Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.99 ) |
- 日時: 2013/12/08 23:39:13
- 名前: カイナ
- 弘政が目を覚ましてから一週間程度が経過し、なのは達は魔法の訓練のためいつもの林へとやってきていた。今回はなのは、ユーノ、氷牙、弘政に加えて士郎と恭也、フェイトとアルフもいる。
ユーノ「……弘政、どう?」 弘政「…………」
ユーノ――現在は人型だ――は目を瞑って瞑想している――本人曰く「一番集中できる」らしい――弘政に問いかける。が、弘政は首を横に振った。
弘政「全然ダメ。ホントに僕が魔術を使ったの?」 ユーノ「間違いないよ……」
弘政の言葉にユーノは真剣な表情で頷く。彼は一昨日辺りから、以前出した謎の魔法を使えるように訓練を開始したのだが一向にその魔力というのは感じ取れず、一時はユーノがアリサの怒りから逃げるために自分を売ったのではないか疑いそうにさえなっていたがユーノのとても真剣な顔を見ているとその疑念はどこかへと消え去っていた。 ちなみに氷牙はガングニールの師事の元魔術の訓練――この前の謎のスライム戦ではシールドを張る際その強度にムラがありそこを突かれてシールドが破壊されたため今回は全域に均等な強度でシールドを張る訓練だ――を行い、フェイトは恭也を相手取って士郎から鎌を使う戦い方について指導を受け、なのははレイジングハートの師事の元この前と同じ誘導弾の訓練をしている。
アルフ「なぁ」 弘政・ユーノ「「ん?」」
と、アルフが声をかけてきた。
アルフ「あんたさ、この国のなんだっけ? カラテとかいう格闘技習ってんだって? ちょっとあたしと手合わせしてみない?」
もちろん魔法を使ったりはしないからさ。と言ってアルフはにやりと笑う。それに弘政も立ち上がって軽く準備運動をすると頷いた。
弘政「かまいませんよ」
それから軽く柔軟をし、二人は向かい合う。
アルフ「りゃぁっ!!」
先に動いたのはやはりというかアルフ。彼女は文字通り獣のような瞬発力で地面を蹴るといきなり弘政の顔面目掛けて勢いよく飛び蹴りを放ってきた。が、弘政は体重のかかっているそれを当然受けようなどとするはずがなく伏せてかわし、アルフが着地しつつも反動で動けない隙を突いて突進、一気に右拳を突き出す。
アルフ「おっと」
アルフはそれを弾くが弘政は両拳でラッシュをかけ、アルフもそれを両手を使っていなす。そして弘政の拳をアルフが受け流し、弘政に隙が出来た瞬間アルフはニヤァと笑みを見せて弘政に足払いをかけた。
弘政「わっ!?」 アルフ「もらった!」
足を払われてバランスを崩し尻餅をついた弘政にアルフは口から牙を覗かせながら叫び、弘政に襲い掛かりのしかかる。所謂マウントポジションという体勢だ。
弘政「っと!」 アルフ「わぅっ!?」
しかし弘政とて無抵抗でやられるわけにはいかない。こんな事もあろうかとマウントポジションからの脱出方法は自主勉強しており、体格も上の相手にのしかかられては脱出できないだろうと油断していたアルフは驚いたようにバランスを崩す。その一瞬の隙を突いて弘政も相手の身体を掴み、素早く今度は自分がアルフからマウントを取る。
アルフ「あんっ」
と、その時甘い声がアルフから漏れ、弘政も自分がアルフからマウントを取る時に掴んだ部分が妙に柔らかいのに気づき、ついふにふにとその部分を掴んでしまう。
弘政「……」
そして弘政の顔が一気に真っ赤に染まり上がる。彼が掴んでいたのはアルフの豊満な胸だった。
弘政「ご、ごめんなさいっ!!」
真っ赤な顔で咄嗟に謝りながらアルフから離れる弘政。しかしさっきの感触が残っているのか手を少し何かを掴むようにぐーぱーさせているのを見ると、アルフは悪戯っぽく妖艶に微笑んだ。
アルフ「おやおや、あんたぐらいの年頃になるとやっぱこういうのに興味湧いてきちゃう?」 弘政「いや、あの……」
ぐいっと胸を押し上げ、前のめりの姿勢になって胸の谷間を強調し弘政をまるで誘惑するように見るアルフ。それに弘政は照れたように目を伏せる。
弘政「あいたぁっ!?」
直後響く彼の悲鳴。彼の頭の上に空き缶が当たったのだ。当然その空き缶はなのはが誘導弾の訓練に使用しているものである。
なのは「あ、ごめーん。ちょっと誘導弾の制御失敗しちゃったのー」
なのはの笑顔での謝罪の声が聞こえてくる。が、心なしかなのはは口元こそ笑顔だが目が笑っておらず、さっきの謝罪の声も妙に低かったような気がする。
なのは「ところで、ちょっと今誘導弾どれくらいなら同時に制御できるか、私急に興味湧いてきちゃったなー。空き缶じゃなくって、自分で動くような的が欲しいなー」
そう言っている彼女の周囲に現れる五つのピンク色の球体、誘導制御型射撃魔法、ディバインシューターだ。
弘政「あ、あの、なのは……ちゃん?」 なのは「なにかな? 弘政君?」
腰を抜かしたようにへたり込み、なのはに声をかける弘政になのはは笑顔で聞き返す。しかしその笑顔には相手を思いやる優しい心などのプラス要素が全く存在せず、例えるならば肉食動物の大群に睨まれているかのような威圧感があった。
弘政「怒っ……てる?」 なのは「なんのことかな?……ディバインシューター、シュート!」
弘政の顔を青くしながらの言葉をなのはは一蹴、直後五つのピンク色の球体が弘政に襲い掛かる。
弘政「う、うわああぁぁぁっ!!!」
それを見た弘政はとにかく逃げ惑うしか出来なかった。
ユーノ「気のせいかな……いつもより誘導弾の軌道に無駄がない……」 ガングニール[そうですね。しかもがむしゃらに動かすのではなく一つ一つの弾の意味を理解している……一つの弾を囮に、死角から本命の弾を撃ち込む。見事な制御です……]
林の中を縦横無尽に動き回り標的を狙う五発の誘導弾とそれを読みと直感を駆使してアクロバティックに避けまくる弘政。それを見ているユーノが目を細めながら呟くとガングニールも実戦的な動きを見せているそれらを賞賛する。レイジングハートですらも[この感覚を覚えてくれるのなら……]と弘政を襲っていることを黙認し一応非殺傷設定になっている事を確認する。ちなみに後ろの方ではフェイトが目を丸くして唖然としており、アルフは「まさかこんなことになっちゃうなんてね……」と引きつった笑みを浮かべ、士郎と恭也は呆れたように顔に手を当てうつむいてため息をつき、氷牙と久遠は「今日も仲良し」、「くぅん」とどこかずれたコメントを残している。
弘政「な、なんか分かんないけどごめんなさい許してー!!!」
なのは「あはははは許すってなにかな〜? 私別に怒ってないよ〜? でも、少し頭冷やそうかー?」
弘政の必死の謝罪をなのはは額に怒りマークを五つほどくっつけながら笑って一蹴し、さらにディバインシューターを増やして逃げ惑う弘政をまるで猟犬を操る狩人のように追い詰めていく。
弘政「みぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」
一人の少年の悲鳴が、人気のない林の中に響き渡った。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.100 ) |
- 日時: 2013/12/11 01:00:04
- 名前: 孝(たか)
- 氷牙「・・・シールド」
両目を閉じながら集中し、両手を前に突き出しながら魔法を発動させる。
氷牙「久遠。お願い。」
シールドが出来上がると、大人モードの久遠に攻撃させる。
久遠「・・・いくよ?」
そう言うと、久遠は右手に妖力を集中させて雷を発生させる。
久遠「・・・ふっ!!」
大きく振りかぶって突き出すような動作をすると、雷は槍の様に突き進みシールドに衝突する。
氷牙「くっ・・・うぅぅ・・・ぐ・・・」
ミシミシとシールドが悲鳴を上げ、突き出している氷牙の両手もガクガクと震えだす。
ピキリ・・・シールドに小さな罅が産まれる。1つ、2つ、3つと罅が増えていく。
氷牙「・・・うあぁ・・・(もっと・・・もっと集中する。僕の中の力を・・・均、等に・・・)うぅぅぅぅぅ・・・うぅぅぅぅぅ!!!!」
罅が6つに増えた辺りでシールドが限界に達し・・・大きな音と共に魔力で編まれた光の盾は砕け散る。
そのまま久遠の放った雷が氷牙を襲うと思われたが、シールドは砕けてしまったがその役目を果たしたようだ。
氷牙「・・・はぁっ!はぁっ・・・はふぅ〜〜」 久遠「ひょうがぁ〜〜〜」
パタパタと幼女形態になった久遠が氷牙に駆け寄りそのまま疲れて尻もちをついた氷牙に抱きつく。
久遠「だいじょうぶ?いたくない?」
心配そうに氷牙に聞く久遠に、氷牙は苦笑しながら返事を返す。
氷牙「はぁ、ふぅ・・・大丈夫。ちょっと疲れただけ。久遠の雷は凄いね?」 久遠「くぉん♪」
そう言いながら氷牙は久遠の頭を撫でる。久遠の方も撫でられるのが好きなのかそのまま身を任せるのだった。
『ふむ・・・段々と良くなってきてますぞ。とは言いましても、漸く6割といったところですが・・・』 氷牙「うう・・・難しい。」
因みに、例のスライムとの戦いの時点では3割程度の出来で、それを質量任せの魔力で5割まで補強していたにすぎない。
あの時から2週間で倍まで錬度を高める事が出来たのは不幸中の幸いだろうか?
ガングニールの話によると、基本中の基本に位置する魔法らしく、普通はここまで時間がかかる事は無いらしい。
氷牙「ガングニール・・・本当に、僕は補助系の、魔法、得意なの?」
シールド程度で手こずっている様な自分が、記憶を失う前はそれらを得意としているとは思えないでいたのだ。
『ええ。恐らくですが・・・ユーノ殿と同じで地球に存在する魔力と不適合を起こしているのでしょう。更には、5年間一切の魔法行使をしていなかったのも原因の1つですね。』
ガングニールは予想を立てて説明していく。何か切欠があればすぐにでも調子を戻せるだろうと言う。
氷牙「・・・むぅ。なら、ガングニールの、持ってる僕の記憶、教えてくれても・・・」 『それは・・・なりません。今の氷牙様ではあまり無茶をし過ぎては・・・下手をすれば高町家で過ごしてきた記憶も失ってしまうかもしれないのですよ?』
氷牙「それは・・・やだ。」
確かにガングニールには氷牙との思い出がデータ・・・記憶として残っている。しかし、そのどれもが殺伐とし過ぎていて今の幼い思考の氷牙では耐えきれないだろうと思い、ガングニールはそれをぼかしながら伝える。
氷牙「・・・でも、皆の事、守れないの、辛い。」 『氷牙様・・・・・・』 久遠「くぅ・・・くぅ!くおんも、みんな、まもる!いっしょ、がんばる!」
そんな氷牙を見て居たたまれない気持ちになるガングニールと久遠。 久遠はそんな氷牙を励ますように一緒に頑張ろうとまで言ってくれた。
氷牙「久遠・・・うん。一緒に、頑張ろ。」
久遠の笑顔に釣られて、氷牙も笑顔になるのだった。
それから鍛錬をしていき、そろそろお昼となる時間帯・・・
士郎「それじゃ、そろそろお昼休憩にしようか?」 『『『はーーい!(はい。)』』』
なのはは運動音痴のせいか肩で息をしており、フェイトと氷牙は鍛錬には慣れているので軽く汗は掻いてはいるものの、なのは程ではなかった。
そして、弘政だけはなのはのシューターに追い回されたせいか完全に限界を超えた為にゼェゼェと息荒く倒れこんでいたのだった。
氷牙「お弁当、作ってきた。ガングニール。出して。」
そう言って氷牙はガングニールの空き領域にお弁当を粒子変換させて格納していた。
『は。こちらになります!』
そうして出てきたのは6段の重箱。
弘政「ろ、6段の重箱なんて、初めて見ました」
あまりの量に一筋の汗を流す弘政。
氷牙「フェイト達も、ここに座る。」
ポンポンといつの間にか敷いたブルーシートを叩く氷牙。
アルフ「んじゃ、遠慮なく。ほら、フェイト!」 フェイト「う、うん・・・」
腹が減っては戦は出来ぬと言わんばかりに、鼻孔をくすぐるお弁当の匂いに釣られてフェイトを急かす。
氷牙から時計回りにフェイト、アルフ、恭也、士郎、弘政、ユーノ、なのは、久遠の順番でお弁当を囲む様に座る。
そして氷牙は一番上から重箱を開けていく。
弘政「1段目は・・・おにぎりだね?」 氷牙「うん。右から、鮭、昆布、おかか、ツナマヨ、梅、高菜だよ。」
やや小さめに作られたオニギリ6種類が綺麗に収まっていた。子供の手で作られているので2〜3口で食べきれる大きさだ。
なのは「2段目は・・・サンドイッチだ!」 氷牙「右から、ハムレタスチーズ、ツナマヨ、ハムカツ、タマゴ、メンチだよ。」
今度は長方形のサンドイッチが5種類綺麗に収まっている。
ユーノ「3段目は・・・揚げ物かな?」 氷牙「うん。エビフライ、ちくわ磯辺、野菜、コーン、カレーのコロッケ、鳥もも唐揚げだよ。」
揚げ物まで出てくる。残り三つはなんなのだろうか?
アルフ「4段目は・・・これって・・・タマゴ?」 氷牙「そう。卵焼き。右側が塩、真ん中が砂糖、左側が鰹出汁。」
一面黄色。1口サイズに切り分けられた3種の味付け卵焼きだ。
恭也「5段目は・・・野菜類だな」 氷牙「うん。きんぴらごぼう、ひじき煮、ほうれん草のごまあえ、おひたし、ポテトサラダ、マカロニサラダ。」
野菜類も抜かりない。
そして最後の・・・6段目。
フェイト「これって・・・?」 氷牙「デザート。寒天ゼリー。ブドウ味。」
デザートまで用意してやがりました。
士郎「まさか・・・このポッドは・・・お味噌汁とか?」 氷牙「うん。ワカメと豆腐のお味噌汁。」
みそ汁もありました。
久遠「くぅん?ひょうが、これは??」
そして、久遠が小さな箱を2つ見つける。
氷牙「それは、久遠とアルフ用。こっちが、久遠用の油揚げとお稲荷さん。こっちが、アルフ用の骨付きお肉。」
パカッと開けた箱の中には久遠の好物である油揚げが数枚とお稲荷さんが数個入っていた。 アルフ用にはフライドチキンが数個入っていた。
久遠「くぅ!!あぶらあげ!」 アルフ「お肉だぁ!!」
それをみた久遠とアルフは嬉しそうにバンザイしながら喜んだ。
なのは「それではみなさん!」
なのはの号令にパンっと手を合わせる一同。
『『『『感謝をこめて、いただきます!』』』』
下品にならない様に楽しんでの昼食が始まったのだった。
氷牙「はい。フェイト」
氷牙は用意していたおしぼりを渡す。
フェイト「あ、ありが、とう。」
受け取ったおしぼりで手を良く拭う。鍛錬をしていたのでそれなりに汚れているのだから当然と言えば当然か。
氷牙「フェイトは、何を食べたい?」 フェイト「え、えと・・・氷牙の、おすすめで・・・」
どれから食べようか迷っていると、氷牙は何が食べたいか聞いてくるので、おすすめを聞くフェイト。
氷牙「ん。・・・じゃぁ・・・」
ひょいひょいと紙皿に移していく。
氷牙「卵、どれがいい?」 フェイト「あ・・・出汁巻き、かな?」
言われ、氷牙は出汁巻き卵を最後に乗せる。 とりあえずポテトサラダ、もも唐揚げ、野菜コロッケ、きんぴらごぼう、出汁巻き卵を乗せると、フェイトに手渡す。
氷牙「お米と、サンド、どっち?」 フェイト「えと・・・サンド・・・かな?」
言われ、ハムレタスチーズサンドを取り、それも紙皿に乗せた。
氷牙「どうぞ?」 フェイト「う、うん。いただきます」
パクリとサンドイッチを一口・・・
フェイト「ん・・・ん・・・コクリ・・・おい、しい」 士郎「うんうん。氷牙君も随分料理が上手くなったね。」 恭也「初めて作った時からそれなりに完成された味だったけどな。」
それを聞いてフェイトもアルフも驚きに目を剥く。
フェイト「これ・・・全部氷牙が作ったの?」 氷牙「ん。作るの、楽しい。おいしいと、嬉しい。」 アルフ「はぁ〜。料理は出来るわ、動物と心通わせるわ。あんた只者じゃないね」
氷牙が笑って返すと意外という表情をするフェイトとアルフだった。
士郎「それじゃ、食後に少し休憩したら模擬戦をしようか」 なのは「模擬戦??」
士郎「ああ、いくら練習しても実践で使えなければ意味が無い。なら、実際に戦ってみるのが一番だからさ」
言われ、なのはは納得した。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.101 ) |
- 日時: 2014/04/01 02:14:42
- 名前: 孝(たか)
- 食事休憩も終わり、いよいよ模擬戦の時間。
なのは「練習の成果、出して見せるよ!」 フェイト「私も、負けない・・・!」
レイジングハートを両手で持ち、胸の前に持ってきて意気込むなのはと、バルディッシュを構えて対峙するフェイト。
士郎「それじゃ・・・はじめ!!」
片手を上げて一拍・・・開始と同時に振り下ろす。
なのは「シュート!!!」
合図と共にディバインシューターを3発、統制と牽制を含めて放つ。
フェイト「(速い!?たった数日でこの錬度・・・)バルディッシュ!」 バル[サイズフォーム]
ジャキン!と言う音と共に魔力刃を発生させ、鎌の状態にすると同時に3発のシューターを切り払う。
なのは「(やっぱり速い・・・でも!)ディバイィィィィィィン・・・」
レイジングハートをシューティングモードに変更させ、その先端に魔法陣が発生する。
フェイト「させな・・・っ!?」
なのはの放つであろうディバインバスターを止めさせようとした瞬間、フェイトは咄嗟に右に避ける。
直後、フェイトが先程まで居た場所の後方から2発のシューターが通り過ぎる。
そう、なのはが抜き打ちで放ったディバインシューターは5発であり、3発を前方から放つ事で2発を視界から逸らし、その2発を死角から放つという奇襲作戦だったのだ。
なのは「バスターーーーーーーーー!!!!!」
フェイトが避けた方へ砲撃を放つなのは。
咄嗟に避けた事で反応が遅れるフェイトだが・・・
バル[ディフェンサー]
フェイトの相棒であるバルディッシュが防御魔法であるディフェンサーでほんの僅かであるが砲撃を受け止める。
しかし、フェイトの防御魔法はそれほど強度は無い。だが、フェイトにはその一瞬で十分な回避行動を取れるだけのスピードがあるのだ。
フェイト「くっ・・・(まさか5発のシューターを別々の軌道で奇襲を掛けて本命の砲撃・・・もう、魔力が大きいだけの子じゃない。なのははもう・・・1人の魔導師・・・!?)何処に!?」
ほんの少しの思考で先程まで居た筈のなのはが視界から消えている事に気付き、辺りを見回すフェイト。
レイハ[フラッシュムーブ] なのは「やああああああああああ!!!!」
その数瞬後、フェイトの背後頭上に現れたなのはがレイジングハートを振り降ろす。
フェイト「なっ!?くぅ!!」
ガキイイイイイイインッ!!!
咄嗟にバルディッシュを盾にしてレイジングハートの振り降ろし攻撃を防ぐフェイト。
フェイト「高速移動魔法!?」 なのは「フラッシュムーブ。フェイトちゃんのブリッツアクションに対抗するためにユーノ君と編み出したんだよ!」
ギチギチと競り合うなのはとフェイト。
だが、腕力はフェイトの方が僅かに上、多少無理矢理に押し上げる事で競り合いを終えると・・・
フェイト「フォトンランサー!!」
即座に周囲にフォトンスフィアを形成し、直射型の射撃魔法フォトンランサーを3発なのはに向けて放つ。
なのは「わわっ!?」 レイハ[プロテクション]
なのはの反応しきれない攻撃に対してレイジングハートが防御魔法プロテクションを張り、フォトンランサーを防ぐ。
フェイトと違い、なのはの防御は段違いに硬い。故に、数発程度の射撃魔法ならば簡単に防ぐ事が出来る。
大体の距離が空いたところで、2人は同時に砲撃態勢に入る。
フェイト「サンダー・・・・・・」 なのは「ディバイン・・・・・・」
バルディッシュのシーリングフォームとレイジングハートのシューティングモードの先端に魔力が集まっていく。
フェイト「レイジ!!!」 なのは「バスターーーーーーー!!!」
同時にふたりの砲撃が放たれた瞬間。
キイイイイイイイイインッ!!!!!!
フェイト「な!?」 なのは「え!?」
2人の魔力に呼応して、未発動だったジュエルシードが砲撃と砲撃の間で発動してしまったのだ。
ユーノ「ジュエルシード!?どうして、さっきまでここには無かった筈!?」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
ユーノが驚愕の叫びを上げると同時に2人の砲撃がジュエルシードを直撃。
その魔力を持ってジュエルシードが覚醒し、周囲に衝撃波撒き散らし、吹き飛ばす。
なのは「きゃああああああああああああああ!?」 フェイト「うあああああああああああああ!?」
ビシ・・・バキイイイイイインッ!?
なのは「レイジングハート!?」 フェイト「バルディッシュ!?」
強烈な衝撃波によって生じた圧力によって、レイジングハートとバルディッシュのデバイスコアに罅が発生する。
2人はすぐさまデバイスを待機形態に戻す。しかし、それをあざ笑うかのようにジュエルシードは更に活性化していく。
フェイト「くっ!?」 なのは「フェイトちゃん!?」
フェイトはすぐさまジュエルシード近づくと、素手でジュエルシードを掴んで封印魔法を発動。
フェイト「止まれ・・・止まれ・・・止まれ!止まれえええええ!!!」
フェイトの健闘も虚しく、封印魔法は発動しているが、収まる気配が無い。
ブシュッ!!
フェイト「くあっ!?ぐぅぅっ!止まれ!!止まれぇ・・・」
ジュエルシードから発せられる衝撃波によってフェイトの手が傷つき、裂傷を起こし、軽く血が飛び散る。
氷牙「フェイト・・・っ!?」
フェイトの事が心配になり、近づこうとする瞬間、フェイトの手から流れた血が氷牙の頬に当たる。
氷牙「これ・・・血?フェイトの?うあっ!?」
同時に、氷牙の脳裏に何かが映り込む。
それは氷牙の前に背を向けて立ち、血を流す男性。靄がかかった様に全貌は明らかではないが、頭の方に二本の触角のように生えた髪が印象的で、腰辺りから生える蝙蝠に似た翼が映る。
その男の先には、暴走したジュエルシードが・・・ほぼ今の状況と同じように存在していた。
氷牙「ク、リチェ、ぐう!?・・・あ・・・ああ・・・うあああああああああああああああああ!!!!!!!」
突如叫び声を挙げた氷牙は両手で頭を抱えながら全身から魔力を溢れださせると、ギラついた眼でジュエルシードがあるだろう場所へフェイトよりも速いのではないか?と錯覚出来る程の猛スピードでフェイトの元へ向かい、左手でジュエルシードを掴み取る。
フェイト「氷牙!?」 氷牙「と、まれ・・・止まれえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大凡いつもの氷牙からは想像もできない程の怒声を挙げながら、全身から溢れだす魔力を左手に持ったジュエルシードに送りこんで強制的に封印してしまった。
氷牙「止ま・・・った・・・フェイト・・・無、事・・・」ガクリ フェイト「氷牙?!」
ジュエルシードを封印し、フェイトが無事であることを確認した氷牙は、意識を手放した。
なのは「氷牙君!?」 アルフ「フェイト!」 フェイト「・・・大丈夫。気を失ってるだけ・・・一気に大量の魔力を使ったからだと思う」
氷牙の無事を伝えると、なのはも安堵からその場にへたり込む。 遅れて駆け寄ってきた士郎達も、ホッとしている。
なのは「よ、よかったぁ・・・」 ユーノ「それより、手当てしないと・・・フェイト、手を出して。」 フェイト「え・・・うん。」
そう言って差し出された両の手の平は傷と火傷でボロボロになっていた。
なのは「酷い怪我・・・こんな無茶したらダメだよフェイトちゃん!」 フェイト「でも、こうでもしないともっと危険な事態になっていたから・・・」
ユーノとアルフの回復魔法で傷の手当てをしている間に、なのはは心配でフェイトを叱る。
なのは「それでも・・・」 士郎「なのは。心配なのは分かるが、今は2人の治療が先だ。とりあえず、応急処置が済んだら一旦家に帰ろう。2人を休ませてあげないとな?」
言われ、うーうーと唸っていたなのはだが、納得して父の言う通りのするのだった。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.102 ) |
- 日時: 2014/06/25 01:56:25
- 名前: 孝(たか)
- 第一九話「誘拐犯、絶望す・・・なの。」
闇・・・
何処までも・・・何処までも漆黒に染まる闇の中、氷牙は1人佇んでいた。
氷牙『こ、こは・・・?』
[力が・・・欲しいか?]
氷牙『え・・・?』
[力が・・・欲しいか?何者をも寄せ付けぬ、比類なき力が・・・欲しくはないか?]
氷牙以外誰もいない筈の漆黒の闇の中、何処からか声が響く。
氷牙『比類なき・・・力?』
[そうだ・・・己以外の全てを、その力によって寄せ付けぬ。破壊の力。一振りで百の敵を薙ぎ払い・・・一息で全てを氷塊と化す。圧倒的な力。]
氷牙『いらない。』
アッサリと、氷牙はその様な力を拒否してみせる。 氷牙が欲しているのは破壊の力ではない。大好きな人達、大好きな友達を守る力が欲しいだけだ。
全てを壊してしまう力は、自分には必要ないという意思を持って、拒否する。
[・・・・・・この力があれば、貴様の守るべき者を救う事が出来る。それでも、力を求めぬのか?]
氷牙『僕が、欲しいのは、大好きな人たちを、守る力。士郎、桃子、恭也、美由紀、なのは、弘政、ユーノ、久遠、アリサ、すずか、アルフ・・・フェイト。皆、大好き。大好きだから、守りたい。だから、壊す力は、いらない。』
[・・・後悔するぞ。今、この力を受け取らなかった事を・・・貴様は何れ、後悔する。]
氷牙『・・・それでも、後悔、しても・・・大好きな皆を、傷つけたくないから・・・それを貰えば、僕はきっと・・・僕じゃなくなるから。』
氷牙本人も、なんとなくそう感じているからこそ、その力を否定するのだろう。 例え、後悔する事になっても・・・彼はその力を受け取る事は無いだろう。
[・・・・・・ふふふ・・・ふはははははははははっ!ならば後悔するがいい!
悔やみ、嘆き、悲しみ、負の感情によって堕ちるであろう!
そして知るがいい!”人間”など、”守る価値などない”のだと!
そして気付くがいい!貴様は決して人間とは相容れぬ存在である事を!
再び人間に裏切られ、絶望に沈め!貴様の存在は、絶望そのものなのだから!!]
氷牙『・・・・・・絶望、そのもの・・・』
ふと、身体が浮き上がる様な感覚に襲われる氷牙。 そして理解する。これは夢なのだと・・・
[せいぜい後悔するがいい・・・あの時と同じように・・・人間を信用すれば・・・後に残るのは・・・・・・だけだ。]
そして、眼が覚めた氷牙は知る事になる・・・近い未来、自身が何者であるのか・・・それが、何を意味するのか・・・時は・・・近づきつつある。
ジュエルシード暴走から・・・既に2日が経っていた・・・。
氷牙「う・・・ん?」
氷牙はベッドから上半身を起こし、空いている左手で目を擦る。 ふと、右手に違和感を覚え、そちらに視線を向ける。
フェイト「んぅ・・・すぅ・・・」
そこには、ベッドの淵に上半身を預け、氷牙の右手を握りながら座ったまま眠るフェイトの姿があった。
氷牙「・・・フェイ、ト?」 フェイト「ん・・・氷、牙?」 氷牙「うん。おはよう、フェイト。」
ニコリと、苦笑が入り混じった微笑みで挨拶する氷牙に、寝ぼけた表情でジッと見つめるフェイト。
フェイト「・・・・・・氷牙!?」
だが、思考がハッキリとするとガバッと氷牙に抱きつく。 寝起きで力の入らない氷牙は、そのままベッドにフェイトともども倒れ込む。
氷牙「フェイト・・・どうした?なんで泣いてるの?どこか痛いの?」 フェイト「良かった・・・本当に、無事で良かった・・・」
氷牙に抱きついたまま啜り泣くフェイトに、意味が判らない氷牙。 とりあえず落ち付ける為にフェイトの頭を撫でるのだった。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.103 ) |
- 日時: 2014/07/03 04:31:06
- 名前: 孝(たか)
- 数分してフェイトが落ち着くのとほぼ同時にノックの音が聞こえ、誰かが氷牙の部屋へとやってきた。
桃子「あら!良かった。目が覚めたのね氷牙君?」 氷牙「桃子・・・?僕、どのくらい寝てた?」
目が覚めてからずっとフェイトは啜り泣いていたので状況が全く分からない氷牙は桃子に聞くしかなかった。
桃子「丁度、二日くらいかしら?今回は怪我がなかったから、少しだけ安心してたんだけど・・・やっぱり心配だったわ。」 氷牙「ごめん、なさい。」
桃子の心配だったという一言で、しゅんと俯く氷牙。 因みにフェイトは泣き疲れたのか氷牙の右腕をガッチリ固定しながら眠りについていた。
桃子「いいのよ。氷牙君達が無事だっただけで、それだけでいいの。フェイトちゃんも、付きっきりで看病してたのよ?酷く魘されてたみたいだから。」 氷牙「・・・夢、見てた。」
魘されていたと聞いて、先程の夢を思い出した氷牙。 本来、夢と言う物は大抵が目を覚ますと忘れる物だが、それでも覚えている時は覚えているのだ。
桃子「・・・聞いても良いかしら?」 氷牙「・・・力が、欲しいかって・・・」
氷牙は夢の内容を思い出しながら、空いている左手をじっと見つめる。
氷牙「[何者をも寄せ付けぬ、”比類なき力”。己以外の全てを、その力によって寄せ付けぬ。”破壊の力”。一振りで百の敵を薙ぎ払い・・・一息で全てを氷塊と化す。”圧倒的な力”]」
桃子は息を呑む。こんな小さな体に、そんな危険な力を与えようとする何者かが出てくるような夢に・・・だが・・・
桃子「氷牙君は、どうしたいの?」 氷牙「いらない。」
たった一言。氷牙は夢の中と同じく、迷いなく桃子に返す。
氷牙「僕が欲しいのは、大好きな人たちを守る力。士郎、桃子、恭也、美由紀、なのは、弘政、ユーノ、久遠、アリサ、すずか、アルフ・・・フェイト。皆、大好き。大好きだから、守りたい。だから、壊す力は、いらない。たとえ・・・その力が無くて後悔しても・・・壊す力なんて、僕は要らないよ」
ハッキリと、夢の中の返答と同じ言葉を、桃子にも優しい笑顔で伝えた。
桃子「・・・そう。本当に、氷牙君はいい子ね。ありがとう。私も・・・ううん。私達みんな、氷牙君が大好きよ?」
言って、桃子はベッドに腰掛けると、氷牙をフェイトと一緒に優しく抱きしめるのだった。
そうこうしていると他の高町一家やユーノ、黒鷹一家も氷牙の見舞いにやってきたりした。
因みに・・・氷牙に抱きつきながら眠っていたフェイトが目を覚ました時、あまりの恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら逃げるように帰っていった。
そして翌日。
それは平日の放課後・・・学校帰りに起こった。
氷牙「また、明日。」 なのは「また明日ね!アリサちゃん、すずかちゃん!」 弘政「また明日!」 アリサ「じゃあね!氷牙、アンタはまた無理するんじゃないわよ!」 すずか「またね。なのはちゃん、弘政くん、氷牙くん!」
本日は塾もないので、それぞれ分かれ道で帰っていく。
そして、氷牙達が振り返って一歩を踏み出そうとして・・・
キキィィィィィィィィィィッ!!!
ガチャ!!
アリサ「な、何よあんたたち!?」 すずか「いや!離してください!?」
ブロロロロロロロロロォォォォォォォッ!!
氷牙達の背後で、アリサ達が妖しい覆面を被った黒服の集団に車で攫われてしまったのだ。
氷牙「・・・・・・行っちゃった・・・」 弘政「・・・って!呑気な事言ってる場合じゃないよ!?2人が誘拐されちゃったんだよ!?」 なのは「どどどどどどど、どうしよう!どうしよう?!」
あまりの展開にあわあわと慌て始めるなのはと弘政。
氷牙「なのは、ユーノに念話。家に居るユーノに、直接士郎達に連絡する。」 なのは「そ、そうだね!えと、えと・・・”ユーノ君!大変なの!”」
言われ、早速思念通話でなのははユーノに連絡を取り、士郎達にアリサ達が誘拐された旨を伝えるように頼む。
弘政「ぼぼ、僕達はどうしよう!?」 氷牙「・・・行く。」 弘政「行くって・・・今から追いかける気!?」 氷牙「ガングニール。急ぐ。」 『承知しました!』
氷牙は簡潔にガングニールに伝え、1人でガングニールに乗って行ってしまった。
弘政「ちょ!?氷牙さん!1人じゃあぶな・・・」
しかし、初速からトップスピードが出せるガングニールに乗った氷牙に、弘政の声が届く事はなった。
――海鳴市郊外の廃ビル――
アリサとすずかはとある部屋に縄とガムテープで両手両足を縛られていた。
アリサ「ちょっとあんた達、私達を誘拐して如何しようって言うのよ!?」
すずかと背中合わせになりながらも、アリサは気丈にもそう問いかける。
「そんなの決まってるだろ?身代金目的さ。バニングス家のご令嬢殿」 アリサ「だ、だったらすずかは関係ないじゃない!すずかを解放して!」 すずか「ア、アリサちゃん・・・」
アリサはそう言うが、誘拐犯がそう簡単に人質を解放することは・・・ない。
「いいや、其方のお嬢さんも中々の家に住んでいるようで。いやはや、偶然とは怖いですな」
それだけで、すずかが地主の家の令嬢ということが既に知られていることに気付くアリサ。
アリサ「あんたら、全部計算づくで・・・」 「まぁ、確かに俺達の狙いはお嬢さん1人だが、依頼人はどうやらそっちのお嬢さんが目的の様でねぇ・・・」
ニヤニヤと厭らしい表情で2人を品定めするように笑う誘拐犯。
アリサ「どう言う事よ!?」 「ま、別に教えても良いだろう・・・そこのお嬢さんの家系はな・・・”人間じゃないんだ”よ」
誘拐犯の言い放った一言に、すずかは驚愕で蒼白になり、イヤイヤと首を振りながらか細い声で「やだ、やめて・・・」と言いながら震えだす。
「そいつらはな・・・人間の皮を被った”化け物”なんだよ!!」
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.104 ) |
- 日時: 2014/07/06 01:32:29
- 名前: 孝(たか)
- 何を言われたのか理解できなかった。
人間じゃない?
人の皮を被った化け物?
誰が・・・?
すずかが・・・?
ワタシノ・・・トモダチガ・・・?
バ ケ モ ノ !
アリサ「ふ・・・・・・わよ」 「あん??」 アリサ「ふざけんじゃ・・・ないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
怒号。
腹の底から奮い立たせる。
すずかがバケモノですって?
ふざけた事言わないでよ!?
私の友達をバケモノですって!?
何の根拠が有ってそんな事言うのよ!?
私の友達を・・・親友を・・・馬鹿にしないで!!!!!!
自分の思いの丈を包み隠さず叫ぶように言い放つアリサ。
だが、それを嘲るように誘拐犯は告げる。
「嘘ではないさ。そいつらは人の姿をしているが、人の血を吸って生きる化け物・・・そうだな。吸血鬼と言う奴さ。」
ニヤニヤと気色の悪い笑みを崩さずに現実を突き付ける。
「その証拠に、吸血鬼なだけあって、一般の人間を凌駕する身体能力を持ち合わせている。心当たりはないかな?」
言われ、これまでの3年間を振り返る。
確かに、すずかは見た目とは裏腹に自分達より頭一つ高い身体能力を持っている。
だが、アリサ達は知っている。
そのすずかよりも、おっとりしていて、いつもポケポケした少年が、すずかを圧倒している所を何度も見ているのだ。
ドッジボールで、すずかの強めの玉を簡単にキャッチして投げ返す少年を・・・
短距離走で、すずかよりも3秒以上速くゴールする脚力を持つ少年を・・・
身体測定で全てすずかよりも判定が高過ぎる少年を・・・
瀕死級の怪我を負っても数日で回復する少年を・・・
アリサ「・・・ないわね。私はすずかよりもよっぽど化け物なんじゃないかって奴を知ってる。身体能力でアイツより上の奴がいるなんて考えられないくらいの奴を・・・私達は知ってるわ! でもね、たとえアイツが居なかったとしても、これだけはハッキリしてる。すずかは・・・私の親友は・・・絶対に化け物なんかじゃない!!」
すずかよりも凄い奴がいるのだ。 その少年と比べれば・・・どうってことないと反論するアリサ。
「ふん。それはお前達が子供だからだ。もう少し成長すれば、理解する筈だ。今の年齢で、それだけの身体能力がある事がどれだけ異常なのかを・・・な。」 アリサ「そんな事無い!それに・・・例えそれが本当だったとしても・・・私は、私達はずっとすずかと親友で有り続ける自信があるもの!!」
たとえ、すずかが化け物だろうと、友達であり続けるとニヤリと不敵な表情で誘拐犯に告げる。
背中越しで表情は見えていないが・・・すずかの悲しみの涙が、喜びの涙へと変化していた。
「けっ。これだからガキは・・・おい、そっちの化け物を上の階に連れてけ。そろそろ依頼人が来る頃だろうよ。」 子分「うぃっす。よっこらしょっと・・・」
そう言って、誘拐犯の1人はすずかを担いで部屋を出て行こうとする。
すずか「いや!離して!!アリサちゃん!アリサちゃーーーーん!!!」 アリサ「すずか!!この!!すずかを離しなさいよ!すずかをどうする気!?」
暴れようとするが、両手両足を拘束されていてはどうしようもない。
「さっきも言ったが、俺達の目的はバニングスの令嬢であるお前さんだけだ。月村の令嬢は依頼人の方が必要なんだそうだ。」
誘拐犯はすずかの方には興味が無いのか、どうでもいい様に告げる。
アリサ「やっぱりアンタ達、最初から狙って・・・」 「ククク、ま、ここまで言えばガキでも気付くか。だが・・・他人の心配をしてる場合じゃねぇぜ?なんせ、先程から我慢できない奴がいるんでね」
アリサが何の事かと疑問に思った時、同じ部屋の中にいる4人の男の中のうち1人が、他の男たちとは違った興奮した目でアリサを見ている事に気付く。
それに気付いた時、アリサは初めて悪寒が走ったのを感じた。
アリサ「な、何よ・・・?」
アリサは、その男から少しでも離れるように身を捩って後ろに下がる。
「その男はロリコンと言う奴でね。ああ、幼女趣味の事だ。つまり、君のような年頃の女の子が大好きなのさ、しかもそんな女の子の泣き叫ぶ姿を見ると、更に欲情する正真正面の変態なんだよ」
リーダー格の男がそう言うと、変態の男は更に息が荒くなる。
「ぐへへ・・・俺、もう我慢できねえよ。犯っちまって良いだろ?」
その男は下品な物言いでアリサに近付いていく。
アリサ「い、いや・・・来ないで!」
一歩一歩近付いていく度に、アリサは身を捩って逃げようとする。
その脳裏には、なのはや弘政達の顔が浮かんでいた。
アリサ「誰か・・・たす、助け、て・・・誰か!たすけてよおおおお!!」
「ぐふ、ぐひひ・・・イタダキマァァァァ『氷牙様!この壁の向こうです!!』ぐひ?「おお〜〜いっくよぉ〜〜」な、なんだ?」
何処からともなく聞こえる渋い声と子供特有の、しかし間延びした声に反応して、キョロキョロと辺りを見回す変態や誘拐犯達。
?「この身に宿れ、不屈の魂。力の根源、今ここに!”ブレイブハート”!え〜と弘政は確か・・・突き手と引き手は背中から紐で繋がってる様に意識して、同時に・・・えい!」
ドッガアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
「ごひゃ?!!」
壁がいきなり爆発したかと思うと、アリサに近づいていた変態が飛んできた瓦礫によって吹っ飛んでいた。
?「お〜〜〜。弘政に教えてもらった通りにしたら、できた。」 『お見事です。氷牙様!』
声のする方・・・壊れた壁の向こうに、正拳突きを放った体勢で立っている少年・・・氷牙がいたのだ。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.105 ) |
- 日時: 2014/07/09 22:03:28
- 名前: カイナ
- 氷牙が誘拐犯のアジトへの潜入――というか強行突入というか――に成功した頃。誘拐犯のアジトに向けて高町家の車が疾走していた。
博吉「どうだ、ユー坊?」 ユーノ「えーっと……こっちです! 真っ直ぐ!」
助手席に座っている弘政の祖父――黒鷹博吉の言葉に、その膝の上に乗っけられたフェレット――ユーノが指というか前足で進行方向を示しながらそう言い、直後「っていうかユー坊って……」と呟く。
恭也「しかし、まさかアリサちゃんとすずかちゃんが誘拐されるとはな……」 士郎「二人とも、家柄を考えればおかしくはないが……油断していたな」
席の後ろの方に座っている恭也が呟き、運転手の士郎もシリアスな表情を浮かべる。ちなみに二人は真剣は流石にアウトだが木刀を持ってきている。弘政となのはに頼まれ、彼らも救出のため動いていた。ちなみにその二人も友達が心配のためついて来ている。
雅花「まったく。人様の子を私欲のために攫うなんてね。しっかり灸をすえてやらないと」
後ろの方でしゃんと背筋を伸ばしながら座っている、弘政の祖母こと雅花はふんと鼻を鳴らす。その両手には趣味でやっている薙刀が握られており、彼女も殴り込む気満々だ。
博吉「ったく。無茶してくれるなよ?」
博吉が飄々と笑いながら拳をぱきぽき鳴らし、さっきまでやっていた趣味のゲートボールのスティックを握る。
雅花「お爺さんこそ」 士郎「というより、どうやって抜け出してきたんですか?」
夫に言われたくないと笑う雅花に士郎がそう聞くと、博吉は「あん?」と笑った。
博吉「士郎坊から電話がかかってきた後、“孫の未来の嫁候補が銃持った連中に誘拐されたらしいからヒーローっぽくちょっち助けに行ってくる”つって抜け出してきた」
博吉の笑いながらの言葉に恭也とユーノが呆れたように手で顔を覆う。ちなみにその後ろで弘政が「誰が誰の未来の嫁候補なの!?」と立ち上がりながら叫ぶが顔が赤いついでに、その表情が若干まんざらでもなさそうなものに見えたのかなのはは冷たい目で弘政を見た後澄まし顔で「男子ちゃんと席に着いて下さーい」とか言い出しながら彼の頬を抓り、彼は「痛い痛い」と悲鳴を上げる羽目になっていた。
博吉「まあ、ダケさん達も本気にはしてなかったがな」
ユーノ「そりゃそうでしょうね……」
博吉のかっかっと快活に笑いながらの言葉にユーノが呟く。孫の嫁候補はともかくとしてこの平和な日本で拳銃沙汰なんて普通考えないだろう。
博吉「おー。でも新人の嬢ちゃんがまるでこの世の終わりみてえな顔してやがったなー。ほれ、婆さんは知ってるだろ?」
雅花「ああヴィータちゃん? 子供をからかうもんじゃありませんよ?」
博吉に話を振られた雅花はくすくすと笑ってそう返し、博吉は「へいへい」と頷く。まあ博吉本人も見た感じ孫と同い年な女の子をちょっとからかったぐらいだ。ちなみに同い年な知らない子供の話題になっていたがなのはは弘政相手に鬱憤晴らし、弘政は頬を抓られる痛みのせいでその話を全く聞いていなかったりする。
ユーノ「あ……氷牙さんの魔力、近いです!」 士郎「皆さん、気をつけてくださいね」
ユーノが今まで辿ってきた氷牙の魔力が近くなったのに気づいて叫び、士郎も皆に呼びかけるとアクセルを踏んで車のスピードを上げた。
ちなみにその頃……。
ヴィータ「だーかーらー! アタシの知り合いが銃持った連中のとこに殴り込みに行ったんだってーの!!」 シグナム「ヴィータ……それはからかわれたに決まっているだろう?……」
とある一軒家。博吉の言葉を聞いたヴィータも「急用を思い出した!」とか叫んで早退し、家に帰ってきた後、現在家で一人ソファに座り新聞を読みながら留守番をしていた、桃色髪ポニーテールな美女シグナム――ちなみに彼女も雅花と薙刀と剣道という和の武道で繋がりを持つ――に訴えるが、シグナムは明らかなほどに呆れた目でヴィータにそう返す。
ヴィータ「んな事言って、博吉になんかあったらどうすんだよ!?」 シグナム「お前は……最近はそのご老人の事ばかりだな」 ヴィータ「なっ、なななな……んなことねえよ! ただあいつになんかあったらお菓子奢ってくれる奴がいなくなんだよ! そんだけだ!!」
ヴィータの言葉にシグナムがそう言うとヴィータは顔を真っ赤にして怒鳴るようにそう言い、部屋にずんずんと戻っていく。
シグナム「……やれやれ。主達が帰ってくる前に終わればいいんだが……」
彼女が何をするのかのあたりをつけたシグナムは新聞を畳むとソファから立ち上がって自室へと戻る。それから二人は家を出ていくのであった。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.106 ) |
- 日時: 2014/07/09 23:40:06
- 名前: 孝(たか)
- そうして士郎達が廃ビルの到着し、入口に車を駐車した頃・・・
「な、なんだこのガキ?!」 「か、壁が爆発しただと!?」
氷牙が壁を文字通り粉☆砕して登場した事に驚きを隠せない。 当たり前だ。どこの世界に、小学生くらいの少年が壁を粉砕して平然としていられるのだろうか。
氷牙「あ〜。アリサ。居た。」 アリサ「氷、牙?アンタ、今何したの!?」 氷牙「うゆ?魔法で身体を強化して、弘政に教えてもらった、空手の正拳突きを壁に、打った。」
首を傾げながらもアリサの疑問に分かりやすいように答え、トテトテと歩きながらアリサの下へ向かう氷牙。
その間、誘拐犯達は先の壁が爆発した事による動揺が収まらず、茫然と立ち尽くしたまま氷牙をみすみすアリサの下へ行かせてしまった。
「ハッ?!ガ、ガキ!キサマ一体何者だ!?」
漸く立ち直り、氷牙に向かって拳銃を取り出しながら、しかし未だに頭の中は混乱でいっぱいいっぱいだった。
氷牙「??アリサとすずかの友達。だから、助けに、来た。それだけ。アリサ、すずか、どこ?」
ビリビリとゆっくりガムテープを外し終え、続いてロープを解きながらすずかの居場所を聞く。
アリサ「上の階に連れていかれたの!それから氷牙。アイツら、すずかの事を化け物呼ばわりしたの!私、アイツらが許せない!」
アリサは先程聞いた誘拐犯に友達を侮辱され、怒り心頭になっている事を伝える。
氷牙「む。すずかは、化け物、違う。僕達の、友達。オジさん達、許さない。」
それを聞いた氷牙も珍しく怒ったぞ。という雰囲気を出す。 傍から見れば微笑ましく見えるが、とうの氷牙はアリサと同じように本気で怒っている。
「くっ!?ガキが!調子に乗るな!」
そう言って、取り出した拳銃を発砲し、氷牙の足元を撃つ。 どうやって壁を粉砕したかは不明だが、相手は子供。 一発威嚇射撃すれば大人しくなるだろうと、発砲したのだ。
氷牙「・・・・・・・・・」 「今のは威嚇だ。大人しくしていれば痛い目を見なくてすむぞ?」
拳銃に驚いて恐怖で立ちすくんでいるのだろうと思い、下品な顔でゆっくり近づく誘拐犯の1人。 恐らくだが、氷牙たちを拘束する気なのだろう。
だが、誘拐犯が銃口を逸らし、何も持っていない手で氷牙を捕まえようとした途端・・・
氷牙「やあ!」 「ぶべ!?!?」
すっと手を避けると、誘拐犯の膝に右脚を掛けて踏み台とし、そのまま両手で誘拐犯の頭を掴むと勢い良く引っ張り、更に勢いを付けた左の膝を顔面に叩きこむ。
顔面膝蹴り(カウ・ロイ)である。
いくら子供の体格とは言え、つい先ほど身体強化魔法・ブレイブハートを掛けていたので、その威力は大人顔負けの威力を持つ。 その証拠に、膝蹴りを食らった誘拐犯の鼻の骨は砕け、とめどなく鼻血が溢れ出ていた。
少し前までの氷牙ならば、この様な乱暴な真似はしなかっただろうが・・・昨夜見た夢が原因なのか?身体が勝手に動いたという方が適切であろう。
一番最初に粉砕した壁の被害にあった1人目と、たった今氷牙が伸した1人。 この階に居る誘拐犯の半分が既に気を失っていた。
「このクソガキが!?」 氷牙「堅牢なる守りを・・・シールド。」
逆上した誘拐犯の二人は拳銃を取り出すと氷牙に向けて銃を発砲する。 しかし、その前に氷牙が防御魔法を発動して前方に光の壁を発生させる。 5発、6発と何度も発砲するが、氷牙の前に現れた光の壁が全て受け止める。
「な、なんだアレは!?」 「お、俺が知るかよ!?」
氷牙の前に突然現れた光の壁が銃弾を全て受け止めた事に驚く誘拐犯達。 先程から何度目かわからない事態に、更に混乱は加速する。
氷牙「え〜と・・・この身に宿れ、風の力。疾風纏いて、駆け抜けよ。スピードアップ。」
今度は速度上昇の魔法を自身に掛ける。氷牙の身体から白く仄かな光が膜の様に全身を包み込む。
氷牙「えい!」
ビュンッ!!
誘拐犯やアリサの眼で捉えきれない程の速度で誘拐犯に突撃! その速度でもって全体重を掛けて腹部にまるでロケット頭突きの様に衝突する。
「ご、ごげが・・・」
あまりの衝撃に白眼を剥いて泡を吹いて気絶する。これで3人。
「ば、化け物・・・!?」
誘拐犯はあり得ない者を見るように氷牙に対して化け物と呟くと逃げ出す。
氷牙「確か・・・この身に宿れ、心の眼。穿て必中。ヒットアップ。」
今度は緑の仄かな光が氷牙の全身を覆う。呪文からして、命中率上昇の魔法だろうか?
氷牙「よいしょ・・・えい!!」
ブオンッ!と音を立てて拾った拳大程の石をプロ投手の様に綺麗なフォームで投擲!
メキョッ! 「げふぅっ!?」
それは吸い込まれるように逃げ出す誘拐犯の背中に命中し、突然の衝撃に足がもつれて転倒する。 その時、額をぶつけたのかそのまま気を失うのだった。
これで4人。 アリサとすずかを誘拐した5人組のうち4人を気絶させる事に成功した氷牙。 それを見て、拘束を解かれたアリサも茫然と立ち尽くすだけだった。
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.107 ) |
- 日時: 2014/07/10 02:50:28
- 名前: 孝(たか)
- 『氷牙様・・・』
氷牙「・・・ガング、ニール・・・僕、少しだけ、思いだした」 『ま、まさか・・・記憶が?』 氷牙「・・・ううん。そうじゃなくて、何だろう?自然にね、出来るって、そう、思った。そしたら・・・出来た。」
氷牙は、昨夜の夢を見た後から力が湧いて来ていたのだ。 あの時、夢の中では力はいらないと答えた。
だが、実際には忘れている筈の力の一部を取り戻したかのようだった。
『・・・恐らくですが、原因はこの間のジュエルシードを封印したからでしょうな。』 氷牙「・・・?どうして?」
なぜジュエルシードを封印しただけで戦えるようになったのか?
『あの時、氷牙様は膨大な魔力を使用し、ほぼ無理矢理な形でジュエルシードを封印しました。それにより、今まで詰まっていた魔力穴が昔の様に広がったのでしょう。』
魔力穴・・・それは、文字通り魔力を使用する際に通る穴の事であり、それはまるで血管の様に身体中のいたるところに無数に存在する物である。
氷牙は記憶を失ってからと言う物、魔法を使う事が殆どなかった。 それゆえに魔力穴は少しずつ退化し、縮んでいたのだが、この間のジュエルシードを封印する際に膨大な魔力を一気に放出した事により、昔の様に穴が広がり、魔力行使がしやすくなったのだろう。
つまり、今まで氷牙の魔法の錬度が中々上がらなかったのは魔力の通りが悪く、大きな物を無理矢理小さな穴に通していたせいで疲れやすく、それでいて消費が激しかったのだ。
だが、それが元に戻った今、氷牙の魔力運用はこの間までとは比較にならない程の効率性を持ち、今までできなかった事が出来るようになったという訳だ。
アリサ「氷牙・・・」 氷牙「アリサ・・・怪我、ない?」 アリサ「私は大丈夫。ねぇ、さっきのも魔法なの?」
先程まで茫然としていたが、そう言えば自分の友達は魔法使い・・・魔導師だったのを思い出して氷牙の下へ向かい、そう聞いた。
氷牙「ん。補助の、魔法。強化系。」 アリサ「そ、その魔法って、私にも使える?」
やはりアリサも女の子。魔法を使う少女・・・魔法少女に憧れがあったりするのだろう。
氷牙「ガングニール・・・どうなの?」 『そうですな・・・アリサ殿の魔力はなのは殿程ではないにしろ、それなりにあるご様子。なのは殿やフェイト殿の様なミッド式は無理ですが、氷牙様が扱う様な古式魔法ならば修練さえ積めば扱う事は難しくありません。』
なんと、アリサにはリンカーコアはないが、古来から続く由緒正しい魔法・・・古式魔法は努力次第で習得できる事がガングニールから答えを得た。
アリサ「本当に?!・・・って、今はそんな事は置いといて・・・すずかは上の階に居る筈。早く行きましょう!」
魔法が覚えられる事に興奮したが、すぐにすずかの事を思い出して氷牙を急かすアリサ。
『では、アリサ殿。決して我々から離れない様に・・・』 アリサ「ええ。わかってるわ。」
余計な事はしないと返し、2人は上の階へと進んでいく。
少なくとも、この廃ビルにはアリサ達を誘拐した残りの1人と、すずかの誘拐を依頼した者が1人。
つまり、最低でも後2人は敵が潜んでいるのだ。 油断はできない。
一方その頃・・・丁度氷牙達が上の階段を昇り始めたところで、士郎達大人組みが到着し、先程までアリサ達がいた階までやって来ていた。
士郎「これは・・・」
士郎達が見たのは、壁には大穴が空き、1人は鼻が折れて鼻血を流した状態で気絶してる者。
1人は瓦礫の下敷きになって気絶している者。
1人は白眼を剥いて泡を吹いてくの字に倒れている者。
1人は額から血を流しているが比較的軽い傷で気絶している者の計4人の人を発見した。
弘政「この人達・・・多分バニングスさん達を誘拐した人達だと思います。同じ服装ですから・・・」
弘政達が見たのは彼らが来ている服装に奇妙な覆面を付けていた者達なので、自信はないがそうだろうと頷ける物があったのでそう答える。
恭也「とりあえず、コイツらは縛っておくか」 ユーノ「それなら僕に任せて下さい。結界や捕縛系の魔法は得意なので。」
そう言って、ユーノは士郎達が一か所に纏めた誘拐犯達の手足をバインドで固定した後、更に一纏めにする為にチェーンバインドでお縄頂戴の様にグルグル巻きに拘束したのだった。
博吉「さて・・・とするとヒー坊達は上の階に行った事になるのか?」 ユーノ「・・・・・・そうみたいですね。向こうの扉の向こうに氷牙さんの魔力痕が続いてます。」
なのは「急ごう!」 雅花「ええ。行きましょう。」
そうして、漸く追いついたとばかりに階段を駆け上がり・・・扉を開けた先には・・・
氷牙「グルルルルルルル・・・グガアアアアアアアアアア!!!!!」
まるで野獣の様な雄叫びを挙げながら自動人形を獲物の様に引き裂く変わり果てた氷牙の姿があったのだった。
氷牙「ガアァァァァ・・・」 「ヒ、ヒィィィィッ!?ば、化け物・・・」
恐らくすずかを誘拐するように依頼したであろう人物が氷牙を化け物と言いながら腰を抜かし、鼻水と涙を流しながら後ずさっていた。
氷牙「グルゥゥゥゥゥ・・・ユル、サ、ナイ。友、ダチ・・・イジメ、タ・・・ユル、サナイ。」
ほんの少しだけ理性が残っているのだろうか?うわ言のように許さないと呟きながら、うめき声と共にその男へ一歩ずつ恐怖を煽る様に近づく氷牙。
一体、士郎達が到着するまでに何があったのだろうか?
|
Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.108 ) |
- 日時: 2014/07/11 00:27:26
- 名前: 孝(たか)
- 士郎達が到着するほんの数分前・・・
『氷牙様。この扉の先にすずか殿の反応があります。』 氷牙「ん。わかった。他には?」
ガングニールがすずかの生体反応を見つけ、この扉の先に居る事が判った。 しかし、少なくとも後2人の敵がいる事が判っているので、他に何かないか確認を取る。
『・・・すずか殿以外に生命反応が2つ。恐らく誘拐犯の最後の一人と、すずか殿を誘拐するように頼んだ下衆と思われます。 そして・・・恐らく、戦闘型の人形と思われる物が数体・・・』
犯人以外にも護衛となる戦闘型の人形・・・恐らくロボットの様なものがいるのだろうと答えるガングニール。
氷牙「分かった・・・行くよ?」 アリサ「・・・すずか。今助けるからね。」
ガチャ・・・ギギィィィィィィ・・・
廃ビルらしく錆びた金具の音を響かせながら開く扉。 その先に、目的である拘束されているすずかと、依頼人であろう人物がソファーに座っていた。
「おやおや・・・何とも可愛らしいナイト様のご登場だねぇ?」
氷牙達が小学生くらいと見て嘲るように嗤いながらそう評する男が一人。
氷牙「すずか、無事?」
だが、氷牙はその男の事など眼中にはなく、すずかが無事であるか確認する。 そして、一歩踏み出そうとする氷牙。
すずか「来ちゃ駄目!?」
踏み出そうとしてすずかに静止するように言われ、首を傾げる氷牙。
「危なかったですねぇ〜・・・その線を越えないほうがいいですよ?」
その男は、馬鹿にしたような口調でそう告げる。 氷牙達と男の中心辺りに、白線が引かれている。
「試しに其処の石でも投げてみなさい。私の言っている意味がわかりますよ」
氷牙は足元に転がっていた石を拾い、男に向かって投げた。
そして、その石が白線を越えた瞬間、
――シャキキン
どこかから人間離れした動きで何かが飛び出し、石を粉々に切り裂いた。
氷牙「・・・戦闘型の、人形?」 「おや?良くこれが人形だと分かりましたねぇ?」
驚いたよと肩を揺らして褒めるが、見た目からは馬鹿にしてるようにしか見えない。
「これは、我々夜の一族の遺産。自動人形だ。簡単に言えば精巧に出来たカラクリ人形さ。」 アリサ「夜の、一族?自動人形?ど言う事よ!?」
男の言葉が良く分からず、アリサは聞き返してしまう。
「何も知らんのか?まぁいい。我々は普通の人間とは違う。人間の血を用いてあらゆる事を可能にする者。それが・・・夜の一族」 アリサ「人間の血・・・アイツらが言ってた吸血鬼って!?」
先の誘拐犯が戯れに答えた事を思い出し、唖然とするアリサ。
「ほぉ、少しは聞いていたか。吸血鬼というのも、夜の一族の噂が変化して伝わった物だろうな。 そして、その夜の一族の中でも月村は名家!しかし、その月村の当主があんな小娘であってたまるものか!」
その言葉で、氷牙たちは大体理解した。
氷牙「すずかを誘拐したのは、忍を、当主から降ろす為?」 「ほぉ。子供のくせに飲み込みが早いじゃないか?」
先程と違い、今度は純粋に褒める男。
氷牙「でも、忍に手を出すと、恭也が、怒るよ?」
今日まで恭也達に師事されてきて良く分かる。恭也達の扱う秘技「神速」は、並大抵の事で反応できるような物でもないし、御神の技もそうそう対処出来るものではない。
「恭也?御神の剣士だな。ふん、その位の対抗策は考えている。それがこの自動人形たち、戦闘特化型だ」
男が後ろに控える先程の5体の自動人形を指しながらそう言う。
氷牙「・・・?さっきの人形・・・?でも、恭也も士郎にも、勝てないと思うよ、それ。」
そう言って、先程の人形の動きを思いだして自身が経験した恭也の戦闘力を吟味する・・・結果、氷牙が導き出したのは自動人形では恭也達の相手としては不足という分析だった。
「言うじゃないか・・・確かに1体、2体では勝てないかもしれないが・・・それが10体あればどうかな?いくら御神の剣士とエーディリヒ型2体とはいえ、戦闘特化型10体が相手では・・・」 氷牙「無理。多分、20でも、恭也たちには勝てない。」
バッサリと例え20体用意したところで恭也たちには勝てないと断言する氷牙。
「い、言うじゃないかクソガキ・・・」 氷牙「事実。その人形だと、絶対、勝てない。あと、オジサンは馬鹿。」
指を指しながら男を馬鹿と言う氷牙。それに反応して額に青筋が浮かぶ。
氷牙「普通、そう言うのは秘密にするもの。でも、オジサンは隠す気ない。だから馬鹿。」
そう、これ程の自動人形だ。世界では未だ二足歩行できるロボットなど一歩歩くのにも数秒かかる。
だが、夜の一族の技術によって作り出された自動人形たちは現存する物よりも数十倍、数百倍の技術だ。
だと言うのに、この男は自慢するようにベラベラと暴露していく。 自分達の正体とその技術力を。馬鹿と言われてもしょうがないだろう。
アリサ「すずか。嘘、よね?・・・コイツが言った事、全部嘘なんでしょう!?」 すずか「・・・・・・本当、だよ。・・・」
男がベラベラと自分達の秘密をばらしている間、すずかは顔を伏せていた。
ゆっくりと頭を挙げると・・・すずかの瞳は血の様に赤く染まっていた。
すずか「月村の一族は・・・人間じゃ・・・ないんだよ」
言いながら、すずかはポロポロと涙を流しながら事実だと告げる。
アリサ「すずか・・・その目!?」
アリサが驚いたように叫ぶ。反応に困っているのか、氷牙はぼうっと突っ立っている。
すずか「この赤い瞳が、夜の一族の証。人の血を吸う吸血鬼、化け物なんだよ!」
自虐的に叫ぶすずか。今までの我慢が限界に達したのか、ぽつぽつと話し始める。
すずか「ゴメンね?アリサちゃん、氷牙くん。私、ずっとアリサちゃん達の事騙してた。私は人とは違うのに・・・化け物なのに、騙して皆と友達になろうとしてた・・・だから、ね?」
涙を流しながら微笑み、告げる。
すずか「私の事は良いから・・・逃げ「ふざけんじゃないわよ」アリサ、ちゃん?」 アリサ「ふざけんじゃないわよ?!化け物ですって?そんなの関係ないわよ!?夜の一族だろうが吸血鬼だろうが・・・すずかは!私たちの友達なんだから!そんなに信じられないの!?すずかはすずかでしょう!それ以外のなんだって言うのよ!?さっきも言ったけど、もう一度言うから・・・良く聞きなさい!!」
アリサは一度言葉を止め、大きく息を吸う。 そして、カッと目を見開くと大声てすずかに告げる。
アリサ「私たちは、たとえアンタが化け物だろうが吸血鬼だろうが・・・ずっと!ずっとずっと!親友であり続けるって!だから!・・・一緒に帰ろう!すずか!!!」
自分を置いて逃げろと言う前に、アリサはすずかが言おうとしている事を予想して言わせない。
代わりに、自分達を信じろと・・・ずっと友達でいようと再び宣言するアリサに、すずかはとめどなく涙を溢れさせた。
すずか「いいの?私・・・化け物なんだよ?」 アリサ「だから何よ?私達の横に居るコイツだって、十分化け物じみてるじゃない!」
すずかの問いに氷牙を指さしながらどうでもいいと返す。
すずか「人の血を・・・吸うんだよ?いつかアリサちゃんたちから血を吸い取るかもしれないんだよ?」 アリサ「そんなの、生きる為に仕方なくする事でしょう? 人間だって、生きる為に牛や豚や鳥を食べるじゃない!鼈(すっぽん)の生き血飲む奴だっているじゃない!それと何が違うのよ!」
生きる為に血を吸うなら人間だって自分たち以外の生物を食べるのだから変わらないと返すアリサ。
アリサにとって、吸血行為は輸血か何かと変わらないのだろう。
すずか「わたし・・・居ても、良いの?アリサちゃんたちと・・・一緒に居ても・・・良いの?」 アリサ「あたりまえじゃない。・・・だって、私たち・・・友達でしょう?」
ニッと不敵に笑って返すアリサに、すずかはもう我慢できなかった。
すずか「ううう・・・ふぐっ・・・ありが、どう・・・アリサぢゃん!!」
ボロボロと涙を流し、感謝の言葉を述べるすずか。アリサ達と友達でよかったと、心の底から感謝していた。
|