パターン1 ( No.11 ) |
- 日時: 2007/07/09 13:49:23
- 名前: 涼
- 頬に妙に熱い感覚が漂う
喧嘩したのなんていつぶりだろう・・・ ・・・いや、喧嘩なんてものじゃないか・・・・・ 買ってきたばかりの冷たい缶ジュースを頬にあてる 前は温かい缶だったな・・・ いつか忘れてしまったが、あれは冬の時だった 俺が失恋して、落ち込んでいたんだっけ
「元気出せよ、怜二」 そんな声と共に温かな感触が頬に伝わる 声の主は俺の昔からの友達、結城だった 「別に落ち込んでなんかないよ 元々、青木先輩に勝ち目はなかったんだし」 わざと明るい声を出す そうしないと、本当に自分が落ち込んでしまいそうだったし 結城の前でみっともない真似なんかしたくなかった 「ほら」 少し温かい缶を差し出す結城 缶のラベルには森永のココアが印刷されていた 「なんでココア?!」 突っ込みながらも缶を受け取る俺 結城は笑いながら俺の隣に腰掛けた 「コーヒーなんて、苦くて飲めなかったら困るだろ?」 「子供か、俺は!!」 二人で爆笑しながらココアを飲む 乾杯、なんて言っちゃって何に乾杯だよ? ・・・でも嬉しかったよ、結城 励ましてくれて 本当はありがとうって言いたかったけど 到底恥ずかしくて言えなかった
そして今、俺はその結城を傷つけた 一方的に、悪いのは俺
でも仕方なかったんだ これも友情の形 俺はそう思うよ、結城
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(戦場にひびきわたる、唄ごえ。) ( No.12 ) |
- 日時: 2007/07/11 21:30:39
- 名前: 黒瀬
- 参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/
- (オリキャラで銀魂攘夷戦争ねた。二)
「まぁたあいつは屋根ん上で唄っちょるのぉ。まったく、相も変わらず気持ちよさそうじゃき」
粗末な汁物を啜りながら、坂本さんがたのしそうに呟いた。(粗末でも、俺たちにとっちゃ数週間ぶりのちゃんとした食事だ) 「唄? だれが?」 同じように粗食をかきこみながら俺が聞くと、坂本さんはぴんと人差し指を上に向ける。 「高杉ぜよ」
「……あ、ほんとに高杉さんだった」 呟くと、高杉さんは三味線を鳴らすのをやめてこちらに振り返った。 「玻璃?」 その口元に、にやりと笑みが広がる。 目を細め、つきの下で、高杉さんは唄っていたのだ。 「続けてくださいよ」 「ばぁか。見物料とんぜ?」 月光と夜風を纏いながら、高杉さんは鼻を鳴らす。 その横顔がやけに整っていて、思わず俺は肩を竦めた。 「三千世界の烏をころし、で、なんでしたっけ?」 「……お前、何気にちゃんと聴いてたんじゃねーか」 「そりゃ、下に響くくらい大きな声で唄ってたら聴こえますってば」 「ふん」 べん、と、高杉さんが一音だけ三味線を鳴らす。 そんな姿がいやに堂に入っているのが、(ああ、さすが。)と思わせるこの人の凄さ。 同期の仲間に聞いた話では、以前の戦にも三味線を担いでいったらしい。豪胆すぎる。 「じゃァ、いっちょてめぇに俺の美声を聴かせてやるよ」 「ありがたいッス」 顔の前で手を合わせて拝むような仕草をすると、高杉さんが声を上げて笑った。 しかし撥を握りなおすとそんな巫山戯た笑顔も雲のように掻き消えて、真剣みを帯びた顔になった 目を伏せ、撥を三味線に這わせ、息を吸って、吐いて、吸って、
―――そして、唄ごえと旋律がこだまする。
それは、まるで纏わりつく月光のように、静かな狂気を帯びていた。 この世の全てをいとおしみ、そして同時に、破壊しようとしている、ような。 我武者羅ながら繊細で、乱暴ながら冷徹で。 音は俺の耳から侵入して、脳髄から、足の先、身体の隅々までもを震わせた。 掻き鳴らされる三味線の音と、彼のよく透る声が、光のように俺を透かして、 どこかへ連れて行かれそうな気がした。 はかなく、攻撃的で、哀しい色を帯びた―――美事な唄だった。
唄が終わり、高杉さんが静かに目を開けたとき、思わず俺はちぎれんばかりに手を叩いていた。 そんな俺を見て、高杉さんは面食らったような表情をする。 「……ンだよ」 「いや、さすがだなぁと思いまして」 「馬鹿め」 言いつつ、それでも高杉さんは嬉しそうに左眼を眇めた。 本音なんだけどなあ、と思って、高杉さんの黒髪が風にゆらめくのを見つめる。 細めた瞳のまつげの長さが、目に眩しい。 そんな彼に俺は思わず、眼を背けたくなった。 と、そこで、やっと俺は高杉さんのところに来た理由を思い出す。 「そ、うだ、高杉さん!」 「あぁ?」 「飯! 高杉さんのぶん、なくなっちまう!」 「………てめ、」 それを早く言いやがれっ、と三味線で殴りかかられて、俺は笑いながら逃走する。
それから、漬物を食う高杉さんに見物料を請求されたのは、言うまでも、ない。
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(信じられない、信じたくない) ( No.13 ) |
- 日時: 2007/07/10 22:09:35
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 誰か、嘘だと言ってください。
放課後、いつも私と恭哉君は一緒に帰っている。 恋人と言ってもまだあまりそれらしいことはしたことがなくて、でも二人とも帰宅部だったから一緒に帰ることだけは約束していて。 だから今日も、私は恭哉君と帰ろうと帰り支度をしていた。
「おーい、鈴村ー」 「あ、はい」
教室の入口から先生の声が聞こえて返事を返す。 近寄って何の用かと問えば、放課後少しプリント整理を手伝って欲しいと言われた。 断る理由になるほど早く帰らないといけない訳じゃあないし、仕方ない。 先生に頷いて、私は隣のクラスの恭哉君の所まで行った。
「あ、玲奈」
優しい笑顔を浮かべてくれる恭哉君に笑顔を返して私は用件を告げる。
「あの、恭哉君。私、先生に手伝いを頼まれたので、今日は先に帰っていてくれませんか?」 「……どれぐらい掛かるの?」 「そんなに時間は掛からないと思います。プリント整理だけだから」 「そっか。じゃあ待ってるよ」
にっこりと笑ってそう言ってくれた恭哉君。 本当に恭哉君は優しい。ちょっとだけ、待っててくれないかな、って思っていた私の心、解ったようにそう言ってくれた。 多分、私の顔に出ていたんだろうけれど。 嬉しくなって、教務室への道すがらスキップしたくなってしまった。 甘えるのって苦手だけど、こんな風に嬉しくなることがあるなら、たまに頑張って甘えてみようかな。 この前の礼子ちゃんとの会話を思い出しながらそう思う。 教務室について私を待っていたのは、頑張れば何とか短時間で終わるかな、と言うぐらいの量のプリント。
「これをクラス別に分けて名簿順にしてくれないか? 先刻生徒がばらまいてしまってな」 「……は、はい」
三クラス分のプリントらしい。道理で量が多いと思った。 少し目眩がしそうだな、と思いながら私はプリント整理に取りかかり始めた。 まずとりあえずクラス別に分けていく。 それからそれぞれを名簿順にしていって。 終わったときには始めてから一時間が経っていた。
「ああ、終わったか。助かったよ、鈴村」 「いえ。それじゃあ私はこれで」 「気をつけて帰れよ」
失礼します、とお辞儀をして教室に急ぐ。 自教室で鞄を持って、恭哉君が待っているだろう隣のクラスへ足を進めた。 隣のクラスの閉まっていた扉に手を掛けようとした瞬間、
「…………ねぇ、遊びなんでしょ」
女の人の、声が聞こえた。 思わず手も足も止まる。ついでに、思考も。
「あんな子と付き合うなんて、遊びに決まってるわよねぇ?」 「……何が言いたいの」
恭哉君の声が、女の人の声に答えた。 女の人は多分、一学年上か同い年か。ただ、大人っぽい雰囲気がある。
「だって、あの子以外にも沢山女の子はいるじゃない。でもあの子を選んだ」
それって、夢を見させてあげるためでしょう? 女の人の言葉が、毒のように私の身体に染み込んでいく。 恭哉君は何も言わない。否定も肯定もしない。 けれど、沈黙は肯定と同じなのだ。
「…………だったらどうなの」
恭哉君の声が、言葉を紡いだ。 肯定、の。
「だったら可哀想よ。……ねぇ、今から私に乗り換えない? 私だったらあの子も納得してくれるわ」
これ以上、聞いていられなかった。 そっと手を戻し、足音を立てないように恭哉君のクラスから離れる。 一クラス分離れたところで、私は全速力で走り出す。 鞄の中身がぐちゃぐちゃになるのも、髪がぐしゃぐしゃになるのも構わず、下駄箱に急ぐ。 下駄箱から靴を乱暴に取り出し、なかなか脱げなくてもどかしい思いをする上履きを逆に下駄箱に突っ込んで。 引っかけるように靴を履くと部活動が行われている校庭の端を、邪魔にならないよう息を切らせながら走った。
来るべき時が、来てしまったような気が、した。
――――――――――――――――――――――――― (>>7の続き) (>>17へ続く)
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(隠恋慕) ( No.14 ) |
- 日時: 2007/07/09 19:12:01
- 名前: 春歌
- 「もーいーかいっ」、「まーだだよっ」そうやって
昔かくれんぼをやってたころを思い出す・・・・・
最近、あの人の事を見ることができない 近くに行くこともできないで、なんだかもどかしい
「あーーー!!もうっ」
なんなのよとため息をつく 自分は何かの病気なのか? それとも、彼が変わったのか? 昔やっていたかくれんぼのように答えが見つからない
「・・・・もう」 「どうかしたか??」 「・・・・え?」
ふと顔を上げたら問題の根源である彼がいた かぁぁぁぁと効果音が付きそうなほど私の顔は真っ赤であろう それを見て彼は
「どうした??」 「え?!?!な、なんでもないっ」 「ンなわけねぇだろ」
こつん☆ 額と額が合わさって顔が接近した ぼふんっという音がして、(実際はしてないが・・・) 私は意識を失った
「いーち・・・にぃーい・・さーん・・・・」
鬼になった子の声がこだまする 「はーち・・くーう・・・じゅう!!」
あぁ・・・これはかくれんぼだ
「もーいいかーいっ」
ほかに隠れてる子が数人
「もーいいよっ」
そうだ、これは昔の記憶 まだ私が幼かったころ 私は隠れるのがうまくて なかなか見つけてもらえなかった
「みぃーつけた!!」
つぎつぎと皆見つかって最後に私がのこって 皆に置いて帰られたことがあった 別に影が薄いわけでもない なのに・・・・・
「おい・・・」 「ぇ・・・ぁ」
見上げたらあの人の姿 またもや私の顔が真っ赤になって
「だ・・大丈夫か??」 「う・・・・ん」
そのあとどうした?と問われたが 私は何もいえず俯くばかり 痺れを切らすかな?と思ったが 彼は優しく微笑んで
「ま・・・そのうちよくなると思うから寝てろ」
そういって水を渡した そのとき気づいた この思いは「恋」なのかと 昔嫌いだった「かくれんぼ」 こんどは「隠恋慕」としてやることになった
「・・・・・先が思いやられる;;」 「んぁ?どうした」 「いーやなんでもない」
この思いは・・・気が付いてくれるかな? まだ赤くなった頬をおさえて ひっそりと思うは 彼のこと・・・・・
(自分でもやっと自覚したこの思い貴方は気が付いてくれますか??)
(>>8の続き)
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月に祈る ( No.15 ) |
- 日時: 2007/07/10 19:51:21
- 名前: 竜崎総久◆OMBM0w5yVFM
- 参照: http://id40.fm-p.jp/29/html202/
- 「私ね、強く生きるって決めたんだ。」
……電話口でそう言う、親友の乙香(いつか)の声。 そこに強い決意の色を感じ取った尚は、「そっか」と答えるしかなかった。 「……乙香ちゃん、頑張るんだ。」 「うん。だから尚も頑張れよ。私は近くに居てやれないけど、気持ちは変わらないからな。」 言葉こそぶっきらぼうだが、尚はその裏の優しさを知っている。涙が出そうになって、慌てて上を向いた。泣くのを少しでも感付かれたら、受話器の向こうの乙香が不安がるだろう。 だから、あえて強がった。 「大丈夫だよ。乙香ちゃんがいなくたって、私は何とかしていけるもん。」 相手は少し考えたようだった。たっぷり5秒の間を置いて、 「そうか。」 と、安心したような声が返ってくる。 それから2つ3つ問答をして、尚は受話器を置いた。すぐにヘッドフォンをつけ、さっきの続きから再生ボタンを押す。 もう、音量キーは最大だ。これ以上上がらない。なのに聞こえにくくなっている自分が居る。耳がその機能を失うのも、時間の問題だろう。 ……私はいつまでここに立ち止まってるんだろう。あの子はもう、自分の道を歩き出したのに。 そっと窓を開け、月に祈る。 神様が居るなら、どうか。 どうかあの子の願いを、かなえてあげて下さい。 ……でも私の願いなんて、神様はかなえてくれないか……。
(>>9の続きっぽい感じ)
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泡になった愛に縋る ( No.16 ) |
- 日時: 2007/07/11 17:54:12
- 名前: 色田ゆうこ
- 昔からお菓子作りが得意だった妻が、息子の一歳の誕生日にケーキを作ると言い出した。
「直樹はまだ食べられないからね! わたしたちで食べるのよ!」 「直樹の誕生日だろ」 「いーのいーの。家族三人でるんるんできればいーの」 先ほどオレが買ってきた材料の箱や袋をテーブルの上に並べながら、妻は楽しそうに笑った。 オレの腕の中の息子が、不思議そうにそれを見ている。 「あ、生クリームがない! ねえ、買った? メモに書いたよ、ちゃんと」 「え、無い? まじで? …………じゃ、わすれた」 買ってくるよ、と息子をひざからひょいと持ち上げると、妻が手をつきだして、いーのいーの、と言った。 息子が、ひざに戻ってきた。 「あたしが行って来る。いつもと違うのでつくりたいの」 車に乗り込む母を窓を隔てて見つめながら、息子があー、あー、と声を出しながら手を振る。 オレが息子の後ろから顔をのぞかせると、車のエンジンがかかった。 車の中から明るい笑顔を返してくれた妻は、二度と家に帰ってこなかった。
息子の誕生日に、妻は死んだのだ。 裏切られた、と思ってしまったことに、何より自分が傷ついた。オレは声も出せずに、ただ泣いた。 何もわかっていない息子は、オレに抱き上げられるたびきゃっきゃっと嬉しそうに手足をじたばたさせて、 わき腹をたたく小さな足が、ひどく頼りなくてさびしかった。心が、すかすか、する。体中塩辛い。 ――――季節が変わった頃、息子が、「ぱぱ」を覚えた。
何気なくあけたキッチンの棚から、妻の書いた洋菓子のレシピがどっさりと出てきた。 であった日からずっと変わらない細長い字が、黄ばんだ紙にずらりと並んでいる。 息子が、おぼつかない足取りでオレの足元をよたよたと歩いている。 妻がいなくなった日から、彼はよくここに座り込んで、一人遊びをしていた。 「ぱぱ」 かまってほしいのか、息子はオレの右足にがしりとつかまる。 大きな目がしあわせそうにきらきらしていて、オレは息を吐いてしゃがみこみ、息子をひざの上に乗せた。 彼は、小さくてふっくらした腕を、空中に伸ばした。そして、愛らしく微笑む。 「まーま」 思わず顔をあげてしまった。だけどそこは、いつもどおりのキッチン。妻のいない。二人だけのキッチン。 「何? 直樹、ママが見えるの?」 息子をぎゅっと抱きしめると、ほかほかとあたたかくて、粉ミルクのにおいがした。 「まま」 きゃはは、と息子が、嬉しそうに小さな手をぱたぱたさせる。 そっと頭をなでる。やわらかい。 「いつか、パパがおいしいケーキつくってやるからね」 近くで妻に笑われた気がして、また顔を上げた。 いつのまにか息子が体勢をかえて、オレのほうに向いていた。小さな手のひらが、腹に押し当てられる。 あつい手。生きている人間の体温。 どうしたの、と笑いかけると、息子は、赤ん坊特有の、破壊的な愛らしさで微笑んで、 「ぱぱー」 たしかめる、みたいに。最後の仕上げみたいに、息子は両手で、オレの胸をぽん、と叩く。 確かめる。感触――……体温を。存在を。 強く抱きしめると、息子はきゃはは、と、また笑った。
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(隣にいさせてください) ( No.17 ) |
- 日時: 2007/07/12 16:52:12
- 名前: Gard
- 参照: http://watari.kitunebi.com/
- 玲奈が学校に来なくなって三日経った。
携帯も繋がらないし(多分電源を切ってる)、家を訪ねようにも大体僕は彼女の家を知らない。 彼女の現状について知る手段は、全くなかった。 イライラする。 このイライラは最後に玲奈と会った日の放課後からだ。 あの時、彼女を待っていた僕の前に、見知らぬ(と言っても僕は殆どの人間の顔を覚えていないのだが)女子が現れた。 突然僕に告白したかと思えば、今の恋人はお遊びなんでしょう? なんて言い始める始末。 機嫌はその時から急降下していて、一緒に帰るはずの玲奈は既に帰っていて。 ああもう、本当にイライラする。 寄ってくる女子にも遠巻きに羨ましそうな視線を向けてくる男子にもイライラする。 八つ当たりしてしまいたいぐらいに。
「おーい、栗宮くぅ〜ん? 思いっきり不機嫌そうだぞぃ」
礼治がちょいとごめんよ、等といいながら女子の垣根を掻き分けて隣にやってくる。
「どーしたよ、眉間に皺、寄りそうだぜ?」 「放っておいてくれる」 「はっはーん、彼女と喧嘩したな」 「…………放っておいてくれる」 「どーりで姉貴が『玲奈が鬱ぎ込んで泣いてて勉強に手が付かない』って言ってたわけだ」 「………………何、キミのお姉さん、玲奈と知り合いなの」
礼治の言葉に顔を上げて聞き返せば、おいおい、と言って彼は肩を竦めた。 ついでに、もう少し他人に意識を向けろよな、と言うお説教も頂く。 説教は聞き流しながら礼治を見れば、ふふん、と鼻を鳴らすようにして、
「前言っただろ? 鈴村玲奈はオレの姉貴の友達で、オレも結構仲がいいって」
胸を張って、答えた。 がたん、と椅子を鳴らして立ち上がると、僕は礼治の両肩に手を置いて問い掛けた。
「玲奈の家、何処っ?」
声が必死さを滲ませて、礼治の肩に置いた手がいつの間にか力が入って微かに震えていた。
「お、おおお、落ち着けって、な?」 「落ち着いてるよ。だから早く教えて」 「落ち着いてないっつーの!」
ずびし、と間抜けな効果音が入りそうな手刀を僕の頭に振り下ろす。 それから軽く息を吐いて、礼治は僕を見た。
「教えるからには、しっかり泣きやませるんだぞ?」 「当たり前でしょ」
何を言っているんだ。 泣いた原因を突き止めて、もう二度とこんな事にならないようだってするさ。 何しろ僕の精神衛生に、玲奈がいないという事態は途轍もなく悪いのだから。
「じゃあ、教えるぜ」
放課後、礼治に教えて貰った家の前へ辿り着く。 表札にはしっかりと「鈴村」の文字がある。間違ってはいないだろう。 呼び鈴を鳴らして、出てきた玲奈の母親と思われる人に玲奈の部屋の前まで通して貰うと、僕は扉を軽くノックして開いた。
「…………誰」
弱々しく、涙声の玲奈の声が聞こえた。 想像よりも遥かに小さなその声に、胸が潰されるかと思った。
「僕だよ、玲奈」 「……恭哉、君?」
くるまっていた布団から顔を出した玲奈の目は、赤く腫れぼったくなっていた。
「三日間、ずっと泣いてたの?」 「…………」 「どうして?」 「…………」
何も言わず俯く玲奈に近寄り、そっと顔に手を添えて真正面から見つめる。
「どうして?」
再度問いを繰り返せば、玲奈はゆるゆると口を開いた。
「わた、し……が、恭哉君と釣り合わない、のが、悔しくて、辛くて…………」 「……え?」
思いもしなかった言葉に首を傾げる。
「聞いちゃった、の。私と付き合ったのって、遊びだったんで、しょ?」
あの放課後の遣り取りを思い出した。 きっと玲奈はあの時、聞いていたのだ。
「遊びじゃない」 「だって、肯定して、た」 「してないよ」 「……否定、してなかった」
はらはらと涙をこぼす玲奈にどうしていいか解らず、とりあえず抱きしめてみる。 抱きしめて、背中をさすって。 そうして少し落ち着いたところで、あの日玲奈が聞いたことをぽつりぽつりと話してくれた。 全部聞いたところで、僕は申し訳なくなった。
「夢を見させてあげるって言葉に、確かに否定はしなかったよ」 「じゃあやっぱり、」 「でも、僕はキミに夢を見させてる訳じゃないんだ」
こつり、と玲奈の額に額をあわせる。
「僕が周りを追い払わない理由なんだよ、それは」 「え?」
首を傾げるような雰囲気が言葉から伝わってくる。 それに当たり前か、なんて思いながら僕は言葉を続けた。
「昔からあまり他人に興味が持てなくてね。前は近寄ってくる他人を全部『興味ないから』の一言で遠ざけていたんだ」
でもそれじゃあ相手に与える印象は最悪だ。 親にも教師にも態度をどうにかしろと指導され、仕方なく身に着けた処世術。 それが興味のない人間にも当たり障りなく関わる今の方式。
「だから、周りに『社交性がある栗宮恭哉』を夢見させているんだ」 「でも……」 「うん、言葉が悪かったよね。でも、あの時は何となく僕の態度にあってるな、って思っちゃったから」
それでこんなに玲奈が傷つくんだったら、そう知っていたら、絶対に否定したのに。
「…………あの、じゃあ乗り換える、って言う話は?」 「ああ、それ?」
苦笑して玲奈の額から額を離した。 もう一度真正面から玲奈の瞳を見ると、僕は自分の中のイライラが消えていることに気がついた。 けれど今はそんなことはどうでもよくて。
「もちろん丁寧にお断りしたよ?」
鼻で笑ったけれど、とは言わないでおく。 第一、名前も学年も知らないし覚える気もないし、それに何より興味が湧かなかったし。 多分玲奈より興味を湧かせることの出来る女子はもう、現れないと思うんだ。 はらり、と玲奈の目から涙が落ちた。
「……じゃあ、私、恭哉君の隣にいてもいいんですか」 「うん」 「隣にいて、お話して、手を繋いでもいいんですか」 「うん」 「恭哉君の彼女だって、胸を張っててもいいんですか」 「うん」
頷いていけば、僕が彼女の頬に添えていた手を降ろさせ、きゅう、と抱きついてくる。
「私を、恭哉君の隣にいさせてください」 「……僕を、玲奈の隣にいさせてください」
まるで誓いの言葉みたいだな、と思いながら玲奈の顔を見る。 涙で濡れていた顔は、けれどとても綺麗だった。
――――――――――――――――――――――――― (>>13の続き)
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(反転する世界) ( No.18 ) |
- 日時: 2007/07/11 07:26:01
- 名前: 莉月 一姫
- ミンミンミンと忙しなくセミが鳴いた。
ひどく耳障りな鳴き声だった。 でもこんな雑音でもセミにしてみれば生きていくために必要なことなのだから不思議だ。
なんてくだらないことを考えているうちに台所に麦茶を取りに行っていた幼馴染の蒼(アオイ)が戻ってきた。
「麦茶、キンキンに冷えてるよー♪」 などとなんとも呑気な声を出しながら蒼は俺の隣に座った。
「縁側は風通しがよくて気持ち良いよねぇ〜」
「でもあのセミの鳴き声はうるさすぎるだろ?」 思わず蒼に反論した形になる。 すると蒼はちょっと不機嫌そうな顔をして、
「んーでもさ逆に夏にセミが鳴いていなきゃつまんないじゃん。夏じゃないよそれは」 俺の反論に蒼にしては(まぁ他の一般人に比べたら蒼の基準は低すぎるけど)割りと真面目に答えてくれた。
蒼の言うことは最もだ。 うるさいあいつらでも夏の風物詩なわけだし。 と言う事で反論の術を無くした俺は口を開かなかった。 かと言って蒼が喋るわけでも無く、俺たちの沈黙はセミの鳴き声に埋もれた。
「あのさー」 しばらくして蒼が沈黙を破った。 「あんたっていっつも私の意見に賛成してくれないよねー」 予期せぬ言葉がその口から発せられた。
「・・・・・」 俺には返す言葉が無かった。
「何?それってただ単に負けず嫌いなわけ?自分だけ正しいのですよーみたいなやつ?」 俺の無言の反応がおもしろかったのか蒼はからかう様にして言葉を続けた。
「まっ時には私にも賛成して欲しい物だよね。あははー」 そう言うと蒼は残りの麦茶を飲み干し、空になったコップを片付けに台所へ行ってしまった。
「あいつに賛成してやる・・・ね」 たまにはそれも悪くないな。 などと思ってしまった俺の頭は、セミのうるさすぎる鳴き声で少し狂ってしまっていたのかもしれなかった。
...Ordinary End
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パターン2 ( No.19 ) |
- 日時: 2007/07/11 14:57:27
- 名前: 涼
- 二人と話さない日が続く
俺の親友だと思っていた怜二と彼女だと思っていた奈菜 あの二人とは幼稚園から高校までずっと一緒だった いつの間にか好きになっていた奈菜に告白してOKを貰い、 そのせいで怜二とまた三人でいられなくなる事を恐れていたが 結局、怜二は頭がいいし、気遣いも出来る奴だから いて欲しい時にはいて少し二人にして欲しい時は二人きりにしてくれる そんないい奴のままだった
分かってるさ こんな俺よりも怜二の方がいいっていう気持ちは でもさ、二人の事許せないよ 全然笑えないよ あんな形になる前になんでもっと早く言ってくれなかったんだよ・・・・
もう下校時間なんて過ぎてしまってあたりが綺麗な朱色に染まった夕暮れの学校 委員会があるから先に帰ってて、と言った奈菜を待っていたのだが いつもより遅い奈菜を迎えに図書室まで来た そこにいる奈菜を見つけた俺は手を振って呼ぼうとしたが、もう一つの影が俺の手を止める
怜二・・・ あいつ図書委員だったっけ?
まぁ、久しぶりに三人で帰るのも悪くないだろう そう思って再度声をかけようとした 「奈・・・・・」 そして、抱き合う二人が目に入った 中途半端に漏らしてしまった声が二人を気付かせてしまう はっ、とした顔の奈菜に少し罪悪感が混じった顔をする怜二
なんだよ・・・ そういうことかよ・・・ あんなに俺が海外に行く事を奈菜が賛成していたのもこういう事だったんだろ・・・
やり場のない怒りが腹の底から湧きあがる いつのまにか俺は怜二の頬を殴っていた 青ざめた奈菜が怜二のそばに駆け寄る 何も言わず俺は背を向けてその場を去った
そう、悪いのは俺だ 親友ならばまず、どんな形であろうとも喜ぶべきだったのだ 向こうが俺を祝福してくれたのと同じように・・・・ 例えそれが無理だったとしても、殴るなんて事はしてはいけなかったんだ
今更後悔しても遅い あの二人はもう俺と口もききたくないだろうし 俺はもうすぐ日本を発つのだ 日本から遠い、パリへ
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(帰る場所) ( No.20 ) |
- 日時: 2007/07/11 21:22:45
- 名前: 春歌
- 車の音と、人のざわめきが苛々させる
「・・・・・好きです」
そっと紡がれた言葉は俺を動かすのには十分だった けど・・・
「それはできません、<プラチナ>様」 「んで。。。なんで!!」
目に見えるのは君の顔 あぁ、泣かないで?、 君が笑うのがとてもすきなんだ
「どうして??もう私は主人ではないの!!」 「けれどそれはできません」
とてもうれしいのに、拒絶してしまう自分に苛立ちを覚える けど、これで正解なのかな? 俺と居たらお前まで、巻き込んでしまうし
「っ・・・・」 「いままでありがとうございました、」
今までとは違う丁寧な口調 昔と同じように偽った俺
パン!!
乾いた音が当たりに短く響いた ぱたぱたと、足音が遠のいて 俺は崩れ落ちた
「はは・・・なに、やってるんだ??俺は」
好きだよ、その言葉がいえなくて その言葉が出てこなかった 昔、孤児だった俺をこの明るい世界に連れ出したのは貴方 その日から、俺は貴方に忠誠を誓いました だから
「駄目なやつだな、俺」
直後、地面が激しくゆれた 建物は壊れ、大地はひび割れた
「っ・・・・ぁ」
激しい揺れの中俺は立ち上がって 森のほうへ駆けて行ったあの人を追うべく 走り出し、彼女の名を呼んだ
「っ・・・プラチナぁ!!!」
愛するほどに、傷つけあって
元に戻る術は、、もうないの??
「つてて・・・・ずいぶん落ちたな」
彼は、どうしてるかな? そう思いながら、膝を抱え顔を埋める 幸いなことに、足を少しひねった程度の怪我で ほかにひどい傷は見当たらない
「なんで、こうなったかな??」
分かってる、けど、、、
「なんで、、、ど、して?」
何も知らなければ・・・こんなことにはならなかった? そんなことを思っているうちに昔歌った歌を思いだした
「ま、、、い踊れ一夜に、愛の火が消えぬように・・・ 貴方の・・名を呼ぶの、嵐ヶ丘で」
いつも聞いていて、貴方も好きだといっていた歌
「舞い踊れ、今宵は・・・砕け散る星になって もう一度・・・その胸に、堕ちて行きたい」
嗚呼、この歌詞と一緒だ、そんなことを思いながら ずっと歌っていた・・・・一人、森の中で
懐かしいあのメロディ、
「この歌は・・・・」
近くにいる、そう確信して音のするほうへ歩き出した 少し開けた丘の下 がけになっているその下に
「プラチナ!!!」
「っぁ・・・・・な!!」
気がついたら抱きしめてた
抱きしめて、泣いていた
「・・・・・・ごめんなさい」
そう、短く誤るとまた歌を歌い始めた
「なぁ、、、、」 「んーなぁに♪」
丘の上、小鳥と戯れる君の姿を見て
「・・・・・好きだ」 「え?!・・・・」 「プラチナ嬢?どうか俺と付き合ってはくれませんか」 「くす・・・なにそれーー!」 「あー!!わらったな!!」
その後、二人で笑いあって
「まったく・・好きだぜプラチナ」
「私も、ゴールドのことが好きょ」
そんな彼女が愛おしく思えて そっと、その唇に口付けをおとした
きっと・・・貴方がいればそこが私の帰る場所 貴方の腕の中、羽を休める天使になって その暖かさに・・・・堕ちていきたい
君が舞い降りたら俺は迷わず受け止めよう その暖かな光をこの腕に閉じ込めて ほら?、君は簡単に堕ちて行くよね?
舞い踊れ、今宵は
砕け散る、星になって
もう一度その胸に
堕ちてゆきたい (ALI PROJECT 嵐ヶ丘 より抜粋)
ほら??貴方が私の帰る場所 (>>14の続き)
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