Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.23 ) |
- 日時: 2012/08/09 05:42:59
- 名前: 孝(たか)
- 第七話…訪れた災厄
楽しかった温泉旅行も終わりを告げ、いつもと変わらない日々が過ぎ去った。
そうして、いよいよ一年の中で子供達が一番楽しむ季節…夏!到来!!
なのだが…
なのは「ぷ〜〜〜!」
夏休みに入ってからなのはの機嫌が急降下しているのだ。
その理由とは、父である高町士郎が数日前から秘密の仕事…ボディーガードを引退する為の最後の大仕事に出かけた為だ。
そのせいで家族団欒が出来ず、桃子は翠屋を切り盛りしなくてはならないし、美由紀や恭也も例に漏れずその手伝いをしている。
今居ると言えば…
氷牙「なのは、ご飯。出来た。」
家事をしている氷牙だった。
氷牙は記憶喪失のせいで口調などがおかしい所があったり、対人恐怖症の気があったりするが、何故か料理はすぐ出来るようになった。
ガングニール曰く…「昔から料理はすぐ覚えた」らしい。
現在の得意料理はオムライス・ナポリタン・唐揚げ・味噌汁・スープ&シチュー類である。
なのは「ぷ〜〜。いただきます。」
機嫌は悪いが、キチンとする事はするなのは。 根が真面目な証拠である。
なのは「はむはむ…もぐもぐ…」 氷牙「なのは、どうした?美味しく、ない?」
どこか暗い表情のなのはが気になり、声をかける氷牙。
なのは「美味しいなの。でも……"二人だけは、寂しい"。」 氷牙「……ん。僕も、寂しい。」
暗い原因は味ではなく、二人だけで食べる寂しい食事という点だった。 まだまだ甘えたい盛りなのだから仕方ない事だろう。
氷牙「でも、士郎。後三日、帰る。それまでの、我慢。」 なのは「………うん。」
それから数時間後の夜。
「「「ただいま〜」」」
桃子達が翠屋を閉めて帰ってきた。
なのは「お帰りなさい!」
笑顔でなのはが三人を出迎え、氷牙も当然の様に付き添う。
桃子「二人とも、良い子にしてた?」
「「うん(ん。)!」」
二人は頷く事で返した。
そうして一人足りないが5人で明るい夕食の一時を過ごしていた時のことである。
トゥルルルルルルル…トゥルルルルルル…
高町家に一本の電話が掛ってきたのは…
それが、高町家にとって大きな事件になる事など…誰にも予想できる筈もなかったのだ。
トゥルルルルルルル…トゥルルルルルル…
トゥルルルルルルル…トゥルルルルルル…
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.24 ) |
- 日時: 2012/08/09 16:30:21
- 名前: カイナ
- その数分後、弘政はなのはの家に向かっていた。夕食に作ったかぼちゃの煮物が美味しく出来たため、お世話になっている高町家にお裾分けに行っているのだ。
弘政「こんにちはー」
弘政は小さな鍋を手に持ちながら器用にぴんぽーんとチャイムを鳴らす。と家の中がざわざわとなっているのに気づき、弘政は静かにドアを開ける。
恭也「あ、ああ。君か……」
その時丁度やってきた恭也はどこか落ち着かないそわそわとした様子を見せながら声をかけ、弘政は首を傾げながら彼に鍋を手渡す。
弘政「あの、かぼちゃの煮物です。美味しく出来たからお裾分けにって……」 恭也「そうか、わざわざすまない……後で美味しくいただく。ありがとう」
弘政の言葉に恭也は静かにそう言って鍋を受け取る。
恭也「もう遅い、君も早く帰るといい」 弘政「は、はい……」
恭也はそう言うと家の奥に消えていき、弘政はぽかんとしてそう呟いた後首を傾げて踵を返し、高町家を後にした。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.25 ) |
- 日時: 2012/08/10 02:29:49
- 名前: 孝(たか)
- あの夜の電話から一夜が明けた。
電話の内容は…高町士郎が大怪我をしたとの事… お昼頃に病院から電話が掛り、高町士郎が無事日本の海鳴総合病院へ搬送されたとの連絡が届いてからの桃子の行動は早かった。
恭也・美由紀・なのは・氷牙を車に乗せると、海鳴総合病院へと急行したのだ。
病院へ着き急いで士郎が居る病室へと行くと待っていたのは…チューブなどで繋がれている痛々しい姿で横になっている士郎の姿だった。
桃子は士郎に駆け寄り涙を流しながら士郎に声を掛け、美由希や恭也は辛いものを感じて目を逸らしている。 なのはは何が起こっているのか分からないのか、「お父さんはなんで寝てるの?」と聞いてくる。
その質問は誰も答えてくれない。いや…答えられない。
『……大丈夫です、なのは殿。士郎殿は仕事で疲れているだけです。暫くすれば、元気なお姿を見る事が出来ます…きっと。』
だがそこで、ガングニールが当たり障りのない言葉でなのはの不安を取り除かせる。
なのはは安心したのか、「わかったの〜」と頷いて士郎の方へ目を向ける。
氷牙「あ…ああ…そんな…いやだ…また、居なく…」
しかし、そんな言葉は氷牙の方には届いていなかった。 士郎の状態を見た時から、カタカタと身体を震わせ、震える両手を見つめ、誰にも聞こえないくらい小さな声で何かをつぶやいていた。
士郎が倒れて一週間が過ぎ、高町家はやはり暗い雰囲気に陥っていた。
桃子は、仕事が入るとき以外は士郎と一緒にやっていた喫茶店翠屋を一人でやりくりするようになり、子供達に構う時間が減っている。
美由希もそんな桃子を見て、極力翠屋を手伝おうと喫茶店へ行っている。 恭也は自分の力不足を感じているのか、傍目から見ても無茶としか思えない特訓をするようになっている。
そうなれば、家に残っているのは氷牙となのは…そしてガングニールだけ…他には誰もおらずガランとしている。
なのはも、幼いなりにこの雰囲気を感じ取っているのか今までの明るさがなくなり大人しい”イイコ”になってしまっている。
氷牙「なのは……お腹、空かない?」 なのは「…ん〜ん、なのは、だいじょうぶだよ。なのははイイコだからちゃんと、がまんするよ?」
氷牙に向かって微笑み、それを断っているなのはの笑顔は仮面としか思えない偽りの笑顔だ。
『なのは殿、貴女はまだ小さいのだから、我が侭を言っても罰は当たりませんぞ。』 氷牙「なのは……」
氷牙はなのはを抱きしめると頭を撫で言葉を伝える。
氷牙「我慢、しちゃ、駄目。」 なのは「がまんなんて…」
氷牙「してる。だって、なのは…泣きそうな、顔、してる。涙、堪えてる」 なのは「!?」
氷牙は人の感情に敏感だ。
人の喜・怒・哀・楽を敏感に感じ取り、共感してしまう。 故に今、なのはの溜めこんでいる感情が伝わってくる。
氷牙「我慢する、偉い。でも、泣く事、我慢、駄目。」 『氷牙様……なのは殿。今は我々以外誰も居ません。ですから…”泣く事だけは我慢なさるな”』
なのは「ふ、ふえ…」
カタカタとなのはが震えだす。
なのは「ふえええ〜〜〜〜〜〜ん!!」
なのはは泣きだす。この数日で感じていた孤独という子供には重い環境に…
いくら話し相手として氷牙とガングニールが居ると言っても、感情の稀薄な氷牙と、所詮は鉄の塊でしかないガングニール。
寂しさを感じるなと言う方が無理なのだ。
なのは「だって、だって!なのはのせいだもん!なのはがあの日、寂しいなんて我が侭を言ったから…だから罰があたったんだもん!なのはが!なのはががまんしてれば、お父さんもあんな事にはならなかったもん!!」
内に秘めた感情を曝け出す様に、わんわん泣きながら想いを吐き出すなのは。 氷牙はそれを聞きながら、ずっとなのはを抱きしめていた。
”誰にも見せた事のない、真剣な表情”で…
この日からである…なのはが、常に”イイコ”であろうとする子になったのは…余りにも早過ぎる、”我慢”という鎖に囚われてしまったのは…
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.29 ) |
- 日時: 2012/08/12 05:34:55
- 名前: 孝(たか)
- 第八話…覚悟完了!
その日の夜…。
『氷牙様…本当に良いのですか?』 氷牙「…やる。僕、士郎、助ける。何でも、する。」
氷牙は真剣な表情でガングニールを見つめる。
『……判りました。では、私が記憶している氷牙様が初めて”魔法”を使われた日の記憶をお見せします。』
この日、氷牙はガングニールにある事を問いかけた。 それは…ガングニールなら士郎を助ける方法を知っているのではないか?
という事である。曲がりなりにも、意志のある鉄である。 神秘や奇跡の一つくらい持っていてもおかしくは無い。
ガングニールはそれに対し、『私には出来かねますが、氷牙様なら出来ます』と、答えたのだ。
記憶を失う前の氷牙は、巨大な槍を持って突撃する切り込み隊長…という役割を持っているが、氷牙本来のスタイルは、”ヒーラー”回復であるとの事。
故に、氷牙なら士郎を助ける事が出来る。 それを聞いた氷牙の心は決まったも同然だ。
士郎を助ける。自分には、それを可能にする力が確かに有ったと教えてもらったからだ。
『……(私は、本当なら反対です。氷牙様には、闘いの日々を忘れてほしい。記憶を無くされたのは、氷牙様にとって千載一遇のチャンスと思っておりました…そうすれば、もう戦わなくて済む。辛い思いをしなくて済む…そう思っておりましたが…やはり、貴方様はそれを選ぶのですね…)目を閉じて力を抜いてください。いきますよ…記憶転写!』
氷牙「…………っ!……ぅぅ……ハァ!…ハァ!」
記憶の転写…それは、本来なら大変危険な行為である。 記憶の転写とは、いわば脳に直接情報を送り込むもの。
故に、受ける側が見たくないと願い、目を閉じてもその情報を止める事はできないのだ。
一方的に流れて来る情報。 その情報が酷い恐怖を呼ぶものであれば、受けた側の人間は下手をすれば廃人と化すだろう。
しかし、今回移す記憶は恐怖とは程遠い、なんて事は無い日常と変わらない。 だが、直接脳に映像を送られるというのは、それはそれで苦しい物なのだ。
氷牙「……彼の者の傷を癒せ……ヒール。」
ポゥ…
氷牙は両掌をボールを持つようなポーズをとる。 そして、呪文を唱えると温かな光が手と手の間に産まれた。
『やはり……記憶を失っていても、身体が覚えているのですね…ですが氷牙様。これは、無闇に人前で使ってはなりませぬぞ。』 氷牙「…どうして?」
どうして使ってはならないのか?すぐに怪我を治せるのであれば積極的に使うべきでは?そう思う氷牙。
『この世界には、魔法が普及されていないからです。氷牙様の力を知り、悪用する者が居ないとも限りません。ですから、使う時は充分注意してください』 氷牙「ん。判った。」
この日、氷牙はそのまま眠りについた。 元々は自分の記憶とは言え、脳に直接映像を流したのだ。
それなりに負担が掛って居たせいもあり、すぐに寝息をたてたのも無理からぬことであろう。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.30 ) |
- 日時: 2012/08/20 12:36:42
- 名前: 孝(たか)
- 翌日。
朝起きたらすぐに士郎の元へ行こうと思っていた氷牙だが…肝心の病院への道を覚えていなった。
氷牙「うう…僕、馬鹿。マヌケ…ううう。」
部屋の隅で自分に知る限りの罵倒を呟き、膝を抱えてどんよりしているのだった。
しかし、そのまま腐っている訳にもいかないので、なのはが見ているのも気にしないで回復の魔法を練習していた。
その夜…桃子達が帰宅し、食事を終えた後の事である。
氷牙「桃子、お願い。ある。」 桃子「あら、氷牙君?珍しいわね。貴方がお願い事なんて…?」
仕事の疲れが溜まっているのか、少々苦笑いしつつも氷牙の問いを聞く。
氷牙「僕を、士郎の所、運んでほしい。」 桃子「……え?でも…士郎さんは今…」
途端に暗い表情になり、言葉を詰まらせる桃子。 恭也や美由紀にしてもそうだ。
しかし、次の氷牙の言葉を聞いて、一変させる。
氷牙「士郎、助ける。方法、見つけた。ガングニール、教えてくれた。」 桃子「え?氷牙君?何を…」
訳が判らなかった。今、士郎は何時目を覚ますか分らない危険な状態だ。 このまま目を覚まさない場合もあれば、急変して死に至るとも限らない程の…。 しかし、彼・氷牙はその士郎が助かる可能性を教えてもらったと…そう言ったのだ。
氷牙「僕、士郎達、助けられた。次、僕の、番。士郎、助けたい。だから、お願い。僕、士郎の所へ…行きたい。」
強い瞳。 いままで氷牙を見てきたが、いつも弱弱しい雰囲気しかなかった。 だが、今はどうだろうか?士郎を助けたい。その一心で、ここまで力強い表情をするようになった。
桃子「……わかったわ。みんな。支度を…士郎さんの所へ!」
それからの行動は速かった。 最低限の荷物を持ったら即座に車を出して病院に向かったのだ。
面会時間はギリギリ…およそ15分ほどしか残ってないが、それだけあれば十分との事。
士郎の居る病室。
氷牙「士郎。僕、絶対、助けるから…ガングニール。手伝って」 『御心のままに。』
氷牙はガングニールを両手で掲げ、士郎に向ける。
氷牙「我は望む。祝福を、精霊よ、その力、白き絆の雫となりて、彼の者の傷を癒せ……ヒール」
ガングニールが光に包まれる。 その光を粒子化し、粉の様な光が士郎を包み込む。
すると、士郎の顔にあった瘡蓋まみれの傷が、シュウシュウと小さな音をたてながら消えてゆくではないか。
五分ほどそれを続けた氷牙は、大量の汗を流し、「ハァハァ」と荒い呼吸をしていた。
この世界に来てから、実に数カ月。その間マトモに魔法を使っていなかったブランクのせいで、神経を使ったのだろう。 更に、記憶を失っている事もそれに拍車をかけている。
大怪我をしてから実に一週間程経過し、目を覚ます様子も無かった士郎。 今は氷牙の努力が功を成したのか、顔色も良くなり、目に見える範囲の傷も治っている。
きっと、このまま何日か続ければ、士郎の回復は早くなるだろう。 ただし、氷牙も疲労してしまうだろうが、当の本人である氷牙は士郎が助かるなら疲労ぐらい何のそのと言ってのけるに違いない。
だが、ガングニールによると、急激な回復は傷は治っても疲労や疲弊等は蓄積され、命を縮める可能性も無くは無い。と答えている。
故に、少しずつ慎重に。 氷牙は毎日続けるつもりでいたのだが、それでは逆効果になる事もあるらしい。
昔、生まれつき病を持った子供がおり、手術で全ての原因を取り除くと、その子供はみるみる元気になった。 普通の子供と何ら遜色なく生活していたが…突如急変し、原因を探ってみたがどこにも異常は見られない。 そうして、その子供は治療の介なくこの世を去る事になった。
数年後、医療の研究が進みその原因が判明した。 生まれつき病を持った子供は、それが通常の状態である為、治療する場合はある程度の負担をかけるように治療していかなければならない。 いわゆる、リミッターの様なものだ。
それを聞いた一同は、ならば病院への道案内役・桃子に余裕がある日に少しずつ治癒していけばいいと言う結論に至ったのだった。
それから2か月が経過した頃だった。 大体4日に1度のペースで氷牙がヒールを5分間かけ続けた成果が、ようやっと実を結ぶ事になる。
未だに目は覚まさないものの、士郎の身体の傷は目に見えて消えている。 後は、士郎の『生きたい』という心がどれ程の強さかが関わってくる。
そして……
氷牙「今日も、頑張る。」 桃子「氷牙君…大丈夫?」
桃子が心配そうに尋ねる。
氷牙「ん。士郎、絶対、助ける。大、丈夫。」
氷牙は心配するなと言う様に、ふんすとガッツポーズをとる。
桃子「…そうじゃなくて、氷牙君の身体は大丈夫?氷牙君も、疲れが溜まってるんじゃない?」
士郎の事も心配だが、氷牙の身体も心配だ。 士郎が助かっても、その代償に氷牙が倒れてしまっては、桃子だけでなく高町家全員が悲しむ事になる。
氷牙「ん。僕は、元気。いつも通り。」
氷牙は小さく笑う。 ここ数カ月で氷牙は段々と表情がしっかりしてきた。 何より、少しずつではあるが他人と接する事に恐怖を抱かなくなってきのだ。
氷牙「始める。……我は望む。祝福を。精霊よ、その力、白き絆の雫となりて、彼の者の傷を癒せ……ヒール」
いつものように士郎に回復の魔法をかける氷牙。 始めた頃は疲労が溜まっていたが、大分慣れてきたのか、それとも感覚を取り戻しつつあるのか? どちらにしろ、処置を終えても疲れを見せなくなったのは成長した証でもある。
士郎「……………」(ピクン)
僅か、僅かにだが、士郎の指が反応した。
桃子「……え?」
一瞬、気のせいかとも思った桃子。 しかし、それは気のせいではなかった。
士郎「……こ、こは?」
なんと、士郎の意識が戻ったのだ!
桃子「し、ろう…さん?」 士郎「……あぁ…桃子。俺は、いったい…?」
桃子の声に気付き、そちらに視線を向ける士郎。 2ヶ月ちょっと寝たきりだった為、多少身体が重いが、なんとか動かせるようだ。
桃子「士郎さん、お仕事で大怪我して…それで…うう…うわああああはああああ!あああああああ!」
説明しようとするが、やはり耐えきれる筈もなく、泣きながら士郎に抱き付いた。
抱き止めようとするが、思うように身体に力が入らない士郎は桃子と共にベットに倒れ込んだ。
そのまま、子供の様にワンワン泣き続ける桃子。 士郎も、「まぁいいか」と思いつつ、桃子を優しく抱きしめるのだった。
因みに……とりあえず今日の分の処置が終わった氷牙は、ガングニールに促され病室から退室していた。
ガングニール……場の空気すら読める鉄である。 曰く…「場の空気を読めない鉄は、ただの鉄。ただの鉄とは違うのです。」
肉体があったらサムズアップでもしそうな声色であったとか。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.31 ) |
- 日時: 2012/08/28 04:49:42
- 名前: 孝(たか)
- それからまた数日の時が流れる。
士郎「色々と、お世話になりました。」 医師「いや、なんのなんの。しかし…昔から君の主治医してたけど、君、本当に人間?」
少々失礼ではあるが士郎にとっては気心の触れた人であるからだろう。 昔からこの人には世話になっていたらしい。
士郎「あ、ははは…自分でもそう思います。」
実際、士郎の怪我は3カ月で完治する様な物ではない。 九死に一生得て、それでも普通の生活ができるのかも怪しい程の大怪我だったのだ。
そらぁ奇怪な目で見られても仕方が無いとは言えるが、それは士郎の生命力云々よりも… まぁ士郎の生命力も常人以上ではあるかも知れないが、やはり氷牙の回復の術が一番の要因であるのだろう。
そうして、士郎は桃子の運転する車で高町家へと帰還した。
士郎「ただいま。みんな。」 「「お帰りなさい!父さん!」」 なのは「お帰りなさい!」 氷牙「おかえ、り。」 『士郎殿。無事で何より。』
一同が士郎の帰還を心から喜んでいた。
士郎「氷牙君。ガングニール君。話は桃子から聞いた。ありがとう。二人のおかげで、俺はこうして家族の笑顔を見る事が出来た。感謝してもし足りないよ。」 氷牙「感謝、要らない。僕、士郎達に、助けられた。だから、士郎を助けた。お互い様。」
士郎に向かってニカッと笑みを浮かべながら当然の事をしたという氷牙。 士郎が入院している間に表情が豊かになっている様だ。
『ですが、士郎殿。余り無理はなさらぬように。貴方は高町家の大黒柱。貴方の身に何かあれば、皆が悲しむ事を忘れないで下され。』 士郎「ガングニール君…あぁ。私はもう、無理をしないと誓おう。」
まるで漢同士の約束だ。とでも言う様に凛々しい顔で誓う士郎だった。
その日の夜。 氷牙となのはが眠りについた丑三つ時…
士郎・桃子・恭也・美由紀はガングニールによってリビングに集まっていた。
士郎「それで、ガングニール君?私達に話とは…?」
士郎は遠慮がちに聞いた。
『……話というのは他でもありません。氷牙様の事です。』 桃子「あの、不思議な力の事かしら?」 『…それもありますが、根本的な事からお話しいたします。』 恭也「根本?一体どういう?」
高町家はガングニールに視線を向け、口を閉じる。
『……既にお気付きかも知れませんが…氷牙様は人間ではありません。』 「「っ!」」
初めて氷牙と出会った時から薄々は感づいていた。 異常な回復力と、聞いた事もない言語。 ガングニールの存在、そして不思議な力。
普通の人間ではない事は判り切っていた。 しかし、士郎達には異能の力を持つ人物には何人か知り合いが居るので、然程気にする事は無かった。 しかし、ガングニールから伝えられたその一言は予想の遥か斜め上を言っていた。
『氷牙様は、”魔族”それも、王位継承権を持つ王族の嫡男なのです。』 「「「……魔族?」」」
余りに聞きなれない単語に、一同は首を傾げる。しかし、そこで口を開く者が居た。
美由紀「魔族…っていうと、あれかな?ゲームとかで出てくる悪魔とかの?」
美由紀だ。一応現代っ子である美由紀は、多少はゲームをする。 そして、この世界では魔族と言えば大抵はお伽話やゲームなどに出てくる悪意ある者として語られる。
『その認識は間違いと断言させていただきます!力を誇示し、他者を蹂躙し、愉悦に浸る恥知らずの者達と同類の扱いをされるのは氷牙様に対する侮辱ですぞ!』
美由紀の認識に少々語気を強くして反論するガングニールに、「す、すいません」と、頭を下げる美由紀。
『確かに、魔族と悪魔は、始祖を同じとするものですが、根本から違うのです!全く、これだから人間の価値観というものは…』
そこからガングニールの説教が20分程続いたが、話がずれたと話を元に戻す。
『悪魔とは、魔族が”罪を犯した罪人につけられる称号”なのです。』 士郎「称号?という事はつまり、身分なのかい?」
『そうです。魔族は、称号を得る事で、その存在を昇華させます。そして、悪魔とは最も卑下されるべき愚かな存在です。自らの力に溺れ、誇りを忘れた下賤な存在なのです。だというのに、人間達はその姿形で判断し、誇りある魔族ですら悪魔と称していました。』 恭也「なる程…確かに、人間というのはまず見た目で判断してしまうからな…」
ガングニールの説明に納得し、自分達人間の愚かさの片鱗に気付かされた。
『特に許せないのが、死神に対する人間の認識です!』 桃子「え?死神というと、魂を狩る事で有名なアレ、ですよね?」 『桃子殿、確かに死神は魂を狩る者ですが、何も無闇矢鱈に狩っている訳ではありませぬ。死神の別名は、”魂の調停者”なのです。』
桃子が一般的に広がっている死神の知識を答えると、それは違うと言うガングニール。
美由紀「それって、どういう?」 『死者の魂が、天国や地獄にいくというのは聞いた事がありますね?彼ら死神は、定められた運命を終えた者の前に現れ、その魂を導いているのです。』
美由紀「???前半は判ったけど、後半の部分がよくわからないよ?」 『……士郎殿達は、何故、死神が現れると思いますか?』
唐突に質問され、四人はしばし考えるとふと頭に浮かんだ物を挙げる。
士郎「殺す為…とか?」 恭也「……罪を犯し過ぎたから…とか?」 美由紀「う〜ん…趣味?」 桃子「……その人が亡くなる…から?」
四者四様の答えが帰ってくる。
『桃子殿、それが正解です。死神が現れるから死ぬのではなく、死ぬから死神が現れるのです。』 美由紀「あ、もしかして、偶にドラマとかで有るけど、老い先短いお年寄りが”お迎えが来た”って…」 『そうです。それこそが死神の仕事です。死神は死者を導き、生前の行いから天上界と地獄のどちらかに導き、其処から修行・転生・罰の三つに分かれるのです。』
美由紀「え?天国に行ったら楽できるんじゃないの?」 『違います。天国に行けば、転生と修行の二種類の道があります。修行を行う事で天使として昇華する道、生前の記憶を洗い流し、転生する事で新たな人生を過ごす。地獄に落ちた者は罰として”プリニー”と呼ばれるモノに魂を入れられ、天上界や地獄、魔界で少ない賃金でこき使われ、生前の罪に見合ったお金を貯める事で、”赤い月の夜”に人として転生する事を許されるのです。』
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝 ( No.32 ) |
- 日時: 2012/08/28 06:01:04
- 名前: 孝(たか)
- へ〜〜と死神に対する偏見が無くなった所でもう一度話を戻す。
『死神の話はここまでにして…氷牙様は魔族です。そして、その血には王族の血が流れています。ですが…氷牙様の御住みになっていた魔界・・・アルハザードと呼ばれていましたが、氷牙様御一人を残して、滅んでしまいました。』 『『!?』』
氷牙一人を残して滅んだ。 それはつまり、氷牙は正真正銘の天涯孤独という事だ。
『氷牙様は、王族の中ではどう言う訳か魔力…能力が人間と変わらない程小さかったのです。ですが、それでもご家族は愛を持って育てられました。城下の者達も、優しく接しておりました。』
懐かしむ様に語るガングニール。その声は慈愛に満ちている。
桃子「優しい環境の国…だったんですか?」 『ええ。それはもう…ですが、ある日の事です。氷牙様に異能の力が目覚めたのです。』 士郎「異能の力?それはあの不思議な力かい?」
士郎がきっと、氷牙の回復の力だろうと思い聞いてみる。
『……いいえ。その力は、”次元干渉”と呼ばれるとても希少な力です。時間・世界・距離・空間。あらゆる法則を無視して次元を繋ぐ力…と言えばいいのでしょうか?』 美由紀「ん〜〜〜もしかして、瞬間移動とタイムマシンの概念が合わさった感じ?」
なんとなく自分の知る知識で聞いてみる美由紀。
『そうですね。それが一番近い物と言っていいでしょう。その力が何の前触れもなく覚醒し、氷牙様は遥か未来の時代…そこからある者達が呼び寄せられたのです。』 士郎「ある者達?」
瞬間、ガングニールの声色から少しばかり怒りが感じ取れた。
『人間です。地球人とはまた違う、しかしほぼ同じように進化した生命体。彼らはもうすぐ滅ぶであろう時代から、氷牙様の力によって滅亡から免れたのです。ですが…そこから悲劇が起きたのです。』 恭也「悲劇?」
突然重々しく騙り始めるガングニールに首を傾げる。
『その者達は、氷牙様の力によって助けられたにもかかわらず、氷牙様達魔族を”化け物”と称し、自らが管理し統治してやろうとのたまったのです。』 美由紀「酷い。助けられたのに恩を仇で返すなんて…」
『その者達は、氷牙様達魔族の子供達を捕え、従わねば…と、脅しをかけてきました。』 恭也「人質か?!なんて奴らだ。」
余りの事に声を荒げる恭也。
『だが、更に奴らは恐ろしい事に、魔族達の膨大な魔力に目を付けたのです。魔力を吸い取り、自分達のエネルギーにしようと目論んだのです。』 士郎「外道が…」
士郎も怒りをあらわにする。
『そうして、一番最初に目を付けられたのが氷牙様の弟君である”龍牙”様です。龍牙様の持つある書物。それが、滅びの序曲でした。』 桃子「書物?それって…?」 『”夜天の魔導書”。そう呼ばれていました。それは、魔法を解析し研究する為に作られた、いわば研究書の役割を持っていました。ですが、龍牙様を攫い、それを救出しようとした龍牙様の護衛…5人の守護騎士『ヴォルケンリッター』が、出動しましたが…改造された夜天の魔導書により…肉体毎、書の中に封印されました。』 美由紀「い、生きたまま本の中に…」
なんて惨いと思う一同。それが、どれ程の業なのか、想像を絶する。
『そうして改造された夜天の魔導書を使い、氷牙様の魔力を吸い取り、氷牙様が疲労した瞬間でした。氷牙様の血…王族の血が目覚め、膨大な魔力が一気に解き放たれたのです。』 美由紀「じゃぁ、それで助かったの?」
氷牙の力が覚醒した事で、手出しができなくなったのか?と思い、喜色の表情で聞き返す美由紀。
だが…
『氷牙様の王族の血が覚醒するまで…産まれ出でてから300年の時が経過しており、その間、魔力を使う事が殆どありませんでした…故に、覚醒の時に解放された膨大な魔力は…”その場に居た者全てを氷に閉ざして”しまいました。』 美由紀「……え?」
全てを氷に閉ざした。それはつまり…
桃子「い、生きたまま…氷付けに?」 『……その通りです。それだけでは止まらず、氷牙様の魔力は放出を続けていました。膨大すぎた魔力は、氷牙様の意識が断たれても尚勢いは衰えず続いておりました。』 士郎「そんな…」
意識が無いのに、力だけが暴走している。その事実には驚愕するしかない。
『そして、氷牙様の御父上”皇牙”様はこれ以上の被害を出さない為…”氷牙様の命を断とう”という決断をいたしました』 士郎「なっ!?実の息子を、手に掛けようというのか!?」 桃子「そんな…嘘、ですよね?」 美由紀「でも待って、氷牙君は今ここに生きてるよ?」
そう、その皇牙という父親が氷牙を殺したのであれば、氷牙はここには居ない筈なのである。
『そうです。いくら他の民の為に、自ら御子息の命を断とうと決断されたとはいえ、やはり実の息子を…愛した家族を切る事など、皇牙様には出来なかった。だからこそ、皇牙様は自身の命と引き換えに…その時でした。氷牙様が意識を取り戻したのは…』 恭也「という事は、治まったのか?」
今度こそ救われた。一同はそう思った…いや、思いたかった。
『…いいえ。意識を取り戻しても、それを制御する事は出来ませんでした。それどころか、氷牙様のもう一つの血が覚醒してしまったのです。』 士郎「もうひとつの…血?」
氷牙にはまだ何かあるのか?と驚く事しかできない。
『王族の血は、皇牙様の”龍の血”そして、もうひとつは、母君である”ミカエル”様の”堕天使の血”です。』 美由紀「え??ミカエルって…天使の名前だったんじゃ?って、いうか、龍って…ドラゴン!?」
王族というだけでなく、龍の血族、そして、堕天使の血も流れているという。 次々とあらわになる氷牙の秘密。どれだけ波乱万丈なのだろうか?
『ミカエル様は元は大天使でしたが、皇牙様と結ばれる為に、その身を堕天使へと堕したのです。愛の成せる業ですね。』
また肝心なところで話がそれた。
『二つの血が覚醒した事により、更に膨大となった氷牙様を止める事は不可能になりました。他の住人達を避難させる為、お二人は必死に氷牙様を止めましたが、その介なく…一瞬にして、アルハザードは氷結の世界となって滅びたのです。そうして、氷牙様は、お城で龍牙様と無気力に過ごしていました。』
高町家は何も言えなかった。 当たり前だ。暴走したとはいえ目の前で両親を、文字通り自分の手で殺してしまったのだ。 なんと残酷な事だろうか。 彼が一体、何をしたというのだろうか? ただ平和に暮らしていただけ。ただそれだけではないか。
『しかし、悲劇はそれだけではなかったのです。』 美由紀「そんな!?まだ何かあるの!?」
美由紀は『もうやめて!』と、そう思った。だけど、これは聞いておくべきだとも思った。 偽善かもしれない。だけど、知らないままなんて居られないとも思うのだった。
『御2人が無気力に凡そ50年の歳月が過ぎると、龍牙様の下に、夜天の魔導書が帰って来たのです。そして、取り込まれたヴォルケンリッターも、一人が管制人格として書物を制御する事で、四人は帰還を果たしました。たった二人だけになった所に、4人が帰還した。それは喜ばしい事でした。ですが…改変された夜天の魔導書は、悪質な物になっていたのです。』 桃子「なにが、あったんですか?」
二度ある事は三度ある。 三度の悲しみの連鎖が氷牙に襲いかかる。
『…ある一定期間、魔力を蒐集しなければ、持ち主の命を蝕む”闇の書”となっていたのです。それに気付かずに更に50年の時を過ごし、身体の弱かった龍牙様は、息を引き取りました。それと同時に、闇の書は龍牙様とヴォルケンリッターを吸収すると…どこかへと旅立って行きました…氷牙様を、一人残して…』
悲しみに暮れる一同。 まさか、そこまで重い人生を過ごしているとは思いもしなかった。
『そうして月日は流れ、300年後の今、あの組織の残党の子孫が、再び氷牙様の前に現れました。』 士郎「まさか…氷牙君のあの怪我は?!」 『…そう。奴らに抵抗し、一人で立ち向かったのです。なんとか追い払いはしたのですが、一瞬の油断で、致命傷を負い偶然が重なり、ここへ飛ばされて来たのです。これが、我々の隠していた事です。』
士郎「……守るぞ」 『……?』
沈黙して数分。しかし、その数分は何時間とも感じられる長さを感じた。
士郎「…氷牙君は、私達が守る。もう彼に、これ以上の悲しみなんて与えてたまるか!」
拳を握りしめ、そう断言する士郎。 それを見た高町家のする事は一つ。
氷牙を守る。この悲しみを、繰り返させる訳にはいかない。 ただそれだけだった。
『…皆さま……ありがとう、ございます』
ガングニールの声は、感謝にうち震えていた。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.33 ) |
- 日時: 2012/09/05 01:37:33
- 名前: 孝(たか)
- 第九話〜高町なのは!小学一年生になりました!なの。〜
それから二年…氷牙となのはだけが真実を知らないまま時が流れる。
士郎は順調に回復し、今では大怪我をした過去など無い様な軽快な日常を送っている。 既にボディーガードの仕事は退役し、喫茶翠屋のオーナーとして励んでいる。
そして……4歳だったなのはも6歳になり、春には市立聖祥大付属小学校に入学。 幼馴染の黒鷹弘政とも同じクラスになり、一人ぼっちになる様な事にはならなかった。
なのはも小学校に入る様になったので、氷牙も学校に通わせようかと言う話になったのだが……中学に通わせるには心配があり、かといって小学校に通わせるのもどうかと言う事で、一応保留となっている。
しかし、氷牙も感情が豊かになってきたのか、何もしないのは暇と言う事で、なのは達が学校に通っている間は翠屋のマスコットウェイターをする事になった。
一生懸命頑張っているのがツボにはまり、保護欲をかきたてられたせいか女性客が更に増える事となった。 意図した訳ではないが、以前より翠屋の収益は徐々にではあるが右肩上がりになっているそうだ。
なのは「ただい、まぁ〜」ズ〜〜〜〜ン。
6月も終わりに近づき、段々と日が高くなって熱い日々が続く。 そんな快晴の夕暮れに、どんよりと暗い空気を纏いながらなのはが帰宅してきた。
氷牙「なのは、どうした?元気ない。」 なのは「あ、氷牙君。今日もお手伝い?」
そんななのはを見て氷牙はとりあえず声をかける。 いつも明るいなのはがこれ程までに暗いと何かあったと思うしかない。
なのは「うん。実はね……ハァ。」
説明しようとする前に深いため息を吐くなのは。 曰く、”アリサ”という金髪の少女が”すずか”という黒髪の少女の大事なカチューシャを取り上げて苛めていたらしい。
なので、なのははアリサの頬を引っ叩いた後、「痛い? でも大事なものを取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ」。と、大凡6歳児にしては重過ぎる台詞をのたまったらしい。
そこからアリサとなのはの取っ組み合いの大喧嘩に発展。しかし、それを止めたのは被害者であった筈のすずかが泣きながら止めに入ったらしい。 そこからなんとか仲直りをして二人とは友達になったそうだ。
氷牙「……??友達が二人もできたんだよね?それで、どうしてそんなに浮かない顔してる?」
友達が出来たという良いニュースなのに、なのはが暗い表情でいる事に疑問しか浮かんでこない。
なのは「そこで終われれば良い話だったんだけど…今日の最後の授業でね、席替えがあったの。」 氷牙「席替え?…見えにくい席になったの?」
別にはのはは目が悪い方ではないので、後ろの方でも問題無いとは思うが、背の高い子が前にでも座っているのだろうか?
なのは「神裂君がお隣になったの。」 氷牙「……なのは、可哀想。」
それを聞いた氷牙は納得した。口元を押さえ、なのはから視線を外して涙まで流す始末。 なのはや恭也、弘政から彼の話は聞いていた。不思議な事に、氷牙は彼に一度もあった事が無い。(なのは達が意図的に会わせない様にしただけ。)だが、彼の話だけは聞いていた。 何故か女子からの人気は高いが、嫌いな人はトコトン嫌いな、存在するだけで迷惑な人物。
なのはとは対極に位置する決して判り合う事の無い存在だと認識している。
そんな彼と席で隣同士。次の席替えまでは離れる事が出来ない。 なのはにしては珍しい人を嫌うと言う悪感情を抱かせる存在と一緒にいなければならないとは…不運としか言いようがない。
なのは「一応、反対側には弘政君、前にはアリサちゃん、後ろにはすずかちゃんが居るから、我慢は出来る…と思うなの。」 氷牙「なのは……何かされたら、僕の所に来る。愚痴を聞く位しか出来ないけど、溜めこむ、良くない。」
氷牙はそんななのはを心配して、悩みくらいは聞くと言う。 もしもなのはに何かあったら……”士郎達が何をするか判ったものじゃない”。 氷牙も、未だに全ての記憶は取り戻してはいないが、少しずつだがガングニールの覚えている範囲を転写して貰っているおかげで、言葉も段々流麗さが増してきた。 必要とあらば記憶抹消の魔法でその神裂一刀という人物から記憶を消そうと言う暴挙も辞さない覚悟をしそうだ……主に”ガングニールが”。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.34 ) |
- 日時: 2012/09/05 13:58:21
- 名前: カイナ
- 一方その頃市立聖祥大付属小学校の一年教室。青い髪を右目が少し隠れそうなくらいに伸ばした少年――黒鷹弘政は教室に残って趣味の詰め将棋と詰め碁――当然だが両方とも持ち運びに便利なサイズのおもちゃを使っている――を同時に行っていた。曰く「じーちゃんに勝つための秘密特訓」らしい。しかし小学一年生にしては渋い趣味である。
アリサ「しっかし、よくあんた静かにそんなの出来るわね。外で遊ぶとかしたらどうよ?」 弘政「……」
斜め前の席に座って後ろの席――なのはの席だ――に肘をつき頬杖をついて少女――金髪の気が強そうな少女、今日なのは達と友達になった名をアリサ・バニングスという――はそう呟くが弘政は全く気づいていない様子の真剣な目で将棋盤と囲碁盤を睨んでおり、彼女は半目にむかっとしたような表情を見せると立ち上がり、彼の元に歩き寄る。
アリサ「無視すんなっつーの!!」 弘政「え? いだだだだだ!!」
そして弘政にヘッドロックをかけ、弘政はじたばたしながら悲鳴を上げる。
すずか「ア、アリサちゃん、落ち着いて……」
そこに紫髪をロングヘアにした大人しそうな少女――今日なのは達と友達になったもう一人の少女、月村すずか――が慌てて抑える。それをアリサはギロッと擬音がつきそうな目で睨んだ後、弘政を離す。
弘政「首が抜けるかと思った……ありがと、月村さん」 すずか「い、いえ……」
弘政の微笑を見せながらのお礼にすずかはほんのりと頬を赤く染めながら呟き、アリサはそれを見るとふんっと鼻を鳴らして顔を背ける。その時、弘政は席を立つと二人の前に立ち、それと同時に教室の後ろの扉が開く。
??「よおモブ」 弘政「……やあ、神裂君」
入ってきたのは純粋な日本人のはずなのに何故か銀髪に赤と碧のオッドアイをした、顔はイケメンに分類されるだろう少年――神裂一刀。彼の挨拶に弘政もその両目は僅かに研ぎ澄ませていながらも礼儀として挨拶を返した。 幼稚園の初対面時から二人は犬猿の仲、というか一刀が弘政のことをなのはに付き纏うモブキャラと見なして一方的に敵視しており、弘政の方も二年もの間毎度毎度喧嘩を売られては仕方ないだろうが彼に対し好意に分類されるものは持っていなかった。またアリサとすずかも一刀に対してはなのはと同じくむしろ嫌悪感を持っている。
一刀「なあ、いい加減なのはちゃんに付き纏うのは止めたらどうだ?」 弘政「友達との交流に対して君の許可を取る必要なんてないよ」 一刀「なんだとこのモブ!」 弘政「だからモブって何さ?」
一刀の言葉に弘政は冷静なしかしどこか刺々しい言葉で返し、それに一刀が声を荒げて彼に対しモブという呼称を使うと弘政は呆れたようにそう呟く。
アリサ「弘政君の言う通りよ! なのはも弘政もアタシの友達なの! あんたはすっこんでなさい!!」 一刀「なんだとこの!?」
その次に弘政の前に出て声を荒げたアリサに一刀が腕を振り上げる、と弘政は左手で机の上の碁石を一個取ると右手に投げ渡し、親指で弾いた。
一刀「いだっ!?」 弘政「女性に手を上げるのは感心しないよ」 一刀「ぐっ……覚えてろ!」
放たれた碁石が一刀の額に直撃、弾かれた碁石は空中をひゅんひゅんと回転して弘政が横に差し出した手の上に吸い込まれるように落ちていった。そして弘政はクールにそう決め、一刀は三流悪役の悪態を残して教室から出て行った。
弘政「バニングスさん、大丈夫?」 アリサ「う、うん……ありがと」 弘政「気にしなくていいよ。じーちゃんからも女性を守れるような強い男になれってよく言われてるし」
弘政の言葉にアリサはうつむきながら礼を言い、弘政はそれにそう返すとおもちゃの将棋盤と囲碁盤を鞄の中に片付け、鞄を背負う。
弘政「じゃ、僕はそろそろ帰るよ」 アリサ「あ、アタシもそろそろ迎えが来ると思うから」 すずか「私も帰ります」
弘政の言葉に二人の少女もそう言い、三人は一緒に教室を出て行った。
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Re: 魔導戦記リリカルなのは〜伝承に語られし者達〜 ( No.35 ) |
- 日時: 2012/09/13 05:37:31
- 名前: 孝(たか)
- それから数日が経過した日曜日。
なのはと弘政はアリサの家にお呼ばれしたので、氷牙も一緒に行こうと誘われたのだが、氷牙はアリサ達とは会った事が無いので一応断った。 氷牙も大分成長し、なのはの友達とはいえ会ったことの無い人物にはまだ遠慮が前面出る。
翠屋でマスコットウェイターをしているのはその予行練習といえる。 未だに初めての客などにはビクつく事もあるが、段々と強張る時間が短縮されている。
そして本日は日曜日。 恭也も美由紀も学校は休みなので翠屋を手伝っている。 その為、氷牙はお休みを貰っていたので、趣味の散歩に出ていた。
氷牙「……??八束…神社?」
いつもとは違う道を散歩していると、鳥居を見つけたので見上げてみると、八束神社と書かれた看板?を見つけた。 よくわからないが氷牙は興味を引かれたので神社へと足を運んだ。
初夏の陽射しが木々の隙間から溢れ、穏やかな風が頬を撫ぜる。 そのまま道なりに進んで行くと、神社には付きものの境内を発見する。 掃除の行き届いた境内…そのすぐ先、社の軒先で体を丸めて昼寝をする一匹の子狐が氷牙の目に映る。
「くぅ……くぅ……」
くぅくぅと可愛らしい寝息をたてながら気持ちよさそうに眠る子狐。 それを見た氷牙は『撫でたい』という衝動に襲われるが、それで子狐が起きたら可哀想だと思い、踏みとどまる。 その為、氷牙の頭の中では『撫でまわしたい』衝動と、『このまま寝かせておこう』という衝動の二つが戦争をおっぱじめていた。
氷牙「……っ!……っ!」
頭を抱えてどうしよう?どうしよう?と、悶える姿は傍から見ると微笑ましくも見える。
「……くぅ?……くぁぁぁぁ〜〜〜…くぅ?」
氷牙が葛藤していると、件の子狐が起きた様だ。 しかし、氷牙はそれに気付かず未だに葛藤を続けていた。
「くぅん……?」
この子狐の名は久遠。愛くるしい姿とは裏腹に、こう見えて結構な年月を生きる妖狐である。 とはいっても、今ではその力の大半を封じられており、危険は極めて低い。 普段はかなり人見知りが激しくすぐ物陰に隠れるのだが、氷牙は生まれつき動物に心底愛される体質である。
久遠も氷牙の発する?フェロモンの様なものに感化されたのか、テクテクと氷牙の足元に近づく。
久遠「…くぅん?」
首を傾げながら氷牙に声をかけるように鳴く久遠。
氷牙「?…あ…ごめん。起した?」
今まで葛藤していて久遠の近づく気配に全く気付かなかった氷牙だが、鳴き声によって思考を中断すると、足元に居た久遠に気付く。
そして久遠と目線を合わせるようにしゃがむと、すまなそうに問いかけ、左手を差し出す。
久遠「くぅん…?」
すんすんと氷牙の手の臭いを嗅ぐ久遠。なんとなくだが甘い匂いがするとでも思ったのか?ペロリと一舐めする。
氷牙「よしよ〜し…良い子良い子。」
氷牙の方も久遠が怖がらないので優しく頭を撫で始める。
久遠「くぅ?…くぅん♪」
頭を撫でられて気持ちいいのか?その鳴き声にも喜んでいる様に聞こえる。
氷牙「君、名前は?なんていうの?」
何故か当たり前のように動物に名前を聞く氷牙。 氷牙は異様な程動物に好かれるだけでなく、全てでは無いがなんとなくだが動物の言葉が判るのだ。
久遠「くぅ?くおんは、くおんだよ?」
だが、それに反して久遠は小さな女の子の様な声で喋ったのである。
氷牙「くおん?…九音?それとも…久遠かな?」 久遠「くおんは、くおんだよ!」
しかし、一応ではあるが動物の言葉が理解できてしまう氷牙には、それに気付く事はなかった。
氷牙「良い子良い子〜」
しゃがみ続けるのも結構な体力を使うので、境内に腰かけると久遠を膝に乗せて撫で続ける氷牙。 久遠の方も氷牙の撫で技術に陥落し、その心地よさに身を委ねる。
氷牙「ん。可愛い…あ、くぁぁぁぁぁ〜…ん〜眠い」
初夏ではあるが、木々の生い茂る八束神社は程良く涼しい場所である。 氷牙もウトウトと眠くなってきたので、境内で横になる。 少し罰当たりかな?と思いつつも、睡魔には勝てず久遠に腕枕しながら揃って昼寝に講じるのだった。
氷牙「すぅ、すぅ…」 久遠「くぅ、くぅ…」
何とも可愛らしく、とても絵になる様子であった。
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