとフェイトは宙を浮かぶ。

恭也「なのは!」
アルフ「フェイト!」

爆発を受けながらも傷だらけの身体をおして妹と主人を助ける。そんな中、士郎と氷牙は動けていなかった。それはただ動いていないだけではない……弘政が呼び出したのだろう存在、その力に気付いてしまったせいで動くわけにはいかなくなっていたのだ。

氷牙「怖い……」
ガングニール[こ、この感覚……]
士郎「こ、これは……」

氷牙は自分の持つボギャブラリーの中でもっともシンプルに力の正体を呟き、ガングニールも昔を思い出して呟き、士郎もほんの少し前まで、仕事の間常に感じ取っていた感覚を思い返す。
あの存在が撒き散らしている感覚、それは“死”。先ほど動いた二人は大事なものが危険、ということもあってその感覚に気付かなかったのだろうがもし気づき、まるで心臓を鷲掴みにされ全身が冷たくなり何も感じなくなるようなこの感覚に呑まれてしまっては恭也はもちろん死という感覚に耐性のないなのはは一瞬にして発狂、最悪本当に死に迎え入れられてもおかしくはない。かつてその死と隣り合わせの仕事をし、一度死にかけた自分ですらもその感覚に呑まれないようにするのが精一杯であるがゆえにそれが分かった。

士郎「……恭也……なのはにあれを見せるな……」

恭也「分か……ってる……」

士郎の絞り出す声に恭也はあの存在に背中を見せ――彼はもしあの存在と目を合わせでもしたらすぐに“死”の感覚に呑まれてしまうと直感していた――気絶しているなのはを必死で抱き隠しながら頷く。アルフも獣の本能でそれを理解したのかフェイトを抱きしめ目を瞑って震え、ユーノも身体を丸めてぶるぶると震えていた。

――GYOOOOOOOO!!!――

存在――死神は再び耳障りな咆哮を上げるとたった一人でスライムに相対。スライムは未だ残る無数の腕を振り上げ、死神が動く前に先手を取る。その時、ビシャッ、という何かが飛び散った音が聞こえた。

スライム――ギョオオオオォォォォォッ!!!――

直後響くスライムの悲鳴。その振り上げられた腕は人間で言うならば肘から先が切り離される。そう、スライムが先手を取ろうと動いたのを見たその瞬間死神は剣を横一閃、先手を取ろうとした相手の後手に回りながらそれが結果的に先手になるほどの速さで剣を振るったのだ。

――GYAAAAAAAA!!!――

死神はまたも耳障りな咆哮を上げながらスライムの青い仮面に左手を伸ばし、その仮面を掴み取ると一瞬で握り潰す。それにスライムの無数の腕は顔が握り潰されたかのようにじたばたと暴れ、死神に掴みかかろうとするがそれは再び剣を振るい、無数の腕を斬り飛ばす、木端微塵に砕かれた仮面が地面に落ちると同時、それは影のように黒い液体となって地面に染み込むよう溶けていた。
ぐちゃ、ぐちゃ、という肉が潰れるような音が聞こえる。死神は相手を殺してもなお満足できないのか死骸と言っていいだろうスライムの無数の腕を潰し回り、まるで陸に打ち上げられた新鮮な魚のようにびちびち動いているスライムの切り離された腕を掴むと握り潰し、それを最後に死神は再び咆哮を上げる。その時死神の身体にノイズが走り、そう思った瞬間その姿は弘政が呼び出した幽玄の奏者――オルフェウスへと姿を変えた。

士郎「……っ!……はぁ、はぁ……」

死の感覚、それが消え失せたのを感じ取った士郎は汗だくの顔で胸を押さえながら深呼吸する。恭也も汗を流しながら、なのはが無事であったことに安堵の息を漏らし、少し離れたところに座っているアルフも気が抜けたのかぺたりと耳を垂れさせる。


一刀「し、死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! うえ、おええぇぇぇっ!!!」

一方一刀はあの感覚に呑まれかけているのか死神が消えてなおビルの上でごろごろと転がり恐怖に怯え嘔吐する。しかし距離が離れていたためしばらく恐怖に怯えるだけで死の恐怖によって精神崩壊を起こし発狂する事がないのは彼にとっては不幸中の幸いであろう。


弘政(なのは、ちゃん……皆……無事、なのかな?……よかった)

一方弘政も先ほど身体中を襲った激痛、そして謎の倦怠感に襲われながらもなのは達が無事に済んだのを確認し、安堵する。その瞬間彼の緊張の糸が切れ、彼はどさ、と地面に倒れ伏した。

士郎「弘政君!」

大慌てで駆け寄ってくる士郎と、ガングニールに目をやりながらその後に続く氷牙、気絶しているなのはを抱きかかえて駆け寄ってくる恭也とその横を走るユーノ。そしてフェイトが気絶し自身も傷だらけ、しかし彼女自身はなのは達と馴れ合うのはごめんとばかりにフェイトを連れその場を去るアルフ。それらを見ながら彼の意識は遠のいていった。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.96 )
日時: 2013/10/29 21:50:23
名前: カイナ

弘政「う……」
??「ふふ、お互い運が強いよね? まさか僕まで来れちゃうなんて……」

暗い空間。その闇の奥からそんな声が聞こえてくる。

弘政「誰?……」
??「君は知っていて君は知らない存在、かな? でも大丈夫、心配しなくていい。僕は君の仲間なんだからね。ただ、久々だったからかちょっと暴走しちゃったけどね。いや、今の君の力じゃこうなっちゃうのかな?」
弘政「どういう、こと?」
??「さあね? じゃあ、僕はそろそろ……」

その言葉と共に彼の気配が消えていくのが何故か弘政には分かり、彼は咄嗟に手を伸ばす。

弘政「―――、―」

しかし彼の口から出たのはなんとも言えない何か、伸ばした手も虚しく空を掴むだけだった。



イゴール「また、お目にかかりましたな」

弘政「……こんにちは、イゴールさん」

暗闇から突然場面が変わり、真っ青な例えるならどでかいエレベーターの内部のような場所――ベルベットルーム。弘政はこの部屋の主――イゴールの挨拶に会釈して返す。

イゴール「あなたは“力”を覚醒したショックで意識を失われたのです。しかしご心配はいりません。少し休まれるといい」
弘政「さっきも誰かとお話してたから、とっとと休みたいんだけどね」
イゴール「少々、お時間をいただきたい」

イゴールの言葉に弘政は皮肉で返し、それにイゴールは僅かに笑みを浮かべてそう言い、腕を組む。

イゴール「ほぅ、覚醒した力はオルフェウスですか……あの時と同じ……成る程、興味深い」
弘政「はい?」
イゴール「いえ、こちらの話です。それはペルソナという力……もう一人のあなた自身なのです」
弘政「ペルソナ? ラテン語で仮面とかそういう意味の?」
イゴール「ペルソナとは、あなたがあなたの外側の物事と向き合った時、表に出てくる“人格”。様々な困難に立ち向かっていく為の、“仮面の鎧”といってもいいでしょう」
弘政「???」

イゴールの説明に弘政は首を傾げる。いくら弘政が年齢離れした聡明さを持つとはいえ流石に小学校三年生には難しすぎる内容だろう。

イゴール「まあ、これはおいおい覚えていけばよろしいでしょう……ただ、これだけは覚えておいていただきたい」

イゴールはそう言い、一旦言葉を切るとゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

イゴール「“ペルソナ能力”とは“心”を御する力……あなたの新たな力は心の力に魔力を融合させる。少々特殊な力となっているようですが、これは変わりません。よくよく、覚えておかれますよう」
弘政「ふーん?」

やはりよく分かっていない様子。だがイゴールはさして気にしていない様子でさっきまで組んでいた手を組み直した。

イゴール「さて……あなたのいらっしゃる現実では、多少の時間が流れたようです。これ以上のお引止めは出来ますまい……」
弘政「そうですか」
イゴール「ええ。ではまた会うその時まで……御機嫌よう」

イゴールのその言葉を最後に、弘政の視界は闇に覆われていった。



弘政「んぅ……」

弘政は幾度か身じろぎをし、目を開く。背中には慣れた感触、目を開いた先にあるのは見慣れた天井。どうやら自分の部屋らしい。

弘政「……何があったんだっけ?」

昨夜ジュエルシードの覚醒が確認できたとユーノ君から念話があって、なのはちゃん達とその場所に行って、ジュエルシードが暴走したスライムに襲われて……なのはちゃんとフェイトちゃんが捕まって……。

弘政「捕まって?……何があったんだっけ?……」

その後から記憶が飛んでいる。気絶した後誰かと話して、ベルベットルームでも何か話した気がするがまったく覚えていない。そう思い、彼はふところんと寝返りを打つ。

なのは「すー……すー……」

その顔の先ではなのはが、今にも吐息が当たりそうな距離で寝息を立てていた。それに弘政は硬直し、顔が少しずつ赤くなっていく。

弘政「うわあああぁぁぁぁっ!!!」

そして顔の赤みが最高潮になった瞬間彼は飛び起きてのけ反る。

なのは「ふえ?……」

と、それのせいでか彼女は目を開き、ぼんやりとした目をごしごしと擦る。

なのは「ひろまさ……くん?……」

彼女は寝ぼけ眼に寝ぼけ声で呟くが、その直後彼女の目が見開かれる。

なのは「弘政君! 目が覚めたの!? 身体、大丈夫!? どこか痛いとことかない!?」

なのはは驚いたように叫び、弘政に近寄ると身体を触っていく。それに弘政はまた顔を赤くした。

弘政「え? 何?……あ、そうだなのはちゃん! あの変な黒いのに捕まってたけど、大丈夫だった!?」
なのは「えっ」

最初こそ照れが表に出ていたがなのはが昨夜スライムみたいなのに捕まっていたのを思い出すと彼の方もなのはの肩を押さえながら返す。

アリサ「なのはー。こっちに来てるっておばさんから聞いたんだけどー」
すずか「弘政くんのお見舞いの品を持ってきたんだけど……」
氷牙「弘政、大丈夫?」
久遠「くぅん?」

と、そこにアリサとすずか、氷牙と久遠が入り、その場の全員が固まる。現在なのはと弘政は見ようによっては布団の上で抱き合おうとしている体勢に近く、ついでに弘政は顔が赤い。

すずか「……ご、ごめんなさい! お、お見舞いここに置いておくね!」
アリサ「ご、ごゆっくりー……」

なのは「にゃあああ!! 違うの! 違うのアリサちゃんすずかちゃん!」

すずかは顔を真っ赤に染め上げるとお見舞いの品らしいフルーツ盛り合わせを入れた籠をドア近くに置き、同じく顔を赤くしたアリサがゆっくりとドアを閉めようとするとなのははいつもの運動が苦手だと言っている身体能力が嘘のようにドアに飛びついて手をかけ必死で弁解する。

弘政・氷牙・久遠「「「???」」」

ちなみに弘政はまだ寝起きで思考が覚醒しきっていないのか硬直し、氷牙と久遠もきょとんとしてしまっていた。それからなのはがアリサとすずかに必死の形相で弁解している間に、開けっ放しのドアから部屋に滑り込んだユーノが弘政の前に立つ。

ユーノ「弘政、もう大丈夫?」
弘政「大丈夫って……一体何がどうしたの?」
ユーノ「……まさか、覚えてない?」
弘政「覚えてないって?」

弘政は訳が分からないという表情を見せており、あの戦いで起きたことを覚えていないらしいと判断したユーノは前足で頭をかく。人間で言うなら手で頭の髪をかく動作に近かった。

ユーノ「君はなのは達があの変なスライムに捕まった時、デバイスだと思われるものを取り出したんだ。今枕元に置かせてもらってる鍵だけど」
弘政「ん?……あ、これってあの時拾った鍵……」
ユーノ「あの時?」
弘政「僕達がユーノ君と出会った時、っていうか怪我してたユーノ君を拾った時、その近くに落ちてたんだ……まさか、これもデバイスなの?」
ユーノ「僕も最初はそう思ったんだ。だから悪かったけど弘政が寝てる隙に調べさせてもらったんだよ……だけど……」

ユーノはそこまで言うと口をつぐみ、首を横に振った。

ユーノ「分からなかったんだ。解析が出来ない……こんな事初めてだよ」
弘政「ふ〜ん……で、何が起きたの?」
ユーノ「うん、なんていうか……凄く怖かったのだけは覚えてるんだけど……ごめん。実はあの時の事、あんまり覚えてないんだ……」
弘政「あ、そう……」

ユーノの申し訳なさそうな言葉に弘政は苦笑した後、気づいたような目を見せて魔力を集中する。

弘政[そういえば、僕気絶してたらしいけど、どうしたの?]
ユーノ[自分の身体だろうに……お医者さんの見立てでは過労らしいよ。弘政の年代が過労で倒れるってどういうことだってお医者の先生が首傾げてたけど士郎さんがどうにか誤魔化してたよ。馴染みの医者らしいから]
弘政[ふ〜ん……]

突然の念話に対してユーノもなのは達に心配かけさせたくないのかと判断したのか念話で説明、それに弘政は頷き、次にまた思い出したように尋ねる。

弘政[ところでさ、僕ってどれくらい気絶してたの?]
ユーノ[あー、えっと……驚かないでね?]

弘政の問いかけにユーノは一瞬言葉に詰まり、注意を促しておく。それに弘政がこくんと頷くとユーノは口を開いた。

ユーノ[一週間]
弘政[……はい?]
ユーノ[……だから、一週間、君は寝ちゃってたの]
弘政「え、えええええぇぇぇぇぇぇっ!!??」

なのは・アリサ・すずか「「「うひゃあっ!?」」」

弘政「あ、ごめん!」

まさかの一週間も眠っていたことに弘政はつい念話を使うのも忘れて声を上げてしまいなのは達三人が悲鳴を上げ、弘政も咄嗟に謝った。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.97 )
日時: 2013/10/29 21:50:41
名前: カイナ

アリサ「……で? 一体何があったのよ? おじさんと恭也さんは傷だらけだったし弘政は今まで眠りこけてたし。弘政が起きるまで待つって約束よ」

なのはの弁解が終わった後、アリサは三人の前に座りながら問いかけ、すずかもその横に正座する。

ユーノ「え、えっと、その……」
なのは「分かんないの」
氷牙「うん」

アリサの言葉にユーノは目を泳がし、なのはも苦笑させながら告白、氷牙もそれに頷くとアリサの眉がぴくっと動いた。

アリサ「分かんないって! 相談するって約束でしょ!」
なのは「ほ、ほんとに分かんないの! 暴走したジュエルシードの攻撃で気を失って、目が覚めたら家に帰ってたの!!」
ユーノ「ほんとだよ! 僕だって弘政が何か変な魔法使ったまでしか覚えてないんだよ!」
弘政「僕が!?」

アリサの悲しそうな叫び声になのはが必死で弁解するとユーノも叫び、弘政はいきなり話を振られて悲鳴みたいな声を上げる。と、アリサは弘政に詰め寄った。

アリサ「どういうことよ!? 説明しなさいよ!!」
弘政「い、いやあのちょっと……ぼ、僕も覚えてない……」
アリサ「覚えてない覚えてない覚えてないで納得できるわけないでしょうが! さあきりきり吐きなさい!!」
弘政「痛い痛い痛い!!」

アリサは弘政に遠慮なくヘッドロックをかけて自白を強要。弘政は悲鳴を上げてアリサの腕をばんばんと叩く。

ユーノ「ア、アリサ! 落ち着いて!!」
なのは「そうだよアリサちゃん!」
氷牙「アリサ、弘政いじめたらダメ……」

アリサ「だって、だって覚えてないって! あたし達に心配かけさせたくないのは分かるわよ! でも、魔法を知って、なのは達が危ない事をしてるって知ったらあたし達だって力になりたいのよ! 怖かったこととか全部吐き出してよ!!」
なのは「そ、それは分かるんだけど、ほんとに覚えてないんだもん!」
ユーノ「本当だよ! まあ、何か怖かったのは怖かったんだけど……あれって敵が怖かったよりも、その……弘政が怖かったんだ」
すずか「弘政くんが?」

ユーノとなのはの制止にもアリサは泣きそうな彼女らを心配しているような声で叫び、なのはとユーノが慌ててそう言うとすずかが首を傾げ、ユーノはうんと頷く。

ユーノ「しつこいように言うけど僕達はこの前の戦いの、なのは達が捕まった後をあまり覚えてないんだ。なにか、凄い恐怖が襲ってきたのだけは覚えてる……そしてその恐怖が、弘政から出てきてたんだ」
アリサ「どういうこと?」
ユーノ「弘政がデバイスを使って、何か魔法を発動した……僕がギリギリ覚えてるのがそこまで。そこから先は怖くて覚えてないんだ」
アリサ「怖いって……」
ユーノ「弘政が、僕達が恐怖を覚える程に凄い魔法を使ったのか、でも弘政の持つ魔力でそんな事できるはずがない……そもそも弘政が使ったらしいデバイスは解析が出来ないし、仮説も立てづらいんだ」

ユーノとアリサはそう話し合い、アリサはため息をつくとヘッドロックを解き弘政を解放した。

アリサ「分かった……でも、本当に遠慮しなくていいからね? あたし達だってなのは達が心配なんだから」
すずか「うん。少しでも力になりたいし……」

なのは「うん、分かってるよ。ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん」
弘政「ありがとう。じゃあ僕爺ちゃんと婆ちゃんに挨拶してくるから。その後月村さんのお見舞い、皆で食べよう!」
すずか「え!? でもこれ、弘政くんへのお見舞い……」
弘政「皆で食べた方が美味しいでしょ? 待っててね、すぐ切ってもらうから!」

弘政はにこっと微笑んでフルーツ盛り合わせを入れた籠を持ち部屋を出ていく。さっきまで寝込んでいたとは思えないその姿になのは達はふふっと微笑んだ。
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.98 )
日時: 2013/12/05 04:50:33
名前: 孝(たか)

それから子供達はフルーツの盛り合わせを和気藹々としながら食して時間を過ごす。

だが、あまり長居しては弘政の体調を崩す原因になりかねないと思い、頃合いを見てお開きとなった。

すずか「それじゃぁ弘政くん。」
アリサ「あんまり無理すんじゃないわよ!」

靴を履いて振り向きながら声を掛けるすずかと、ビシッと指差して注意するアリサ。

なのは「また明日来るからね?」
氷牙「また、来る。」

家が近所なのでまた見舞いに来る約束をするなのはと氷牙。

ユーノ「アリサの言う通り、無理しちゃ駄目だよ?」
久遠「くぅん。弘政、バイバイ!」

なのはの肩に乗りながら弘政を気遣うユーノと、氷牙に肩車して貰いながらバイバイと手を振る久遠。

弘政「うん。皆、今日はありがとう。明日には学校に・・・」
アリサ「明日は土曜日だから休みよ?」

1週間も寝込んで居れば日付の感覚もおかしくなっているのはいたしかたないだろう。

弘政「あ、うん。そうだったね。じゃぁ、無理しない程度に、宿題のプリントをやる事にするよ。」

苦笑しながらそう返す弘政に、一同は同じく苦笑するのだった。


それから・・・一同がそれぞれ自分達の自宅に帰宅してから時間が経つ。

氷牙の部屋にて・・・

氷牙「・・・・・・ガングニール」
『はい。なんでしょうか?』

氷牙はふと、ガングニールに気になった事があるので質問する事にした。

氷牙「・・・ガングニールは・・・[アレ]が何か、知ってるよね?」
『・・・・・・何故、そうお思いに?』

氷牙の言うアレとは・・・弘政の召喚した死神の事を指すのであろう。

氷牙「・・・僕、アレを見た時・・・本当は、怖いよりも・・・”懐かしい”って、思った。・・・だから、僕と昔から一緒に居たガングニールなら、何か、知ってる。そう思った。」

そう。氷牙は後から出てきた死神の様な風貌の化物を見た時、恐怖よりも懐かしさを感じていたのだ。

故に、あの時の事を最初から最後まで”覚えている”のだ。

だが、氷牙以外の全員が死神に対して強い恐怖を感じている事が判っている為、敢えて覚えていないと言ったのだ。

『・・・私にも、アレの正体は分かりません。ですが、氷牙様がアレを懐かしいと思うのにも無理からぬこと。』
氷牙「どう言う、こと?」

事実、ガングニールにもあの二体の事に関しては本当に何も知らないのだ。

だが、その内の片方・・・死神の方には氷牙が懐かしさを感じるのは仕方ない事だと言う。

『貴方様が記憶を無くされる前は、アレと同じ風貌のモノと知り合いだったからです。』

まるで当たり障りのない様な回答に氷牙はガングニールを疑わしげな表情を向ける。

だがしかし、所詮は鉄板でしかないので表情が崩れる訳でもないので真意を覗く事などできようはずも無かった。

氷牙「・・・分かった。今は、その言葉、信じるよ。でも・・・」
『でも・・・なんですか?』

ガングニールも氷牙の次の言葉に何か嫌な予感がしてならなかった。

氷牙「もし、僕の記憶が戻って、今の話が嘘だったら・・・君を、忍に、渡す」

一句ずつ区切って言われると一層恐ろしく聞こえるから不思議である。

『滅相もございません!サー!今後も氷牙様に対して嘘など付きよう筈もありません!サー!』

余程あの時の忍のマッドサイエンティスト的なアレが恐ろしかったのだろう。

より一層ガングニールは氷牙に深い忠誠を誓っていたのだった。

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