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短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!)
日時: 2007/08/27 00:34:26
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

短筆部文集なんと2冊目。おめでたいねえ。
今回も100話になるまで書き続けるよ。夏も気合入れてがんばろーね。

連載も突発もオッケーな自由度高い企画なんだけど、一応ルールは守ってもらわないと。
じゃあとりあえずここでのルール、ね!(箇条書きで)

・参加できるのは短筆部部員のみ。書きたいよ! って子は、まず入部届け(笑)を出してください。
・台本書き(情景を書いていない文章)禁止。
・文章は文字数がオーバーしない範囲……ですが、あとから編集して付け足すこともオッケー。
・リクを貰ったり募集したりするのも可。ばんばんしちゃってくださいな。
・ギャル文字などは厳禁。誰でも読める文を書いてね。
・一次創作・二次創作どちらでも。ただ、(ないと思うけど)年齢制限のかかるようなものは書かないこと。
・リレー小説のキャラ、自分のオリキャラを出すのは一向に構いません。でも、他の方のキャラを借りるときはちゃんと許可を貰ってからにしてね!

間違ってもこちらには参加希望などを書かないでくださいね。

入部希望はこちらへ。⇒http://ss.fan-search.com/bbs/honobono/patio.cgi?mode=view&no=9912

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Re: 短筆部文集 2冊目 (夏の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.71 )
日時: 2007/08/24 17:02:47
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

( alice in the labyrinth / 或る男の独白・8)

鈍く、銀色に光る刃が静かに青白い肌に添えられる。
一気に引き抜こうとした矢先、少女の服の裾を、アイカシアが強く掴んだ。

「メル・・・・・!だめ・・・・・・!」

苦痛に顔を歪めさせながら、それでも必死に呟く。
メルカシアはきょとんとした顔になって、それからしゃがみ込んでアイカシアと同じ目線になった。
そして、にっこりと笑う。

「アイちゃん、どこまでわたしを突き落としたいの?」

ぽたぽたと大粒の涙を流しながら、それでも顔は、満面の笑みで。
「アイちゃんは、チェックと契約したかったのよね?」
「え・・・・・・?」
はっと顔を上げたアイカシアに、それでもメルカシアは微笑んで。
「だって言っていたじゃない、チェックに。「契約してよ」、って」
「あれは・・・・・ッ!」
言いかけたアイカシアの右腕を、メルカシアの左腕が強く掴む。
再び走った鋭い痛みに、アイカシアの顔が更に歪んだ。

「アイちゃん、いつもそうやって、何でもアイちゃんは手に入れてしまうのね。
 羨ましかった。アイちゃんみたいになりたかった。
 アイちゃんが羨ましくて、素敵で。
 
 憎くて、たまらなかった」

ひたすら、彼女は笑う。
聖女のような、陰りの無い微笑みで。

「でも、間違ってるのよね。
 全部、全部わたしが悪いのよね。

 わたしが生まれなかったら、お母さんは死ななかった。
 わたしが生まれなかったら、お父さんは困らなかった。
 わたしが生まれなかったら、みんな、苦労しなかったのよ」

「そんなこと・・・・・!」
「そう?でもね、アイちゃん」

見開かれた紫紺の瞳から涙の雫を落とすアイカシアを、真っ直ぐに見つめて。

「わたしとアイちゃん、どちらが生まれたらよかった?っていったら、みんなアイちゃんを選ぶの。

 わたしとアイちゃん、どちらを救うかってなったら、みんなアイちゃんを助けるの。

 仕方ないの。わたしは駄目な子だから」

ふふ、と少し疲れたように、笑って。
それはまるで、遊び疲れた子供のように、無邪気で。

「もう疲れたの、頑張ることに」

無垢で、真っ白だった。

「わたしがいなくなれば、みんな助かるね。
 わたし、嬉しいよ。
 
 ――――――――――みんなの、役に立てるから」



「――――――――――――――――――――ばいばい、アイちゃん」

少女の白い喉に銀色のナイフが閃き、そして。

鮮血が、月明かりに舞った。




(薔薇地獄) ( No.72 )
日時: 2007/08/24 19:37:44
名前: 春歌


「ここ・・・・何処?」

暗い森の中、、何かに追いかけられて・・・
気づいたら真っ赤な薔薇園に倒れていた・・・・

「なんで・・・こんなことになんなきゃ
 ・・・・・・・・・私、本当に追いかけられてたの?」

もしかして・・・追いかけられてたんじゃ無く追いかけていた?
分からなくなってくる
目に映る、真紅の薔薇・・・・・

薔薇を抱きしめる
それとも抱かれてる?
分からなくなるほどの、薔薇の香り
薔薇を抱きしめる・・・・
ぱんっ、、はじけて香る薔薇の匂い
意識が遠のく・・・・

「きれい・・・・・・」
かけては満ちる不浄の月

「もっと・・・私を染めて頂戴よ」

そっとつぶやく
それに答えるように薔薇が手足に絡みつく

「へんね・・・・私」

生きたい、、けど堕ちたい

「もう・・・分からない」

これは何?

愛?・・・・・
苦しみ?・・・・

「どっちでもいい、、けど終わりを」

「ふふ・・・・おかしいわね」

すべてが狂ったこの薔薇地獄
彼女が一輪の薔薇となるとき
この悪夢は終わる?

森の奥、真っ赤な薔薇の花園で一際目を引く真っ赤な・・
紅色の薔薇、
いくつもの薔薇の花を取り込んだ少女の心
永久<とわ>に消えることの無い地獄をさまよう心

さ、お早く、薔薇地獄に囚われないうちに
3 ( No.73 )
日時: 2007/08/27 01:05:54
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

気が付くと太陽が西のほうへ沈みかかっているのがわかった。
縁側に腰掛けて、もうそんな時間か、とぼんやり思う。
この屋敷のなかでは時間なんてあまり関係がないものだから、忘れていた。
「そういえば、さ、」
橙色の光に視線を捕らわれたままぽつりと呟く。
庭先に屈んで花を眺めていた少年が不意にこちらへ顔を向けた。(ほんとうに子供っぽい仕草をする子だよ)
「お前には名前はないのかい?」
「なまえ?」
きょとん。とかそんな擬音が似合うような表情を浮かべられる。
白い肌に映える大きくて鮮やかな紫色の瞳がぱちぱちぱち、と瞬いた。
少し俺から目線を外して、自分の周りに舞う二匹の蝶々を見据えた。
何処で見つけてきたのか、その蝶すら鈍い紫色をしている。
「………わかんない。」
こてん、と少年が首を傾げた。
「あったかもしんないし、ないかもしんない。
あってもなくても、ぼく覚えてないよ」
「そうか」
やっぱりか、と胸中で頷く。
矢張り少年の記憶力は皆無に等しいようだ。
生活できるくらいの知識・能力は充分にあるけれど、(それが至極幼いものだとしても)
少年の所在や過去についてを本人から聞き出すことは不可能だろう。
だが、帯刀はもとより経歴や生い立ちなどは問題にしない。
能力があれば。役に立てば。資格があれば。才があれば。
覚悟があれば、屋敷に居ることが可能である。
俺もそんな規格に甘んじて"帯刀透吾"になることを選んだのだ。



 まるで今の会話がなかったかのようにまた蝶を追いかけ始める少年を見つめながら、俺は思いついた。

――――少年へ捧ぐ、名前を。

立ち上がって庭へと下り、少年が遊んでいるほうへ歩み寄った。
生温い風に着流しの袖がさらわれる。それをそっと押さえながら、俺は少年に声をかけた。

「…………今日から君の名前は、"帯刀遊紫"だ。いいね」

少年が振り向く。
虚を突かれたような、吃驚したような、そんな一瞬の隙の表情で。
それに向かって俺は微笑した。
「……ゆーし?」
「ああ。遊紫、だ」
「ゆ、うし、……………………………遊紫」
まるで言葉に出して頭に留め置こうとするかのように、少年は、
―――遊紫は、その名前を繰り返して、嬉しそうにわらった。
4 ( No.74 )
日時: 2007/08/27 01:06:11
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

とその瞬間、俺の頭のなかにぴいんと鋭い音が響き渡った。
(………通信だ)
左の耳元へ手をやって、こめかみを押さえる。
周波数を合わせるかのような雑多な音が続いたあとに、俺の脳内がなにかと繋がるのがわかった。
(――なんだ? どこかのエリアが故障したか?)
『ご名答です、若』
頭のなかに鈴を鳴らすかのように澄明で静かな声が響く。
通信班班長、帯刀凛月(たてわき・りつき)の声だ。
綺麗な声の向こうで、黙々とスピーカーを口にあて書類に目をやる青年の姿を浮かべてくすりと笑みが零れてしまう。
しかし、俺が実際に放った声などは相手に届かない。
届くのは、俺が脳内で呟く思考の声だけだ。
遊紫は俺をふしぎそうに見上げていて、俺はそんな彼の頭を撫でて「ちょっと待ってな」と口元に人差し指を持っていった。
(………今度は何処で、どんな故障だ)
『エリアFA8072にて、想像世界の暴走が発生しました』
(暴走、だって?)
『然候。原因は、エリアFA8072の創造者の精神になにか大きな負担がかかったことによるものと思われます』
(……精神に大きな負担、ね……)
『若、早急に命令を』
(………)
俺は、目の前にいる少年をちらりと見た。
遊紫は未だ俺を見つめている。
俺はある一種の覚悟を決めて、凛月へと「命」を下した。
(……俺も行く)
『――若?』
凛月が訝しがるような声が聞こえる。
(…俺と、蒼伊と、それから………遊紫を)
『遊紫?』
(新人教育だよ、凛月)
俺の愉しそうな気配が伝わったのか、凛月が閉口する。
それから、諦めたような溜息が聞こえた、気がした。


「遊紫、いくよ!」
「たのしいところ?」
「たのしいところ!」
「だったら、いく!」

(ああ俺も変わったなあ、と頭の隅で思った。)
(「元」死にたがりや) ( No.75 )
日時: 2007/08/25 15:31:37
名前: Gard
参照: http://watari.kitunebi.com/

 村の中にあるたった一つの酒場。
 そこのマスターは元々村の外の人間で、この森で囲まれ、外界から遮断された国の外の人間でもある。
 ある意味とても珍しい人だ。
 だから、今朝見た夢を話してみた。

「…………はー、変な夢を見たんだな」
「うん、なんかこう、現実じゃないんだけど現実に近い、って言うか」
「訳が解らん」

 マスターの言うことも尤もだと思う。
 でも他にいい言い方がないのだ。語彙が少ないって哀しい。
 兎に角よく解るように考えて言おうと思えば、

「あ、もういいや。大体解ったから」

 なんて言ってくれた。
 外の人間だからだろうか、マスターは結構色々知っている。
 世渡り上手、とはあまり言えないけれど。

「多分それは夢を媒介にして誰かの心と接触したんだろうな」
「ばいかい?」
「……夢ってのを使って、って言えばわかるか?」
「…………何となく」

 夢を使って触れた誰かの心。
 それはつまり、本当にあったことでもあると言うこと?

「フォイル、お前さん巫女とかそう言うの、向いてるんじゃね?」
「みこ?」
「ああ、この国にはないのか。……神の声や物の声を聴いて他人に教える人間、ってとこだ」
「ふぅん」

 やっぱりよく解らなかった。
 この国にないものは、私達この国で生きる者は多くの場合知らない。
 知ることが出来ない訳じゃなくて、この閉ざされた国で私達の世界が完結しているから興味がないのだ。
 実際、国のお偉い方は外の情勢も把握しているらしい。
 けれど、国の外の人間はこの国の中を知らない。知ることが出来ない。
 国に入れるのはこの国に敵意を全く持たない人間だけで、それ以外の人間は森に阻まれてしまうのだ。
 マスターは森に阻まれることなく入って来れた希有な人間。寧ろ、招き入れられたらしい。
 「オレは死にたくて森に入ったからな」というのがマスターの言葉。
 死にたくて森に入って、結局国に居着いてしまったのだ。
 まぁ、そのお陰でこの村では外のことで何か噂があったりすると、マスターの意見を聞きながら噂話に花を咲かすのだけれど。
 だから酒場のマスターってのは天職だと思う。

「兎に角、その夢は誰かを救ったんだろ」
「……そう、か。ならいいや」
「…………フォイル、お前たまにドライだよな」
「え、そう?」

 首を傾げれば、呆れたように溜息を吐かれた。
 ……ああ、そう言えば夢の最後で私が思ったこと。
 マスターには言わないでおこう。また解らない説明されるのは面倒だから。

―――――――――――――――――――――――――
お題提供サイト「群青三メートル手前」淆々五題・参) この世界は確かに絶望するはずだった
http://uzu.egoism.jp/azurite/
(白銀模様の記憶) ( No.76 )
日時: 2007/08/26 15:09:37
名前: 春歌

私の記憶は、、一面金色の砂漠から始まっている

白銀の髪、右が金左が白銀の目を持つ私は『ハーフエデン』らしい
まだ幼かった私は何も分からない状況の中で迫害された
キレンヌ部族とともに育った私はキレンヌ部族として暮らしていたが・・・・・

「それで・・・・あなたは何を望んでいるのかしら?」
「え・・・貴方、だれ?」

夢に出てきた少女、茶の髪に青の目
かわいいと言う表現が似合いそうな女の子が

「くすくす・・・・貴方が五部族として生きるのも、
 エデンの子孫として生きるのもどっちでもいいけど、・・・・・・」
「エデンの・・・子孫?」
「聞いていないの?、白銀の少女」

白銀の少女、それは私の呼び名だった
本当の名前も分からない、わたしの唯一の名前だった

「なにも聞いていないようね、親にも見離されてかわいそうに」
「な、何が言いたいのよっ!!」

クックッっと喉で笑ったあと・・・・

「真実が知りたいのなら、、、東に行きなさい」
「・・・・・・・・・」
「ただ、貴方がそこにいてもほかに変化見られないわ」

ふっ、と目がかすみ一面が白の世界になり始めた

「覚えておきなさい、近いうちに殺されるのが落ちよ
 それが嫌なら行きなさい、私はティラ、この先の出来事を選ぶ者」

目が覚めた、そこはいつもの変わらない屋根裏部屋だった
Re: 短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.77 )
日時: 2007/08/26 22:43:55
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

( alice in the labyrinth / 或る男の独白・9)

月明かりに、鮮血が舞う。
ぶしゅ、っとありえないほどの量を天井に向かって血が吹き上げ、少女の細い体躯がくずおれる。
どさりとメルカシアは倒れ伏し、アイカシアの膝元で、数回痙攣をして動かなくなった。
細い金糸の髪に、ぼたぼたと赤い血が降り注ぐ。
鉄臭い匂いが充満する中で、アイカシアはゆっくりと、冷たくなっていくメルカシアの頭を撫でた。
その顔は、とても綺麗で。
――――――――――苦痛から開放されたように、優しく微笑んでいた。

びくり、とメルカシアの体躯が揺れた。
「・・・・・・!?」
アイカシアが体を触っても、冷たいままで。
それでも小刻みな痙攣は止まず、そして。

メルカシアの体躯から、爆発するように黒い霧が噴出した。
「・・・・・・これ、は」
それは――――――――――人間の思念から生まれる“負のエネルギー”、つまり“狂気”や“哀しみ”、“憎悪”。
そして、“ジャバウォック”の基になるもの。
一度だけ、父である男に連れられ、アイカシアは屋敷の外で見たことがあった。

けれど、この霧は、どす黒く、重苦しく。
小さな少女の体躯から発したそれは、何かから開放されたかのように天井を突き破り、夜空に霧散していった。
破られた天井から、硝子が舞い落ちる。
スローモーションのように、舞い落ちるそれはきらきらと、月光を反射して輝いて。
無垢で透明な、少女の臨終の微笑みに、酷く酷似していて。

ゆっくりと見上げながら、冷たくなった妹を抱くアイカシアは小さく呟いた。






――――――――――ごめんね、と。


どすり、と身体中を、硝子の刃が貫く感触がした。

Re: 短筆部文集 2冊目 (残暑の暑さに耐えつつ制作しましょう!) ( No.78 )
日時: 2007/08/26 23:49:09
名前:
参照: http://www.geocities.jp/akatukiquartet

( alice in the labyrinth / 或る男の独白・10)

メルカシアを呼びに行ったアイカシアがなかなか戻ってこないのを案じつつも、2人を待っていたとき。
大きな爆発音がして、それからガラスの割れるけたたましい音が聞こえた。
吃驚したマーチとエティカを見もせずに、チェックは部屋を飛び出した。


――――――――――いつだって、彼女は不安げな瞳をしていて。
壊れそうな、硝子細工のような、微笑みを湛えていて。
絶対に、護ってやろうと、この胸に誓っていた。
彼女の姉に言われるまでも無い、自分は名付け親が消えた時点でもう決めていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・「契約しよう」と、そう言うだけだった、のに。

それだけだった、のに。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・メルカシアっ!」
聖堂に飛び込むと、祭壇の上に、小さなうずくまる人影があって。
彼女を呼んだ自分の叫びが聖堂に小さく響き、そして。
・・・・・・・・・・・・彼女の姉が振り向いた。
とても壮絶な、血にまみれた姿で。
全身に硝子の破片を受けている。天井の硝子の破片が聖堂の床一面に落ちているから、それが直撃したのだろう。
それでも笑っていた。
傷の付かなかった左目で、ただひたすらに、ぼたぼたと涙を零して。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね、チェック・・・・・あたし、護れなかった、」

右目は血に濡れた金糸の髪に覆われ見えないが、酷い傷だということが解る。
腕に抱いた、彼女よりも一回り小さな少女を受け取る。
酷く冷たい肌をした少女は、まるで何かから解放されたように、優しく微笑んでいて。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カシア、メルカシア」



――――――――――“あの子、落ち込んでるよ”

――――――――――“ねぇ、そろそろ素直になってあげてよ”



――――――――――“だから、ね?――――――――――契約、してよ”






――――――――――“ああ、解ってる”



「・・・・・・・・・・・・・・メルカシア、メルカシア、メルカシア・・・・・・・・・・!」

何故伝えなかったのだ。
何故、想いを伝えてやらなかったのだ。
「契約してくれ」と。
そう伝えるだけでも、よかったのに。
このちっぽけな手で、虚偽に覆われたこの身体で、薄っぺらな存在で。
彼女を護れると、信じていたのだ。
自分の傲慢な虚栄心が、この惨劇を生み出した。
全ては、この愚かな、人間ですらない自分の生み出したことなのだ。

・・・・・・少年の姿をした、悲しいアリスの想いは、少女に届くことはなかった。


5 ( No.79 )
日時: 2007/08/27 01:06:23
名前: 黒瀬
参照: http://id29.fm-p.jp/8/ginduki/

「……で、透吾さん? 何で今日に限って僕を選んだわけ」


西門の目前で、右手に手袋を嵌めながら帯刀蒼伊(たてわき・あおい)が訊ねてきた。

――帯刀の屋敷には、北・東・南・西と、四方位すべてに門が備え付けられている。
北は人間に創造された虚構の者たちが暮らす"想像世界"へ。
東は人間から忘却された世界の亡骸、"消失空間"へ。
南は実体を持つ人間達の住まう"現実世界"へ。
そして西は、何らかの原因を以って故障した"想像世界"へと繋がる。
現実の世界と虚構の世界双方のバランスを保つために俺達"帯刀"は存在し、その為だけに生きるのだ。

「――お前なら、この腕白少年が止められるかと思ってね」
「…自分で止めようよ、若旦那」

僕はめんどくさいことしたくないんだから、とだるそうな声で紡がれる。
それから既に手袋を嵌めた左手で、黒縁の眼鏡を押し上げた。
帯刀蒼伊は、帯刀一族のなかで「戦闘班第二班班長」の地位を持つ男だ。
だからそれなりに能力は備えているし、何かが起こったときこの冷徹な青年は的確な判断をしてくれるだろう。

「……っていうか、その子は何なわけ?」

ちらり、と蒼伊が見つめるのは、西門をべたべたと触ってその向こうに見える空間に高揚の声を上げている遊紫の背中。
門の向こうには景色といった景色はなく、ただ歪んだ灰色の空間が見えるだけだ。

「仲良くしてやってな」
「……答えになってないからね。まあ、いいけど」

すると、門の両脇に立つ二人の帯刀がすうとこちらを見た。
双方とも同じ顔をした、灰色の髪の童子だ。
白衣朱袴に身を包み、半月斧を両手で握っている。
ここ西門を守護する者たちだ。名は無い。
人間に酷似した姿をしているが、正体は狐の化生。警備班の班長に仕える式神である。
同じような仕草で俺達に辞儀をし、

「「繋がりました」」

同じような声で俺達に告げた。

「了解」

俺が応じると即座に童子ふたりは門に向かって何事かを囁き、斧の柄を地面に軽くうちつけた。
シャン、と斧に付属していた鈴が鳴り、門から風が吹き始める。


「行きますか」


蒼伊が言うのを契機に、俺達三人は門へ飛び込んだ。
(夢に消えた幻) ( No.80 )
日時: 2007/09/04 09:22:33
名前: 幻永響

「・・・あなたは来てはいけない。」


無限に広がる闇の中で、彼女は言う。
闇以外には何も無い空間。
只あるのは、俺と彼女の存在を確かめるようにある足場だけ。


「何で・・・だよ・・。俺は君と一緒に居たいんだよッ!!」

彼女は俺に背を向けたまま黙っていたが、やがてこう言った。

「私だって・・・あなたと居たいよっ・・・。でもッ・・。だからこそッ・・・。」

彼女は声を押し殺しながらも泣いているようだった。
その悲しそうな声に俺はとうとう我慢出来なくなり、彼女のもとへと走った。
そして、すぐさま彼女の体を自分の方へ向けた。

「っ・・・レスターっ・・・。」

「リース・・・俺はっ・・・。」

涙を一杯に流した彼女を見て、力一杯に俺は彼女を抱きしめる。
強く、そして優しく抱きしめるその体は、今にもどこかへ弾けて消えそうなくらい柔らかい。

「俺は、もう君を放さない。・・・絶対に。」

そう言うと、もっと力強く抱きしめる。
リースの涙が俺の肩を濡らす。

「・・・ごめんね。私、もう・・・・。」

彼女がそう言った瞬間、彼女は強い光に包まれた。
俺はその光が眩しくて、直視出来なく、目を背けながらも彼女を抱きしめる事を止めない。

「嫌だっ・・・駄目だっ・・行かないでくれッ・・。」

「・・・本当にごめんね?でも、あなたと過ごした日々は、とても楽しかったよ。私、絶対に忘れない。」

光に包まれながらも、笑っている彼女が居た。
彼女は「最後くらい、笑って?」と言うが、俺は悲しみに押しつぶされて、笑う事が出来ない。

「どうやって、笑えって言うんだよ・・。君が今、消えようとしてるのに・・・どうやって、笑えって言うんだよッッ!!」

「・・馬鹿。笑う事ぐらい、いつだって出来るって教えてくれたのはあなたじゃない。」

彼女の光はもっと強いものになっていく。
それはもう、別れの時間が近い事を意味していた・・・。

「・・・もうお別れだね。・・私、あなたとの思い出を忘れないって言ったけれど、あなたは忘れてもいいよ。・・・というより忘れちゃうかな。」

「リース。忘れねぇよ。忘れるわけ無いだろ・・・。」

パァァァァァァァァァ・・・・

光の白光が一気に強くなる。
もうリースの顔すら、何も見えない程の強い光。

「リース・・。リースッ・・・・。」




“・・・・・・さよなら”



「リースッッッッ!!!!!!!」


強い光に、俺の視界は狭くなる。
・・・そして、何もかもが光に包まれて、俺の意識もそこで途絶えた。




そして・・・・・・。




気づけば、ベッドで目を覚ました青年が1人。

青年は勢いよく飛び起きると、すぐさま自分の存在を手探りで確かめた。
手、足、顔、体が全部ある事で、青年の存在は証明された。
だが、ひとつだけ、存在を証明されてないものがあった。

それは、あの彼女。
泣いて、笑って、消えていった彼女が居ないのだ・・・。


「・・・あれは、夢・・・?」


夢の内容ははっきりとは思い出せない。
だが、脳裏にこびり付く彼女の悲しそうな笑顔だけが鮮明に記憶に残っていた。
それを思い出すと、切なくて、心が痛くなる。

(・・・どうして、あの子をだけを思い出す?)



“・・・・・・さよなら”



「・・・あれは本当に夢・・・?」



その真実は誰にも分からない・・・・。

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