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短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!)
日時: 2007/08/27 00:34:26
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

短筆部文集なんと2冊目。おめでたいねえ。
今回も100話になるまで書き続けるよ。夏も気合入れてがんばろーね。

連載も突発もオッケーな自由度高い企画なんだけど、一応ルールは守ってもらわないと。
じゃあとりあえずここでのルール、ね!(箇条書きで)

・参加できるのは短筆部部員のみ。書きたいよ! って子は、まず入部届け(笑)を出してください。
・台本書き(情景を書いていない文章)禁止。
・文章は文字数がオーバーしない範囲……ですが、あとから編集して付け足すこともオッケー。
・リクを貰ったり募集したりするのも可。ばんばんしちゃってくださいな。
・ギャル文字などは厳禁。誰でも読める文を書いてね。
・一次創作・二次創作どちらでも。ただ、(ないと思うけど)年齢制限のかかるようなものは書かないこと。
・リレー小説のキャラ、自分のオリキャラを出すのは一向に構いません。でも、他の方のキャラを借りるときはちゃんと許可を貰ってからにしてね!

間違ってもこちらには参加希望などを書かないでくださいね。

入部希望はこちらへ。⇒http://ss.fan-search.com/bbs/honobono/patio.cgi?mode=view&no=9912

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Re: 短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.91 )
日時: 2007/09/10 23:32:37
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

( alice in the labyrinth / 或る男の独白・10)

「・・・・・・・・・・本当に、行ってしまわれるのですね」
「うん・・・・・・・・ごめんね、エティカ」

朝の光が差し込む、屋敷の玄関口で。
エティカに言われ、アイカシアは申し訳なさそうに笑った。
笑う彼女の瞳の半分は、視力を無くし光を捉えることすら出来ない。
長い袖で覆い隠した両腕は、機械で出来た義手に成り代わっていた。
あの日、あの聖堂で。
破壊された天井の硝子の破片が降り注ぎ、アイカシアは瀕死の重体となった。
身体中に突き刺さる硝子片と、致死量に達するかもしれなかった程の出血。
想像を絶する痛みに、幼い10歳の子供は苦しみ続けた。
それでも、彼女は一度も泣かなかった。
痛いとも、辛いとも、言うことはなく。
『――――――――――あの子の痛みは、こんな痛みよりも、もっと酷かった、』
延々とそう呟き、意識を失いながらも、うわ言の様に謝罪の言葉を繰り返していた。
『ごめんね』、『ごめんなさい』、『許して』、と。
何とか一命は取り留めたものの、代償は大きかった。
硝子が直に貫通した腕は使い物にならなくなり、エティカが腕の良い義手職人を呼び、彼女は機械の腕となった。
硝子が深々と突き刺さった右目は視力を無くし、彼女は世界の光の半分を失った。

「・・・・・・・・おい、邪魔だ」
突然、アイカシアの身体が押し退けられる。
手にしていた旅行鞄でアイカシアを押し退けたのは、チェックだった。
「・・・・・・・・チェック。行くんだ、ね・・・・」
チェックはああ、と曖昧に頷いて、玄関口から、屋敷を仰いだ。

「・・・・・・・・・・・・・此処には・・・・色々と、辛いものが、在り過ぎる」
うっすらと細めた目は、その目に射す光が眩し過ぎるせいだけじゃなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺も、お前も、エティカも・・・・・・・“家族”、皆」

「・・・・・・・・・・・・そうだね、たった、たった数年間。
 それでも、あたし達は・・・・・“家族”として、生きてきたんだね」
もう、取り戻せないけれど。
「辛いのと、同じ分くらいの・・・・・幸せを。
 ・・・・・・・・お父さんも、メルも・・・・・・・・・・・・・マーチ、も」

あの日、メルカシアが自ら命を絶った日。
小さな体躯から放出された負の霧は、不安定なアリスの少年を襲った。
――――――――――少年は、狂気そのもの、となった。
ただ、狂った笑顔で、エティカに別れを告げて去っていったという。
それを知らされたのは、混濁した意識が再生した、あの日から一ヶ月後の事だった。

「・・・・・・・・・あたし、絶対忘れないよ。いつか、いつかさ。
 心の整理がもうちょっとついたら・・・・・・きっと、帰ってくるから」

「・・・・・・・・・・・今は、独りにさせるけど。・・・・・すまない」

2人の謝罪に、緑の瞳を細めて、エティカは笑う。
いつものように、しっかりと45度の角度で、礼をして。

「・・・・・・・・・・・・・行ってらっしゃいませ。何時までも、お待ちしております」

こうして2人の子供は、幸せと後悔に満ちた、屋敷を後にした。

迷宮を彷徨うアリス達の物語は、それから4年後――――――――――、



また、始まっていく。


Re: 短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.92 )
日時: 2007/09/10 23:36:09
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

( alice in the labyrinth / 或る男の独白・11)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうだった、俺の話は?
そうかそうか、つまらなくないんなら良かった。

・・・・・・・・・ん、何だって?

なぜ男は戻って行かなかったか?
それはな、まぁ言ったらややこしい話なんだが・・・・・・。

世界と世界を繋ぐ道は、末端に行けば行くほど曖昧でね。

道が歪んで、その世界へ行く通路が絶たれるなんてよくあることなんだ。
それで男は、世界へ戻れなかった。
通路が絶たれて、あまりにも存在がその世界から遠く離れすぎたせいで、契約印も存在を確認出来ずに消えてしまったんだろうね。
男は自分の子供が壊れていく時、何を思っただろう。
どれだけ焦燥を覚え、苛立っただろうね。



―――――――――――――――――不安定なあの子供達の傍にいてやれなかったこと、悔いているよ。



え、何か言ったかって?いやいや何でもない、独り言さ。
世界への通路が絶たれても、覗き見る事位は出来る。
ここから見てたよ、ずっと。
まぁ心情描写なんざ、俺の考えで勝手にやったことさ。

この話を聴いてくれて嬉しいよ。
誰でもいいから、話していたかったんだ。

・・・・・・・・・・・・・おや、元の場所へ戻る道が出来たみたいだ。そろそろ帰りなよ。
俺?俺はもうすぐここに迎えが来るから。それを待ってる。

それじゃ、またな。・・・・・・・・・・・・・・ん?
――――――――――俺の正体が解ったって?そうか、あんたは洞察力が鋭いな。
まぁ正確な答えなんて言ったら面白くないから、言わないけどな?
あんたがそう思うんなら、それでもいい。


この話を誰かに話さなくともいい。信じなくてもいい。
ただ、覚えておいてくれ。
世界は、君の知るだけじゃない、もっと果てしなくあることを。
そして君は、その数多の世界を構成するひとり。
決して、必要無いなんてことはない。
この素晴らしい世界の中で生きる人間は、きっと素晴らしいに違いないからね。
さぁ、早くしないと君の世界へ帰れない。




それじゃ、また。













――――――――――――――――――――――――――――――
「迷宮アリス」過去編、終了です!
此処まで読み頂きありがとうございました!

(世界はきっと黒にも紅にも白にも平等で、) ( No.93 )
日時: 2007/09/11 18:03:02
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 目を開ければ、そこは何もない空間。
 死後の世界に広がる花畑を想像していたわけではない。が、やはり少し味気ないものだな、と思った。

「やっと起きたか」

 声が、聞こえるまでは。
 平衡感覚を失っている身体は、どうやら自分がソファか何かの上に寝かされていることに気付けなかったようだ。
 身体を起こして声のした方を見れば、夜色を全身に纏った少年が、黒い表紙の本を閉じるところだった。
 漆黒の髪と瞳、黒い衣服を着たその少年は後ろにあった黒い本棚に本を入れると、こちらの方へ歩いてきた。

「気分はどうだ」
「……ここはあの世?」
「あの世、といっても過言ではない。が、どちらかと言えば狭間だな」
「なんじゃそりゃ」

 眉を顰めてみても、少年は殆ど無表情で自分を見てきた。
 と言うより、本格的に平衡感覚がない。末端の感覚もおぼろげだ。

「お前はもう死んでいる。自分で核を取り出したのだから」
「……イノセンスのこと?」
「そうだ。あれが核となり、お前の生命を繋ぎ止めていた」

 つまり、やっぱりあれを取ることが死に繋がっていたのだ。
 前はあれを失う瞬間が来るのを畏れていた。
 けれど。

「…………もうどうでもよくなった、か?」

 少年の言葉に思考が止まる。
 どうでもよくなった?……違う。それはまた別問題だ。
 どうでもよくなんてなってない。だってまだ仲間が戦ってた。
 それならば、何故。

「……………………申し訳なくなった、のかな」

 苦笑が漏れた。自分の口から。
 今更だと言うだろう。多くの人は、きっと。一体どれだけの犠牲の上で生きてきたのだ、と。
 けれど、「私」は。

「……神の石で生かされ続けるのが、申し訳なくなったんだよ」

 自分の所為で、あのイノセンスはずっと適合者が見つからなかった。自分の所為で、あのイノセンスは存在意義を失うところだった。
 咎落ちしなかったのが、奇跡だと思う。

「ホント言えばさ、死にたくなかったよ。生きてたいよ。でも……辛いよ」
「良心の呵責か?」
「そんな格好いいもんじゃない。偽善を述べている私の心が、耐えきれなくて辛いんだ」

 自分の心のために自分は自分を殺した。
 ああ、解ってる。愚かだなんてコト。
 愚かで、愚かすぎて、嘲笑われてしかるべきだということ。

「…………生きたいか?」

 少年が呟いた。
 まるで、答えがわかっているかのような口振りだった。

「……言ったよ、生きていたいって。でももう死んだんだろ?」

 なら、いい。
 もう一度あの力で生かされるなら、このまま死んだ方がいい。

「ぼくも言ったはずだ。ここは狭間だと。生と死の、世界と世界の、輪廻の、時の。……狭間にある、どこにでも通じた閉じた場所」

 それがここだと少年は言う。
 否、それはもう少年ではなかった。
 いつの間にか声も大人び、背格好は成人男子のもので、唯一デザインが変わらない服を着ている。
 肩に少し付くぐらいの髪を少し払い、こちらを見る。

「お前は生きたいと言ったな。その意志、確かに貰い受けた」

 淡く笑んだ顔が、とても優しげで目を奪われた。
 その手に握られた蒼い石が、未だぽっかりと穴の空く自分の胸に吸い込まれていく様を見ることも出来ず、ただ硬直し続ける。
 やがて平衡感覚と末端の感覚が戻った頃、青年は元の無愛想に戻って言い放った。

「あの世界には戻れないと思え。……だが、別の世界には行ける。生きていく為にも力を手に入れないとな」
「……力?」
「そうだ。お前の世界のように争いがある世界だと、お前はもうあんな無茶な戦いは出来ない。ただ死ぬだけだ」
「それがないように、力を手に入れろって?」
「……物わかりがいいな」
「偶然です」

 とりあえず、スパルタそうだな、なんて思う。

「…………ぼくは、アイオーン、もしくはアイオスと呼ばれている。一応聞いておく。お前は?」
「……あたしは――――――――」

 こうしてあたしは第三の人生を歩き出す。
(惚気話) ( No.94 )
日時: 2007/09/12 17:42:11
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

「そういえばさ」

 唐突に礼子ちゃんが私に向かって掛けた言葉は、

「あんたから惚気話聞いたことないんだけど」

 凄い破壊力を持っていました。
 思わず飲みかけのジュースで咽せてしまって、慌てて礼子ちゃんが背中をさすってくれる。
 放課後、近くの公園で他愛もない話をしていたときにこの話題。それもジュースを飲んでいるときだったからタイミングが悪い。
 炭酸の刺激で喉が普通に咽せるより痛い気がする。

「ごめんごめん、まさかこんな風に咽せるなんて思わなくてさ」
「……思ってやったら、確信犯だよ」
「そりゃそーだわね」

 悪びれた風もなく言ってのける礼子ちゃんに脱力しつつ、私はベンチの背もたれに背中を預けた。
 …………惚気話、か。

「惚気話、って、実際何をどう言えばいいかわからないの」

 素直に言えば礼子ちゃんが怪訝そうな顔をする。

「だって、惚気ってよく解らない。他人に好きな人を自慢しても意味ないでしょう?」
「意味ないってあんた……。世間の恋する女子に謝っときなさい、一応」
「うん、ごめんなさい」

 頭を下げてから、あれでもこれを聞いてるのって礼子ちゃんだけだよね、なんて気付いてみる。
 とりあえずそれはスルーして、頭を上げてからしっかりと礼子ちゃんの目を見て言った。

「好きな人の素敵なところ、自分だけが知ってればいいと思う。だって、ただでさえ恭哉君、みんなにモテるのに、素敵なところ、みんなが知っちゃったら…………」
「あああ、解ったから解ったから。泣かない泣かない」
「…………うん」

 ぐし、と潤んでいた目を乱暴に擦って私は俯く。

「だから、惚気話なんて絶対しないの」
「……玲奈には玲奈なりの思いがあったのね」

 しみじみ言うと、礼子ちゃんは手に持っていたコンビニの中華まんが入った袋を押しつけてくる。
 慰めてくれていると思うと、やっぱり素敵な親友は持つべきだな、なんて思う。
 そうして思うのだ。
 礼子ちゃんについての惚気話だって絶対にしてあげない、って。

「悪いこと聞いて泣かせかけたからね。それ、食べて」
「礼子ちゃん……」
「お礼なんて言わなくていいわ」
「…………これ、礼治君へのお土産だって言ってなかった?」

―――――――――――――――――――――――――
>>83の続き)
>>97へ続く)
少年達の日常的非日常 ( No.95 )
日時: 2007/09/13 22:29:46
名前: そら
参照: http://yaplog.jp/sora_nyanko/

相変わらず、いつも通り、日常。

そんなものはいつだってこの世界にはなかった。


「……それ、どうするの?」
冷たい路地裏に少年の声が木霊する。
その声もまた、感情が籠もっていない冷たい声だった。
コツリ。
少年の足音がゆっくりと一歩、近づいた。
「っ……」
冷や汗が頬を伝い地面にシミを作る。
息苦しい、どうしょうもない緊張感が夜の空気を固めている。
まるで壊れた絡繰り人形のように、体中がカタカタと震えていた。
「怖い?」
少年がまた一歩足を踏み出し、そう問いかけた。
グッと手に力を入れる。
怖いだって? 違う、今更怖いものなどあるものか。
コツリ。
足音が目の前まで来て止まった。
「もう1度だけ聞くよ。どうするの、それ?」
少年の、人間とは思えないほど綺麗な白い髪が、月明かりを浴びて尚に目立つ。
その感情のない瞳は、しかししっかりと見据えられていた。
しばしの沈黙。
スッと少年の手が伸びて、瞬間ひやりと冷たさを感じた。
金属音のような甲高い音を響かせて、こぼれ落ちたナイフが地面に転がる。
「っ!?」
「……次はどうするの? 僕の首を掴んで絞め殺す? その震えた手で?」
気のせいか、先刻よりも少しだけ強い口調に聞こえた。
何も言い返さない、言い返せない。
急に力が抜けたように立てなくなって、その場にしゃがみ込んだ。

殺すだなんて……どうして簡単に言えるのだろう。


少年の冷たい手がそっと頬に触れる。
どうしてだかわからないけれど、不思議と震えが止まっていた。
「……っ」
またくり返してしまうとわかっていた。それなのに。


「帰るよ、馬鹿」
(偽りシンデレラ・1) ( No.96 )
日時: 2007/09/14 00:08:48
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet



――――――――彼女は、「外見を着る」。


「服を着る」のではなく、「外見そのもの」を着ている。

今日の彼女は(個人的な価値観を基にするならば)清楚系。

ふわりとしたオフホワイトのワンピースに真っ青なカーディガン、足元は白いパンプスで。

流れるような黒い髪を腰くらいまで伸ばして。

お出掛けには白いフリルの日傘を差しそうな。

澄ました顔で本を読む彼女。

初めて彼女を見る人は、彼女を名前と共に、「清楚系の女の子」として認識し、記憶するだろう。

けれどそれは違う。

一日前に彼女に会ったならば、彼女を名前と共に「姉御系の女の子」として認識し、記憶したはずだからだ。

そう、彼女は毎日服を変え、髪型を変え、メイクの色を変え、口調すらも変えて。

そうして彼女は、「外見を着る」のだ。





「――――――――――<サガミヤカレン>」
「・・・・・のわっ」
横から声をかけられ、机に座り前方を眺めていた少年は吃驚して思わず飛びのいた。
「なーに驚いてんの、<アカツカスズト>くん」
「ちょ、先輩・・・・・」
<アカツカスズト>―――――赤塚鈴人は、話しかけてきた少女の方を見て言う。
少女は今まで鈴人が見ていた方向をちらりと見、それからにやりと不敵に笑った。
「なーるほど、例の<変わり者>ね」
「・・・・・・勝手に人の心理読まないでくれます?――――――<シジョウインマコ>先輩」
わざとらしく、フルネームで呼んで。
けれど少女――――四条院眞子は、彼の恨みがましい発言をさらりと流して言う。
「へー、なるほどねぇ、鈴くんってばあんな子が趣味だったの」
「人の話聞いてくださいよっ」
「ふーん、サガミヤかぁ」
鈴人の話を殆ど無視して、眞子は胸ポケットからシャープペンシルを取り出し鈴人の机に何やら書いた。
「凄いよね、この漢字」
そこには、話題の<変わり者>の少女の苗字、<嵯峨雅>。
「・・・・へぇ、こう書くんですか」
「何、あんた知らなかったわけ?」
「転向してきたの、最近ですし。そんな難しい漢字、印象に残るだけで書けやしません」
サガミヤ、サガミヤと机に書かれた漢字をさらにシャープペンシルでなぞりながら鈴人が呟く。
その姿を微笑ましげに見つめて、眞子は口に手を添えると、前方に聞こえるくらいの声で叫んだ。

「おーい、サガミヤちゃーん。お呼びですよーっ」
にっこりと、しかし明らかに悪意と好奇心を含んだ笑顔で微笑んで。
そして、黒髪の綺麗な少女は振り返った。
「・・・・・・・・・・何」
――――――イメージが一瞬で崩れ去るくらいの、不機嫌な顔を浮かべて。




(シンデレラは着飾った身体と貼り付けた仮面でやさしくわらう、)
(称号「バカップル」) ( No.97 )
日時: 2007/09/14 18:54:13
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 うちのクラスの鈴村玲奈に彼氏が出来て、もう二ヶ月になる。
 彼氏は学年で、いや、この学校で一番モテるのかもしれない栗宮恭哉。
 当初、栗宮ファンの女子は言っていた。「あんな子一ヶ月も持たない」と。
 だからオレは「賭ける?」と意地悪く言ってやったのだ。
 結果はオレの一人勝ち。……まぁ、賭けたものなんて無いから手元には何も残らないが。
 オレはここ二ヶ月、ずっと鈴村玲奈と栗宮恭哉の言動を見える限り見つめ続けてきた。ああいや、違うな。
 半年以上前から、だ。





 あれ、なんだかいつもと違う?
 そう思ったのが切っ掛けだった。
 鈴村玲奈はとても大人しく、目立つ子じゃない。寧ろ隣にいる渡瀬礼子の方が印象に残りやすい。
 いつもはそんな事を考えながらクラスの一部として目に止めていたのだが、その日だけは違った。
 鈴村玲奈に、どこからか視線が向かっていたのだ。
 別にオレの席が鈴村玲奈の近くだから気付いた、と言うわけではない。寧ろ彼女の席とは結構離れている。
 オレは昔から視線にだけは敏感なのだ。自分に向けられるものも、他人に向けられるものも。
 だから気付くことが出来た。
 通りかかった栗宮恭哉の視線が(恐らく無意識に)鈴村玲奈へと向かっていることに。
 それから暫くして、同じように、今度は鈴村玲奈が栗宮恭哉に視線を送り始めた。
 そこでオレは興味を持ってしまった。その二人の視線に込められた感情に。
 鈴村玲奈が栗宮恭哉に視線を送り始めたのと同じ日から、栗宮恭哉からの視線が何処か意識されたものへと変化した。
 感情に気付いたのだろう。自分の中にあった感情に。けれど、鈴村玲奈がそれに気付くのはまだ先だと見える。何故なら視線を向けてはすぐ意図的に逸らすのだ。気付かない振りをしているのかもしれない。自分の中の感情に。
 観察を続けていると、一ヶ月近く経って鈴村玲奈が渡瀬礼子に視線に込められた感情を言い当てられる現場に遭遇した。
 本当に偶然、たまたま通りかかった廊下でそれを目撃、否、立ち聞きしてしまったのだ。

「あんた、栗宮が好きでしょ?」

 ズバリと言った言葉は確認のような響きを持っていた。
 それに頷きつつ、オレは会話を盗み聞きする。どうやら漸く鈴村玲奈も自分の感情を認めたらしい。
 一通り情報を集め終えると、オレは観察を再開した。


 だが、展開を見せたのはそれから約半年後のことだった。


 あり得ない、なんて頭を抱えつつ、それでもオレは観察を辞める気はなかった。
 周りの栗宮ファンの動向も気になっていたし、それにまだ何か一波乱起きるのではないかという勘があった。
 案の定、オレの勘は当たり、鈴村玲奈と栗宮恭哉の間に一悶着あり、ますます結びつきが強まったように見えた。
 …………そこまではいい。そこまではよかったのだ。
 オレは今、鈴村玲奈と同じクラスであると言うことを激しく後悔している。何しろ授業間休みやどちらかが移動教室であるとき、決まって二人は視線を交わし合うのだ。
 最初の方に言っておいたが、オレは自他関係なく視線に敏感だ。敏感すぎてたまに気分が悪くなることがある。
 なのに。
 奴らオレのいるときに限って頻繁に視線を交わすのだ。
 嫌がらせか? 嫌がらせなのか!?
 ああもうお前等にはオレからバカップルの称号を贈ってやる!
 だから頼むからクラス替えを今すぐしてその二人から離してくれ!

―――――――――――――――――――――――――
>>94の続き)
fin
(偽りシンデレラ・2) ( No.98 )
日時: 2007/09/15 23:08:34
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet





「・・・・・・・・・・何、眞子先輩」
「あーもーやだなぁカレンちゃん、そんな怖い顔しないでーっ?お姉さん怖いー」
「・・・・・・・・・・・・殴り飛ばして、いいですか」
思いっきり顔を不機嫌に歪ませて暴言を吐く、想像とはあまりにかけ離れた少女の姿に鈴人の思考は一瞬フリーズする。

(ちょ、ちょっと待てよ・・・・・?)

本来なら、今日は「清楚系」の日。
にこやかな笑顔を浮かべて、絵に描いた大和撫子の様に大人しくしているはずだった。
「・・・・・・・・・それで、何なんですか?別に意味無いとか言ったら怒りますよ」
「やだなー、ちゃんと意味あるからね?あのね、この人がカレンちゃんと話したいんだって。ね、鈴くん?」
明らかに好奇心と悪意の込められた笑顔を浮かべて、眞子は言う。
カレンはうざったそうに鈴人を見て、それから面倒臭そうに言った。
「・・・・・・・・・・・・・何、」
「え、えと・・・・・」
東洋人離れした端正な顔立ちの瞳に射竦められ、鈴人はどもりつつ言う。
「・・・・・何で、いつも違う格好とか性格とかしてるのかなー、って」
放たれた言葉に、カレンは一瞬動揺したような素振りを見せてから、無表情になって唐突に席を立った。
鈴人を見下すように見て、嘲笑のような笑みを浮かべて。
「さぁね?<愛想の良い性格の私>の時にでも聞けば、解るんじゃない?」
言ってから、足早に教室を出ていく。
吐き捨てるように言った言葉は、まるでカレン自身に向けられた自嘲のようだった。


「・・・・・・・・・・眞子さん、あれ・・・・・」
「・・・・・あれが<本性>、いや<四条院眞子に見せる、本性と偽った性格>、かなぁ?
 あの子、あたしにはああいう態度なのよね。・・・・・・本性かと思ったけど、あれさえも偽ってるのかもね?」
含んだような笑みを浮かべて、眞子は言う。
「吃驚した?でも驚いたのはこっちよ。いきなりカレンちゃんの核心突くんだもんね、鈴くんってば」
核心、という言葉に疑問を浮かべる鈴人に、眞子は言い聞かせるように呟く。
「・・・・・・決まってるでしょ、この学校、いやこのクラスに在籍している人よ?
 変な言動や奇行があったんだとしたら、原因は決まってるわよ。・・・・・・・・・・・過去のこと、よ」
はっとなった鈴人に、眞子は「馬鹿ね、」と呟いて。
窓の外を見やり、目を細める。
「あの子も何かあったのよ。何か辛いことが、あったのかもしれないのよ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・あんたとあたしみたいに、ね」


―――――――私立彩崎(さえざき)高校。
声優・俳優を目指す<芸能科>、調理師やパティシエなどを目指す<調理科>。
その他にも<服飾科>や<美術科>などの専門職を目指す科が中心となっているこの高校で、一つだけ異彩を放つクラスがある。
―――――それが、<総合科>。
学年ごとに一クラスずつあり、単位制で高校卒業資格が取得できると銘打っているこの科。
しかし実態は、高校中途退学者や登校拒否児、その他数々の理由で普通の高校に通いにくい生徒を収容している。
赤塚鈴人・嵯峨雅カレン・四条院眞子は、その総合科である1年A組に通っている。

「―――――――――<過去を聞かない>、<過去に触れない>、<過去を詮索しない>。
 総合科で三年間穏便に仲良く過ごす為の最低限三か条、忘れた?」
「・・・・・・・・・すみません、」
俯く鈴人に、眞子は肩を竦める。
「あたしに言わないでそれはカレンちゃんに言ってよね。・・・・・まぁあたしも、訊きたいと思ってたのは確かだけど」
「・・・・・・そう、なんですか」
「・・・・・・・・・・まさか、あそこまで動揺するとは思わなかったけどね。
 この学校で有名になるほどの事やっといて、いざ正面きって訊かれるとああいうリアクションするとは」
事実カレンの<外見を着る>と形容される行為は学校中周知の事実であり、けれど総合科の三か条の掟の事もあり誰も触れないでいた。
「入学してきた当初は色々ありもしない面白い憶測が飛び交ってたんだけどね?
 身長170近くあるから迫力あるし人寄せ付けない雰囲気出してるし無愛想だし。
 数ヶ月もしたら、皆あまり気にしなくなってきたのよ」
「総合科の子だから」、と。
「・・・・・・・・・・・・・知りませんでした」
「しょうがないわよ、鈴くん転校生なんだし」
鈴人は二学期の途中から編入し、一ヶ月経つ。
カレンのことはクラスで見ているのと少しの噂で知っているだけで、事情は殆ど知らないに近かった。
目の前の少女、四条院眞子の事も殆ど知らないに近い。
昔何らかの事情があって、一年ダブって鈴人達より一歳年上なのに同じクラス、だということだけしか。
「・・・・・・・・・まぁ大丈夫よ、明日からまたあの子皮被るだろうし。
 ちょっと確執が残るくらいよ、心配ないわ」
わざと明るく言う眞子に、鈴人は力なく微笑んだ。


(心に穿たれた傷穴を、癒すものはなにもなくて)
――――――――――――――――――――
>>96の続き)
Re: 短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.99 )
日時: 2007/09/17 13:33:36
名前:

これは黄金色の瞳を持つ少年と、アンティークドールが如き容姿をした少女が出会う、その前のお話――。


  〜origin〜


赤と黄で彩られ、世界が夕焼けに包まれたように美しかった秋が終わり、厳しい寒さの始まりを告げるかの如く一段と冷えたその日。
少年は、普段より重く感じられる右腕に気だるさを憶えながら人の行き交う街道を歩いていた。
通り過ぎる人々はみな、季節に順応するように暖かいを身包みを各々の身体に纏っている。
比べ、薄着である少年は今まで入れていた手をポケットから取り出すと、体温の異なる両手でそっと身体を抱きしめた。
数分彷徨った後、俯いていた顔を上げると、まだ幼さが混じった声で呟く。

「……此処か」

少年はある店の前で立ち止まった。
店全体、骨董品店を思わせる造型をしていたが、外に添え付けられているメニュー板が飲食店だと告げていた。
装飾の施されたドアの取っ手を引くと、カランカランと木と金属の当たる音がした。
外観も然ることながら店の中もアンティークじみていて、テーブルや棚の上には様々な骨董品が置かれていた。
ぐるっと店内を見回し、少年の目に入ったのはこちらに微笑みかけてくる小太りの壮年男性。
少年は軽く息を吐くと、男が座っている席に近付き問いかけた。

「あんたが依頼者(クライアント)か」

男は無言で笑んだ。それを肯定の意と取ると少年は男に向かい合うように腰を下ろす。
少年が座るとタイミングよく定員がやって来た。
ご注文は、と問われると少年の代わりに男がそれに答える。

「彼にルイボスティーを」

畏まりました、と店の奥に下がる定員を一瞥し、少年は男に視線を移した。

「ルイボスには身体を温める効果があるんですよ。寒い冬にはぴったりでしょう」

一度として微笑を崩さないこの男。
少年は長い前髪に隠れた色の異なる瞳で男を睨むと、単刀直入にそれを問うた。

「依頼は」

ええ、と笑みを絶やさない顔を、組んだ両手の上に載せると、細い目を開いて言った。


「ある男の暗殺を」
(闇をその胸に抱き、黒き微笑を湛えるモノ) ( No.100 )
日時: 2007/09/17 13:55:24
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 あたしがここに来たのは小さい頃だった。
 五、六歳だったと思う。確かな年齢はあたしは知らないし、かといって誰かに聞こうとも思わなかった。
 だから当時と同じぐらいの子が連れてこられたとき、ああまたか、位にしか思わなかった。
 リルディアン孤児院。身寄りのない子供を引き取り、育てる施設。「表向き」はそうなっているが、裏では人体実験を繰り返す研究所だ。
 あたし自身の体もそれに使われていて、激しい苦痛と嫌悪と憎悪と、そして諦めの中にいた。
 あの子もそうなるのだろうな、なんて興味を持って、その子の顔を覗いてみる。
 瞳に一切光を宿さないその子は、感情らしい感情を見せず、ただ淡々とそこに立って研究員に自己紹介させられていた。

「カルディオ・グランディ」

 フルネームを名乗っただけのその少女は、あたしの中で異質として残った。
 感情のない子供。光のない子供。――――――――闇に近い、子供。





 カルディオが来て何日目だっただろうか。
 あたしはいつも誰と話すでも一緒にいるでもなく行動している。その日もそうだった。
 ただの散歩だったそれは、建物の周りをぐるりと周り、いつもは足を向けない建物裏まで達した。
 そこまで足を運んでから、そろそろ戻らなければなんて言う考えに至る。研究員に何か言われるのは嫌だった。あいつ等は嫌いな「敵」だった。
 くるりと方向転換をした瞬間。

「…………が気に入らないんだよっ!」

 研究員の怒鳴り声が耳に飛び込んできた。
 声のする方へ行けば、一人の体格のいい研究員と、胸ぐらを掴まれ吊し上げられているカルディオの姿が目に飛び込んできた。
 軽く目を見開いてしまったのも無理はないと思う。
 いつもは感情も何も宿らず、光すら宿らないカルディオの瞳。そこに、仄暗い光が灯っているのに気付いてしまったのだから。
 瞬間的に怖気が走った。カルディオの今の瞳は危険だと、そう思った。

「お前の瞳が! 気持ちわりぃんだよっ!」

 研究員は尚暴言を吐く。暴言を吐いてぎりぎりと胸ぐらを掴む手に力を入れ、服で締め上げていく。
 その度に、その瞳に宿った仄暗い闇色の光が強さを増して行ことに、奴は気付いていない。
 危険なモノが、生み出されようとしている。
 微かにカルディオの唇が動いた。瞬間、あたしは研究員に跳び蹴りを食らわせていた。

「テメーの方がよっぽど気持ち悪いんだーっ!」

 思い切り当たったのか、悶絶して地面に倒れ込む研究員。その手から解放されたカルディオを掴んであたしは走った。
 どれだけ走っただろうか。
 唐突にカルディオが止まり、あたしもそれに合わせて止まる。
 振り返れば、俯いたカルディオがいた。

「だいじょ、」
「どうして止めたの」

 ハッキリとした発音だった。子供にしては、なのだけれど。
 それでもそれに、多少なりとも驚いた。
 言われた言葉にも、だ。

「私なんてどこにいてもどうでもいいのに。どうされてもどうでもいいのに」

 瞳の光は消えていた。
 このままではいけない、と思った。けれど解決策はなかった。
 無力、なのだ。あたしは。

「……どうでもよくねーよ。だって、同じとこにいるんだから」
「どうでもいいよ。…………もう、疲れたの」

 カルディオはそう言ってあたしに背を向ける。
 拒絶する背中。けれどそれは、きっとあたしよりもずっと傷ついてきた背中。

「どうでもよくない! きっと、あんたを必要とする奴が現れる!」
「でも、それはあなたじゃないわ」
「っ、」

 拒絶の言葉は鋭い切れ味で。
 振り向いて嗤う顔は、少女らしさが欠片もなく。
 ただただ恐怖を漂わせるモノだった。





 それから約一年後、彼女は「処分」された。

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